第十七話:激闘ッ! ≪獄炎魔竜・ブラックドラゴン≫!!!
――鉱山の奥深くに住み着いてから数十年。そのドラゴンは実質的に領地を支配し続けていた。
最初のうちには何人もの兵士が送り込まれてきたものの、弓矢すら弾く黒き竜鱗の前には人間の攻撃などまるで無意味。鋭き爪牙を振るい、一瞬にして肉片に変えてみせた。
それが続くこと数十回。最終的には恐る恐る出向いてきた魔法使いの領主をいともたやすく抹殺せしめた時点で、領民たちはドラゴンの前に完全に屈服したのだった。
「グルルル……」
縦穴の底で黒竜は嗤う。人間とはなんと無力な種族だろうと。
今ではドラゴンの脅威に恐れをなし、定期的に家畜や生贄の少女を向こうから落としてくるくらいだ。狩りをせずとも食事が提供される生活に、ドラゴンは存外満足していた。
だが――たまには身体を動かしてみたくなるものだ。
“よし、久しぶりに近隣の集落を襲ってやろうか”
嗜虐心を滾らせながらドラゴンは唸る。それは気まぐれで残酷でどこまでも一方的な、絶対的王者の決定であった。
かくして両翼を羽ばたかせ、ドラゴンが地上に飛び立たんとした――その時、
「――なるほど、お前が邪悪なるドラゴンか」
突如として、上のほうから凛とした声が響いた。
ドラゴンが睨み上げれば、かつては坑道だった生贄投棄用の横穴に、数名の人間が立ち並んでいた。
かの黒竜には人の美的感覚などわからなかったが、ほとんどが女子供で、しかも上等な肉質をしていると見て上機嫌になる。
“ほほう、上物の食事を持ってきたか……! ならば人間どもよ、さっさと我に食われるがいい”
さぁ、死の奈落へと堕ちてこい……!
そうしてドラゴンが大きく口を開け、エサが降ってくるのを待ち構えた瞬間――、
「――では一投目、アリシアいっきまぁぁぁあすッ!!!」
小さな木箱がドラゴンの口に向かって投げ放たれ、牙に当たるのと同時に大爆発を起こしたのである――ッッッ!!!
「グギャァアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!?」
ドラゴンは絶叫した! てっきりいつものようにエサが落ちてくると完全に思い込んでいたがために、突如として受けたダメージにのたうち回った!
だがこれは始まったばかりだった。人間たちは愉快そうな笑みを浮かべると、次々と手のひら大の木箱を投擲してきたのであるッ!
“やっ、やめろぉおおお!? なんだソレは!? なんなのだお前たちはッ!?”
人間たちが投げつけてくる謎の木箱の威力は凄絶であった。ドゴォオオオオオオッ! という激しい音を立て、ドラゴンの身体を爆滅していく!
強靭なはずの黒き鱗が弾け飛び、自慢の翼には穴が開き、何百という人間を抹殺してきた爪牙はボロボロと崩れて抜け落ちていく――ッ!
それはドラゴンにとってありえない事態だった。
わずか数名の人間に一方的に嬲られるなど、最強のモンスターとして許してはいけないことだった――!
「グッ、グガァァァアアアアアアアアッッッ!!!」
熱と衝撃に身を削られる中、ドラゴンは怒りの咆哮を張り上げる。
“人間ごときに殺されてなるものか。自分こそが、絶対的な生態系の王者なのだ!”
そんなプライドに両眼を光らせ、人間たちを討ち滅ぼすべく死力を尽くして飛び上がった。
はたしてドラゴンが、ついに人間たちと同じ高さにまで迫った瞬間――リーダーだと思しき冷たい瞳をした男が、ふと思いついたように呟いた。
「カッコいいじゃないか、お前。――よし決めた。お前の来世は俺のペットだ」
“なにっ!?”
意味の分からない言葉と共に、彼はドラゴンの口の中へと細切れの肉のようなものを投げつけてきた。
てっきり毒かと思いきや、舌に感じるのは上品な牛肉の味だ。一体なんのつもりかと思いながら、ドラゴンがゴクリと飲み込んでしまった……その時、
『モォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!』
ドラゴンの生涯は完全に終わった。
なぜならその体内で、数十頭もの牛が誕生を果たしたのだから――ッ!!!
「ゲボォオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!?」
「モォ~!」
大量の牛たちはドラゴンの内臓と肉を全て押し潰し、全身の穴からのんきに顔を出していく。
……こうして哀れな黒竜は、牛を吐き散らしながら縦穴の底へと堕ちていったのだった――。
◆ ◇ ◆
――やったぁ~~~~~~~~~! ドラゴンぶっ殺してやったぜ! そしてペットゲットだぜー!!!
ドラゴンを討伐した俺たち五人は、ゆらゆらと馬車に揺られながら帰路についていた。
いや、正確には五人と五匹と言うべきか。俺たちの膝の上には、ニワトリくらいの大きさしかない黒竜が元気に鳴き声を上げていた。
あの後ドラゴンから肉片を採取して、俺の回復魔法で量産してみたのだ。
爆弾を投げてたらあっさり死んじまったクソザコトカゲだったけど、見た目はカッコよかったからなぁドラゴン。これからはコイツらをベースに育成法や調教法を確立していって、いずれはベイバロン領の顔として頑張ってもらうつもりでいる。
運搬なんかを手伝ってもらったり、お客さんを乗せて飛ばしたり、美味しいらしいから食用としても育ててみたり……ふふふ、きっと国中で有名になるぞぉ!
「ピィー! ピィー!」
「よしよし、牛肉でも食うか?」
「ピギャァアアッ!?」
牛肉を見せるとガクガクと震えて泣き始めた。
なぜか牛肉が嫌いらしい。贅沢なトカゲモドキである。
だが、生き物の赤ちゃんというのは何でも可愛いものだ。
頭のおかしいアリシアなんかも、優しい笑みを浮かべて膝の上の子竜を撫でていた。
「うふふふ……わたしのことはママって呼ぶんですよぉ? そしてリゼ様のことをパパって呼ぶのです。さぁほら、言ってみなさい? ほら早くッ!!!」
「ピ、ピギィ~……!」
「いや、無理だろ……」
……やっぱりアリシアはアリシアだったらしい。うーん、顔と身体と触り心地は最高なんだけど残念だ。少しは俺を見習えってんだ。
やれやれと思いながら、イヌ耳美女のイリーナのほうを見ると――
「ぐ~……ぐ~……!」
……お腹をポッコリとさせながら、幸せそうな笑顔で眠りこけていた。ちなみに黒竜はどこにもいなくなっていた。
見なかったことにしよう。
ちなみに衛兵長のクラウスは俺の素晴らしさをメイドのベルに熱く語り、ベルはそんなクラウスの話を聞きながら「主君であるロゼのことを熱愛している騎士のクライス。だがしかし、そこにロゼのことを狙っているヘーゼルハイム公爵が現れ、男たち三人は愛欲の沼に堕ちていき――ッ!」などと、意味の分からないことを呟きながら嬉々として紙に文章を書いていた。
うん、なんか知らんけどしっかりと文字が書けているようで何よりだ。みっちりと教えてやった甲斐があったな。
「ふぅ……」
愉快な仲間たちに囲まれながら思う。今回の冒険は本当に色々なことがあったと。
意気揚々とベイバロン領を出て、数十頭の馬に馬車を引かせたら一時間くらいで廃鉱山について、強いとかいうドラゴンを一分で倒して、今もまた大量の馬たちのおかげでもうベイバロンが見えるところまで来ていて……って、あれ?
――俺、二時間くらいしか冒険してねぇじゃんッッッ!!!? こいつらとの思い出とか絶無じゃんッ!!!
「ピィ~ピィ~!」
「……お前が弱すぎるのが悪いんだよ。牛肉食えオラ」
「ピギャァアアッ!?」
……まぁ散歩に出るくらいの手軽さでドラゴンが手に入ったからよしとするかー!
よし、今度は近くの海にいるクラーケンとかいう数十メートルのイカを捕まえてきて、ベイバロン領の池で飼っちゃおっと!
いつかはたくさんの観光客で賑わう平和な領地を目指して、今日も明日も頑張ろうッ!
俺の冒険は、これからだ――ッ!!!
愛と感動の『ドラゴン討伐編』ッ、第170話にしてついに完結!!! ここまでのご愛読ありがとうございましたぁあああああ!!!!
様々な出会いと別れとアリシアの死を乗り越え、リゼはこれからも戦っていくぜ!!!
最後にご評価にブックマークにご感想にレビュー、お待ちしてます!!!!!!!(※普通に続きます)




