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Mono mondon regas ~金が世界を支配する~  作者: あまつか飛燕
《ロレンス編》決戦に向けて
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竜狩り〈後編〉

「信号弾、赤2、白1、視認した。村へ送れ」

 要請を受けてシナークのイグナス軍駐屯地を飛び立ち、白露山脈上空を哨戒飛行していたイグナス軍第四聯隊の飛行機は信号弾を視認するや、すぐにユラフタスの村の上空へと飛んだ。村には外界からの侵入を防ぐ為に結界が張ってあるが、竜に乗ったコルナー達の為に上空には及んでいない。空からなら村の場所も分かるというわけだ。

「信号筒の準備はいいか」

「準備良し」

「よし、投下!」

 低空で村の上空を通過した飛行機から信号筒が投下される。信号弾の色と数、そして撃たれた場所のおおよその場所を示した物だ。


 ユラフタスのコルナーの1人、ローレルはその信号筒を今か今かと待ちわびていた。隣にはローレルの竜が控えており、すぐに飛び出せる対応を整えている。

「ローレル、来たぞ!赤が2回、白が1回。北の方角だ!」

「すると…エイルスか。よりによって幼子連れの所に…わかった、すぐ行く!」

 そう言ってローレルは自らの竜に飛び乗り全力で飛翔する。


 ラグナからの鳩便が来た時点で、ユラフタスは竜を白露山脈の麓の森からイグナスの北に聳える北方ワクリオン山脈の麓の森へと避難させていた。イグナスに限るにしろ竜の存在が市井に知れ渡った今、夜闇に乗じてひっそりと移動する必要も無く白昼堂々避難させる事が出来たのだが、老竜だったり幼子を連れた親などはすぐに避難させる事が出来なかったのだ。

 そこでユラフタスは盟友に数人の護衛を付ける事としたのだが、それを聞いたイグナス軍側から信号弾の色と数で個体を識別出来る用にしてはどうかという打診があった。

 竜は同じ竜のいる場所を魔力を通して感知できるとはい言え、魔力だけで個体の識別は出来ない。それが問題だったのだが軍がそれを解決したというわけだ。


 ローレルは竜を狩ると、まずは上空で待機していた攻撃機隊と合流した。そして信号弾のあった北へと向かう。

 竜の力を持ってすれば敵の殲滅は容易だが、万が一誰か1人でも取りこぼすと竜の攻撃能力がプラセン側に漏れかねない。可能な限り攻撃はイグナス軍が行うべきだとユラフタスは主張したが、かと言って飛行機から地上の敵兵を見つけるのは困難だ。

 そういう訳でユラフタスは目標の発見に徹し、攻撃はイグナス軍が行う事となった。これもユラフタスとイグナスとの和解、そして協力の賜物であった。


「見つけた…!」

 ローレルは自らの竜を通して目標を見つけそう呟くと、自分の魔法で火の球を作り目標方向へと投げた。あくまで竜の力はこんな小さな魔法一つでも使わない。

「合図を確認、行くぞ!」

 火の玉が飛んで行く方向に向かって、空軍の飛行機が猛進する。やがて飛行機からも木々の間に竜の巨躯と複数の人影が見えてきた。竜の周りを数名が取り囲み、魔法で攻撃し続けている。


「機銃手、準備はいいか!」

「準備よし!」

 返事と同時に飛行機は竜と敵兵の上空を旋回する。そしてその機銃が火を吹いた。飛行機からも、咄嗟の事に慌てて木の密度の濃い所に身を隠す敵兵の姿が見える。

「旋回してもう一度だ。訳の分からん隣国の兵にこの国を自由に歩かせてたまるか!」

 飛行性能の限界で機体を旋回させると、もう一度竜のいる方向に向けて機銃掃射を行う。


「しかし、これだけ撃ってあの竜は大丈夫なのか」

 機銃手の心配はもっともで、いくら魔法戦闘も軍の一部として組み込まれその能力について人並みには程度に知っているとは言え、機銃掃射に魔法で耐えられるかどうかは彼らにとってまるで未知数なのだ。

 だが再び上昇した際にその心配は杞憂だと知る。竜もその足下にいる人も何事も無いかのようにそこにいたからだ。

「大丈夫そうだ。敵は見えるか」

「いえ、流石に敵さん。上手く身を隠したようです。ですがこれだけ暴れれば陸から攻め入れるでしょう」


 その言葉を裏付けるように、森の中を捜索していた隊は、一斉にその銃声の方向へと向かっていた。敵を捜索するイグナス軍の兵士に与えられた使命は敵を発見し攻撃する事と、竜を守る事。そして上空支援はユラフタスによる信号弾による合図が発された時に行うと説明されていた。

