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Mono mondon regas ~金が世界を支配する~  作者: あまつか飛燕
《アネクドート編》権謀術数
23/87

失敗と出会い〈前編〉

 いよいよ捕らえられた竜を救う作戦が決定されたので、ユラフタスの村はその準備に大忙しだった。

 季節はカスタナイム(9月)に入り、メルもだいぶ竜と飛ぶ事に慣れたからという事で決められたのだった。

 ウィルはと言えば、盛夏を乗り切る氷の運び出しに大きな貢献をしたとして、村の中の評価が格段に上がっていた。

 元々外つ土地から来たウィルとメルに重要な役目を押し付ける筈も無く、あくまでメルは現地までの案内に徹すると決められた。

 実行は夜と決められたので、夜の闇に乗じて実際に何人かのコルナーを連れてシナークまで飛んだりもした。

 スァナイム(5月)に竜を捕らえたら賞金を与えるという触れが出た時はユラフタスの皆が動揺したが、どのみち皆を魔法で眠らせて竜を解放するという面では変わらず、むしろこれで遅らせる方が余計に困難になるとして実行が決まったのだ。


 そして訓練を繰り返して前日、街にいる協力者によるとシナークにいる竜は5頭との事なので、それに対応できるだけのコルナーが揃えられた。

「皆の者、いよいよ明日の夜に捕らえられた竜を森へと返す作戦を決行する。

 今回の指導者はリンゼンじゃ。以下10名のコルナーと、メルーナとイルカラが先導を務めて総勢13名じゃ。

 実際に動くのは10名じゃ、ラグナは初経験だから見張り番を頼むぞ。各々2名で1頭の盟友に当たること。もし鎖などで繋がれていたならば、すぐにリンゼンに指示を仰ぐこと。よいな?」

「はい!」

 ノーファンの訓示に対して、森の中にコルナー達の声が響いた。

「すみません、私はどうやって現地まで行くのですか?」

 先導に自分の名前が入っていたので、ウィルがおずおずと質問した。あれからメルのパートナーの竜であるリッシュと、ラグナのパートナーの竜であるフレイヤには、何とか乗れるように訓練はしていた。

 ただ魔法が使えないウィルにとっては、ほとんど竜の赴くままに飛んでそれに乗っているだけという方が近いような訓練だったのだ。


「イルカラはメルーナと一緒にフレイヤに乗っていけば良かろう。今更説明するまでも無いが、イルカラは万が一の際に必ず居てもらわなければならぬ。そうなればそうやって行くのが一番良かろう」

 最近になって竜の為の鞍を作っていたのはこの為かとウィルは思った。メルも含めてコルナーは鞍などは使わないので、誰の為のものかと思っていたのだ。

「まぁ任せなよ、落としたりしないから」

 半年竜に乗り続けてすっかり慣れたメルはからかうように笑っている。

「冗談じゃないからやめてくれ」

 そう言って流すウィルも慣れたものだが。


 *


「では行くぞみんな。外つ土地に捕らえられた盟友達を森に返してやろうじゃないか」

 あっという間に作戦決行の日の夜になった。

 指導者のリンゼンの号令の下、コルナー達が一斉に自らの竜へと乗った。もちろんラグナもだ。

「よろしくな、リッシュ」

 そう言ってウィルがリッシュをポンと叩くと、リッシュも任せてとでも言うように啼いた。

 まずは先陣を切ってリンゼンが飛び、その後を追ってメルとウィルが飛んだ。

 先導役なので2番目を飛び、近くなってきたら先頭を交代する手筈だ。

 雲ひとつない快晴で、地上の様子は月明かりで十分わかるほど明るかった。


「なぁメル!これ肩持ってるだけじゃ危なくないか!?」

 2人乗ったぐらいではリッシュはビクともしなかったが、ウィルは鞍があるとはいえいささか不安定な姿勢で乗る事になった。竜の背に乗って飛ぶと周囲の音は風切り音であまり聞こえなくなる為、会話もいちいち大声である。

