第二十四話:冒してみよう! 人と魔性の境界線!
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――月明かりすらも届かない夜の森の中、俺は大切な仲間に別れを告げようとしていた。
「じゃあな、ドラゴンッ! 大好きなスネイルくんのところに帰りなッ!」
「ガグゥウウウウウウウウウウッ!!!」
涙交じりの俺の言葉に、目の前の巨竜が唸り声を上げた。
そう、ついにスネイルくんにドラゴンを返してあげる日が来たのだ!
廃鉱山を支配していた黒竜が彼のペットだったとは知らず、うっかり爆殺しちゃったもんなぁ。
処女受胎で生まれた聖なる領主としてちゃんと責任は取ってあげなきゃ! だから元のサイズよりもおっきいのを作って、スネイルくんを喜ばせてあげるんだッ!
――というわけで、竜の肉片に回復魔法をめちゃめちゃめちゃめちゃかけまくったら、体長百メートルで全身真っ赤で血の涙を流す変なドラゴンが誕生した。
「ギギャブヒィイイイイイイイイイッ!!!」
「どうどう」
うーわ、なんか変な鳴き声出し始めたんだけど。全身が心臓みたいに脈打ってるし、しかも流れ落ちた血を浴びた草から目玉やら牙やらが生え始めたしやっぱり変だ。
うーん……元の姿よりもずいぶんとやべー感じになっちゃったけど、レアモノっぽくなったしまぁいっか。
それにスネイルくん、ちょっとよくわからないセンスの真っ赤なスーツを着てたからね。お揃いって感じでいいんじゃね?
「じゃあドラゴン、スネイルくんと仲良くできるな?」
「ギギャァアアアアアアアアアアアッ!!!」
「ははっ、そりゃ安心だ」
何言ってんのかわからねぇや。
まぁ、スネイルくんがペットだっつってたし大丈夫だろたぶん。たとえ大丈夫じゃなかったとしてもペットに出来るだけの実力があるんなら叩きのめせるだろうしな。ちょっと見た目やばくて頭おかしい感じになっちゃったけど、まぁ躾けなおしてくださいってことで!
うし、やることやったし帰って寝ますかぁ! 良い事したし今日はいい夢見れそうだなーっと!
◆ ◇ ◆
「――全軍、ベイバロン領に向かって進撃せよォオオオオッ!!!」
『ぉ、オオオオオオーーーッ!』
夜の大草原にて、千人ほどの戦士たちが雄叫びを上げた。
だが、彼らの顔は困惑気味でいまいち覇気というものが感じられない。
「……その腑抜けた声はなんなんですかねェッ!? このスネイルの決定に何か異議でもッ!?」
「めっ、滅相もありません!!!」
ああ、戦意が足りないのも当然のこと。
彼らは昏睡状態から目覚めたスネイルに急遽集められ、「隣の領地で虐殺の限りを尽くしてこい」という意味不明の命令を飛ばされたのだから。
野盗の群れを攻め滅ぼしてこいというならまだわかる。だが、スネイルが命じてきたのは大義も何もない残虐行為だ。しかも宣戦布告もなしに攻め込むなど、あまりにも外道すぎる。
そんな思いに悶々とする戦士たちに、真っ赤な鎧を着込んだスネイルが吼え叫ぶ。
「……あのリゼとかいう性根の腐りきった野郎のおかげで、私は頭の血管が切れて死にかけたのですよッ!? どうにか無事だったからよかったものの、この恨みをそのままにしておけるものかッ!!!」
「ぉ、お言葉ながらスネイル子爵っ、それなら決闘で済ませばよろしいのでは……!? ホーエンハイム公爵の許可もなく隣の領地を攻め滅ぼすなどしたら、いったいどんな制裁を受けるか――ッ!」
「黙りなさいッッッ! あの無能な公爵もリゼの味方だから問題なんですよォッ!」
血走った目で部下の言葉を跳ね除けるスネイル。
そう、大公であるホーエンハイムがなぜかリゼと親密な仲だというのが問題であった。
スネイルは上位の炎魔法使いだ。少なくともこの国トップの実力者だと彼は自負している。それが“お気に入りのリゼ”に決闘を挑むとあらば、公爵は許可しない可能性が高い。
そう判断したがゆえ、スネイルはベイバロン領に夜襲をかけることを選んだのである。
(クククッ……すべてを焼き滅ぼした後に部下たちすらも皆殺しにしてしまえば、証拠は何も残らないッ! いざとなればムカつくホーエンハイムすらも焼き殺してやるッ!)