 つまり機銃掃射の音がしたとなれば、明らかに竜の身に何か差し迫った事態が発生しているという事。そしてそこに攻撃すべき敵がいるという証左でもあるという事だ。


 *


 オリャスク率いる暗隊は、急に空に現れた攻撃機に完全に不意を突かれる形となった。最初の攻撃で10人のうち3人がやられ、うち1人はそれきり反応が無い。恐らく即死だ。

 だがオリャスクに焦りは無い。

「隊長、如何されますか。7名で追いますか」

 部下の打診を吟味する。上空からの攻撃から身を隠している隙に、竜との距離を離されてしまった。とは言えまだ追撃は可能ではあるが、同じように上空の敵に知られれば先程の二の舞だ。

 ならば敵が油断している時に必殺の攻撃を加え、まず信号弾を撃てなくする。それ以外に竜に同行する敵を排除する方法は無い。間隙を打つのは暗隊の得意とする所だ。


「追うぞ、まずはあの人間の方からだ。だが暫くは泳がせる」

 隊長の言葉を部下達は瞬時に理解する、負傷した部下もだ。

 少しの間は何事も無く進ませ、油断した所を急襲する。まず竜に同行する人を無力化し、竜の方はその後にじっくり相手をすれば良い。そしてその為に足手まといになる負傷した部下は…


「成功を確信しております」

 そう言って膝から先を機銃掃射により吹き飛ばされた部下は、懐から薬を取り出し躊躇いも無く飲んだ。もう1人も同じように薬を飲む。

 見届けたオリャスク達7人が出発して間もなく、2人はその場で絶命した。敵に捕まり捕虜になるぐらいであれば、自ら栄誉ある死を選べという事だ。


 3人減った所で、通常の捜索隊と会敵したぐらいでは暗隊にとっては全く問題無い。竜を追う内に2つのイグナス軍の捜索隊を無力化し、それでもなお音も立てずに追走する。だがこの時点で暗隊の誰もが、進む方向が変わっている事に気付いていなかった。


 ユラフタスは竜を逃がすのに当たって、万が一強力な敵と接敵した場合の対応策も整えていた。

 ユラフタスとは森に生き森と死ぬ民、和解する前は万が一イグナス軍が攻めて来た場合の事を考えて武器や罠もかなりの数を作っていたのだ。当然それらは無用の物となり仕掛けた罠も撤去されていたのだが、今回はそれを再び活用する事とした。


 森のいくつかの場所に罠を大量に仕掛けた所を用意し、そこに敵を誘導する。森を移動するのに素人はまず方角から見失うのを利用し、巧みに自らの罠へ敵を誘導していく。

 ユラフタスであれば徐々に登っていく事に気付くのだが、まず山の麓であるという事が頭にあった暗隊には多少の起伏は当たり前の事として徐々に誘導されている事など気付きもしない。


 先頭を歩いていたある隊員が、僅かに踏み心地の硬い木の枝を踏んだのが暗隊にとっての災難の始まりだった。

「ん?」

 違和感を感じた直後、背中に強い衝撃を感じる。明らかに自然ではないその現象に声を発しようとするが、空気が変な所から漏れているのか言葉にならない。

 下を見れば自らの身体を穿つ、先端を尖らせた木の棒が一つ。そしてそれが最期に見た現世の姿となった。


「敵襲だ!」

 オリャスクが小さな声でそう叫ぶと、部下は皆反射的に防御魔法を展開する。だが次の攻撃を待てども何も起こらず、離れて追尾していた竜の姿が一層離れていくだけだ。

「竜の通った場所を歩け、追尾する」

 業を煮やしたオリャスクはそう命じ、自ら先頭を歩いて後を追う。

 罠が仕掛けられている時に、敵の歩いた場所を歩くのは普通ならば正しい選択だ。だがここでは愚策となり得る。


 少し歩いた所で再び先程の尖らせた木の棒が飛んできた。今度はしっかりと防御魔法を展開していたため防げたが、暗隊の全員が進む道の安全が担保されていない事を悟った。

 ユラフタスの作る罠が起動するのは、特定の場所や木の枝を踏んだ時だ。勿論同士討ちを防ぐ為にその起動の為の枝などには印がされているのだが、素人目ではそれが印だと気付く事は無い。

