第十八話:犯してみよう、経済水域!
※前回出した牛さんたちはあのあとみんなで食べませんでした。
――ドラゴンのステーキを食ってお腹いっぱいなある日の午後。
「うーんどうしたもんかなぁ……」
執務室にて、俺は椅子をギコギコとさせながら思い悩んでいた。
実は先日、ベイバロン領の名物にするためにクラーケンとかいう伝説のイカの化け物を捕獲しに行ったのだが、ここで一つ問題が起きたのだ。
まずクラーケンを退治するまでは簡単だった。
とにかく大食いで何でも食べるっていうから、爆弾をくくり付けた牛を小舟に浮かべておいたらホイホイと捕食しに来て、飲み込んだ瞬間大爆発。あとは弱ったところにアリシアたちと爆弾を投げまくったら一分くらいで死亡した。鯉にエサをやってるみたいで面白かったです。
それからはみんなで海で泳いだり、ヒモみたいな水着で迫ってくるアリシアの頭に回復魔法をかけたり(※ダメだった)、クラウスの男らしい腹筋をカッコいいなぁーと触ってたらベルが過呼吸になったり、まぁ色々と楽しかった。
――ってそれは今はどうでもいいんだ。問題なのはその後のクラーケンについてだ。
あの後、肉片から赤ちゃんを作ってベイバロン領の池に放流してみたら、あっという間に弱って死んじまったんだよなぁ。
一体どうしちまったんだとモンスターに詳しいイリーナに聞いてみたところ、「どうやらコイツは海水でしか生きられないらしい。肉に塩味が染みてて美味しいぞ!」と死体を喰いながら答えてくれた。いや、味までは聞いてないんですけど。
そういうわけでクラーケン飼育計画はあえなく頓挫してしまったのだった。
――だがしかし、
「ここで諦めてちまっていいのか……? ――いいや否ッ! 有能領主のリゼ様として、何としてでもベイバロン領を発展させなければッ!!!」
強き決意と共に、俺は椅子から立ち上がった!
そう。いくら食料面で豊かになろうが、観光客がわんさか来てくれない限りは、ベイバロン領の悪評は決して消えることはない。そして、悪評がある限りは観光客を獲得出来ないッ!
その悪循環を打ち破るためには、『ベイバロン領名物! 一緒に遊んで食べれるドラゴン!』みたいなインパクトのある呼び物がたくさん必要なのだ!!!
ああ、こうなったらベイバロン領に海を作るしかないッ!!!
海があったら『ベイバロン領名物! 一緒に遊んで食べれるクラーケン!』を用意できるし、海水浴目当ての客が来てくれるかもしれないしなッ!
というわけで……『海がある隣の領まで地面を掘っていって、海水を分けてもらおう作戦』のスタートだッ!!!
ちょっと地面にくぼみを作っていくだけだし、領地侵略にはならないだろたぶんッ!!!
◆ ◇ ◆
――俺の天才的な頭脳からひねり出された『海がある隣の領まで地面を掘っていって、海水を分けてもらおう作戦』は困難を極めた。
なにせベイバロン領から海までの距離は馬を飛ばしても数時間ほどあるからな。これを数キロの横幅と数十メートルのクラーケンが住めるくらいの深さで掘っていくとなると、本当に大変な作業だった。
それでもみんな笑顔で仕事に従事してくれた。泣き言一つ言わず、働くのが楽しくて仕方ないといった様子で最後まで俺についてきてくれたッ!
ああ、ありがとう……本当にありがとうな、みんなッッッ!!!
かくして――三万人ちょいの男たちに、疲労がポンと抜けてテンションがブチ上がり世界全てが薔薇色に見える回復魔法をかけ続けること一週間――、
「お、ぉおおお……海だぁぁぁあああッ!」
「海だっ! オレたちの領地に海が出来たぞォオオオオッ!!!」
ついに、ベイバロン領にまで海がつながったのである!!!
これにはみんな大はしゃぎだ! 超回復の繰り返しすぎで筋肉ゴリゴリモンスターを通り越して鋼のごとき細マッチョ集団と化した男たちと共に、領地の発展を盛大に祝った!
そしてそして、嬉しいのはそれだけではない!
栄養豊富にならないかなーとベイバロン領の海面に回復魔法をかけてみたところ、隣の領地の海のほうから大量の魚たちが流れ込んできたのだッ!!! もう釣り放題の獲り放題で毎日お魚が食べれちゃうぜッ!
隣の領の海中にたくさんあったサンゴも分けてもらってきて植え付けたし、ベイバロン領に豊かな海の誕生だぜ!
……つーか豊かになりすぎて、ぶっちゃけクラーケンとかいらねぇな!
幼体をいっぱい作っちゃったんだけど、ドラゴンと違って見た目キモいしこんなん名物になるわけねーや!
よっしゃ、領民たちに回復魔法をかけまくったおかげで『命を操作する』感覚にも慣れたしイカの脳みそくらいイジれるだろ!
ベイバロン領には近づかないよう頭に刻んで隣の領地の海に帰すかぁ!
ばいばい赤ちゃんクラーケンズ、またいつか会おうなーーーーーーー!!!
※隣の領地の漁獲量が70%ダウンしました。
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