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Mono mondon regas ~金が世界を支配する~  作者: あまつか飛燕
《ロレンス編》プロローグ
51/87

二面相を持つ者

続きを書きたい欲が抑えきれなくなった為、ロレンス編スタートです(?)

取り敢えず当面の間は、毎月5日、10日、15日、20日、25日、30日の18時に更新します。

「…と言うわけで、我々としては貴国にあの場所の権益を確保していただきたいと思っております。つきましては…」

 そう言って言葉を発した男は目の前に座る男の、その部屋の中に数ある調度の中でも際立って目立つ机の上に、持参した紙を置いて見せた。

 その街、ヤンビャンという街の貴族の住まう一角のある家の一室である話し合いが行われている。


「ほう…これだけの武器をたったコレだけの値段とはな、我々を謀ろうと言うのではなかろうな?」

 向かいに座る男は不敵な笑みを浮かべながらも、なお真意を汲み出そうと揺さぶりをかける。

「滅相も無い、私は私の国の長より全権を委任されて、はるばるプラセン共和国まで来ております。ここまでして、見本や計画書を携えてまで貴方がたを…いえ、貴国を謀る必要がどこにありましょうや」

 そう紙を差し出した男が言うと向かいの男はしばし黙り、やがて顔を上げると「それもそうだ。ではこれで、当主にお伝えいたしましょう」とだけ言った。


「ではプラセン共和国労働者党の党首、ゲルナ様。この件について何卒宜しくお願い致します」

 そう言うと、ゲルナと呼ばれた太った男は未だに不信感をぬぐおうともせず、その男に向き合った。わざわざ役職まで付けて自分の名を呼ぶこの男に、足元を掬われるわけにはいかない。

「あぁ、議会には上げてみよう。しかしだ、リハルト公国の大公ディーロスの代士がマセド=ラーレン氏よ。ナトを墜としたところで、領土未決定地帯、オレウムの権益が貴国に対して5割となっている。いくら貴国の援助の下で長年の懸案であるこの地が我が国土になるとはいえ、これは目減りされる事も覚悟してもらわねばならない」


 ゲルナがそう言うと、マセドと呼ばれた男は表情一つ変えずこう返した。

「えぇ、問題ありません。ただしあまり派手に減らされても困りますが…」

 そう言ってマセドは薄く笑って部屋を出た。その薄笑いの意味はゲルナにもわかる、"逆らうな"という事だと。一国にこれだけの武器を、これだけの安価で提供できる国力を持っているという事の意味を考えろと…


 *


 新暦805年カスタナイム(9月)、イグナス連邦の東に位置するマレス山を越えたさらに東。残暑も落ち着き始めたプラセン共和国の首都、ヤンビャンにてその話し合いは行われていた。

 マセドはゲルナの家、つまりこの国の唯一の党である労働者党の党首の家を出ると、1人港の方に向けて歩き出した。貴族の住む一角と"市民"が住む街とは塀で区切られている。用も無しに市民が貴族の住む街に入れないようにする為だ。

 塀にある門所を抜けると空気は一変する。文字通り空気が変わるのだ。そして貴族街を出て、その"市民"の住む街の空気を吸う度にマセドは苦笑する。我が国の方がマシだ、と。


 そもそもこの国、プラセン共和国は、議会には唯一の党である労働者党しか無く、国を治めるのは大統領とか当主とか言われるユールス=カダルという男だ。そのユールスが立法、司法、行政を掌握している、所謂独裁国家なのだ。

 強めの風が吹くと、足に1枚の紙が張り付いた。おもむろに手に取れば、そこには「独裁者に死を」「すべて国民は"平等ではない"という唯一点において平等である」とか書かれている。もう独裁政権になって50年は経つはずだが、いまだに反逆の狼煙はあるらしい。


 マセドはその紙を適当に風に流すと、振り返って先ほど通ってきた巨大な塀を見上げた。市民から"矛盾の壁"と呼ばれるその塀の周りと上には常時兵士が警戒しており、蟻一匹入れてもらえそうにない。


 その壁は存在からして矛盾している。

 壁は労働者党が築いたものだが、その労働者党は『人々に平等な力を』という目標の元にあった筈だ。

 新暦755年の動力革命により、それまでの魔法によって発達してきた文明は唐突に終わりを告げた。そしてその際に人によって力の大小があった魔法ではなく、万人の使える"工業力"という平等な力を国民に普及させるという触れ込みで労働者党は権力を握ったのだ。


 それ以降、国は"平等"となった。労働階級の人らは"市民"も呼ばれ、それらを統べる人らは"貴族"となった。そしてそれらを分ける為に作られた壁の内側には、()()()()()()()()()()()()。曰く、住む世界が違うとの事だ。


 港に着くと、周りの船よりひときわ立派な船へとマセドは乗り込んだ。その船はマセドを送り出した国、リハルト公国のものであり、一つの任務を終えたマセドを迎えていた。


 船に戻り一つの任務を達成した事による安堵感を覚えたのも束の間、すぐにこの交渉の報告書を纏めはじめた。実りの多い交渉であったが、自分には次の任務がある。それまでに書き上げなければならない。


