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Mono mondon regas ~金が世界を支配する~  作者: あまつか飛燕
《ロレンス編》自由への闘争
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治安維持行動

「お母さん…!お母さん!」

 半分崩れ落ちた建物の中に沢山の負傷者とその家族や知り合いがいた。医者や看護師の指示が飛ぶ中で、1人の子供の悲痛な叫びが響き渡っている。

 その建物は病院であった。騒乱の前から重い軽いに関わらず何かしらの怪我や病気を抱えた人が入院していたが、今は軍や守備隊に攻撃されたり崩れた建物から救出された負傷者でさながら野戦病院の様相を呈していた。

 医薬品は貴重品として党により統制され、他国からの輸入もままならないのがヤンビャンの病院の現状だ。当然病院とて医薬品の備蓄は少なく、その上大量に怪我人が運び込まれてきた為に助かる見込みの無い者が放っておかれる事態まで発生している程だ。


「瓦礫の下からだと!?またか、恐らく助からん!放っておけ!」

「しかし先生!」

「気持ちは分かる!だがもう薬が底を尽きそうなんだ!」

 担ぎ込まれた怪我人を見て他の人を診ていた医者が叫ぶ。医者としてはあるまじき発言ではあるが、瓦礫の下から救出された怪我人はいくら手当てをしてもその後急激に悪化し死に至る事があったのだ。

 当然医者としては運ばれた患者を全員助けたいのはやまやまだが、限られた医薬品を惜しみなく使っていては助けられる命も助けられなくなってしまう。どうしても命の選別をする必要があった。


 医者が膝の関節が逆方向に曲がっている怪我人にせめてもの処置で椹木をしようとした瞬間、耳をつんざく爆発音が聞こえた。病院の至近で炸裂した砲弾は崩れかけていた建物にとどめを刺し、医者も看護師も怪我人も全てを呑み込んで一つの瓦礫の山となっていく。

 後に残った廃墟に動く姿は殆ど無く、その横を大砲を牽いたプラセン軍が通り過ぎた。


 *


 平民街で戦っていたオトポールや平民達に銃弾が降り注いだのは、ペイル達が大統領府の前で睨み合いを始めて少し経った頃だった。

「落ち着け!身を隠して遊撃戦を仕掛けろ!」

「奴らだって人間だ!弾を食らわせりゃ良いだけだ!」

 怒号が飛ぶ中、手に手に武器を持ったオトポールや平民達が、街の外からやって来たプラセン軍の兵士に次々と倒されていく。


 これこそがゲルナが残るプラセン軍に命じた暴徒の鎮圧、スィミルの言う治安維持である。もっともそれは軍による一方的な殺戮行為であり、秩序ある行動とは決して言い難いものであった。

「民間人は逃げろ!ここにいても党に殺されるぞ!」

 オトポールの誰かが叫んだその言葉が、未だに家に籠り成り行きを見守っていた平民達の最後の箍を外した。皆が手に持てるだけの荷物を持って、一目散にヤンビャンの外へと繋がる門へと逃げていく。だが明らかに戦闘の意志の無いそのような民間人でさえ、軍は見境無く発砲していった。


「いよいよ敵さんも追い詰められてるってわけだ」

 平民街でヤンビャン守備隊を相手に奮戦していたカランは、もはや蛮行とも言えるプラセン軍を見てそう呟いた。

「これは正義の戦いである!これは正義の戦いである!」

 軍の人間はそう言いながら、ただひたすら銃を乱射し迫撃砲を放ち人と街を殺している。

「自らの庇護してきた街の民間人までも殺しておいて何が正義だ…クソったれ!」

 物陰から飛び出したカランが投げた爆弾が、敵の足元で炸裂する。衝撃でプラセン軍の何人かの兵がその場から動かなくなったが、しかし後から後から敵は湧いてくる。


「キリが無い…!大統領府が落ちりゃ軍の動きも止まるんだろうが…」

 敏感に自分を追う敵を躱しつつ、カランは貴族街の方向を見やった。最初の予定では平民街の敵がある程度片付いた時点で、カラン隊は大統領府攻略の手助けに行く算段だったのだ。しかしこれでは助けに行くどころか、自分達が下手すれば全滅しかねない。

