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Mono mondon regas ~金が世界を支配する~  作者: あまつか飛燕
《ロレンス編》ヤンビャン事変
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蜂起と弾圧〈前編〉

 作戦決行の当日、4人の部隊長とブレンデルは最後の作戦会議を行っていた。各々が自分の役割と他の隊の役割を再確認し、現場で不要な混乱をきたさない為のものだ。


「では、今夜のロム・オゥトム(22時)をもって作戦開始とし、全隊は速やかにヤンビャンの残りの秘密隧道へと進出する。ヤンビャンの街中へ侵入したら一兵残らず至る所で騒ぎを起こし、混乱に乗じてオールム隊は客人と共に"矛盾の壁"の突破を目指す。

 "矛盾の壁"の突破に成功したら、平民街で騒ぎを起こしていた隊はそのまま貴族街でも騒ぎを起こし、応戦が予想されるであろう公務官や守備の兵士を排除しつつ中央の大統領府と教化所へと進出する。

 これらの正確な場所については不明だが、これは人海戦術で見つけ出しカルスを始めとして捉えられている同胞を救出する。これで間違いないな?」

 オールムが作戦概要を話すと、他の3人の部隊長は一斉に頷く。ブレンデルは僅かに口角を上げながらそれを聞いていた。

「ブレンデル、何か?」

 辺りを見回し、それを目敏く見つけたオールムが聞いた。

「いや、なんでも無い。それで行こう」


 何とも複雑な面持ちでオールムが頷くと、今度はカランが声を上げた。

「一ついいか、予備兵力も含めて全員をヤンビャンに投入する。と言うことで間違いないな?」

 その質問にはブレンデルが答えた。

「そうだ、全員だ。ヤンビャンに侵入してからも、全員を扇動や"矛盾の壁"突破要員に回せ」

「…病を患っていたり、家族に病気の者がいたりする兵士は?」

 カランの言葉にブレンデルは少し考えた上で答えた。

「重篤な病の者は良い。だが軽度な者は連れて行け、弾薬運びのような軽作業ぐらいなら出来る筈だ」

「わかりました…」


 カランは引き下がったが、弾薬運びが決して軽作業では無い事をカラン始め部隊長は全員理解していた。4人の部隊長は兵士の中で抜きん出て活躍をした者が推薦されて選ばれているが、ブレンデルはどちらかと言えば裏方におり現場を知らない。

 ブレンデルの言葉を良い方に捉えれば、本気で総力戦を仕掛け、労働者党にオトポールの底力を見せつけようとも取れる。しかしペイルの発言から懐疑的になっていた4人の部隊長にとっては、その作戦はまさに死への進軍であり無謀としか取れないものとなっていた。


「この作戦はカルスの奪還だけでは無く、我々オトポールの底力を党に見せつける戦いになる。上手くいけば我らの名の通り、この国に真の平和をもたらす事が出来るかもしれない。…いや、俺は出来ると信じている。各員の努力と奮励を望む」

 ブレンデルの激励の言葉と共に会議は解散となった。後は作戦実行を待つのみである。


 作戦会議を行っていた家から出ると、柔らかな秋の日差しに全身を包まれた。風が吹けば肌寒いような陽気だが、オールムはこの気候は嫌いではなかった。

 ブレンデルは"この国に真の平和をもたらす事が出来る"と言ったが、果たして誰にとっての平和か…

 少なくとも自分にとっての平和とは、この麗らかな日差しと清々しい冷たい風を明日も明後日も浴び続ける事だ。


 オールムはそのまま辺りをすこし歩いた後、別の家へと入っていった。その家は元々は空き家だったのだが、今はペイルとラグナの仮住まいとなっている家だった。

 中に入るとそこには、家の仮の主であるペイルとラグナ、そしてオールム以外の3人の部隊長がいた。

「遅かったな」

 クィルツがそう言うと、オールムが盛大に肩をすくめてみせた。

「恐らく何か企んでいるとしたら俺が真っ先に疑われそうだからな。念の為に撒いてきた」

「成る程な。んじゃ揃ったところで始めるか」

 クィルツの号令の下、先程とは違う会議が開かれる。しかしこれこそが本当の作戦前の会議であり、ここで決められた決定こそが今夜の作戦となるのだ。


 *


 ヤンビャンを出るのは昼頃で、そこから途中で野営をしつつ向かうのだという。鉄道で来たヤンビャンからムルザを徒歩で進軍するのだから仕方ない。

 時間になると、兵士達は奇妙な行動を取り始めた。各々はこうしてオトポールに所属し兵士として活動しているわけだが、勿論皆に家族がおりその大半は農家だ。家に帰れば当然、普段の仕事で使う服などもある。

