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第三十七話:リゼ・ベイバロン、死す

・抽選で六億人の読者さんに、「核の炎で焼いた牛」をプレゼントします。



「「いくぞォォォォォオオオッ!!!」」


 ついに始まった最終決戦。熱く燃え盛る炎の中、二人の男は魔力を解き放った――!

 

「回復術式全開発動ッ! 芽吹け命よ、増殖・分裂・再生・拡散――ッ!!!」


 地面に手を当て、極大の回復魔法を叩きこむリゼ・ベイバロン。

 その瞬間、半径数百キロメートルの地中から十億本を超える大樹(・・・・・・・・)が一斉に生え伸び、敵に対して殺到する!


 だがしかし、


「攻性術式全開発動ッ! 集え雲海、掌握支配・雷光天墜――ッ!!!」

 

 天に向かって手を伸ばし、ヤルダバート・グノーシアは極大の攻撃魔法を解放させる。

 その瞬間、朝焼けの空が黒き雷雲に包まれるや、突如として十億発を超える稲妻(・・・・・・・・・)が降り注いできたのである――!

 それらはヤルダバートに向かっていた大樹の群れを全滅させ、一瞬にして灰へと変えてしまうのだった。


 ああ、まさしくそれは神の御業。最強の魔法使いはその絶対的なる才能により、天候さえも操ってしまうのだ。

 そんなトチ狂った事実を前に、しかしリゼは怯まない。何故なら彼も自覚はなくとも、神の領域に立つ魔法使いなのだから――!


「――だったら次はこうだぁッ! 牛たちよ、奴に向かって突貫しろッ!」


 狂笑を浮かべたヤルダバートに対し、リゼは懐に詰めた牛肉を全力で投げつけた。

 それらは空中で分裂と再生を繰り返し、一瞬にして数億頭の群れとなってヤルダバートに突撃していく。


『モォォォォオオオオオオオオオオッ!!!』


「フンッ、わしに同じ技が効くものかッ! 雷撃よ、我に仇なす者を蹂躙せよ!」


 何億もの牛が向かってくる様は圧巻だが、ヤルダバートにとってはすでに一度見た技である。

 彼は再び黒雲を操り、牛の群れへと無数の雷撃を叩き落とした!

 

 だが、


『――モォォォオオオ! モモォォォオオッ!!!』


「なにッ!?」


 雷光の中に見た光景に、最強の魔法使いは今度こそ戦慄する――!

 稲妻に焼かれた牛たちが、骨になりながらも突撃を続けてきたのである!


 リゼは牛たちを生成するのと同時に、彼らの脳髄に“疲労がポンと抜ける”持続型回復魔法を全力でかけ、アドレナリン分泌量を数億倍に増やしたのだ! それによって牛たちの脳は完全に壊れ、自身がすでに死んでいることさえも理解できない最悪の特攻兵器に成り果てるのだった――!


 虚を突かれたヤルダバートに向かって、ついに殺到するゾンビ牛の軍勢。一頭にでも踏み付けられれば続く数億頭により地面の染みにされかねない状況だったが、しかしヤルダバートは焦らない。それどころか皺だらけの顔面に張り付けた笑みをさらにみだらに歪ませ、恍惚の息を熱く吐いた……!


「グフフッ、グハハハハハッ! そこまでして儂を殺したいとは、なんと貴様はイイ男なのだろうか! いいだろう、ならば儂も身体を張って受け止めてやろう!!!」

 

 纏っていた王衣マントを服ごと引き千切り、上半身を露わにするヤルダバート。とても百三十歳とは思えない筋骨隆々とした肢体をたぎらせ、数億頭のゾンビ牛と対峙する――!


「集え風雷、我が身に宿りて鎧となれッ! ――さぁ、見るがいいわァァァァアアアアッ!!!」

 

 そして、絶殺の殴打は始まった。ヤルダバートは拳を握り固めるや、超質量の大軍勢に対して秒間数億発のパンチを打ち込み始めたのである!

 暴風と爆雷を纏った拳打を受け、次々と砕け散っていくゾンビ牛たち。まるでヤルダバートに吸い込まれてでも行くように、牛たちは急速に数を減らしていった。


「ッ、ヤルダバート……まさかこれほどの化物だったとは……!」


 これには流石のリゼも肝を冷やすが、だからといって諦めるわけにはいかない。

 超速のラッシュを続けるヤルダバートに対し、彼もまた牛肉を握って真正面から向かい合う――!


「グハハハハッ! 全て滅びるがいいわァァァァアアッ!」


「……いいぜ、ヤルダバートッ! だったらこっちは、お前が滅ぼす以上の速さで作るまでだァァァアアアッ!!!」


 かくしてここに、『破壊』と『創造』の戦いは幕を開けた。

 テンションが上がったことでヤルダバートの攻撃回転数はさらに跳ね上がり続け、数兆発のパンチによって牛の軍勢が消え去っていく。

 だがそれに対抗すべく、リゼもまた限界を超えた術式発動速度をもって、一秒間に一兆匹以上の牛たちをこの世に誕生させていった――!


