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Mono mondon regas ~金が世界を支配する~  作者: あまつか飛燕
《ロレンス編》自由への闘争
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民は黙し、為政者は嗤う〈中編〉

 平民街ではオールム以外の3つの小隊や叛乱に加わった平民達が、絶望的と呼ぶ事すら生温いような戦いを強いられていた。

 それまで一定の成果を上げていた遊撃戦は今や完全に意味の無い物と化しており、僅かに反撃しては陣を放棄し1人倒しては3人倒されるような状況となっていた。

「いよいよ連中も見境が無くなって来たな…!」

「カラン隊長!16番隊全滅!」

「使えそうな武器は回収して身を隠せ!何としてもユールスと党首ゲルナの首を取るまでは引き下がれんぞ!」

 焦ったように指示を飛ばすカランだが、それはナレスやクィルツも同じだ。自分の指揮していた兵士達は徐々に散り散りとなり、次に見つけた時にはその原型を留めていない事がもう何度もあった。それでいて焦らず発狂もせず黙々と指示を出し続ける事など出来る事ではない。


 戦況は不意に信号弾が4回上がった頃から急に変わった。

 ペイルが指示した遊撃戦の最大の要は、いかに遮蔽物に身を隠しながら交戦するかだ。ヤンビャンの場合は建物の影に身を隠し様子を伺いながら、敵の姿を発見次第攻撃し反撃される前にその場を離脱する。そうして別の影に入り、再び攻撃する機会を待つ。このような攻撃を続けることによって敵に"いつどこで敵が出て来るか分からない"という恐怖心を植え付け、作戦行動を鈍らせるというのが遊撃戦の基本だ。


 だがプラセン軍は信号弾が打ちあがって以降、それまではなるべく攻撃しないようにしていた建物にも片っ端から攻撃を加えるようになっていた。中に人が居ようとお構いなしにだ。それどころか荷物を持って避難しようとしている者にまで銃を向け、無差別攻撃と言ってもいい程の攻撃を敢行していた。

 今やヤンビャンの平民街にはあの白い美しい街並みは見る影も無く、瓦礫と死体に埋め尽くされた凄まじい光景が広がっていた。

 そんな中でオトポール達は終わる事の無い持久戦を戦い続けている。身を隠す為の建物は敵がことごとく破壊し、今は辛うじて瓦礫の山に身を隠しながら抵抗を試みている状態だ。最初こそ怪我したヤンビャン市民を安全な場所まで運んだりもしていたが、もはやそんな余裕も無い。負傷した味方の救助すらままならず、人によってはここで敵もろとも死んでやると言って爆弾を抱えて敵の動線で待ち伏せをする者までいる程だ。


 作戦終了は大統領府の制圧が済み次第であり、それは大統領府の屋根に立つ労働者党とプラセン共和国の国旗が下がる事で知らされる。首都とは言えヤンビャンには低層の建物が多く、7階建ての中枢はよく目立つ。皆がその瞬間を心待ちにしておきながら、しかし2つの旗は逃げ惑うオトポールを嘲笑うかのようにはためいていた。

 平民街の其処ここに斃れる犠牲者は、ただ黙って狼藉と呼ぶ事すら憚れるような殺戮行為を見ている。大統領府にいる筈の高官達が自分達が逃げ惑うのを嗤って見ているようだった。