 そして兵士達は家から持って来ていた仕事用の服を一斉に着だした。兵士として活動する際には動きやすい服でいるのが普通だが、その通例に反してだ。ブレンデルには「ヤンビャンに潜入し万が一捕まった際に、オトポールに行けと言われた普通の農民とでも言い張れば少しは情状酌量があるかもしれない」と説明した。ブレンデルは難色を示したが、人命優先だと言うと渋々了承している。


 しかしオールム達が考えた作戦は当然ながら全く違う。ブレンデルは前線には出ず、ムルザで作戦成功の報せを待つと言った。長としては反感を買う行いではあるが、この時ばかりはこれ幸いとそうしてもらった。

 進軍開始の威勢のいい掛け声と共にムルザを離れヤンビャンに向かった約3000名もの兵士達は、ムルザが遠くなったところでその9割以上にもなる2800名程をその場に置いて行った。残された大量の兵士は半分がその場に留まり、携行していた火器で防衛陣地を築いていく。もう半分は自らの街に帰り、万が一党が同時多発的に各町を襲った際の防衛要員とした。


 ヤンビャンに向かった200名の部隊長はオールム、補助として"ブレンデルを信じてる"と言っていたカラン。そしてペイルとラグナもいた。

「ここからが本番だ。各員装備の再点検、突入準備をせよ」

 延々と歩き続け、夜闇の中にヤンビャンの外側の壁がうっすら見えてきた頃、オールムの号令の下で作戦実行前の最終確認を行う。時間はロム・マルヴァム(24時)を回ったところだ。ここから先は生きて帰れる保証の無い道、自ずと全員の顔に緊張が浮かんでいた。

 カルスの家に繋がっていた秘密隧道を除いて、残りの隧道は5本あった。ブレンデルに説明した作戦通りならば均等に40名ずつ分散して突入することになるのだが、ペイルの助言で2本の隧道のみを使って100名ずつ突入することとした。戦力の分散は愚策と言う事だ。


 ヤンビャンへは比較的簡単に侵入できた。しかしこれが党の策略なのか、あるいは本当に気付かれていないだけなのかはまだわからない。

 2つの部隊は、片方は街で騒ぎを起こす部隊でカランの指揮下に。もう片方は矛盾の壁を突破する糸口を掴む為の部隊でオールムの指揮下に入った。ペイルとラグナは当然後者の部隊だ。オールムとカランはそれぞれヤンビャンでさえ若干値の張る小型の時計を持ち、アム・グラシム(2時)をもって作戦開始としていた。本来は部隊間で緊密に連絡が取れれば良いのだが、遠距離にいる人同士で話すとすればイグナスでさえ有線電話か鳩でも使うしか無い。国の正規軍ならともかく、オトポールのような組織のこう言った作戦ではどちらも使えないので、自ずと相方の部隊の成功を信じて時間で動くしかない。


 オールム隊はヤンビャンに侵入すると、速やかに掘りかけの"矛盾の壁"の突破を狙った隧道へと侵入した。敵は無し、罠も無し。入口周辺を兵士で固めさせ万が一の際の退避経路を確保、ここが破られれば隧道に入っていった兵士達は全滅だ。

 カラン隊は携行していた小火器や信号弾、煙幕弾を準備し、地上から矛盾の壁へと接近する。公務官や党の注目を地上に集中させ、地下にいるオールム隊に注目が向かないようにする。いわば囮だ。