「ごめん!少しの間耐えてて!」

 メルも飛行中はそちらに専念しなければならないので、あまり他に気を回せない。


 そこでウィルはふと悪戯心を発揮してみる事にした。或いはやりたかったが、踏ん切りが付かなかっただけかもしれない。

 メルは両手でリッシュの角を握っている。ウィルはその脇の下に手を通し腰に手を回して体を固定させた。つまり後ろからメルを抱いているわけだ。


 手を回した瞬間ちょっとリッシュがぐらついたので、ウィルは思わず強く抱いてしまった。

「危ないなぁ、メルに命預けてるんだからしっかりしてしてくれよ!」

「いいいきなりそんな事するからでしょ!せめて一言声掛けてよ!」

「嫌だった?」

「嫌じゃ…ないけど……」

 嫌じゃないようなので、身体を固定させる為との方便でウィルはシナークまでこのままで行く事にした。風でメルの髪が顔を撫でたりしてくすぐったいが、それはまぁご愛嬌だ。


 《メル、どうしたの?なんか変な魔力が流れ込んできて驚いちゃったんだけど》

 角を通してリッシュがメルに聞いた。背中の上まで見えないリッシュからすれば、メルから突然不安定な魔力が流れてきたので驚いたのだ。

 《いや、なんでもないよ。ちょっとウィルが悪戯してきたものだから…》

 《空の上でやるなんて危なっかしいわねぇ》

 リッシュはさも呆れているかのように呟いているが、角を掴んでいるうちは竜は背中に乗せた人間の感情が大体わかる。メルから伝わってきた感情があまりに恋する乙女のそれだったので、リッシュも深くは言わなかっただけだった。


 リッシュのすぐ後ろをラグナを乗せたフレイヤが飛んでいたのだが、ウィルがメルを後ろから抱いた瞬間フレイヤも少しぐらついたのを2人が知る由も無い。


 *


 森を抜けて少し飛んだところでリッシュが先頭を飛び、やがてシナークのトバル家の館が見えてきた。周りには沢山の天幕と、竜がいると思しき木造りの大きな建物も見える。

 完全に目視できるところまで来れば、後はラグナを含めた11名のコルナー達の仕事だ。

 それぞれ散開して広大な土地の天幕という天幕に、建物という建物に満遍なく睡眠魔法を展開していく。魔法は基地のあらゆる壁を越えて、確実にシナーク現地司令部の人間を無力化しているはずだった。

 やがてコルナー達が次々と地上に降り立ったのを見計らって、2人を乗せたリッシュも地上に降り立った。飛んだままの方が安全だが、竜とて限界がある。少しでもリッシュを休ませてやらねば、帰りに支障が出るからだ。

 地上に降りる瞬間、ウィルは視界の端に何か動くものを捉えた気がしたが、メルの家の辺りでも夜は野生動物が出ることがあるのでそれだろうと思って気にもとめなかった。


「メルの家の周りって草原だったと思うんだけどな」

 沢山設営されている天幕を見てウィルが呟いた。

「全くね。家の前には国旗とあれは…軍旗ってやつかな?ちゃんと戦争が終わったら元通りにして返してくれるのかしら」

 メルも憮然とした表情で辺りを見回していた。強制的に接収された家を前にしているのだから当然だ。


 ラグナは見習い兼誘導役であるメルとウィルの護衛役なので表立った行動はしない。だがそうしているうちにも残り10名のコルナーは竜舎の中に入り、竜たちを解放する準備に取り掛かっているはずだった。竜舎の中からは微かな物音と話し声が聞こえる。

 しかしややすると、その声が俄かに大きくなってきた。

「何かあったのかな?」

 ラグナは心配そうに竜舎の方を見つめている。

 侵入してからもう15分以上経っており、予定ならもう5頭いるという竜を全て解放して戻る準備にかかっているはずだった。しかし竜舎からは誰1人として出てこない。


 すると突然早鐘の音が鳴り響いた。

 咄嗟に音のした方を向くと、警戒用に設えたらしい物見櫓の上で誰かが鐘を打ち鳴らしていた。

 それと同時に近くにあった天幕の裏から、何か動くような音と話し声が聞こえた。

「誰!?出てきなさい!」

 その音に気付いたラグナが、腰の短刀を抜いて天幕の方を向いて誰何した。

 ー気付かれていた…?そんなはずはない、しっかり睡眠魔法はかけていた筈だ。だとすれば誰だ?