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァァアアアアアアアアアアッッッ!!!」


「ウシィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!」


 共に限界を超え続けながら、雄叫びを上げる二人の男。


 ……そんな彼らの間で数億兆匹の牛たちが産まれては消えていく悲しみの連鎖を迎えていたが、それに同情するまともな者はこの場所には皆無だった。


「ヌハハハハハハァッ! あぁ楽しいなぁリゼ・ベイバロンよッ! 互角の力を持つ者との勝負とは、こんなに面白いものだったのか! なぁ、貴様も同じ思いではないのか!?」


 牛たちの焼けた肉が大地を埋め尽くしていく中、笑いながらリゼへと問いかけるヤルダバート。

 そんな楽しげな彼の言葉に、リゼは心の底から激怒したッ!


「ッ――ふざけるなよ、ヤルダバートッ! ああ、たしかにお前とは戦い甲斐があるさ! だけどな、お前は俺にとって大切なベイバロンの民衆たちを傷付けたッ! さらには数百万の味方たちを容赦なく巻き込んで殺したお前を、俺は絶対に許さないッ!

 ……命を粗末に扱う者に、王の資格などあるものかァァァァアアッ!!!」


 怒りの咆哮を上げ、さらにリゼは牛を生み出しては突撃させていく――!


 ……そのトチ狂った攻撃方法のおかげですでに数億兆匹の命がグチャグチャになっているのだが、とことん自分を『正義』と思って棚上げしまくっているクズ幼児脳のリゼにとっては無論どうでもいいことであった。

 さらにはヤルダバートのほうもツッコむどころか、“大地を死体で埋め尽くしてでも、儂を殺そうとしてくれるなんて……っ!”と感動しまくってクソマゾ老害脳を沸騰させまくっており、牛の殺傷速度を爆発的に跳ね上げていったのだった。最悪である。


「「死ねぇぇぇぇぇぇええええッッッ!!!」」


 血色の風が戦場に吹き荒れる中、人知を(悪い意味で)超えた戦いを続けるリゼとヤルダバート。

 だが、その決戦もついに決着の時が訪れる。


「ぐっ……がはッ!?」


 ――不意に、リゼの口から大量の血が噴き出したのである。

 許容熱量エントロピーの限界突破による内臓の損傷……それすなわち、『魔力切れ』による副作用であった。

 あまりの苦しさに膝をついてしまったリゼに対し、フッと小さく笑いながら牛の群れを全滅させるヤルダバート。リゼからの生産が止まった以上、滅ぼすのは容易い事だった。

 彼は息を整えながら、ゆっくりとリゼに近づいていく。


「フフフ――残念だったなぁ、我が宿敵よ。どうやら儂のほうが魔力が多いということだったらしい。

 まぁ、“魔力とは歳を重ねるごとに成長していくもの”とされておるからのぉ……こればっかりは仕方がないか」


「くっ、くそ……ここまで、なのか……!」


 血の息を吐くリゼ・ベイバロン。もはや、歩み寄ってくる怨敵を睨み付けるのが精いっぱいだった。


 ああ、どれだけポジティブすぎる脳でも認めざるを得ない。最強の魔法使いを前に――リゼは敗北を喫したのである。


「本当に、本当に楽しい時間じゃったぞ、リゼ・ベイバロンよッ! 貴様という存在に出会えたおかげで、儂は人類に希望が持てた! いつか貴様のように、儂を殺せるかもしれない者が現れるとなぁ!

 そやつと出会えることを願って――今度は世界全土を荒らしまわってくれるわッ!」


 それは、遠回しな人類殲滅宣言であった。

 リゼという反逆者が現れることを願い、グノーシア王国を弱肉強食の絶対的権威主義国家に作り替えたヤルダバートである。

 世界中から憎しみを買うためならば、きっとこの男は何億人でも平気で殺すつもりだろう。

 それがヤルダバートという魔法使いの本性……まさに『魔王』と呼ぶべき最悪の人物であった。


 彼は片手をリゼへと構え、滅びの術式を紡ぎ上げる。


「さぁ、というわけで勝負は終わりじゃ。我が愛すべき宿敵よ――天の光を受けるがいいッ!!!」


「っ、チクショウ……チクショォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」


 そして放たれる太陽の熱閃。100万℃を超える『核融合』の輝きに飲まれ、リゼの姿は掻き消えていくのだった――……!




・「天気の子」に負けたくねぇなって思いながら書きました。


次回、『最終回:底辺領主の勘違い英雄譚』。


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