 *


 オールムが大統領室と書かれた戸を開けたと同時にラグナが防御魔法を展開し、予想通り集中砲火を浴びせてきた室内の敵から完璧に身を守る。

「何者だ!」

「ここまで来る辺り見当がつくだろう?」

 敵の言葉にあくまで挑発的にペイルは返す。だがここにいる者はそんな安易な策に乗るほど愚かでは無い。

「オトポールか、よくまぁここまで来れたものだ。万死に値する」

「貴様…党首のゲルナ・フューズか」

「その通り。神聖なるプラセン共和国最大の反乱軍の長であるオールム・カドリアに覚えてもらっているとはな、反吐が出る思いだ」

 そう言ってゲルナは否応なしに目立つ出た腹をさする。


「俺達の事も良く調べているという訳だな。では何をしに、こんな権力の象徴みたいな建物まで来たか分かっているだろ」

「あぁ分かっているとも。だが残念ながら貴様らに勝ち目は無い、いくら強かろうとこいつらを突破することは出来ないのだからな」

 ゲルナが自信満々にそう言うと、居並ぶ高官達の前に屈強な敵兵が並び先程と同じく防御魔法を展開する。確かにこれまでとは一線を画す程の魔力量だ。

 物は試しとペイルが改造銃で数発打ってみたが、確かにそれぐらいでは敵兵は顔色一つ変えない。

「その銃をどこで手に入れたか知らぬが無駄よ。最強の武器を作る以上、対抗手段を作るのは当たり前だろう」

 ゲルナの脇に控えていた男が自信満々にそう言った。確かに魔法を展開する敵は魔法具のようなものを持っており、恐らくはそれにも竜の力とやらが使われているのだろう。


「ここまで来た褒美だ、貴様達はすぐには殺さない。オトポールを最後の一匹まで駆逐した後に、最後にじっくりといたぶってやるわ」

 ゲルナが自信満々に高笑いした。だがそれを見てもペイルは顔色一つ変えず、むしろ蔑みの目を向けるだけだ。

「悪党の親玉らしい言葉だな。だがその自分達の他に信用できる物は無いとでも言うような猜疑に満ちた目を、自分達が向けられる事を想像したことがあるか」

「…貴様は何を言っている?そう言えば、調べさせたオトポールの中には見ない顔だな。そこの小娘共々、何者だ」

「何者でもいいだろ。それに貴様らの弁を借りるのであれば、すぐに捕まるのだから関係無いんじゃないのか」

 肝が据わっているのか虚勢なのか、ペイルの予想外の言葉にゲルナや他の高官達は再び笑う。

「そうか、ではお望み通り捕まえてやろう。かかれ!」

 号令がかかると兵士達が足元に向けて発砲してくる。当然その銃も改造銃だ。

 生きて捕まえたい時には足を狙い動けなくするまでは正しいが、それを許すラグナではない。当然防御魔法は完全に弾を跳ね返し、すぐに敵兵の顔が驚きに染まった。


「オールムさん、この人達の処遇ってどうなるんですか?」

 いきなりの強気な発言にオールムは一瞬驚いたが、すぐに気を取り直して答えた。

「あ、あぁ。良くて強制労働、恐らくは処刑だろうな」

「…分かりました。オールムさん、ここで労働者党を倒したら持っていた情報は全てオトポールの長であるあなたの手に渡ると思います」

 ラグナが神妙な顔つきで語り掛ける。

「その中には竜に関する情報もあると思います。それを今後一切使わず、処分してくれる事。そしてこれから私がこの状況を打開する為に成す事に関して詮索しないと、約束できますか」

「…約束しよう」

「有難う御座います」


 ラグナはそう言うと、再びゲルナ達に向き合った。

「何をコソコソと話しているんだ、聞こえているぞ!強制労働だ処刑だのと…おい、さっさとあいつらを…」

「盟ゆ…竜の力に対抗する為に同じく竜の力を用いた防御を用意しておく事、それ自体はしっかり万が一を想定している賢いやり方だとは思います。事実私達はあなた方の作った改造銃を手にしましたが、それすらその魔法は弾き返せていますしね」

 そう言いながら防御魔法を展開しつつ、もう片方の手で違う魔法を作り出す。それは極めて単純な火の玉であり、普通は竜の力で強化された敵の防御には無力である筈だ。事実敵兵も顔色一つ変えない。

 だがラグナは、ユラフタス(竜と共に生きる民族)なのだ。


「ですが、運の悪い事に相手は私なんですよ」

 その言葉と同時に放たれた火の玉はそこそこの勢いを持って敵の作り出す防御魔法に向かって飛び、接触した瞬間魔法はあっさりと崩れた。

「え、は?おい、どういう事だ!」

 ラグナの言葉の意味が分かっていたのはペイルだけだ。他は敵味方関係無く、意味不明といった表情をしていた。こんな小娘に何ができるのかと。

 だが敵の兵士達の作る魔法が崩れた瞬間、皆の表情は面白いぐらい一致した。オトポールの兵士達は強力な改造銃でも破れなかった防御をあっさり崩した事に驚き、プラセンの兵士達は絶対破られないという自信のあった魔法がこうも簡単に破壊された事に驚いていた。