 市街戦となるので100名の兵士を更に細かく小隊として編成し、至る所に配置する。カランが作戦開始時刻に信号弾を打ち上げ、それと同時に遊撃戦を展開するのだ。


 そして時計がアム・グラシムを指す。カランが作戦開始を告げる信号弾を打ち上げ、ヤンビャンの空に光の玉が浮かんだ。


 *


 その光の玉をヤンビャン中心の大統領府から1人の男が見ていた。プラセン共和国軍のヤンビャン守備隊の隊長、クナイ・ルーファンだ。

「来たか…」

 そうぽつりと呟くと手元の電話を取り、軍の駐屯地にいる自らの配下の部隊に電話を掛ける。

「オトポールの連中が来た。確認しているか?」

「は、確認しております。しかし事前の情報より少ないように思いますが…」

「少ない?どの程度だ」

「約3000名程が来ると聞いていましたが、あれは…数百名か、あるいはそれ以下のように見えます」


 その報告にクナイは首を傾げた。内通者の情報ではオトポールはここで総力戦を仕掛けてくる筈、そしてオトポールの総力とは約3000名の兵士だ。

 党の方から内通者を通して作戦を急がせるように指示し、訓練もろくにしていない3000名を送り込ませるように仕向けたと聞いている。そんな平民に毛が生えた程度の兵など国軍の敵ではないと、重武装した兵士500名のみを即応待機状態にさせていた。

 それが実際に来たのは数百名では…


「嬲り殺しではないか」


 クナイは自分が薄ら笑いを浮かべている事に気付いた。

 元よりオトポールは党にとって病のようなものだ。健全なるこのプラセン共和国において、ひいては偉大なユールス様の御前にしてあの蛮行は目に余る。国軍や公務官もオトポールとの小競り合いで負傷した者も少なくない。

 そんな恨み重なるオトポールを、僅か数百名とはいえ一方的に攻撃出来る。隊員達の指揮も上がり、予想される今後の掃討作戦にも良い効果をもたらすだろう。


「いかが致しましょうか?」

 電話の向こうで部下が聞いてきた。

「我々の準備は万端だ。この清廉なる街に忍び込んできた害虫どもは、皆殺しにせよ」

「は、畏まりました」

 電話を切ると、駐屯地の方から警報が響いてきた。()の始まりだ。


 プラセン軍は内通者からの情報により、オトポールが総力戦を仕掛けてくるものと信じていた。党の目的はあくまでオトポールの戦力の大幅な減少であり全滅ではなく、その為にヤンビャンの通りを大挙して押し寄せてくるであろうオトポールの兵士、これを兵器局で改良された大砲や機銃で応戦する。

 圧倒的な火力差と練度の違いから近接戦闘にはなり得ないとし、遠距離武器を主力に置き、来るべきオレウム侵攻の為に極力軍の兵士には損害を出さないようにする。それでいてオトポール側には甚大な被害を、最低でも兵士を半減させる心算でいた。

 逃げていく兵士についてはどうでも良い。どうせ当分大規模な攻勢は出来ない筈なので、その隙に連中の秘密隧道は全て埋めておく。これでいい。


 まぁいいか、とクナイは独り言ちた。数百名は前衛であろう、そのうちに本命の部隊が雪崩れ込むに違いない。こちらはそれを確認した後に連中の秘密隧道を抑えて、この街から出られなくすれば勝ったも同然なのだ。

 クナイは既にこの戦いの勝利とオトポールの崩壊を確信し、眠りについた。翌朝には輝かしい勝利の報せに溢れていると信じて。


 *


「ロム・グラシム、作戦開始だ」

 今頃地上ではカラン隊が騒ぎを起こしている筈だ。それに乗じてオールム隊は"矛盾の壁"の突破を目指す。

 壁に至る秘密隧道は2本あり、うち1本はまだ掘り進めている途中だ。とは言え壁まであともう少しという所まで来ている…と言うのをオールムは3日前に知った。掘削を担当していた部隊が報告していなかっただけなのだが、この時ばかりはそれが幸いした。当然従来の隧道はブレンデルの知る所であり、ブレンデルが党と繋がっているのであればいくら兵士を守備に置いても全滅する可能性が高い。


 ならばブレンデルも知らない筈のもう一つの隧道を使い、大急ぎで壁まで掘り進める。

 今回の作戦はあくまでもブレンデルの目を騙す為の作戦と言っても過言ではなく、オールム達の狙いは壁の突破の糸口を見つける他に無いのだ。


「…!ここだ、壁まで到達しました!」

 やがて先頭で掘り進めていた兵士が小さくそう叫んだ。時折鳴り響く地響きに震えつつ党の襲撃に怯えつつ、そしてカラン隊の無事を願いつつ時間はアム・レプイム(3時)を回った頃だった。