「各自散開して攻撃は出来る時だけにしろ!逸るなよ、確実に仕留めて絶対に持ちこたえろ!」

 力任せに叫んだ檄がどれ程の味方に届いたのかは分からないが、それでも敵は少しずつ斃れていく。カラン自身も今しがた動かなくなった敵兵の銃を拾い上げ、すぐさま敵の死角へと身を隠した。


「なんだこりゃ、変わった銃だな」

「軍の新兵器でしょうか」

 遊撃戦とはいえ何人かの小隊を組んで行動している。カランと同じ隊にいた味方の兵士も、自らの銃とカランの鹵獲した銃を見比べて首を傾げた。普通の突撃銃に何か見慣れない物が付属しており、機動性に重きを置いている筈の銃なのに持ち運び辛いことこの上ない。


「しかし敵の援軍ですが、攻撃力が尋常ではない気がするのですが」

 同行する部下の一人がそう言い、先程の敵の攻撃で破壊された街に目をやった。

「全くだ。恐らくだが、あの嬢ちゃん(ラグナ)の言う"竜の力"を使った武器なのかもしれんな」

「竜ですか?あの伝説の生き物とか言われる」

「それが伝説でもないらしい。事実、あの嬢ちゃんは竜を操れるんだとさ」

「へぇ…ちょっと信じられない話ですね」

「安心しろ、俺も信じてない。だがペイルと嬢ちゃんの実力は本物だ、少なくともあの2人が居なければ俺達は未だにヤンビャンにこそこそ侵入してはビラを撒いていた筈だ」

 カランと部下が呑気にそんな会話を交わしていると、急に身を隠していた陰から敵兵が現れるのを視界の端に捕らえた。


「敵だ!」

 味方が素早く銃を構え、敵に向けて発砲する。一瞬遅れてカランも同じように、その奇妙な銃で敵に向けて引き金を引いた。

 ろくに狙いを定めていなかったその弾は敵に当たる事無く、近くの建物の壁に着弾した。だがその刹那、壁がはじけ飛び飛散した破片が敵兵を傷付けた。

「この変な付属物のせいか!?」

 他の味方がしっかり手負いの敵兵を仕留めた後に、カランは鹵獲したその銃を検分した。だがその妙な付属物以外は何もわからず、すぐに調べる事を諦めた。だが一つだけはっきりした事がある。


「こんな無茶苦茶な武器を持った連中だ、まともに戦おうとせずに逃げに回った方がいい」

「全くです。せめて民間人だけでも避難させた方がよろしいのでは」

「その通りだ。危険だが伝令を頼めるか」

 カランがそう聞くと、部下は不敵に笑った。

「ここは戦場ですよ?危険でない場所なんてありませんよ」

「ふっ、それもそうだ。だがお前は決死隊ではない、無茶はするなよ」

 その言葉に部下は再び顔を引き締めて頷くと、砲火の飛び交う戦場へと駆け出して行った。


「俺達も動くぞ!とにかく敵を平民街に引き付けておくんだ。オールム達が大統領府を落とすまで、何としてでも耐えろ!」

 カランの裂帛に部下や近くの小隊から雄叫びが上がる。勢いのままに自らに迫った敵兵を鹵獲した銃を乱射し薙ぎ払うと素早くその敵の奇妙な銃を鹵獲し味方に放る。同時に激しい爆発音と共に今隠れていた建物が吹き飛んだ。

「滅茶苦茶だ!これも"竜の力"ってやつか!?」

「知るか!とにかくここから離れろ!」


 オトポール達は恐怖に押しつぶされそうになるギリギリのところで正気と秩序を保ちながら、なお果敢にプラセン軍に攻撃を仕掛けていた。いつ終わるとも知れない戦いの中で恐怖を忘れ疲れすら忘れ、ただ圧政からの解放を願って。


 *


「で、どうかね。軍の様子は」

「は、やはり正規兵に新型の武器を持たせたのもありまして、兵士の士気も上々。敵は敗走を続けていると前線から報告が入っております」

「そうかそうか」

 部下からの報告にゲルナは満足そうに頷いた。最後の砦として温存しておいた軍の正規兵に、試作段階とはいえこれまでの武器から威力は保証されている竜の力を用いた新型兵器を持たせたのだ。これで勝てない方がどうかしている。