 ウィルはそう考えつつ天幕の方を睨んだ。武装した兵士に勝てる気はしないが、少しでも足止めしてメルとラグナを逃がせれば良しだ。


 だがラグナの誰何に対して、出てきたのは1人の若い女性だった。

 ラグナとメルは意外そうな顔をしていたが、ウィルは思わずあの夜を思い出していた。あの時も兵士が出てくるものかと思ったら出てきたのは若い女性、つまりラグナだった。今回は誰だ?


 *


 現地司令部の建物を抜け出したミラムとルフィアは、人目を忍んで竜舎の前まで来ていた。


「お待ちしておりましたミラム様、ルフィア様。こちらです」

 ルフィアが事前に手配しておいた、竜舎を管理する兵士が案内してくれるのだという。

「竜舎に入る前に注意しておく点があります。

 まず、竜は見るだけにしてください。翼の先端に鉤爪が付いていますが、思い切り振られたら腕ぐらい簡単に無くなりますので注意してください。

 次に、あまり大きい声を出さないでください。野生動物でも同じですが、興奮させないに越したことはありませんから。

 最後に、お2人は魔法は使えますか?」

 最後の質問に2人とも首を振った。

「わかりました。竜は魔法を使います。念の為、魔法を跳ね返すような防御魔法をお2人に張らせていただきます」

 そう言ってその兵士は、2人に防御魔法を施した。


 その兵士は先に竜舎に入っていった。一応竜の様子を見て、大丈夫そうなら呼ぶという。

 そうして少し待っていると、妙な音が聞こえてきた。

「鳥…?」

 ルフィアがふと呟いて、その音のする方角を探した。

「こんな夜に鳥なんて飛んでるかしら」

 ミラムもそう呟きながら、辺りを見回している。

 やがてその音ははっきりと聞こえてくるようになってきた。

「ミラム、あそこ!」

 そう言ってルフィアの指差す先の空には、およそ10ほどの巨大な影があった。

「何あれ…!?」

 竜騎隊の人間ならすぐにそれが竜だとわかったかもしれないが、ミラムとルフィアはシナーク現地司令部に着いてから一切龍を見ていないので何かが分からなかったのだ。


 やがてその影は現地司令部のすぐ上空まで来た。と思いきや一気に散開し、周囲を縦横無尽に飛び始めた。

 実際にはここで睡眠魔法をかけていたのだが、防御魔法をかけられていた2人はそれが通じていない。

「とりあえずあそこの影に隠れよう」

 そう言ってミラムとルフィアは近くの天幕の影に隠れた。現地司令部の建物からはかなり離れてしまったので、今更そこまで戻ることもできない。


 息を殺して様子を伺っているとその影が2つ、すぐ目の前に降りてきた。その正体不明の影は月明かりと常夜灯によってある程度は見えていたが、それは明かりを白銀色にキラキラと反射させていた。

(なにあれ…もしかして竜?)

 ミラムが小さく呟いた。

(かもしれない…頭部と背中に二対の角、翼は主翼と見られる大きな翼と尾の近くにもう一つの翼…)

 ルフィアは事前に調べた竜に関する資料を反芻しながら、半ば呆けたようにそれを見ていた。


(見てルフィア、あの竜の背中、誰か乗ってるみたい。あ…降りるわ)

(3人…?見た感じ兵士って動きじゃないね。リハルトでも攻めてきたのかと思ったけど違うか…)

 2人は天幕の影から注視していたが、とにかく隠れることしかできないのは辛い。

 ただ幸いだったのは、侵入してきたのがリハルト公国の者では無さそうという事であった。

(男が1人と女が2人かな?しかし誰だあの人達は、あと他の影も竜だとしたら何人侵入したんだろう)

 ねじ込みで宮仕えをしているとはいえミラムも女中だ。それなりの教育を受けてもいるし、場を冷静に判断しようと努めていた。

 一瞬リハルト軍が攻めてきたのかと思ったが、そうならば何故竜騎兵を持っているのか。もうリハルトならば「竜があることでこの戦争は勝てる」と喧伝していたモロス皇子の面目丸つぶれなわけで、それならそうで有難いがそういうわけでは無さそうだ。

 竜から降りてきた者の所作は、見るからに軍人のそれではない。ならば何者なのか…


 その思案を断ち切るかのように、突如早鐘の音が聞こえてきた。

 素性の知れない誰かに見つからないようにと極度の緊張状態だった2人は、そのけたたましい鐘の音に反射的に身体を動かしてしまった。

「な、なにこの音!?」

「ミラム、静かに。あの人たちに聞こえちゃう!」

 身体が天幕に当たって音を立てたが、それよりも動揺してしまって2人とも取り乱してしまった。

(ご、ごめん。でも何かしら、侵入者に気付いたのかしら?)