「もう一度だ!もう一度展開しろ!」

 ゲルナの脇にいた高官が叫ぶと、敵兵達は慌ててもう一度魔法を展開する。だがラグナがもう一度同じ魔法を繰り出すと、再び防御魔法は破られてしまう。

「観念しろゲルナ、貴様らに勝ち目は無い。大人しく投降して兵を引かせろ」

「投降しろだと!?ふざけるな!!誰が貴様達になど…」

 ゲルナが喚くがそれに構わず、オトポールが高官達を押さえに入った。守っていた兵も魔法が聞かないのであればその辺の兵士と同じ、自らはラグナの魔法に守ってもらいつつ足を狙い撃ちして動きを封じた上で次々と拘束していく。


「もう終わりだぞゲルナよ、貴様達の腐りきった国は一からやり直すんだ」

 オールムがわざとらしく床に座らされたゲルナに、まるで子供に言い聞かせるかのごとく語り掛ける。ゲルナは悔しげに顔を歪め違う方向を向こうとしたが、オトポールの他の兵士がそれを許さない。

「無意味な抵抗はよせ、労働者党は負けたんだ。とは言え、まだ最後の重要人物が残っている筈だがな」

 そう言ってわざとらしく辺りを見回す。あくまでここは大統領室だ、主はどこだ?

「何の話だ」

「しらばっくれるな。大統領、ユールス・カダルはどこにいるかと聞いているんだ」

「呼び捨てなど不敬な!この国の大統領であらせられる人だぞ!」

「そうかそうか、俺達は微塵も有難いと思ったことは無いがな。で、ユールス()はどこだ」

「ふん、ユールス様ならばとっくに安全な場所に…」

 オールムとゲルナが舌戦を繰り広げている所に、おもむろにペイルが割り込んだ。


「安全な場所?そうだな、書類上の人物に元より危険もクソも無いか」

「…何が言いたい」

 ペイルの言葉に、ゲルナをはじめとした居並ぶ高官の顔つきが変わった。

「そうなんだろう?大統領ユールスとは架空の人物。俺が思うには、最早信仰にも近い労働者党という名の一つの宗教の教祖的な立場の存在でもあり、有事の際に皆の恨みを押し付け責任や疑念を負わせる立場でもあるわけだ。そうしておけば万が一があってもユールスが責任を取ったという体にしておけば、自分達が身を切る必要は無い訳だ。そうだろう?」

 その滔々とした言葉にゲルナ達もオールム達も唖然としていた。リンゼンにその事実を教えてもらった時には既に大統領府に入っていたので、オールムにとっても初耳である。


「…貴様が何を言ってるかわからんが、ユールス様は安全な場所にいる」

「ほう。だがこの状況でユールスが生きていたとして何になる。貴様達はもう虜囚の身、素直に兵を引いてもらおう。大統領がいてもいなくても、何が出来る?」

 静寂が場を覆った。党首が捕縛された以上は誰が見ても労働者党の負けであり、階下から増援が来る気配も無い。

 だが頑なに負けを認めないゲルナの横で、1人の高官がくっくっと笑い声を漏らし始めた。


「何がおかしい」

 訝しげな顔をしてペイルが聞くと、その高官はより大きな声を上げて笑った。

「何がおかしいだって?そっちこそおかしいとは思わないのか、もしお前達の兵が平民街で暴れまわっているのならもう少し貴族街に応援が来てもいい筈だろ」

「…平民街では善戦していると聞くが」

 それはペイルも気にかかっていた事だった。最初の指示では平民街をある程度制圧出来たら、余裕の出来た兵士から貴族街の制圧に入る予定だったのだ。だがリルケー達数人の他に増援は無く、建物内も強引に突破して来た為に恐らく下の階は再び敵で制圧されている筈だ。見方を変えれば自分達は追い詰められている事にもなる。


「善戦?そうだな、確かに未だに平民街を制圧したという報せはまだ受けていない。だが時間の問題だろうな、お前の持っているその"竜の力"を用いた改造銃。それを持たせた兵士達を平民街の制圧に当たらせているのだからな」

