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フルダイブ技術研究所  作者: 白雲糸
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5、始まらない物語~出会い~

現れたのは木造の小さな扉。

そう、身長が高い人物であれば、通ろうとすれば頭を下げなければ通る事が出来ない程に小さな扉。それでいて、俺の身長には調度良い。

そんな事を考えながら、後ろに感じるキラクに背を向けたままに手を振り、その扉を通る。

扉の向こうには複数の人影が見える。

一抹の不安を覚えながら通り抜けると、やはり俺が出て来るのを待っている輩が、4人程立っていた。

今までキラクと共に居た空間とは違い、少し肌寒い。

その場所は、地面から天井まで、全て肌触りの良い綺麗な石で作られていた。


「ここは…… 神殿なのか? 」


実際に神殿なんて場所を訪れた事は無いが、昔見た映画か何か、この場所の風景を言い表すには調度良い響きだった。

俺が呟いた言葉を、そもそも俺の存在など無かったかのように4人の人物はそれぞれに好き勝手話をしている。

その言葉は俺の耳には入るが、上手いこと認識出来ない。

まるで外国語でも聞いているようだが、日本語を話している事に間違いはない。

俺の頭に言葉が入って来ないのは、こいつらの事に興味が無いからだろうか。昔から時々こういう事があった。

集中していない時、違う事に気を取られている時に、興味が無い人間が何かを話していても認識出来ない。正確には認識しないという事。

そして、この後は大体怒鳴られるか、手を出される。


「おい! 聞いてるのか!? 」


案の定、肩まで伸ばした髪が鬱陶しく、これでもかと煌めかせる赤い鎧を着た男が俺の肩を突き飛ばした。

そんな男に弾き飛ばされた俺は、少し後ずさりをして、そのまま前に出てその男の御自慢であろう顔面を殴りつけた。


《Terminator》


正確には俺の拳が、目の前の男に届く事は無かった。

突然に現れた文字と共に、いつからそこに居たのか、現れた事さえも認識出来ずに、突然にそこに居た“機械人形(マジカルドール)”が俺の拳を受け止めていた。


「悪かったよ、落ち着いてくれ、な! 俺たちは純粋な話し合いがしたかっただけなんだ、落ち着いてくれ、な! 」

「ヤバイですって、ノンさん、こいつらに目付けられるのだけはヤバイんですって」

「ちょ、マジで、安心して良いから、消えて下さいお願い致します」


4人の男達はそれぞれに、この機械人形(マジカルドール)に怯えた様子で、俺に対してもへりくだり、この状況が非常によろしく無い事を俺に何とか諭そうとそれぞれに語りかけてくる。

そんな落ち着き用の無い男達に促されるままに神殿? の外に出ることにした。

外に出る事を承諾した辺りで、気付くと機械人形(マジカルドール)は消えていた。

男達も安心した様子で、落ち着くと仕切り直した様子で、強気に俺に3つの事を言って来た。


曰く、あの機械人形(マジカルドール)は“安全域(セーフゾーン)”で冒険者が冒険者に対して危害を加えようとすると現れ、危害を加えると危害を加えた冒険者に憑依するとの事。

一度憑依されると、特殊な条件を満たさない限り取り除く事は出来ず、憑依の代償として憑依された対象が“安全域(セーフゾーン)”から出た瞬間に憑依した対象者を即座に殺すと言う事らしい。

その事がどれだけの代償かは、考えるに容易い事だった。

だから、あれほどに怯えていたのだろう。

曰く、俺に害を加えるつもりは無かったらしいが、俺があまりにも話を聞かなかったから、短気な“ノン”という男が俺の肩を小突いてしまったという事で、その事に対しては丁寧に謝罪をされ、俺も素直に謝罪した。

曰く、彼らはこの世界に初めて来た人物に対して、この世界の事とこれからの事に関して説明をしてくれる役割を担っているらしい。


俺は彼らに言われるがままに彼らの後ろをついて歩き、一軒の喫茶店のような所に案内され、簡単な軽食を奢ってもらった。

そこまで空腹だった訳では無いが、あのまま立ち話をしてもまた話を無視されても困ると、ノンの後ろに立っていた大柄の男“キョウ”の提案でそんな流れになった。


「それにしても久しぶりだな、この街に新しい住民が増えるのは」

「そうだな、いつぶりだろうか? 」

「キラクが適当だからな、この街にあまり人を回して貰えなくなったんだ」


成る程、それは大変に理解出来る。

組織が新人を託すとして、キラクに任せるよりも、他に任せる事が出来る人材がいるのであればそっちに任せた方が良い事は容易に理解出来る。


「それで、これからの事だけどよ」

「それよりも、ノンさん、こいつどういて服着てんすか? 」

「それ以前に、これって“ミスリルメイル”だよな? 」

「お前ツイてるぞ! 余程キラクに気に入られたんだろう」


気に入られたと聞いて確かに思い当たる節はある。が、こんな鎧をいつの間に身に付けたのか。重さは無い、それどころか、普通に服を着ている感覚しか無いのに、その見た目は重厚で、男達が驚くように、なんだか根拠の無い安心感を与えてくれる。


「よし! さっそく換金に行こうか! 」

「っえ!? 売るのか? 」


当然だろという空気が漂う。

俺を連れて来た4人が言うのであれば、騙されているのでは無いかと少しは警戒するが、店に居た人々、店員に至るまで皆が同じ反応で、売る一択しか無いのかと言う空気感が伝わってくる。


「お前、本当にツイてるぞ! これを売った金があれば、辛い重労働を避けて、ある程度の管理職につけるぞ! 」

「そうですよ、それに段ボールハウスじゃなくって、綺麗な部屋に何年も住めるし、その間に金も貯められるから、素敵な“エデンライフ”を満喫出来ますよ! 」


ここまで話を聞いて、彼らの話に酷く違和感を感じた。

ここは、ゲームの中の世界のハズ。

ハズであるが、モンスターと戦ったり冒険したり、そんな話が出て来ない。

俺が、そこまでゲームの世界に詳しい訳では無いから理解出来ないのか、金の話と仕事の話と生活の話、そんなモノの積み重ねでまるで現実世界との違いを見い出せ無かった。


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