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第三十二話:王都を壊そう!




 ――時代が激動の兆しを見せていく中、ベイバロン領から遠く離れた王都でも異変が起きていた。

 

「ガハッ! ガハハハハッ! 素晴らしい、素晴らしいぞォォォォオオオッ!!!」


 燃え盛る王城の大広間で、よわい百三十歳の怪物・ヤルダバート王は喝采の声を張り上げる。

 高らかに笑う彼の目の前には、全身から血を流しながらも瞳を黄金にギラつかせた少年・ヨハン王子が唸っていた。


「死ねぇヤルダバートォオオオッ!!! 昔っからテメェがムカついて仕方なかったんだよォオオオッ!!!」


 鋭い爪を尖らせ、父王に向かって突撃していくヨハン。『竜の因子』を打ち込まれた彼の速度は、音さえも置き去りにするほどだった。

 だがしかし、


「ヌヒィイイイイイッ! なんと嬉しいことを言ってくれるんじゃヨハンッ! そんな可愛い息子には、儂も全力で応じてやらねばならんのぉ! ――複合術式発動・『暴王の鎧』――ッ!」


 ――グノーシア王国の主君にして『国家最強の魔術師』が、たかが音速程度の攻撃に対応できないわけがなかった。

 ヤルダバート王は全身に風と雷の魔力を纏うと、音速をさらに超えるほどの拳速を発揮してヨハンの顎を殴り上げたのである――ッ!


「がッはァァァァアアアッ!?」


 一瞬にして城の屋根を突き破り、夜空に向かって吹き飛ばされていくヨハン。

 あまりの衝撃に意識は落ちる寸前だった。竜の力を取り込んだことで人間を超えた耐久力を得たというのに、ヤルダバート王の一撃は彼の顎の骨を砕き、拳に纏った雷撃と暴風により全身をグチャグチャに引き裂いたのである。もはや手足が繋がっているのが奇跡だった。


 ヤルダバート王の攻撃は終わらない。吹き飛ばされていくヨハンの頭上に雷速移動を果たすと、純白の王衣マントをはためかせながら腕を振り上げて吼え叫んだ。


「グハハハハハッ! 儂好みの男に育てられて帰ってきた息子に、ご褒美をくれてやらんとなぁッ! ――複合術式発動・『暴王の裁き』――ッ!!!」


 ――その瞬間、王都に住まう全ての民は天を見上げて絶叫した。

 月だけが浮かぶ暗き夜空に、直径数百メートルを超えるほどの『炎星』が出現したのだから――ッ!


「さぁヨハン……そしてついでに王都の民衆たちよ、儂の愛を受け取ってくれぇぇぇぇえええええええッ!!!」


 そして――王都は終わりを迎える。ヤルダバート王が腕を振り下ろすや、超熱量にして超質量の炎星がヨハンに向かって堕ちてきたのだ。

 当然ながら真下には数万人以上の民衆が暮らす城下町が広がっている。もしもこのまま地に堕ちれば、どれだけの人命が失われるかわかったものではなかった。


「きさ、まぁ……」


 それを理解した瞬間――死にかけていたヨハンの魂は蘇った。


「貴様ぁぁぁあああああッ! ヤルダバートォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」


 怒りの叫びを張り上げるヨハンに、竜の因子が共鳴を果たす。小柄な背中がボコボコと蠢き、赤き竜翼が生えてきたのである。

 彼は翼をはためかせると、堕ちてくる流星に向かって逆に突撃していった――ッ!


「みんなの命はボクが守るッ! 王子として――そして何よりも素晴らしき『リゼお兄様』の使徒としてッ!!!」


 大量の雷を両手に纏い、ヨハンは秒間何百発も超質量の星を殴り続けた。

 手の骨は砕け、熱によって神経すらも焼き焦げていくも、それでもヨハンは諦めない。


「ボクはみんなに認められたいんだ……落ちこぼれだって何かが出来るってッ! そしてリゼお兄様のように、誰からも慕われる最高の主君になりたいんだぁぁああああッ!!!」


 ついに流星が地に落ちる直前――ヨハンの決死の奮闘は奇跡を巻き起こした。

 彼の両手が完全に焼き崩れるのと同時に、轟音を立てて流星が砕け散ったのである。


 吹き飛んだ星の破片は何百軒もの民家を襲うことになるも、それでも直に地に落ちた場合の衝撃と被害に比べればまだ軽微なものだ。ヨハンは命懸けで落下の勢いを削りきり、犠牲者を最小限に抑え込んだのである。