 *


 2日後、船は沖合で向かいからやってきた別の船に横付けしていた。マセドが乗ってきた船は豪華な船だが、隣の船は大きさはあるものの質素な船だ。

「ではマセド様、お気をつけて」

「任務の完遂をお祈りしております」

 見送りの海士に軽く答えると、マセドは荷物を一式持ってその質素な船に乗り換えた。そして乗り換えると同時に簡単な変装を施す。髪の色、持ち物、それらをこれまでと変え、同じ人に見えないほどの変装を施す。


 その船は今マセドが乗ってきた船の辿った航路と、微妙に違う航路を引き返していく。目指すはプラセン共和国の隣国、マレス‐ナト民国と呼ばれる国だ。

 再び2日を掛けてその国の首都にあるハークルの港に着くと、迎えの者が既に待っていた。


「お疲れ様でございます、マセド様。既に迎えの馬車を用意しておりまする」

 そう言ってマセドを迎えたのは、フュリアス・ハイル。この国の議会の議長だ。

「有難う。では早速向かおう、この会談で我が国と貴国の間にかけがえのない友情が結ばれる事でしょう」

 儚く白々しい言葉と共に差し出した手だが、フュリアスは満面の笑みでその手を取り固い握手を交わした。

「我が国としても、貴国のような強国と友好関係を結べることは大変有り難い。これから一時の苦難の道もありましょうが、この機会を逃すわけにはいかないのです。例えかつての同胞に牙を剥く事になろうとも」

 そう言ってフュリアスは馬車に乗り込み、マセドもそれに続く。


 馬車から見るマレス‐ナト民国の首都は、つい数日前に見ていたプラセン共和国の首都とは全く違う雰囲気だった。建物は低層で質素なものが多く、まるで昔の、動力革命以前の街を見ているようであった。と言うのもまさしくこの国では未だ魔法は重要な力であり、魔法が全く使えない者の方が珍しいと言える程だ。

 マレス‐ナト民国は、元々はこの地にあり栄華を極めたというプラセン皇国が、新暦757年に勃発した内戦により分離してできた国である。プラセン共和国もそうだ。


 動力革命によって工業が発展するも、プラセン皇国は魔法を重視していた。それで国は纏まり善政を敷いていたのだが、ある日魔法が使えなかったり使えても基礎魔力量が低い人達が『人々に平等な力を』を標榜し出した。

 それにより出来たのが労働者党であり、やがて魔法による統治体制に反旗を翻し国は分裂した。

 マレス-ナト民国はその頃の名残で、未だに魔法を使う国というわけだ。


 *


 やがて馬車は目抜き通りをしばらく走ると、ある建物の前で止まった。その建物は賓客を迎える為の邸宅なのだが、これといった豪華な装飾があるわけでもなく周囲の家々や商店より少し大きいだけだ。マセド自身は何度か来ているからわかるが、全く知らない人が見たらただの少し大きめの民家だとしか思わないだろう。


 応接間に入ると2人は据えられた椅子に座り、マセドは持参している鞄の中から書類を取り出した。

「さて何度か話している通り、オレウムに関して我々の国が武器の供与をする代わりに、土地の権益の7割を我が国が、3割を貴国がという事で宜しいかな」

 それはマセドが数日前まで、プラセン共和国の代表と話していたことと同じ内容だった。しかも割合はプラセン共和国のそれと異なり、よりマセドの国、リハルトに有利なようになっている。だがそれでも、フュリアスは満足そうに頷いていた。

「えぇ、問題ございません。我が国としましてもオレウムを開発できるという事は、即ち民が豊かになるという事です。その資源につきましても、我が国に最低必要な分があればいい故」

 純粋な子供の如くそう言うフュリアスを見ながら、マセドは笑った顔をしつつ内心でも嗤っていた。


 ―外交に慣れてなさすぎる、まぁやりやすくて結構な事だが。


 ヤンビャンでの話し合いに比べて、ハークルでの話し合いはすぐに終わった。それもリハルト側が突き付けた条件をほぼ丸呑みする形だ。

 これでいい、と帰りの船上でマセドは思った。命令とは言え、自分は戦争の種を蒔いた。それに対して良心の呵責を感じないほど残酷では無い。

 しかし、ここから先の事は自分には関係の無い事だ。国にも増えてきた大規模工場での生産過程がそうであるように、私の仕事は計画の一部に過ぎず、完成した暁には自らの仕事が省みられはしない。その大局を鑑みれば、我が国から遠く離れた大陸で戦争が起こったところでどうだっていい。どちらが勝とうと、オレウムにある資源は我々の物となるのだから。


 隣り合う二つの国に対して甘言と共に破滅を唆したその男は、静々と船上の人となり国へと帰っていった。任務完了の報告はたちまち大公の知るところとなり、異例の速さで全く違う種類の武器弾薬を大量に積んだ船がそれぞれの国へと向かっていった。

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