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第十一話:ジャイコフくんを殺そう!




「よ、ようやく掴んだ……ようやく掴んだぞッ、ボンクレー領を荒らした犯人の正体をッ……!」



 荒れ果てた執務室の中、領主・ジャイコフは震える声で呟いた。


 彼はある時気付いたのだ。数々の名店が売り上げを落とし、税が納められないようになっていく中、なぜか奴隷商だけは変わらず景気がいいことに。

 もはやジャイコフの精神に余裕はない。何かが怪しいと思った彼は、奴隷商の男を容赦なく半殺しにして極秘の顧客リストを奪い取ったのだった。


 そして知った……ここ最近、大量の奴隷たちを購入し続けている者がいることに。

 その名は――、



「貴様だったのか……我が領から金を巻き上げていたのは貴様だったのかッ! リゼ・ベイバロンッッッ!!!」


 

 怒りの咆哮と共に、ジャイコフは無数の石弾を打ち放って領主邸を崩壊させていく――!

 使用人たちが巻き込まれようがお構いなしだ。絶叫と嗚咽が響く中、ジャイコフは激情のままに暴れ狂っていった。 


「クソがぁぁああああッ! ふざけるなッ、ふざけるなふざけるなふざけるなぁッ!!! ああそうだ、奴が奪ったに決まってるッ! 大量の奴隷を購入するような金が、あのゴミクズのようなベイバロン領にあるものかァァアッ!!!」


 推測の域を出ない暴論だったが、怒りで我を失ったジャイコフにとっては自分の判断こそが全てだった。

 彼はボロボロになった机から羊皮紙を取り出すと、リゼ・ベイバロンにてて罵詈雑言の言葉を書き殴っていく。


「クソッ、クソォッ……! どれだけ我を苦しめれば気が済むのだ、ベイバロン領のゴミカスめぇ……ッ!」


 ……もしも容疑者が他の貴族であったなら、もう少しだけ冷静に調査していたかもしれない。

 だがしかし、疑わしき相手は()()ベイバロン領の領主である。

 疫病と犯罪者が蔓延したあの領地が隣にあることで、ボンクレー領は観光面で割を食い続けてきた歴史があるのだ。積もった恨みは計り知れないものだった。



 ジャイコフは手紙を書き終えると、瓦礫の下敷きになっていた使用人を引きずり出し、顔面を蹴って無理やり意識を覚醒させた。



「ぐぎっ!? ジャ、ジャイコフ様、なにを……っ!」


「寝てるでないわっ、平民上がりのカスめがッ! ……この手紙をベイバロン領に速攻で送り付けろ! それが無理ならそのまま死ねッ!」


 そう言って、傷だらけの使用人を廊下へと蹴り出すジャイコフ。

 彼は使用人がふらふらと歩いていくのを見送りながら、不愉快そうに鼻を鳴らすのだった。


「あの程度のことで死にかけおって……やはり平民は劣等だな! 岩の壁を出して身を守ることすら出来ない欠陥生物めが! ああ、やはり貴族こそ神に選ばれた存在というわけか……!」


 あまりにも勝手すぎる物言いを平然と語るジャイコフ。

 貴族と王族こそが絶対。それ以外の存在は、そもそもからして人にあらず。

 それが彼の考えであり――多くの上流階級の者たちに蔓延している思想だった。 


「ククッ、クククク……! だが、同じ貴族でも魔法の才能には優劣があるものだ。

 たしかこんな噂があったなぁ……『ベイバロン領の世継ぎは、攻撃魔法が一切使えない落ちこぼれ』だと……!」


 まだ見ぬリゼのことを思い、ジャイコフは嘲笑に口元を歪めた。


 あの荒くれ者がのさばっているベイバロン領において、攻撃魔法が使えないのは致命的だ。きっと領民たちに日々虐げられていることだろう。

 そう思うとジャイコフは愉快で愉快で仕方なかった。


「クハハハ……ッ! 醜悪なる土地に生まれた劣等なる貴族め。そのゴミのような人生に、この我が終止符を打ってくれるわ――ッ!」


 半壊した領主邸の中、呻いている使用人たちを尻目に高笑いを上げるジャイコフ。


 彼は憎しみを胸に待ち続ける。リゼ・ベイバロンという男の元へと、自身のしたためた『決闘状』が届くその瞬間を――!


