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フルダイブ技術研究所  作者: 白雲糸
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7、始まらない冒険~最初の敵~

今一つピント来ないけど、俺はこの世界での凄まじい額を手に入れたらしい。


「さて、まだ時間もあるし、もう一度かかしでも叩きに行こうか? 」

「あぁ、頼む。 何でも良いからこの世界の事を教えて欲しいんだ」


そうだ、俺が今大金を手に入れた事も、こいつらの言動で何となく理解出来ただけだ。実際にこの世界の事を何も知らない。

とにかく今は一つでも情報が欲しい。

こんな所に何年も住むつもりも無い。

これで俺の願いが叶うと言うのであれば今すぐ全て手放しても良いんだが、そういう分けにもいかない事はいくらなんでも理解している。


「それじゃ、いっちょ行きますか! 」


トンが勢い良く外に出ると、外は物凄い勢いで雨が降っていた。

身体は濡れているだろうに、他の男達もトンに続くように外に出ていった。


「どうしたっすか? 」

「イヤ、あんたらずぶ濡れだけど、傘でもささないかと思ってさ」

「あぁ…… そうっすね、これも慣れすぎてたっすね」

「良いからあんたも出てこいよ」


ノンに手招きされるままに外に出ると、成る程、原理が理解出来た。

正確には理解出来たわけでは無いけど、雨で体が、服が濡れる事は無かった。


「こんな濡れない雨何の為に降ってるんだ? 」

「簡単すぎるだろ、自分で考えな」


ノンがそう言うから、かかしを叩くと言ってさっきも訪れた、塔のように高く聳え立つ建物の中へと入った。


「それで何か分かったか? 」

「足元が滑りやすくなる? 」

「確かにな、それもある。 雨が降ると、こんな石畳は滑りやすくなり、外に出ると土がぬかるんで、歩きづらくなる。 それがな、不思議な事に空が晴れると数分でぐちゃぐちゃの土が乾いてしまうんだぜ? ゲームの中ビックリだろ!? 」

「何言ってんすか? そんなの序の口っすよ。 だって天候を操る魔法だってあるんすから」

「あんた達も出来るのか? 」

「そんな分け無いっしょ」


男達は俺の発言を受けてやたらと笑うが、そんなに俺はおもしろい話をしたつもりは無いんだけれど、どうやら、天候を操る魔法を使える人物というのは笑いが出るほどの人物なんだろう事は理解出来た。


「さて、着きましたよ」

「さっきの奴等はもう帰ったみたいだな」

「そうっすね、調度良かったっす。 あ、そう言えば天気は出現するモンスターが変わるんですよ」

「天気で変わる? 」

「まぁ、そんな事は今は良いだろう、取り合えず実践だ! 」


ノンに促されるままに、両手を付きだしそのまま手のひらを合わせると目の前にガラスのボードのような物が現れた。


「おっ! 出た出た、そうしたらとりあえず右端に“木剣(サンプル)”ってあるだろ、それを押してみてくれ」


目の前のボードは、さっきのカードと同じ薄い青色で半透明になっている。

右端に目をやると、確かに言われたように“木剣(サンプル)”と言う文字が白く輝いている。

言われるがままに“木剣(サンプル)”の文字に触れると目の前に文字通りの剣が現れ、一瞬宙に浮いたまま俺が掴むの待つように待機して、そのまま約2秒程掴まないと地面に転がった。


「そうそう、それを持って、あそこのサークルに入ってちょっと待っててくれ」


ゆっくりと木の質感を感じるように木剣を拾うと、目の前のサークルへと歩みを進めた。

ノンは石の固まりに対して何かを行っているようだ。


「よし! てつひとくん! 死ぬなよ」


そう言って石の固まりを手で二度叩くと、俺に満面の笑みを送った。

他の3人と言えば、それぞれに、不安と期待と喜びの表情を浮かべている。

当然と言うか、これから何が起きるか理解しての表情なのだが、当然と言うかトンが喜びの表情を浮かべているという事は、俺にとって宜しくない事が起こる事は容易に想像できた。

次の瞬間、警戒音が鳴り響き、赤いランプが点滅するように辺りを赤く染め上げ、目の前にそいつは現れた。

身の丈2m程で、人の形を成したそれは、藁で出来ており、目の奥は赤く不気味に光っている。

成る程、これが“かかし”か。

一目でそれがそれだと理解出来た。

“かかし”と呼ばれるそれは、手には俺と同じ“木剣”を携えている。

殺らなければ殺られる。

俺の中の野生の血がそう告げている。

腹が減っても、食うものを自身で手に入れるしか無かった少年時代の経験を受けて、俺は他人よりも少しだけ、そういった野生の危険に対する感覚がするどかった。

お陰で何度も命拾いをした。

そんな昔の事を考えていると、かかしは容赦なく俺を木剣で斬りつけてきた。

斬るつけると言っても、実際には木で出来た剣なのだからそれが俺の腕を切り落とせるのかと聞かれればそれは難しい事だとは思うが、頭部殴られれば頭の形は変わり、下手したら中の物が溢れ出て確実に死に至る。