「平民街の敵共は軍を持って制圧、ある程度見切りを付けたら貴族街に侵入したオトポール共を駆逐せよ。いいな」

「は、ゲルナ様の指示通りそのように関係各所に伝えております」

 ゲルナは再び満足そうに頷いた。


「しかし愚かなものです。この偉大なる労働者党に盾突こうなど、勝ち目などある筈も無かろうに」

 スィミルはすっかり勝ったような気分で、どっかりと椅子に座っている。

「全くだな。しかしこの中枢まで攻め込まれているのは、参謀長たる貴様にも責任があるぞ」

「申し訳ございません。しかし兵器局の作った新しい小銃や砲をもってすれば制圧など赤子の手を捻るより簡単な事、制圧部隊には"武器やそれに近しい物を持っている奴らは全員殺せ"と命じております。此度の騒乱では何やらオトポールに感化された平民共も加担している様子。さすれば、この命令により今後の反乱分子を事前に始末できる事にもなります」

 ゲルナの忠告に対してもさも深慮した上での決断だという事を匂わせれば、案の定それ以上は何も言わなかった。苦し紛れの良い訳とも聞こえるスィミルの弁だが、元より上司の顔色を窺い時には暴力と金をちらつかせる事でしか出世の階段を上がってこれなかった労働者党上層部に、それを見分けられるほど賢い者などそうそういない。


「こうなれば時間の問題でしょう。オトポールとて、所詮武器は軍には到底及ぶものではありません。今がロム・ネゴイム(午後1時)ですから、遅くとも明日には制圧できるかと思われます」

 スィミルの言葉にゲルナは満足し、高価な椅子に体を傾ける。その時、会議室に兵士が1人飛び込んできた。

「ほ、報告します!」

「何事だ、ゲルナ様の前であるぞ」

 息を切らせて走ってきた兵士も、そう言われては居住まいを整え敬礼した。

「失礼いたしました!リンゼン様が逃亡した模様です!」

「何だと!?どういう事だ」

 一気に焦りを顔に張り付かせたスィミルに、兵士はリンゼンが地下で幹部を殺し逃げた詳しい事を報告した。


「すぐに追いかけろ!すぐにだ!奴は党の賓客としていたが現時点で解除、発砲も許可する。何としてでも捕らえよ!」

「まぁ落ち着けスィミル参謀長、この建物は外からは入りづらいが有事の際には中からも出づらい。そうだろう?」

 思わず席を立ったスィミルは、あぁと納得したように再び椅子に座る。

 大統領府は労働者党による一党独裁の中枢であり、当然外敵が侵入しないように堅牢な造りとなっている。だが有事の際には、逆に建物は中からも逃げづらいような構造となっていた。


 と言うのも労働者党は、大統領府で働くような地位にまで上り詰めるとある誓約書を書かされる。中央で働くという事は数多くの秘密を知るという事、その中には治世の為に生まれ故郷を地図上から消せとか、あるいは大虐殺の命令などもあるかもしれない。

 だがどんなに非道であっても全ては党の利益の為、党の利益は即ちヤンビャンに住む民たちの利益。であるならば、どんな不都合な事であっても知りえた情報は絶対に外部に漏らさない。と言うのが労働者党の絶対の掟だった。

 だが万が一労働者党内部で謀反の兆候有りと認められた時に、その首謀者や賛同者は必ず大統領府の中にいる。謀反を起こさせるような情報に触れられるのは大統領府の中だけと、高度に情報を制限しているからだ。

 ならば時には大統領府から人を外に出さないようにする必要も生じる。なんら疚しい気持ちを持っていない党員にとっては大統領府に軟禁されたところで不自由は無いし、軟禁状態を不自由に感じるという事は党への忠誠が足りないという事。つまり謀反人という訳だ。


「君、リンゼンはまだこの建物にいるのだろう?」

 ゲルナが報告に来た兵士に訊くと、兵士は緊張で声を上ずらせながら「その通りでございます」とだけ答えた。

「ならば宜しい。建物の構造に詳しくないリンゼンが簡単に外に出られる筈が無いのだ。しらみつぶしに探して、見つけ次第拘束しろ。そしてどんな手を使っても構わない、竜を使わせるのだ。いいな」

