第三十五話:みんなを壊そう!!!!!!
大鎌使いのTS美少女がゲーム内で頑張る話『死に戻りで逝くデスゲーム攻略記』がHJ大賞一次審査を突破しました!
ぜひ小学生に読ませたい作品になっております!
「――アギャァァァァアアアアアアアッ! 肉を寄こせぇッ! 女を寄こせぇぇぇッ!!!」
「ギギャギャァァァァァアッ!!!」
国の最北端に位置するベイバロン領に向かい、数百万の大軍勢が雄叫びを上げながら駆けていた。
その全員が純白の美しき鎧を纏っているものの、その目に理性は一切あらず。瞳を狂気に血走らせながら、人間としての限界を超越した速度で走り続けていた。
「腹ァ減ったァァアアアッ! 食わせろォオオオッ! 犯させろォオオッ!!!」
ときおり目に付く村や街を襲いながら、狂気の軍勢は進軍し続ける。
――ただの民衆であった人々に対し、ヤルダバート王が何百倍にも濃縮した家畜用の興奮剤を打ち込んだ結果である。それによって人々は欲望の獣と化し、もはや完全に人としての心を失っていた。
……かの老王はリゼ・ベイバロンに洗脳されたヨハン王子を見てこう思いついたのだ。“役立たずの連中だろうが、脳を破壊してしまえば少しは戦えるようになるだろう”と。
さらに大軍勢の上空には、全身に風を纏った数百名の者たちが空を駆けていた。
「ほほほっ、これは素晴らしい! 空を自由に飛べるとは、流石はヤルダバート王の魔法だ!」
「えぇいお前たち、抜け駆けは許さんぞ! 我輩こそがリゼ・ベイバロンを抹殺し、王の座を勝ち取るのだッ!」
豪奢なローブを靡かせながら、競うように天を征く者たち。彼らこそ、国王によってかき集められたグノーシア王国の貴族たちや王子たちであった。
ヤルダバート王は彼らに飛行魔法をかけるのと同時に、こう言ったのだ。
“反逆者であるリゼ・ベイバロンを抹殺せよ。その首を持ち帰ってきた者に、次期国王の座を渡してやろう”と。
その言葉を受け、民衆たちと同じく彼らもまた血眼になってベイバロン領を目指し続けた。
なぜ最北端にある枯れた領地の底辺領主に対してこれほどの大軍勢で挑まなければいけないのかは不明だが、そんな疑問はどうでもいいと思えるほどに王の玉座は魅力的である。全身に魔力を滾らせながら、魔法使いの大部隊は空を駆け続けた。
――欲望に飲まれた民衆たちと、野望に染まった魔法使いたち。ゆえに彼らは気付かない。
自分たちが踏み入ろうとしている場所が……最悪の地・ベイバロンという領地が、どれほど危険な領域と化しているのかを。
「アギャァァァアアアアアアアアッ! 喰い尽くしてやるゥゥウウウッ!!!」
「ガハハハハハハッ! 死ねぇリゼ・ベイバロンッ!!!」
獣欲に満ちた叫びを張り上げながら、ついにベイバロン領の手前にまで辿り着いた狂気の軍勢。
さぁ、あとは朝霧の立ち込めた丘を越えるだけだ。王の命令に従い、存分に欲望を満たそうじゃないか。
かくして彼らが、かの領地へと足を踏み入れた瞬間――、
「――オレたちの『国』に、汚い足で踏み入るなァァァァアアッ!!!」
怒号と共に、数十万の炸裂音が鳴り響いた――!
それと同時に無数の爆撃が民衆たちを直撃し、おびただしい量の鮮血が朝霧を赤く染め上げる……!
「ち、地上の連中がやられた!? 何だ今のは、新手の魔法か!?」
思わぬ事態に狼狽する魔法使いたち。いったい何が起きたのか解明すべく、風魔法使いの一人が周囲の濃霧を吹き飛ばすと――、
「なっ、なにィッ!?」
霧の向こうには、黒き鎧を身に纏った数十万もの大軍勢が待ち構えていた……!