「ラグナ、出番だ」

 安堵するにはまだ早いと後ろに控えていたペイルがそう言うと、ラグナが頷き壁に取り付いた。


「やはり…防御魔法が張られてます。それも一箇所を壊すと自動的にそれを特定の場所に知らせる事の出来るもの、つまりは警報装置付きとでも言えますかね。まともに魔法の付与されたこの壁を破壊したらまず間違いなく発見されます、壊された場所も特定出来るようなモノなので。魔法の分類としては高位魔法にあたります」

「だそうだ。俺もラグナ程じゃ無いがちょっとは魔法の心得があってな、この壁には魔力的な何かがある。間違いない」

 ラグナとペイルからそう言われて、オールムは口を噛んだ。それが意味するのは、党には高位魔法を使える人がいると言う事だ。つまり党の言う『平等な力』など嘘なのだと、やはりオトポールの宣伝文句にあるようにプラセンの全ての国民は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだと。そう言うことだ。


「…やはりか。その壁を突破する事は出来そうか?」

 オールムとしては壁の一部を地下から突破し、後は地上に出れば良いとの考えだった。それが壁も壊さないとなると、どうやってこの壁を越えろと言うのか。

「出来ますよ」

「…は?」

 ラグナのそのあまりに単純明快な答えに、思わずオールムは素っ頓狂な声をあげた。

「出来るのか…?」

「はい。面倒な防御魔法は確かにありますが、重大な穴がありますね。この魔法は"既存の壁に付与した魔法"であって、"作った時に付与した魔法"ではありません」

 言っている意味を上手く咀嚼できなかったオールムは、無言で続きを促した。ふと後ろを見やれば、掘り進めていた兵士達も耳を傾けている。


「もし壁そのものを壊されたくないのなら、壁を作る時に一緒に魔法も付与するべきでした。そうすれば壁を壊したらすぐにその場所を特定出来ます。

 対してこれは、一度作った壁に後から魔法を付与しています。つまり…包装された箱、とでも言いますかね。そうならば布でもなんでもいいので魔法を一旦壁から剥がして他の物に付与させて、その隙に壁を壊してしまえばこの先に進む事が出来ます」

「包装された箱の包装を剥がして、中の箱を壊しても包装を綺麗に戻せば一見すればわからない。こう言う事だ」

 ラグナの説明にペイルが補足すると、緩やかに地下隧道に歓喜の声が響いた。長年の課題であった"矛盾の壁"の突破方法が遂に掴めたのだ。


「誰か手拭いか何か貸していただけますか?ちょっとやってみます」

 ラグナがそう言うとすぐさま複数の手拭いが差し出された。適当に1枚を取って壁に貼り付け、手に魔力を込めて防御魔法を載せ替える。魔法の載せ替えなど並みの人が出来る芸当では無いが、高位魔法を多用出来る竜と共に暮らし、日常的に魔法を使い訓練しているユラフタスにはそんな事は造作もない。


 載せ替えが終わると手拭いと壁とを釘で固定する。釘は隧道が崩落しないように木材で固定する際の必需品なので事欠かない。

「出来ました。この手拭いの裏だけ、ちょっと崩してみてください」

「…わかった」

 オールムはそう言うと掘削用のつるはしを持ち、意を決して壁に振った。


 果たして、壁に少し穴が出来た。地上でどれだけ石を投げようと爆弾を爆発させようとかすり傷一つ付かなかった壁にだ。

 続けざまにもう1発、2発、3発。打ち付ける度に壁の穴は大きく深くなっていく。

「今回の任務は成功だな?」

 ペイルがそう言うと、オールムはニヤッと笑ってそれに応えた。

「成功だ…!こんな手拭いだけだと無理だが、この作戦をもう一度行って今度はもっと広い布で覆えばいいんだからな。

 そうとなれば長居は不要だ、すぐに…」


 そう言いかけたオールムの言葉は、突如響いたこれまで以上の轟音に掻き消された。

「なんだ!何が起こった!?」

「入口を確認しろ!」

 兵士達の怒号が飛び交う中、ペイルはあくまで状況の把握に努めていた。オールムは慌てた様子で兵士に指示を飛ばしていたが、このような時こそ冷静になるべきだと軍人としても経験が告げていた。