 


 ◆ ◇ ◆




「……なんだ、こりゃ」



 ある日、ボンクレーの領主から俺の元へと一通の手紙が届いた。

 何やら死にかけの男が持ってきたので先に傷を治してやると、すごい感謝した後なんか泣き出した。お肉食べさせてやるから頑張れ。


 まぁそれはともかく――問題なのは、手紙の内容だった。


「なんだよ、これ……なんだよこれはぁッ!」


 そこには、俺に対する悪口が山ほど書かれていた! しかも、『我がボンクレー領を弱らせた悪党め!』などと、ぜんっっっぜん身に覚えがないことが書かれていたのだッ!


 はぁぁああああああッ!? 俺がいつ弱らせたってんだよッ!? むしろ品質のいいコピー品を領民たちに安く売りまくって、みんなを笑顔にしまくったってのによぉ!


 どうせ自分が無能だから領が弱っただけだろうが! それを恩人である俺のせいにするとか最悪すぎるだろッ!

 超絶平和主義者であるリゼくんのことを悪党扱いするとかマジで頭おかしいんじゃねーのコイツっ!?


 しかもしかも、手紙の最後にはこう書かれていた。



『悪党リゼよ! 女神ソフィアの名の下に、貴様に決闘を申し込む! 貴様が死んだあかつきには、邪悪なるベイバロン領を滅ぼしてくれるわッ!』――と。



 ……この一文を見た瞬間、俺は史上最大にブチ切れたッッッ!!!


「――ふざけるなぁッ! 俺が懸命に育て上げてきたこの土地を、滅ぼすだとぉぉおッ!?」


 この手紙の送り主であるジャイコフという男は、俺の苦労を知らないからこんなことが書けるんだッ!

 

 荒くれ者やら邪教団やら獣人の群れやらを手厚く保護して手下にして、牛やら豚やらを毎日たくさんバラバラにしては量産して食糧問題を改善し、そしてコピー品をばらまいてお前のところの領民たちもハッピーにしてやったってのによぉ!!!

 

 いつだって平和を目指して努力してきた俺のことを、コイツは悪党だと呼びやがったッ! 平和な空気になってきた俺の領地を、コイツは邪悪と断じやがったッ!!! ふざけんな馬鹿ぁ!!!



 俺は手紙をグシャグシャにして足元に捨てると、メイド長のベルを呼び寄せる。

 珍しく声に怒気を含んでしまっていたからか、彼女は血相を変えて即座に現れた。


「お、お呼びでしょうか、ご主人様ッ!」


「……ああ、すまないなベル。緊急の用が出来てしまった」

 


 ――俺、リゼ・ベイバロンは平和主義者だ。

 欲深い連中が大集合した土地の生まれでありながら、常に謙虚さを忘れない誠実な男だ。王族はとっとと俺のことを婿養子にしたほうがいいだろう。


 だが、そんな俺でも今回のことは許せなかったッ!

 いつかはこの国を平和に導くであろうリゼ様が、なんかよくわからん頭のおかしいオッサンに殺されて堪るか!!! 


 俺はベルを鋭く見つめ、凛とした声で命令を下す。

 

「ボンクレー領の領主より、我が領に対して宣戦布告が出されたッ! 領民たちに伝えよ、『戦争』が始まるとッ!」


「はっ――はいッ! ただちにみなさまに伝えてきますッ!」


 うむ、それでよろしい! 



 俺は慌てて飛び出していくベルを見送ると、深く息を吐いて興奮を鎮めるのだった。 






 ……って、あれ? そういえば手紙には、『貴様に決闘を申し込む。それで、貴様が死んだら領地を滅ぼす』って書いてあったよなぁ?

 それって領に対しての宣戦布告とはちょっと違うような…………まぁいっかぁ! 少しだけスケールを大きくして伝えちゃったけど、戦争も決闘もだいたい似たようなもんだろ! 相手をぶっ殺せば勝ちなことには変わりねぇし!


 よーし、明日はみんなでジャイコフくんのお家に突撃しちゃうぞーッ! はっはっはっはっは! 平和ーっ!




【悲報】平和主義者のリゼ様、うっかり『決闘』を『戦争』にしてしまう。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >牛やら豚やらを毎日たくさんバラバラにしては量産して食糧問題を改善し、そしてコピー品をばらまいて どう見ても悪魔の所業です。 本当にありがとうございました。
[一言] この話を読んで真っ先に思い付いた感想は、馬鹿はお前じゃいだよねw
[良い点] 決闘を戦争にするとは……さすがリゼ君。そこに痺れる、憧れる。 [一言] 多分勝つでしょうね。
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