 ゲルナの命令に兵士は敬礼を一つしてすぐに会議室を飛び出した。

「民衆も馬鹿ですが、リンゼンとか言う奴にもほとほと呆れますな」

「所詮大衆など、縋るものが無ければ生きていけない愚かな連中だ。あのリンゼンとか言うのも一匹狼でありたいような雰囲気を出してはいたが、所詮はあいつも民衆の中でしか生きていけないのだ。捕まえ次第、すぐにでも教化所に収容するべきだな」

「その通りです。あの生意気な男にも、我が党の素晴らしさを教え込むべきでしょう」


 *


 ゲルナとスィミルが高笑いしているその瞬間にも、リンゼンは建物の中を彷徨っていた。地下倉庫から出たはいいものの、リンゼンが逃亡を企てているという報せを受けた大統領府の監視室が速やかに表玄関を閉鎖したのだ。

 リンゼン自身は大統領府にはあまり来たことが無く、当然内部構造にも明るくない。いくら指輪のお陰で強力な魔法が使えるとはいえ、沢山の守備兵に囲まれてしまえば逃げるのが精一杯だった。


「投降しろ!今竜を呼べば貴様の罪は無かったことにしてやろう!」

「そりゃ有難い事だ、だが願い下げだ…!」

 手から火を生み出し、それを大波の様に展開させて追って来る兵士にぶつける。本来はある程度時間をかけて発動するような魔法も、指輪のお陰で一瞬だ。

 しかし地上階からの脱出が叶わない今、リンゼンは建物を上へ上へ逃げるしか無かった。追う兵士はどんどん追い詰めていて勝ったつもりでいたが、リンゼンとて無策で上に逃げていた訳では無い。水魔法を応用すれば高所から飛び降りた際に水を緩衝材とすることで安全に下りることも出来る。無論魔法を徹底的に排斥した労働者党の兵士がその事を知る由も無く、追う側はもはや肉食動物が獲物を狩るかの如く追い回していた。


 ()()を楽しむ兵士達に対して、リンゼンもまた悪戯を思いついていた。

 思えばアイヒに接触し労働者党に拾われて以来、何かと"ユールス様"という名前を聞く。本名をユールス・カダルと言いこのプラセン共和国の大統領なのらしいのだが、一度もその姿を見たことは無い。アイヒもあった事は無いらしく、大統領府の最上階にユールスの部屋があるという事と、会えるのは党首であるゲルナやその他の重要な職に就くものだけらしいという事を教えてもらっただけだ。

 ならば折角なので、この国から逃げ出す前にその顔を一度は拝んでおこうという訳だ。

 そういう訳なのでリンゼンは全力で上へ上へと走っていった。途中から階段にはいちいち壁が設置されていたが、それらを全て魔法で吹き飛ばす。最初は遊び半分と言った雰囲気だった追ってくる兵士も、最初の壁を吹き飛ばした時点で急に本気になったのが分かった。余程部外者に見せたくない者がこの上にあるのだろう。


 当然行く手を阻むように兵士が出てきたりもしたが、全員リンゼンの手にかかればなんて事は無い。魔法で火を生み出し攻撃すれば、直接無力化できなくても向こうから勝手に引いてくれる。根源的に火を怖がるのは獣も人も変わらない。

 急に階段の壁が重厚なものに変わった。見ればご丁寧に「大統領室 不要な者立ち入るべからず」と書かれている。

「リンゼン!諦めて投降しろ!その壁は特別製だ、いくら貴様の魔法が強力でもその壁は破れんぞ!」

 兵士の喚き声が聞こえてきた。要するに追い詰めた気でいるらしいと、リンゼンは一人笑った。


 追って来る兵士を適当に足止めするのはやめ、一気に大量の水を魔法により生み出しそれを階段下の兵士に向けて放出した。発生した小規模の津波は兵士達の足を掬うには十分であり、追って来た兵士達は声にならない声を上げて階下へと流れ去っていく。

 その隙にリンゼンは高度な水魔法を展開した。水を極限まで細い筋として高速で打ち出すものだ。暗隊が竜狩りの時に使った魔法と同じ性質のものだが、当然それを知る由も無い。