「入口は無事です!周囲に軍の姿もありません!」

 ややあって地上の様子を見に行っていた兵士が戻ってきた。今の地響きがこの隧道に対してのものでないとすれば、考えられる可能性は一つだ。

「カラン隊か…」

 突破の糸口を見つけた後は速やかに地上に戻り、撤退の合図となる信号弾を撃つ。その後は兵士を置き守備してある秘密隧道からカラン隊共々ヤンビャンから脱出する。そういった作戦であった。

 もしどちらかに不測の事態があった場合は救出には向かわず、1人でも多くヤンビャンから脱出しムルザからの途中の道のりにある防衛陣地へと帰還するという取り決めになっていた。

 但しそれはあくまで最悪の事態になった場合だ。自らの組織の長すら騙し、ペイルという今や軍事顧問同然の心強い味方がいる今、不測の事態にはなり得ないという奇妙な確信がオールムにはあったのだ。


「オールム、こんな所でグズグズしてはいられない。さっさと地上に出てヤンビャンを脱出するぞ」

 ペイルに言われ我に帰ったオールムは、大急ぎで撤退の準備をする。5分もすれば次々と隧道から兵士達が出始めていた。

 最初に脱出した兵士が位置を気取られない為に少し離れた場所から空に信号弾を打ち上げ、ヤンビャンの空に2回目の光の玉を出現させる。計画ではこれをもってカラン隊も引き上げ、速やかに確保してある秘密隧道から脱出する手筈だ。


 最後にオールムが隧道から出てきて、入口を排出した土砂で埋めて隠しておく。本来なら排出した土砂は秘密裏に秘密隧道を通ってヤンビャンの外に捨てるのだが、今回はそうも言っていられない。入口として隠蔽してある家の中にそのまま積んでおいて撤退する他ない。

 ペイルとオールムが同時に通りに出ると、再び轟音が聞こえてきた。流石に異変を感じたか周りの家もちらほら明かりが付きはじめ、人影が動くのが見える。


「オールム、急がせろ。一般市民に俺達の姿を見られるわけにはいかない」

「わかってる。だがカラン隊は…」

「迷うな、行け。そういう計画だろう。恐らく軍は目に付くカラン隊は全滅させるつもりで来るだろうが、俺だって遊びで訓練したわけじゃない。1人ぐらい生き残る筈だ、絶対にな」

 ペイルの言葉にオールムは一瞬迷ったが、それでも意を決して脱出用の隧道へ向かった。


 その瞬間、至近距離で銃声がした。

 咄嗟に全員が身を屈め辺りを伺うと、先頭で走っていた兵士が最後の曲がり角を曲がった所で身体を痙攣させているのが見えた。

「クソッ!待ち伏せか!?」

 兵士の1人がそう吐き捨てつつ角からそろりと顔を出すと、秘密隧道への入口がある家の周りには重武装のプラセン軍が待ち構えており、家の2階からは隧道を守っていた10余名のオールム隊の兵士が首に縄をかけられて吊るされていた。


「畜生が!これじゃ脱出も出来んか…」

 そうなれば他の隧道へ迂回して脱出という事になるが、この隧道が露見しているという事は他の隧道も抑えられているに違いない。

「…正面突破しか無かろうな」

 ペイルはそう呟くと頭の中でこの状況を打開する方法を模索する。こちらは80余名いるが軽武装、対して向こうは20名程の重武装の正規軍。人数差では有利だが、普通に考えれば勝ち目は無い。


 もう一度待ち伏せしている軍の装備を確認する。最新式の機関銃に大砲、恐らく竜の力だかなんだかで格段に威力が向上しているものと見て良いだろう。

 しかしそんなモノを市街戦でぶっ放そうという辺り、指揮官は実戦経験が無いものと窺い知れる。しかも兵の集まる所にはご丁寧に灯りまで点けているではないか。

 ペイルは作戦実行前に自分が思い描いていたプラセン軍の印象と、驚くほど合致していた事に思わず苦笑した。


「オールム、アレを正面切って戦う程馬鹿な事は無い。信号弾はまだあるか?」

「信号弾か?まだ予備があるが…」

 そうならば作戦の実行はより容易だ。

「わかった。いいか?俺の言う通りに兵を動かせ。あの待ち伏せぐらい突破させて見せるさ」

 そう言ってペイルは不敵に笑った。オールムはそこに軍師を見た気がした。

どうでもいいんですけど、ゲリラってスペイン語なんですね。

ちなみにゲリラ戦(遊撃戦)を行う組織を指すパルチザンですが、これはフランス語だそうです。


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