……もはや理性など吹き飛んでいた。底辺領主だと思っていたリゼに数々の言葉責めを食らい、怒り狂った果てに血管が切れたスネイルの脳は、明らかに何かが壊れきっていた。
「殺してやる……殺してやるぞッ、リゼ・ベイバロンッ!!! 我が怒りの炎で焼き滅ぼしてやるゥウウウウウッッッ!!!」
全身から熱い魔力を吹き上げながら、スネイルが咆哮を上げた――そのとき、
「――ギギャァアアアアアアアアアアアァァァアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
スネイルの放つ熱気よりも何千倍も熱い炎が、周辺の部下たちを焼き払った――ッ!
「……え、えっ!?」
突然のことにスネイルは固まり、他の戦士たちも炎が降り注いできたほうを見上げる。
はたしてそこには……真紅の翼をはためかせた、灼熱のドラゴンが存在したのである――!!!
「ひっ……ひぃいいいいいいいいいいいッ!? ドラゴンだぁッ! ドラゴンが出たぞぉっ!?」
「そ、そんなぁっ!? 生贄を捧げてれば廃鉱山から出てこないんじゃなかったのかよぉ!?」
「しかも何だよアイツッ! めちゃくちゃデカくなってるぞオオオオッ!?」
絶叫を上げて逃げ惑う戦士たち。剣も楯も放り投げ、早々に敵前逃亡を果たしていく。
ああ、それもそのはず。ジャンゴ領の人間たちにとって、ドラゴンという存在は領主よりも恐ろしき絶対の支配者なのだから。
「なっ、ま、待ちなさいッ!? ベイバロン領への復讐はどうするのですかッ!?」
「そんなもんアンタ一人でやってろォッ!」
領主であるスネイルを捨て置き、泣き叫びながら散り散りに逃げていく戦士たち。
だがしかし――彼らには、死ぬことよりも辛い運命が待ち受けていた。
「ギギィイイ……グガギャヒィイイイイイイイイイイッ!!?」
ここで思わぬ事態が起きた。赤竜が絶叫を上げるや、突如としてその身体が爆散したのだ……!
脈打つ臓器が零れ落ち、おびただしい量の血の雨がスネイルや兵士たちに降り注いできた。
いきなりのことにわけもわからず、誰もが呆然とした――その瞬間、
「ぁっ……あぎゃぁああァァァァアアッ!!? カラダがッ、カラダが熱いィイイイイッ!!?」
「アァァァァァアアアア頭が痛い痛いイタイィイイイッ!!!」
彼らの身体に変化が起きた。
全身の肌が鱗のように硬質化し、爪や牙が異常なほどに伸び、背中の皮膚を突き破って赤い翼が生えてきたのである――ッ!
かくして、その瞳までもが爬虫類のように変質した瞬間……彼らの喉から、『人外』の咆哮が轟き渡った。
「ガァァァァァアアアアアアアアッ!!! ニクッ、ニクゥウウウッ!!!」
「ハラ、ヘッタッ! ニンゲン喰ゥウウウウッ!!!!」
それはまさに地獄の光景だった。
数多の人間たちの身体が瞬く間に変貌していき、人と竜を無理やり混ぜ合わせたような狂気の化け物が誕生していくのである……!
次々と生まれていく『竜魔人』たちを前に、スネイルもまた変質の痛みに悶え狂っていた。
「なっ、何が……ナニガ起きているんダァァァアアアッ!!? ドウして、どうしてこんなことにィイイ……ッ!?」
徐々に人間ではなくなっていく未知の恐怖に怯えながら、スネイルは最後に思った。
ああ、もしも夜更けにこんな場所にいなかったら……ベイバロン領に攻め込まんとしていなかったら、あのおぞましいドラゴンとは会わなかったかもしれない。こんなことにはならなかったかもしれない。
(あの男を、パーティーに呼ばなければ……関わり合いにさえならなければ……ッ!)
ちっぽけな嗜虐心を満たすために――『リゼ・ベイバロン』を馬鹿にしてやろうと思ったことを、スネイルは心から悔いるのだった。
【超絶朗報ッ!】リゼ様、またもや邪悪な貴族を改心させてしまう!!!【聖人無双】
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