第二十二話:王族に媚びよう!
「――ついに出来たか、俺の城が……!」
『パーティーを開こう作戦』を思いついてから三日後。優秀な領民たちの手により、街の中心部には巨大な城が爆誕していた。
よし、これで貴族連中に舐められることはないな! ……なにしろ城職人さんにこう頼んじゃったもんね。
――“俺の城は、この国の王城と同じデザインにしてくれ”って!
はぁ~リゼくんってばマジで天才かよぉ! この国のシンボルである王城と同じ見た目なら、馬鹿にされることは絶対にないもんなぁ!
それに頭をひねって外観を考える手間も省けたし、まさに良いことずくめだねッ!
ちなみに本物の王城のほうは『ソフィア教』のシンボルカラーである白で統一されてるんだけど、俺が建てた城は真逆の黒だッ!
ここでも天才デザイナーのリゼくんのセンスが光るぜ。
王城のデザインをトレースした上にいちばん位の低い黒で染め上げることで、王族たちに「俺、めちゃくちゃアナタたちのことをリスペクトしてるっス! なんでも言うこと聞いちゃいますッ!」と忠誠心と腰の低さを表現しているのである!
う~ん、匠の心意気が感じられますねぇ~! 王族に気に入られること間違いなしッ!
――さらにさらに、メリットはもう一つあって……!
「リゼさまぁぁぁぁんッ! 『デミウルゴス教』のシンボルカラーである黒でお城を染め上げちゃうだなんて、なんてアナタは素敵な人なのでしょうッ!
このアリシアをはじめとした教徒一同、一生アナタについていきます!!!」
「「「うぉおおおおおおおおッ! リゼ様万歳ッッッ!!!」」」
「フッ、気にするな」
そう――黒は『デミウルゴス教』のシンボルカラーでもあるのだッ! おかげで民衆たちは大喜びだぜぇ!
まさに一石二鳥である。王城を丸パクって黒くすることで、王族たちは「おっ、リゼってやつめちゃくちゃオレたちのこと大好きじゃん。しかも最低の色で自分の家を染めるとかめっちゃ謙虚だわー!」と感動し、逆に黒が大好きな民衆たちはテンション爆上がりなんだからな!
はぁ~全方位に気が遣えちゃう自分の優しさが怖すぎる! 王族も民衆も一緒にハッピーにさせちゃうとか、まさにリゼくんこそ平和主義の体現者だねッ! ナンバーワン愛国者として王様たちに呼び付けられて褒められるの、期待してますッ!
「――よし、民衆たちよッ! 今日は築城記念日だ! 朝まで潰れるほど飲むぞォオオオッ!!!」
「「「祭りだぁぁああああああああああ!!!」」」
城の出来にも満足したし、それからはもう民衆たちとドンチャン騒ぎだ!
最高級の家畜を最高の肉質の状態で量産しまくり、みんなで美味しく食べまくったッ!
あと一発芸として、噴水に酒を一滴たらして成分を『増殖』させまくり、水をぜーんぶ酒に変えてやったらみんな大騒ぎだ! ふふふふ、民衆たちをビックリさせたくていっぱい練習した甲斐があったぜぇ!
「きっ、奇跡だぁぁぁあああ!!! 水が全部酒になったぞォオオオッ!!?」
「このまえは樹海なんて出してたし、もしかしてリゼさま天地創造できるんじゃねぇかッ!?」
「あああぁぁぁああッ! 我らが主よ、一生ついていきますッッッ!!!」
はっはっはっはっ! お酒を飲み放題にしてやったおかげでさらにテンション爆上がりだなッ!
俺もお前たちの(ちょっと頭のおかしそうな)笑顔が見れて嬉しいぜっ!!!
「民衆たちよ、好きなだけ求めろッ! 俺が全てを与えてやろうッ!
肉も酒もパンも全部、溺れるくらいに用意してやるッ! ゆえにお前たちは技術を磨き、このベイバロンに尽くし続けろォオオオオッ!!!」
「「「ははぁぁぁぁあああああッ!!!」」」
“なんでも頑張って用意するから、みんなもたくさん働いてねー!”と場を締めたところで、パーティー再開だぁッ!
ふふふふふ! 楽しい飲み会で民衆たちともーっと心を近くして、ベイバロン領を平和に導いていくぜーっ!
◆ ◇ ◆
――出来上がった『黒の王城』を見た瞬間、ベイバロンの民衆たちは思った。
“ついにリゼ様は、王族たちに反逆の意を示すことを決意したか”と――!
あまりにも大胆な喧嘩の売り方に、民衆たちは戦慄する。
王城のデザインを完全にトレースした城を建て、それを白とは真逆の色で染め上げるなど、これ以上の挑発行為はないだろう。
しかも黒は、“利己的な貴族たちの皆殺し”を謳う『デミウルゴス教』のシンボルカラーであるのだ。教徒たちにとってはテンションが上がらないわけがない。
「へへっ……憎いことをしてくれるぜぇ、リゼ様よぉ……!」
「敵を最大限に侮辱しつつ、我らの士気を高めてくれるとは……ッ!」
「あの人はいつも、言葉ではなく行動で示してくれるッ! “俺と民衆たちの心は一つだ! 共に乱世の幕を開けようッ!”って言ってんのがよーく伝わってきたぜ!!!」
漆黒の王城を見上げながら、ベイバロンの者たちは胸を熱くした。
あんな城を建ててしまった以上、国がこの地を放置しておくわけがない。
いずれ話題は大陸中に広がり、全ての貴族たちから狙われることになるだろう。
だがしかし――負ける気なんて一切なかったッ!
「おっしゃ、これからも戦闘技術を磨きまくろうぜぇみんなッ! リゼ様の魔法と、オレたちの鋼の肉体と、そしてなにより『爆弾』の力でッ! この国を支配してやろうッ!!!」
「おうよっ! そういえばこのまえ来たドワーフのおっさんたち、爆薬を使ってなんかすげー武器を作り始めたらしいから楽しみだなッ!」
この国が赤く燃え上がる瞬間を夢に見ながら、爽やかに笑い合うベイバロンの人々。
――こうして、民衆たちと心が離れまくってることに気付かないリゼのアホな行動により、『乱世』の幕は静かに上がろうとしていくのだった……ッ!
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