それは考えられない事態だった。貴族社会で知られている限り、ベイバロン領の人口はせいぜい数万もあればいいところ。
まさか今回のベイバロン領襲撃を察知し、領主スネイルやジャイコフが治めていた周辺の領地の民衆たちが駆けつけたとなれば、あれだけの数になるのも分からなくはないが――それは断じてあり得ない。
ベイバロン領とは、病人や捨て子や犯罪者が行き着く、この国の廃棄場のような場所なのだから。
そんな土地を守るためにこれだけ多くの民衆たちが立ち上がるなんて、貴族たちには到底信じられないことだった。
「し……信じられん。平民など所詮、魔法に対する恐怖で縛り付けなければ何をしでかすか分からない獣どもだ。危なくなったら我先にと逃げるカスのような連中のはずだ。それをベイバロンの領主は……リゼという男は、飼い慣らしたというのか……!?」
理解できない光景を前に、呆然と固まる貴族たち。
そんな彼らに対し、ベイバロン領に集まった者たちは怒りの叫びを張り上げる。
「このベイバロンはオレたちとリゼ様が作り上げた楽園だ! 手ぇ出すってんならぶっ殺してやるッ!」
「リゼ様はかつて、経済破綻を招いた無能領主ジャイコフから我らボンクレー領の民を救ってくれたッ! 今こそその恩義に報いるとき!」
「ジャンゴ領だってそうさ! ドラゴンになって世界征服しようとしていた領主スネイルから、リゼ様はオレたち領民を助けてくれた! ここで立ち上がらなきゃ男が廃るぜッ!」
周囲の大気が揺らぐほどの殺意を放ちながら、かつてリゼに救われた者たちはかの英雄の雄姿を思い出す。
――彼らにとってリゼ・ベイバロンは、まさにこの世の光だった。
浮浪者から亜人種までどんな者でも差別せず救い、理不尽な悪を粉砕する正義の体現者。つねに民衆の味方であり続ける最高の領主。それが、彼らのよく知るリゼ・ベイバロンという男だった。
そんな彼が、ついに国と戦うことを決意したのだ。
邪悪なる王によって虐待を受けていたという幼き王子を保護し、リゼ・ベイバロンは民衆たちへとこう問いかけた。
“子供を傷付けるような男を、お前たちは王と認めていいのか”と。
――否。断じて否ッ! そのような鬼畜が王であっていいはずがないッ!
主君の問いかけに、民衆たちの心は一つになった。
リゼ・ベイバロンという理想の英雄を知った今だからこそ、人々は『悪しき権力者』という存在に対して怯むことなく怒りを燃やすことが出来た。
不敬? 不遜? 立場の違い? それがどうしたふざけるな。たとえ相手が王族だろうが、悪であるならブチ殺す。
それが民衆たちの総意……リゼに魅入られた『ベイバロンの使徒』たちの、純然たる想いだった。
――ゆえにこそ、邪悪なる王に従う者らも一匹残らず許さない。
「ブチ殺してやるゥウウウウッ!!! 大砲部隊、第二射用意ィッ! 残る者は突撃だぁぁあああッ!!!」
熱く燃える怒りを胸に、漆黒の鎧を纏った使徒たちは追撃を開始する。
爆薬を利用して造られた新型兵器『大砲』を敵の軍勢に向けて一斉射出。その高等魔法に匹敵する破壊力により相手が怯んだ隙に、大剣を振りかぶりながら全員で斬りかかっていった。
「死ねやオラァァァァッ!!!」
「ギギャァァァアアッ!?」
『竜の因子』を取り込んで超強化された使徒たちの斬撃に、理性を破壊された王都の者らは瞬く間に斬り伏せられていった。
例え相手が数百万の超軍勢であろうが、ベイバロンの使徒たちにとっては全く恐怖に値しない。
どれだけ酷い傷を負おうが、手足が全て千切れようが、リゼ・ベイバロンの手にかかれば一瞬にして治ってしまうと知っているからだ。
ならば、恐れる必要はどこにもないッ! 平和な未来を掴むべく、全ての敵を斬り殺すのみ――ッ!