 やはりそうか、とペイルは思うと同時に形勢の不利を悟った。オールムも同じ事を考えたようで、顔には焦燥が見て取れる。この銃の強力さは全員の知るところでもあるし、このままでは平民街は制圧され自分達が完全に包囲されてしまう。そうなっては高官を人質に脱出する事すら叶わない。

「悔しいか?悔しいだろう。ここまで来て私達を捕まえておきながら、最後に逆転されるのだからな!」

 スィミルと呼ばれた男が勝ち誇ったようにそう言うと、俄かに捕らわれていた高官達も口々に反抗し始めた。

「でかしたぞスィミル!貴様は…中佐だったな。二階級、いや三階級特進の働きだ!」

 ゲルナも調子よくそんな事を宣っているが、オールム達は当然そんな余裕は無い。何とかしてこの状況を打開しなければならない。


 窓の外を見てみれば、確かに前に見た時よりも平民街からの黒煙が濃くなっている。遠めに見ても明らかに、破壊と殺戮が激化している事を物語っていた。

「アルツ…」

 ラグナがぼそっと呟く、その手には首から下げているペンダントが握られていた。

「ラグナ、いいのか」

 ペイルはその行為が意味する事を知っている。だがそれは自らの将来を茨の道にしかねない行為だという事も理解していた。

「はい。ノーファン様には怒られるかもしれませんが…」

「…申し訳ない、俺が不甲斐ないばかりに」

「いえ、いいんです。自分で決めた事です」

 ラグナは意を決したようにペンダントを握りなおす。そこから淡い光が漏れてきて、捕縛されていた敵兵達の顔色が変わった。


「何をコソコソ話してるんだ!投降するのは貴様達の方だぞ!」

 ゲルナが最早勝者はこちらだとばかりに叫ぶ。だがすぐに兵士の1人がその声を遮った。

「ゲルナ様、魔法です!しかもこれは…」

「これは何だ!魔法攻撃ぐらい何とかするのが貴様らの仕事だろ!」

「これは、竜の力を用いた魔法です…」


「オールムさん。先程、私がする事に対して詮索しないと約束しましたよね」

「あ、あぁ。確かにしたが…」

 突然ラグナに言われて、オールムはうろたえながらも頷く。

「では、これからする事に関しても詮索しないでください。他の皆さんも、お願いします」

 オトポールの兵士達は何が何だか分からないといった顔をしながらも、それでも頷いた。勿論リルケーもだ。これまで幾度となく窮地を救ってくれたペイるとラグナだからこそ、兵士達は何も見ない事を決めたのだ。


 ややあって、ラグナは部屋の窓を開けた。外の風が室内に漂っていた重苦しい空気を吹き流していく。

 そうして空のある一点を見上げると、おもむろに窓枠に足を掛ける。

「おい、ラグナちゃん。何を…」

「ラグナちゃん!」

 オールムやリルケーが慌てて止めようとしたが、ペイルが制止した。

「ラグナに任せておけ。その代わり、俺からもお願いするがこれから起こる事は忘れてくれよ」

「お、おう…」

 見ようによっては飛び降りようとしているラグナを、既に勝った気でいるゲルナは嗤う。

「勝ち目が無くなったから投身自殺か?そもそもこんな場所に女子供がいる方が…」


 ピィーーという甲高く鋭い音が、ゲルナの声を遮った。

 鳥の声のような音だったが、誰も聞いた事の無いような不思議な音であった。

「なんだ?」

 ゲルナがラグナ越しに窓の外を見ようとした瞬間、ラグナは窓枠を蹴って空中へと身を躍らせる。

「あいつ、本当に飛び降りた!やはり負け犬は…」

 嘲笑の声は最後まで続かなかった。その後に見えた物に誰もが言葉を失ったからだ。


「あれは…」

「おいペイル、あれって!」

「"竜"と呼ばれる、架空とされる生き物を知っているだろう」

 ()()は青い身体をくねらせて、一直線にこちらに向かってくる。傾き始めた陽に反射する美しい姿は、鳥と呼ぶにはあまりに神々しかった。

「あれが竜だ」

 ペイルがそう言うとそれっきり誰も言葉を発さず、先程までその場にいた青い目の少女が何か口を開いたのを最後にゲルナ達高官や敵の兵士達は全員深い眠りへと強制的に引き込まれていった。

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