 当然竜を連れているのはユラフタスでそれが分かっている為、敢えて罠を仕掛けた場所に突っ込む事も容易というわけだ。

 だが暗隊としてもここでみすみす敵を逃すわけにはいかない。竜を捕らえるのが与えられた使命、ならばそれに応えるのが軍人というものである。


「うぁっ!?」

 部下の1人が叫び声をあげた。その方を見やればまるで獣を捕まえる罠のごとく、木の上から吊るされた網に部下が捕まっていた。

 だがオリャスクは一瞥しただけで先へと進む。そのぐらい自分で何とかしろという事だ。

 罠に引っかかった部下もそれを承知で腰から小刀を抜くと、網に向けて振った。


 しかし予想に反して網は破れない。小刀の刃は網の縄の途中で止まってしまう。

「クソッ、鉄線を仕込んでやがる…」

 厄介な敵だと、この頃には暗隊の全員が思っていた。一気に攻め入る時もあれば、こうして嫌がらせのような攻撃を繰り返して来る時もある。しかもその一々が致命傷成りえる物だ。余裕な任務だと思っていた竜の捕獲が未だ成らない事が隊の全員に焦りを生み、捕まった兵も早く本体に追いつこうと自らを守る防御魔法を解除し、鉄線ごと縄を焼き切ろうと火を生み出した。

 その火を極限まで高温まで上げ、縄を焼き切り脱出を図る。網が焼き切れるのと同時に両足を地に向け、飛び降りた際の衝撃に備えた。

 だが最初に地に着いたのは、両足ではなく膝からだった。そして胴体に突き刺さる無数の矢、暗隊は6名に減った。


 オリャスクはここに来て初めて撤退を考え始めた。既に5名を失い、今後も敵がどう出るか全くの不透明。再び空からの攻撃が無いとも限らない。

 そう考え竜の方を見ると、丁度防御魔法を解除したのが遠目に見えた。

「よし…もう一度仕掛けるぞ」

 1人を除いて全員が防御魔法を解き、一斉に攻撃魔法の準備に入る。狙うは竜に同行する2名、そこさえ押さえればもう味方を呼ばれる心配は無く、じっくり竜を相手にできる。そういう心積もりだった。後の1人が突発事態に備えて全員を守れるように防御魔法を展開する。密度が薄くなり強力な攻撃や各方位からの一斉攻撃には耐えられなくなるが、そこまで強い攻撃も予想されないだろう。


「よし…行けっ」

 号令一下、4名の隊員が一斉に攻撃魔法を放つ。ある者は対象に触れると爆発する小さく濃縮した火の玉を、ある者は高度に魔力を織り込み意のままに操れる水を準備した。そして誰が合図するまでもなく一斉に魔法を放つ。

 高度な水魔法で相手の人間と竜の動きを封じ、爆発する火の玉でまず人間を爆殺する。後は身動きの取れない竜をじっくりと弱らせ、そして陣営へと連れ帰ればよい。オリャスクの脳裏には漸く、作戦成功への具体的な道筋が描かれていた。


 だが黙ってその魔法にあたってやる程、ユラフタス達は甘くない。そして攻撃を見逃す程、イグナス軍は甘くない。

 暗隊必殺の一手は竜の直前で炸裂した。竜は接近する強力な魔法を予め察知し、強い防御魔法を暗隊の魔法が到達する直前に展開した。あまりに竜の至近で爆発したので暗隊は作戦が成功したものと一瞬勘違いしたが、すぐにそれが間違いだったと知る事となる。


「全隊撃てぇ!」

 突然竜のいる方とは違う方向から声がした。するとオリャスク達に状況を理解する暇を与えず、四方から銃弾や攻撃魔法が飛んできた。

 機銃掃射の音があった時点で、ユラフタスもイグナス軍も敵に襲われた者達が罠を大量に仕掛けた場所に向かうとわかっていた。すぐに事前協議に基づきイグナス軍の捜索隊にユラフタスが1人ずつ付き徐々に敵の下へ近づいて行き攻撃を敢行したという訳だ。


 こうなってはもはや勝ち目は無い。そう悟ったオリャスクは小さく叫んだ。

「逃げろ!野営に戻るぞ!」

 しかしその声にまともに付いて来れたのは自分の他には1人のみ、一斉に攻撃されてはいくら暗隊の展開する魔法とは言え長くは持たない。すぐに魔法が破られると新たに防御魔法を展開するまでに3名が無力化されたのだ。

 防御魔法を展開しつつ、全力で野営の方向へ戻る。だがここに来て初めて自分達が今、森林の中の何処にいるかわからない事に気付いた。敵を追う内に自ら達の居場所を見失っていた、失策でしかないがそれを省察するのは生きて自軍に戻れたらの話だ。