そんな一撃をギリギリの所でかわし、そのまま御返しにと、かかしの胴体を思いっきり斬りつけた。

日々野生の中で生活していると、剣道や剣術など教わらなくても、戦い剣筋は自然と体が覚えてくれる。

ノンが俺の動きを見て、まるで一流の剣士のようだったと言ってくれたが、そんなに素晴らしいモノでは無い。

ただ生きるために必要だった剣が、この世界のこの体に馴染んでいるだけだ。

それなのに。

それなのに、そんな一撃を胴体に受けたかかしは、何事も無かったように俺を見下し、そのまま体を捻ると俺を殴り飛ばした。

激痛が頬を通りすぎ、脳を揺らす。

歪む景色を必死に修正する。

徐々に元に戻ろうとする視界の中を、容赦無くかかしが突き進み、俺を確実に殺そうとその勢いのままに木剣を振り上げている。

“カーン”と甲高い音が天井の高い室内に響く。

かかしが振り下ろした木剣を俺が必死に自身の木剣で防いで見せると、それを見た4人組から歓声が上がる。


「こんなにまともに戦える奴は初めてだ! 」


キョウが、両手を大きく叩き喜んでいる。


「さ、さすがだな…… 」


ノンの口元に笑みが見える。


「そんな! どうしてっすか!? 」


トンの予想は外れたらしく悔しそうな表情を浮かべている。

そして、もう一人の男というには若干若すぎる、少年のようなまだ名前も知らない奴が一人俺の事を心配してくれているのがよく分かる。

かかしが、馬鹿正直に力比べをしてくれていたお陰で視界がハッキリしてきた。

……違うか。

こいつは、退いたら俺に追撃されるという事を理解しているんだろう。

でも、そのお陰で意識がハッキリした。

一頻り力比べを行い、どちらも退けない事を確認すると、俺は木剣を滑らせ、かかしの懐に飛び込むとそのまま両腕を力のままに振り上げてかかしの胴体に木剣を叩きつけた。


「うおおおぉぉぉぉおおおお!! 」


まるで鉄を鉄で叩きつけるように、かかしの胴体から火花が迸り2、3メートル後方に派手に吹き飛ぶと転がり、俺の事を睨むとガラスが砕けるような破砕音を残し砕け散った。


「マジかよ! どうなってんだよ! こいつホントにレベル1だよな!? 」

「当たり前だ! “啓示”を受けて神殿に迎えに行ったんだぞ! 」

「……そ、そんなハズじゃ」


3人が混乱し、1人は安堵の表情を浮かべている。

それにしても、これはどう言う事なんだ。

意識はハッキリしたとは言え、これはゲームの中なんだろ?

どうしてこんなに頬が痛いんだ?

それどころか、かかしを斬りつけた両腕がまるで丸太を無理矢理木剣で叩きつけたように痺れて痛みを感じる。

それどころか、疲労感は現実の非では無い。

手の痺れと、疲労感でまともに立っている事さえも出来ずに、木剣を地面に落とし、片ひざを付いて息を整えるのに必死でいると、3人が駆け寄って来て、キョウが俺を抱き抱えた。


「行くぞ! 行くぞ! 早く行くぞ! 」


キョウが興奮した様子で他の皆を急かす。


「キョウ! 落ち着けよ、でも、まぁ、急いで宿に行くぞ!! 」

「……そんなハズじゃあ…… 」


興奮する3人を気にする様子も無くトンは落ち込んだ様子でトボトボと最後尾をついて歩いて来る。


「私、あの、エアって言います」


トンの様子が滑稽で可笑しくて、キョウの肩に担がれ笑っていると、その様子を見て、残る一人が名前を教えてくれた。


「女の子だったのか…… 」

「あ、そうなんです。 こんな格好でいるからいつも少年と勘違いされて、それで、いつもトラブルになるんです」


笑った顔は確かに女の子だった。

そんな事を考えていると、急に抗えない眠気が襲って来て、キョウの肩の上で眠ってしまった。


……


「あ、起きました」


俺が目を覚ますと、目の前にはエアの顔があった。

どうやら、目覚めない俺を覗き込んでいたらしい。

周囲には他の3人もいる。

どうやら、俺が目覚めるまで待っていてくれたらしい。


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