 切れ味のいい刃が無くとも、この魔法があれば大抵のものは切る事が出来る。目の前の分厚い壁も同じだ。あっという間に人一人が通れるぐらいの穴を開けると、リンゼンは悠々と大統領室へと足を踏み入れた。


 中は無人だった。単に大統領室に部屋の主が不在だという訳ではない、()()()()()()()()()()()

 念のため入口の壁に開けた壁を嵌め込み、火魔法で淵を溶かしてくっつける。これだけで並みの事では再び穴は開かない。

 部屋の中は書斎の様になっていた。一面に並ぶ本の表題を見てみればどれもこれもが歴史書のよう見えたが、リンゼンはその中にある本を見つけた。

「”労働者党支配体制の根幹について”か」

 魔法の使い方や応用については人並み以上に勉強してきたリンゼンだったが、社会的な知識はとんと縁が無い。それだけにここまで国民を抑圧しておきながら、これまで大規模な反乱を許さなかったこの国の在り方に興味があったのだ。


 最初の方から本を流し読みしていると、衝撃的な文言を見つけた。その記述が本当であればこのプラセン共和国の在り方を根幹から揺るがす事になる。これまで国民が信奉し崇拝し、そして畏怖し恐怖していたものは何だったのか。

 こんな面白い情報を知ってしまったからには、ますますこの国から脱出しなければならない。後からいくらでも脅しをかけられるほどの重大情報である事は、その方面の知識に疎いリンゼンでもわかる事だった。

 窓の外を見れば丁度大統領府の正門が見える。ここから降りてしまえば追っては来られまい。


 だが価値を確信したその時、大統領府の扉が勢い良く開かれた。

「そこまでだリンゼン!もう逃げ場は無いぞ!」

 ずぶ濡れの兵士達に交じって幾つか見知った高官の顔も見える。よくもまぁ執念深いものだとリンゼンは思った。

「お、お前!その持っている本を読んだのか!?」

 高官の1人が青い顔をして叫ぶ。そうまで言わせるという事は、やはりこの本は党にとっては最重要の秘密らしい。

「ああ、読ませてもらった。面白い事が書いてあるにはこれには」

「面白い事などではない!その本を読んだだけで貴様は死に値する!行け!今すぐあいつを捕らえよ!」

 兵士が銃を構えた瞬間、リンゼンは即座に防御魔法を展開する。数十名の兵士からの銃撃であろうと、指輪の力で強化された防御魔法の前では全く意味を成さない。


 その隙にリンゼンは窓を開け、大量の水を生成する魔法を並列起動した。この魔法とて本来は並列で行えるものでは無いが、これも指輪のお陰である。おもむろに生成した水を、窓から地上に見える大統領府の出入り口の門に向かって一気に放った。その水に向かってリンゼンは身を投げ出す為に、窓の縁に足を掛ける。制御された水の流れに乗って一気に脱出しようという訳だ。


 だがその瞬間異変が起きた。防御魔法が音を立てて破れたのだ。魔法を組みなおすだけならば一瞬で出来る、防御魔法が破れたとしてもその認知が早ければ攻撃を受けることは無い。そしてリンゼンはコルナーであるが故に、その認知は極めて早かった。

 しかし兵士の放った弾は、的確にリンゼンの身体を撃ち抜いた。魔法の展開に失敗したのではなく、そもそも展開する事が出来なかったのだ。


 指輪は確かに魔法を強力にする。だがその致命的な欠点として、魔力切れを起こすまで無尽蔵に身体の魔力を使い果たすのだ。魔力切れを起こしたリンゼンに銃弾を避ける術は無く、無防備に幾つもの穴をその身体に空けながら、それでも最後に生み出した水の流れに乗って一気に地上へ滑り落ちていった。

 大量の水は狙い通り大統領府の門に向かって猛進し、門前の兵をことごとく薙ぎ払ってリンゼンの身体ごと貴族街へと押し寄せた。

 そしてその先には、オールム達の率いるオトポールの陣地があった。

瓦礫の下から助け出された人が亡くなるのは、身体の一部が長時間挟まれ圧迫されその後解放される事で、組織の一部が壊死し毒素が体内に漏出する事で死亡するクラッシュ症候群(挫滅症候群)と呼ばれるものです。

日本では阪神淡路大震災の際に注目され、その後も災害や事故などで散見されています。


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