(かもね。でもその割には異変に気付くのが遅すぎるような…)


「出てきなさい!」

 鋭い声に再び2人は身を震わせた。

 しかしその声が女性の声だったので、余計に混乱してしまった。その場に男らしき影がいたのだから、当然男の声が聞こえてくると思ったからだ。

(どうする?私が出て話してこようか?)

(いや、仮にも皇太子妃が行くものじゃないわ。私が出て話をしてくるから、もし少し経っても戻らなかったら貴女だけでも逃げて)

(嫌、嫌よそんなの。ルフィアを置いて逃げられるわけないじゃない!)

 ルフィアの提案にミラムは当然食い下がるが、ここは女中としてミラム皇太子妃を危険に晒すわけにはいかない。


 声のした方を覗くと、女性と思しき人が短い剣のようなものを構えていた。

(やっぱり私が行くわ、ミラムは待ってて。もし私が連れ去られるような事があったら、すぐにでも逃げてちょうだい)

 そう言ってルフィアは、ミラムの返事を待たずに天幕の陰から飛び出した。


 手を挙げて降参の姿勢でその女性にゆっくりと近付くと、その女性も驚いたのか剣を…いやよく見ると短刀だ。構えていた短刀を下げた。だが油断無く、いつでも再び構えられる姿勢を取っている。

 人数は…3名、やはり男1人と女2人だ。近くにはあの影、いや、ここまで近寄ればはっきりわかる。あれが竜だ、それも2頭。


「1人か?」

 その女性が聞いてきた。

「ええ、私1人よ。あなた方は何者?」

 そう言いつつミラムは奇妙な事に気がついた。その女性の目が青いのだ。


 ー目が青い、ユラフタス…?ユラフタスが何故こんな所に…


「私のことはいいでしょう。それより貴女が名乗りなさい、何者か?」

「私はルフィア、ファスタ=ルフィアよ。皇都の宮殿に仕える女中だわ」

「少なくとももう1人いるでしょう。出てこないんですか?」

 そのユラフタスの女性の後ろにいた男性が言った。同じく若そうな声だ。

「いえ…私1人だわ」

「話し声が聞こえました。失礼ですが貴女に独り言の癖が無い限り、もう1人は必ずいると考えるのが妥当でしょう」

 そこまで聞こえていたか…とミラムは思った。一女中に過ぎないミラムは基本的には武装しないので、あの短刀に対抗する手段が無い。


「なるほど…賢いのね。そこまで聞こえていたのなら仕方ないわ、だけど私ももう1人を危険に晒すわけにはいかないの。連れて行くなら私だけを連れて行ってちょうだい?」

 そう言うと短刀を持った女性は困った表情になった。よくよく見れば後ろの2人も、どうすればいいのかと言った顔をしている。


 ー何がしたいの…?敵が攻めてきたというならこんなことする前に殺すだろうし、賊なら人質にでもするはずだわ。


「ひとつだけ教えてちょうだい」

 ミラムは逆に攻めに転じてみる事にした。むしろ侵入者について、何か情報が得られるのであればあった方がいい。

「貴女達はどこの国の人?」

「私はどこの国の者でもありません。目を見ればわかるでしょうが、イグナスの人達が"霧間の民族"と呼ぶ者と言えばわかるでしょう。そして後ろの2人は、紛れもなくイグナス連邦の国民です」

