第二十八話:リゼくんを殺そう!
見た目などの描写をざっくり済ませていたこの小説ですが、書籍化により逃げられなくなりました。
というわけで活動報告のほうで、あえて描写せず読者様たちのイメージに任せていたリゼくんの髪色や髪型を聞いております。よければどんな見た目でイメージしているかお答えください。あとついでにお気に入りユーザー登録よろしくお願いします!
夜道を走る馬車の中、ホーエンハイムは月を見上げながら思う。
――やはりリゼ・ベイバロンこそ、自分が求めていた『英雄』だったと。
民のために全力を尽くし、民と共に笑い、そして民を守るためならばドラゴンを打ち破るほどの力を発揮できる存在――これを英雄と呼ばずして何という?
邪悪なる領主・スネイルが竜の力を取り込んで領地を壊滅させたという報告を受けた時には驚愕したが、
それをリゼが解決に導いたという結末を知った際には、さらにホーエンハイムは驚いた。
盟友としてリゼの回復魔法の力量は聞き及んでいたが、まさか百メートル級の超大型龍をほぼ一人で倒してしまうほどの実力者だとまでは思っていなかった。
さらには、スネイルによってモンスター化させられてしまった数十万人の人々を全員救ってしまったという話だ。まるで意味が分からない。
「やれやれ……誇らしすぎる我が盟友よ、国王への報告作業は骨が折れたぞ?」
馬車の中でにやけながら愚痴る。
これまでホーエンハイムは、ベイバロン領の情報を王都に流れないように工作し続けていた。
増えまくるドラゴンや急激に規模を広げていく『デミウルゴス教』について必死で隠し通してきたのも彼である。
今回も、スネイルが変身した超大型龍は数多の兵士を犠牲にして倒したとし、リゼが生み出したという巨大な大樹はスネイルの術式が暴走して生まれた――という設定にしておいたが、流石にもう無理がある。王都からの調査員が送り込まれてくるのは時間の問題だった。
おそらくはリゼもそれを察してか、ついにあの反逆精神に溢れまくった城に国王を呼び込むことにしたのだろうとホーエンハイムは推測していた。
「フッ……ついに始める気なのだな。一世一代の大戦争を……ッ!」
熱き血潮を滾らせながら、ホーエンハイムはグッと大きな手のひらを握り締める。
王城のデザインを完全にコピーして真逆の色で染め上げられた城など見せつけられたら、国王はブチキレること間違いなしだ。
いいや、それ以前に『最底辺の男爵が王族を領地に呼びつける』という無礼極まる行為を働いた時点で、激怒されるに決まっていた。
こんな非常識な真似が出来るのは、国と戦う覚悟が出来た『反逆者』か何も考えてない幼児くらいだろう。間違いなく前者だとホーエンハイムは確信している。
「我が素晴らしき盟友よ、貴殿からのメッセージは必ず国王に届けてみせよう! ああ、あの老害がどんな顔をするのか今から楽しみだ!」
――こうして、ホーエンハイム公爵は高笑いを上げながら、ベイバロン領を後にしていくのだった。
……ついに最後の最後まで、自分の盟友がナメクジ以下の思考力しかない天然鬼畜野郎だとは気付かずに……ッ!
◆ ◇ ◆
「――陛下ッ! リゼ・ベイバロンという男は処刑にすべきですッ!」
「陛下に対して『領地を見に来い』とは何たる無礼! 国家のためにも処刑しましょう!」
「どうせベイバロン生まれの時点で馬鹿か鬼畜かやばい奴に決まってますよ!」
はたして……ホーエンハイムが推測した通り、王城の会議室は荒れに荒れた。
リゼからの伝言を聞いた重鎮たちは、皆一斉に「かの底辺領主を処刑すべきだ!」と吼え叫ぶ。
――しかしそこで、年季を重ねた温和な声が待ったをかけた。
「皆の衆、落ち着くがよい。……たしかに常識に欠けた言葉ではあるが、リゼという者はドラゴンを倒した英雄であるとホーエンハイムは言っていたではないか」
『っ――!?』
老人の言葉に重鎮たちは黙りこくる。
そう――反論など出来るわけがないのだ。
円卓の上座より重鎮たちを黙らせたその者こそ、この『グノーシア王国』の絶対的支配者『ヤルダバート・グノーシア』であるのだから。
頭上の王冠を光らせながら、王は厳かに言葉を続ける。
「リゼという者はこう言ったそうじゃな。“我が領地の光景を、実際にその目で見て欲しい”と。
なるほど……ベイバロン領と言えば荒廃した土地として有名なところじゃ。遠回しに支援してほしいと言っているのじゃろう」
「そっ、それを陛下に訴えるなど、言語道断で――!」
「ほう……儂が意見を述べているときに口を挟むとは、それは言語道断ではないのか?」
「っ!? そそそそっ、それは!? あの、あのっ!?」
垂れた瞼の下で輝く双眸に見つめられ、慌てて謝罪する重鎮の一人。
だが、今さら何を言おうが遅い。壁際に控えていた二人の兵士が無言でその男の腕を掴むと、無理やり外へと引きずっていくのだった。
王の機嫌を損ねた者は、赤子だろうが即処刑。それが、このグノーシア王国の法律第一条であるのだから。