 そのうちに最後の部下の1人が、先程と同じような縄を用いた罠に捕まった。脱出は容易だが時間がかかる、捨て置くしか無い。自身も様々な罠を踏み片っ端から防御魔法で跳ね返してきたが、それでも全力で山の上の方へ向かっていた。森林を抜けさえすれば、地形などからおおよその居場所がわかるからだ。

 気が付けば敵の追撃は終わっていた。だがオリャスクは必死に走り続ける。もう罠を仕掛けてある場所はとっくの前に抜け出し走る場所はただの森なのだが、それでも防御魔法は展開したままだ。


 やがて森を抜けた。昼に森に入ったがもう夕方だ。他の隊で成果があったかはわからないが、それでも自分は戻らなければならない。その一心で森の淵を歩き続け、夜の帳が降りる頃にようやく自らの()()()()()()()()に着いた。

「襲われたか…」

 そこにあったのは屍が横たわり薄っすら煙の出ている自陣の跡地だった。

 イグナス軍は森の中に入ったプラセン軍の捜索隊を討つのと同時に、大規模な捜索隊なら必ず後方基地がある筈だと踏んでそちらの捜索も行っていた。暗隊が森で竜を追っている最中、イグナス軍は幸運にもプラセン軍の野営陣地を発見し、第四聯隊の戦闘機を以ってこれを攻撃したのだ。

 竜を捕らえに来たプラセン軍が対航空機対策などしている筈も無く、あっという間に野営は壊滅。生き残りが何とか遁走したという訳だ。


「そうなれば歩いて戻る他無いか…」

 オリャスクはそう言って超えてきた山を見上げる。途端に久しく忘れていた感情が身体を支配した。


 ー怖がっている…?この私が?


 プラセンから超えてきた白露山脈は、来た時よりも遥かに大きく見える。ヤンビャンが絶望的に遠く感じた。


 結局野営の跡地から辛うじて使えそうなものだけを持って行き、近くの森の中で露営し夜を明かした。本当はもっと山の奥深くまで入りたかったが、体力的にも限界が近づいていた事もある。

 翌朝になり運良く自軍の捜索隊と落ち合う事が出来た。落ち合った捜索隊も暗くなってきたので野営に戻ったら、その野営が無くなっており止む無く近くで露営したのだと言う。


 数人で歩きながら、オリャスクはその身の内が恥辱で焦がされるようだった。軍の中でも抜きん出た存在としてこれまで持て囃されてきた。暗隊として正式に任命された時点で住居は貴族街、高額の給金と手厚い待遇が保障され、その分正規のプラセン軍との戦いでは負けた事が無い。

 しかし今回はこのザマだ。自分の他の部下は全員死に、辛うじて生き残った自分でさえこうして自軍の他の誰かと一緒でなければ山越えもままならない。


「この恨み…必ず晴らしてやる…」

 オリャスクは小さく呟いたつもりだったが、前にいた味方に聞こえていたのか一瞬ギョッとした表情で振り向いたと思ったら、慌ててすぐに前を向き直した。

 のろのろとした歩みで何とか尾根を抜け、プラセン共和国が広がる平野を見渡せる場所に着いた時、オリャスク達は言葉を失った。

「ヤンビャンが…燃えている…」

「なんてことだ…」

 辛うじて絞り出した呟き通り山から見下ろすヤンビャンは、その白い美しい街並みの一角から煙が上がっていた。皆が呆けてその光景を見ながら、自分達が国を離れた事により生じる恐れのある可能性に思い至り顔を青くした。


「オトポールか…!」

「奴ら、この隙に攻め入るなど卑怯な!」

 考えられる可能性はそれしか無い。この竜捕獲作戦の為に、多くの正規兵が対ナトとの戦争から引き抜かれその穴は徴兵で補っているという。ヤンビャンの街を守る警備隊も一部はこの作戦に参加している事から、街の守りも一時的とはいえ手薄になっていた筈だ。

 当初予定では竜を早くに捕らえすぐに凱旋する予定であったが、その作戦は失敗し党の権威の象徴たるヤンビャンはこうして党に歯向かう愚か者共に焼かれている。オリャスクは山越えの疲労で忘れていた恥辱の念が、再び自分の思考を埋めていくのをはっきりと感じた。


「…行くぞ」

 あくまで感情を殺した声でオリャスクが呟く。一緒に山を越えた兵士達も、その身の内は憤怒に燃えていた。卑怯者で醜悪で狡賢い、人民(労働者党)の敵であるオトポールを斃さねばならぬと。

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