 ミラムは一瞬驚いた。やはり担当を持った女性はユラフタスだが、後ろの2人は自国民だと言う。どういうことなのか。

「私達はここに捕らえられた竜を救いに来たまでです。貴女やもう1人を拘束したいわけでは無いですし、当然人質にしたいわけでもありません。

 なので私達を見たことは忘れて早く立ち去って…」


「捕らえられた竜ですって!?」

 逃げずにずっと話を聞いていたのだろうか、ミラムが我慢できずに天幕の影から出てきた。

「ミラム!出てこないでって…」

「だってその3人は悪い人に見えなさそうだし…

 ね、それより捕らえられた竜を救うってどう言うこと?」

「貴女は?」

 いつのまにか短刀を下ろしていた女性は聞いた。

「私はアルフィール=ミラムよ。もしかしたら聞いたことあるかもだけど…」

 その名前を聞いた瞬間、後ろに立っていたイグナス国民だと言う男女の体がこわばった様に見えた。

「アルフィール=ミラム様!?ってあの第一皇子のお妃様の…」

「何か月前かに結婚したって言ってましたよね確か…」

「ええ、そうね。だけどそれは今は気にしないでちょうだい。私とこのルフィアがここにいたのは、皇太子妃だから何と言うわけでは無いのよ」

「そう言われましても…」

 その男女は困ったように返す。確かに自国の皇太子妃が突然目の前に現れれば、多少なりとも驚きはするだろう。


「ラグナー!どこだー!引き上げるぞー!」

 突然他の男の声が遠くから聞こえてきた。

「私達はもう行かねばなりません。ここで私達を見たことは言わないでくださいね」

 そう言うとそのユラフタスの女性は、再び短刀を構えた。

「あなたも甘いわね。今ここで私たちを、逃せば即座にこの話は広まるわ。貴女は見たところ白露山脈の麓の森に住むと言われるユラフタスだから、軍はきっと山狩りをしてでも見つけ出すでしょうね。

 でもひとつだけ聞きたいのだけれど、貴女達はどうしてもここにいる竜を取り返すつもり?」

「勿論です。竜とは…どんな理由であれ人間がいいように使っていいものではありません」

「では忠告と助言をしておくわ。竜を利用しようと思い立ったのは、私の夫。つまり第一皇子のモロスよ。取り返そうとするならば、イグナス軍を敵に回すものと思いなさい。

 そして、私はそのモロス皇子を止めたいと思っている立場だわ。妻ですけどね。私と貴女達は敵対するより、結託した方がお互いにとっていいと思うわよ?」

 忠告と言うより半ば脅しとも取れる言葉にも、ユラフタスの女性は全く動じていない。


「確かその方が良いのだとは思いますが、だとしてもミラム様に何か利点はあるのでしょうか?」

 判断しかねているユラフタスの女性を差し置いて、イグナス国民だという男性が聞いてきた。

「あるわよ。私にとっても夫の暴走は良くないものだと思っているし、話すと長くなるけど見返したいことが色々とね。

 あとはそうね…この話に乗ってくれるのなら、竜をじっくり見させてもらえないかしら」

「竜をですか?」

「ええ、そうよ。皇太子妃という立場以前に、私は竜を見たいがためにここまで来たのだから」

 それを聞くとユラフタスの女性は腹を決めたように頷いて、片方の竜の方へと向かった。そして竜に何か呟いたかと思うと、すぐに戻ってきた。


「サルタンなら"アルビス馬車"という店があるはずです、確かイグナスの偉い人も使う馬車屋だと聞いているのでわかると思います。そこにこの羽根を持って行って『ラグナに会いたい』と伝えてください、そうすれば近いうちにまた会えるでしょう」

「アルビス馬車…あの四辻通りの所の店ね。わかったわ」

「では、私達は行きます。

 …モロスという人の意図は私にはわかりかねますが、貴女達は悪い人ではなさそうだ」

 そう言ってユラフタスの女性は、残りの2人と共に竜に乗って飛び去ってしまった。


「あの3人を信用するの?」

 竜が飛び去った方角を見ながらルフィアが聞いた。

「ええ、信用するわ。彼女たちは純粋に竜のことが心配で来たのよきっと。ユラフタスが竜を使うなんて聞いたこともないけどね。

 でもとりあえず破壊活動はしてないみたいだし、もしユラフタスがそういう蛮族なら、私達だって身分を明かした時点で人質になってるはずよ」

「確かにね…」

「とりあえずもう戻りましょう。一応私は体調悪いってことになってるんだし」

 ルフィアはそういえばそうだったと思い直して、ミラムと共にまたこっそりと現地司令部の建物へと戻って行った。

 夜はまだまだ長いが早鐘の音で目覚めたのか、兵士が次々と動き出していてあれこれと指示を飛ばす声が聞こえる。

 冷静に考えてみれば、侵入者が来てから異常を知らせる早鐘が鳴るまでの時間。そして鳴ってから兵士が動くまでの時間が長すぎるのだが、2人ともそこまでの事には気付いていなかった。

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