そんな想いを胸に戦う使徒たちは、まさに鬼神のごとき戦いぶりを見せた。
男だけでなく女子供までもが大剣を振り回し、人類を超越した膂力を以って敵を斬滅していく。王都の者らが全滅するのは、もはや時間の問題だった。
――そんな事態に、空を浮いていた魔法使いたちは瞠目する。
「なっ、何なんだ奴らは!? 下の連中が次々とやられていくぞ!?」
相手の数や謎の新型兵器には驚いたが、しかし数十万と数百万では圧倒的な兵力の差がある。
そう思って様子見していれば、この様だ。数の利など知った事かとばかりに、黒き鎧を纏った者たちは瞬く間に平民らを滅ぼしていった。
こうなれば仕方がない――魔法使いたちは地上に向かって手を突き出し、激しく輝く魔力光を全身から溢れさせた。
「リゼ・ベイバロン抹殺のために温存しておきたかったが……まずは奴に従う愚民どもからだァッ!」
「狂人どもめ! 頭の壊れた王都の連中と一緒に滅びるがいいッ!」
どれだけ鍛えていたとしても、所詮はただの人間。魔法の脅威の前には無力なはず……!
そうほくそ笑みながら、魔法使いたちが破壊の光を放たんとした――その時、
『――グガァァァァァァアアアアアアアアアッ!!!』
……ただの人間を嗤う魔法使いたちの前に、黒き人外の群れが姿を現した……!
「えっ……えッ!?」
ベイバロンの街より飛来した黒雲のごとき群れを前に、魔法使いたちは驚愕する。
それもそのはず……高位の魔法使いだろうが易々と殺す最強最悪の魔物『ドラゴン』が、突如として数千匹も現れたのだから――ッ!
「ぎゃっ……ぎゃぁぁぁぁぁああッ!? ドラゴンだぁぁぁあああッ!?」
「ななっ、何なんだこの数はぁぁぁあッ!?」
一拍おいてようやく現実に起こった事態を理解し、恐怖に震える魔法使いたち。
全身からありとあらゆる液体を吹き散らしながら逃げようとするも、時すでに遅し。数千匹の黒龍の群れは、『飼い主』に敵対する愚者共に向かって一斉に飛びついていった――!
「グガガァァアアア――ッ!!!」
「ひぎゃぁぁぁああああああああッ!? ゆっ、許して、許してくださひぃッ!? ももっ、もうベイバロン領には手を出しませんからァァァァアアッ!!?」
天に木霊する絶叫と咀嚼音。凶悪な爪と牙に引き裂かれ、魔法使いたちは次々と餌食になっていった。
中には必死でドラゴンに向かって攻撃魔法を放つ者もいたが、強靭な鱗の前にはまるで無意味。多くの民衆を恐怖させていた一撃も、最強の人外にとってはまったく脅威になり得なかった。
ああ――全身を噛み砕かれていく中、魔法使いたちは最後に思った。
力による支配は、それ以上の力の前にはまるで無力なのだと。
そして同時に、こう考える。
“数多くの民衆たちを一騎当千の鬼神に変えるほどに手懐かせ、竜の群れすら領地に置いているリゼという男は、どれほどの力を持った人物なのだろう”と。
そんな『化物』に挑もうとしてしまった愚行を、魔法使いたちは死の瞬間まで後悔し続けるのだった――……!
最終回前に告白します。実はツイッターのほうで銀髪爆乳ネコ耳バーチャル美少女なろう系メイドママになって、小説のことを動画で宣伝してきました(作者のマイページよりジャンプできます。編集にはバレてた)。
人間性を犠牲にして書いてますので最後までお付き合いくださいませ。
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