 だが……それが彼の限界だった。増幅された魔力と体力を全て使い果たしたヨハンは、燃え盛る王城の広間に墜ちてそのまま動かなくなるのだった。


「はぁ……はぁ……く、そ……っ」


 全身から血を流しながら、荒い呼吸を繰り返すばかりになるヨハン。そんな彼の下へと、愉快そうな哄笑と共にヤルダバート王は舞い降りてきた。


「ははははっ! 本当に楽しませてもらったぞ、ヨハンよ! わりと本気の一撃だったんじゃが、よく耐えたのぉ~!」


「ッ……!」


 民衆を虐殺しようとしておきながらあまりにも軽すぎる物言いに怒り狂うヨハンだが、身体がまるで言うことを聞かない。

 竜の力を取り込んでも、それでも敵わない存在……それがヤルダバート・グノーシアという男だった。

 全ての属性の魔法を超高次元で使いこなす神域の化物は、ヨハンに対して楽しそうに語る。


「ククククッ……なぁヨハンよ。儂はなぁ、ずっとずっと求めていたんじゃよ。人類最強の儂を楽しませてくれるような『反逆者』の存在をなぁ。

 だからこそ、リゼ・ベイバロンという不穏な動きをする男の下に、王子であるお前を送り込んでやったんじゃよ。それでお前が殺されれば御の字……それを口実に戦争をおっぱじめれるというものじゃ。だがしかし……グヒヒヒヒヒ……ッ!」


 ヤルダバートは倒れ込んだヨハンの竜翼をつかみ上げ、邪悪な笑みを浮かべて吼え叫ぶ――!


「リゼという男はッ、儂の期待を見事に超えてくれたッ!!! なぁオイ誰が思いつくかよ!? ガキを化け物に変えて刺客として送り返すなんて、まともなヤツの発想ではないッ!

 本ッ当に驚きじゃよッ! 予想を超えた事態が起こるなんて生まれて初めてなんじゃからなァ!!!」


 業火に包まれた王城の中、狂喜に満ちた老王の笑い声が響き渡る。

 ヤルダバートに倫理観などというものは存在しない。どんな方法を使って実の子を変貌させたかなんてどうでもいい。今の彼は、リゼ・ベイバロンという百三十年かけて見つけた敵対者ライバルからのプレゼントに、喜びで胸がいっぱいだった。


「ああ、今まで諦めずに本当に良かったッ! いつか最高の敵が現れてくれると信じ、不穏分子をあえて絶滅させずに野放しにしたり、時には裏から手を回して『デミウルゴス教』なる邪教団の誕生を手助けしてやったこともあったわいッ!

 このままリゼが現れてくれなかったら、儂おとなしく死ぬしかなかったわぁ~!」


 周辺諸国を壊滅させてグノーシア王国を発展させてきたヤルダバートだが、彼にとっては国の繁栄や民衆の安寧などどうでもよかった。

 全ての存在は自分を楽しませるための玩具でしかない。スリルを得るためならば、自国が乱れることになろうがお構いなしだ。それが、ヤルダバートという男の本性であった。

 

 彼はヨハンがとっくに気絶していることに気付くと、ニヤリと笑ってベイバロン領がある方角を向いた。

 そして死にかけのヨハンを掴み上げると、哄笑と共に振りかぶる――ッ!


「儂を満足させてくれた褒美じゃ! さぁヨハンよ、貴様に生き残るチャンスをくれてやろう! そして、無事に生きてベイバロン領に辿り着けたのなら我が『宿敵』に伝えるがよいッ! 儂と最高の戦争をしようとなァ――ッ!!!」


 最愛の反逆者が住まう地に向かい、全力でヨハンを投擲するヤルダバート。

 高速で夜空を駆けていく息子を満足げに見ながら、“本当に立派になったのぉ”とあまりにも呑気なことを言うのだった。


 かくして彼は、ついにベイバロン領への進撃を決意する。

 攻め込む口実なんてでっちあげればいいことだ。もはや我慢なんて出来やしない。最強無敵である自分の命を奪おうとしてくれている敵がいることに、ヤルダバートは全身がたぎって仕方なかった。


「リゼ・ベイバロンよ、お前と会える日を楽しみにしておるぞォオオオッ!」


 燃え落ちていく王城の中、夜空に向かって吼え叫ぶヤルダバート・グノーシア。


 ――後日、リゼに洗脳されたベイバロン領周辺の少年貴族たちが親を殺して家督を奪い、『デミウルゴス教』の者たちと共に民衆たちを支配下に置いていることを知ったヤルダバートは、涎を撒き散らしながら「ホァァアアアアア!!? 邪教まで取り込んで着実に軍勢を作り上げてりゅぅううう!!? リゼくんの殺意たかしゅぎるぅぅぅうううッ!!!」と歓喜の叫びを張り上げるのだった……!





このたび、「底辺領主」が累計ランキングに加わることが出来ました! みなさまがたくさんのご感想やレビューで応援してくださったおかげです! 本当にありがとうございました!

記念にラスボスをアヘらせておきました。

これからもご評価にご感想、お待ちしてます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 作者(デミウルゴス教信徒)はリゼ・ベイバロン領から現世に使わされた(使徒)ではないかと 確信した。
[気になる点] 記念にキモデブをアヘらせるんじゃねぇよぉww
[良い点] ( ・ิω・ิ)b(イカレポ○チな王様いいわぁ) [気になる点] ( ・ิω・ิ)p(それはそれとして処さねば)
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