『やっ、やめ――ぎゃぁああああああああああああああああああッ!?』
――扉の外で響く絶叫。それを聞いて冷や汗を流す重鎮たちを前に、ヤルダバート王は続きを述べる。
「さて、話を続けようかの。……儂としては、リゼ男爵の望みを叶えてやってもよいと思っておる。結果を出した者は報われるべきじゃ。食料が欲しいというなら好きなだけくれてやるわい。
だがしかし、王である儂は多忙な身。流石に領地を見に行ってやることまでは出来ん。そこで――第四十八王子・ヨハンよ」
「は、はひぃいいっ!」
王の言葉に小柄な少年が慌てて立ち上がった。
彼こそはヤルダバート王が作った四十八人目の世継ぎ、ヨハン王子である。男のくせに無駄に伸ばした髪と気の強そうな紫色の瞳をしている少年だが、流石に偉大過ぎる老王の前では緊張に震え、というか涙目寸前だった。
「ヨハンよ。儂の代わりにお前がベイバロン領に行ってこい」
「えっ!? ちょっ、ベイバロン領って頭おかしい連中がウヨウヨいるクソ田舎ですよね!? ぶ、ぶっちゃけボクって都会っ子だから、そんなところには行きたくないなぁーって……」
「あー、この国の法律第一条はなんじゃったかのぉー。儂、ジジイだから忘れてしもうたわぁー」
「ひぃっ!? い、行きます! ぜひとも行かせてください!!!」
泣きながら答えるヨハンに、ヤルダバート王も満足げに頷く。
「それでよいわ。というかそのためにお前をこの場に呼んだんじゃからな。どうせ末の子だから死んでも問題ないし」
「えっ、ひどくない!?」
「――というわけで、会議を終了する! ほぉれ貴様ら、さっさと散れ散れッ!」
王の解散命令に背を押され、足早に退散していく重鎮たちと生贄の王子。
護衛を任されていた兵士たちもいなくなり、円卓の会議場はヤルダバート王一人になるのだった。
かくして彼は誰も居なくなった瞬間――頬を淫らに歪ませ、大爆笑を張り上げたッ!
「ガハグハハハハハハハハッ!!! よもや王を呼びつけるとは、リゼ・ベイバロンという男め! 貴様はなんと愛い奴なのじゃッ!」
面白くて面白くて仕方がないとばかりに、豪奢な円卓を手で叩くヤルダバート王。その姿は絶対的な老王というよりも、まるで新しい玩具を見つけた子供のようであった。
そう――彼はずっと求め続けていたのだ。
自分に、そしてこの国に反逆してくれる、理想の『英雄』の登場をッ!
「グヒヒヒヒ……ッ! 臣下どもには“支援を求めているのだろう”と言ってやったが、そんなわけがあるかッ!
これほど非常識な真似が出来るのは、国と戦う覚悟が出来た『反逆者』か何も考えてない幼児くらいじゃッ! ああ、間違いなく前者じゃッ! リゼという男は、儂に喧嘩を売っておるッ!!!」
自身を脅かさんとする存在の出現に対し、ヤルダバートはどこまでも嬉しげに笑い続ける。
当たり前だ。むしろ彼にとっては本望だったのだ。そんな存在が現れることを願って、ヤルダバートは様々な手を打ち続けていた。
「リゼよ……儂はずっと、お前のような男の登場を待っていたぞ……!
儂が生まれてから百三十年。ソフィア教を大いに盛り立て、“魔法は神が与えた力。平民どもを躾けるためならばともかく、奴らの生活のために使うなど言語道断”――という選民的思想をより根強いモノにし、平民どもの心に憎悪を溜めさせ続けた。
獣人やドワーフたちの国を侵略し、奴らを奴隷として攫い、各地に反逆の火種を作り続けた。そして――ベイバロン領という反逆者たちの逃げ込み先を、あえて放置し続けた……!」
その成果が今、ついに咲き誇らんとしている――ッ!
ヤルダバートは涎をダラダラと流しながら想う。
リゼという男と総力を挙げて潰し合い、殺し合う瞬間のことを……!
「あぁ、リゼよッ! ずっとずっと求め続けた儂の愛しい反逆者よ!
どうか儂の渇きを癒してくれ――権力も才能も総てが揃い過ぎた儂に、『全力の戦い』というものを味わわせてくれッ!!!
そのためにゴミみたいな性格のヨハンをくれてやったッ! 王族に対する憎しみのままに、そいつを滅茶苦茶にぶっ殺して、どうか開戦の火蓋を切ってくれぇぇぇぇええええええ!!!」
殺意に燃える英雄と果てるまで殺し合う瞬間を夢想しながら、ヤルダバート王は笑い続ける。
こうして――夢が叶いそうな期待感に目がくらみ、ヤルダバート王はまっっったく気付くことはないのだった。
リゼ・ベイバロンという男が、『ベイバロン領いいところになったよ! 王サマほめてほめてっ!』という殺意ゼロの理由で王を領地へ呼び込んでいることなんて……!
「ついに現れた理想の男よッ! 熱き心と崇高なる志を持った反逆者よッ! 儂の全力をぶつけてやるわ!!!
貴様のためなら構わない――限界まで延命を重ねた我が百三十年の生涯が、たとえ終わりになろうとなぁ!」
かくして……頑張って百三十年生きてきた王様は、残りわずかな生命力をアホのために使い果たそうとしているのだった……ッ!
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