4、ログイン~世界の象~
「起きろコラ!! 」
どうなったのか、俺の身体は分断され白い地面に転がったはずなのに、痛みもしっかり味わったのに、運命も受け入れたのに、その身体はしっかりと元の状態のままで、十字架だけが分断され転がっていた。
「テメー、言ったからな! だったらテメーが俺達をここから出す方法を探して来やがれ! 」
髪を掴まれ頭を持ち上げられ、俺が睨みつけた以上の気迫でキラクが俺を睨みつける。
息が、唾が俺の顔にかかる。
その不快感までも、あまりにリアルだった。
俺を一時の間睨みつけると、キラクは俺の身体を抱き抱え、GM権限と叫ぶと辺りを気持ちの良い風が吹き抜ける大草原に変えた。
「座れ! 」
言われるがままに、草が生い茂る地面に胡座をかいて座る。
土の香りが、草の香りがリアルに伝わってくる。
どこから取り出したのか、肉の塊を取りだし指を鳴らすと、その固まりは良い火加減で焼かれ俺の前に置かれた。
当然のように、木の箱が現れ、その上に皿が現れ、その上に焼かれた旨そうな肉が置かれている。
溢れ出てくる唾液を抑えきれない。
「食え! 」
キラクの顔を見上げると、相変わらずの迫力に圧される形で肉を口に運んだ。けど、嫌では無かった。
確かに空腹を感じていた。
あのガラスの筒に入ってどれだけの時間がたったのか、入る直前に食事をしていたにも関わらず、空腹が押し寄せる。
その空腹は、肉を口に入れた途端に吹き飛んだ。
溢れ出る肉汁は、今まで食べた何よりも旨くて、俺の空腹を完全に満たしてくれた。その感覚は現実のそれとなんら変わらなかった。
「どうだ? うめーだろ? この風も気持ちいいだろ?」
キラクはタバコに火をつけると、肉を貪る俺を見つめながら話を続けた。
「俺達はあこがれたんだ、完全に支配出来る世界に。 それで、完成したら一番に入りてーじゃねーか? それなのに、入ったら最後、出られねーなんてそりゃ少しは考えていたが、個人での実験では成功してたんだ、出来ると思うじゃねーか? ログアウトをよ。 そしたらこれだ、たまんねーよな」
タバコの煙を吹き出しながら、遠くを見つめる表情はさっきまでの怒り狂ったそれとは違っていた。
「何をしてここに連れて来られたか知らねーが、お前の瞳の光は本物だ。 長くな、見てきたから分かるんだよ、お前見たいな奴はな」
「何が分かるんですか?」
「止めてくれよ、急に敬語なんて気持ち悪りー」
「すいません、何だか……」
昔から、食い物をくれる人には自然に敬語になってしまう。
「まぁな、良いんだ、俺様はお前に期待してんだ」
「期待?」
「そうだ、珍しいだぜ? 俺様がこんなにGM権限発動する事なんてねーんだぞ? お前の屈しない、決して折れない心が、気持ちがあれば見つけてくれる様な、そんな気がしてんだ」
止めてくれ、俺の心は完全にあの時折れてたんだ。
ミツキを失って、名前も無い我が子を抱き、道端に座っていたあの時に完全に折れていたんだ。
だから、そんな期待を俺にかけるのは……
「止めてくれ…… 」
「いいや、止められねー。 それがこの世界、エデンだ」
キラクは立ち上がり、ゆっくりと空に浮いた。
空中から俺を見下ろし、立ち上がるように促す。
促されるままに立ち上がると、同じように俺を浮かび上がらせた。
初めての宙に浮く感覚に戸惑っていると、そのまま手を引っ張り空を飛んだ。
どこまでも広がる巨大な森。
見たことも無い高さの山々。
どこまでも続く荒野。
真っ白な氷の世界。
漆黒の闇の世界。
見るだけで暑くなる真っ赤な灼熱の世界。
そして見渡す限りの大草原。
昼と夜を巡り、元の場所に帰って来た。
「これが俺達の造った世界だ。 この世界のどこかに必ずログアウトの手がかりがある、頼む、だから見つけて来てくれ! 」
「キラク…… さんは、GMだったら自分で探した方が早いんじゃ? 」
「探したさ、散々な。 GM権限を駆使して探し尽くして一つの結論に至った」
「それは? 」
「俺様達は完成された状態なんだ」
「どういう事です? 」
「これ以上成長しねーんだ」
「つまり、ログアウトの方法も見つけられない? 」
「そう言う事だ! 流石! 飲み込みがはえーな」
キラクは地面に降り立つと、俺の頭を掴み撫でてみせたが、撫でると言うにはあまりにも荒く、耐える事が出来ずにその場に転がった。
その様子を見て笑っている。
俺にもその笑いがうつってしまい、思わず笑うと、何か気にさわったのか頭を叩かれた。
気付くと、裸だった俺は服を着ていた。
「これは、いつから? 」
「あぁ、服か、大剣で斬った時だ」
再び、もう何本目かも分からないタバコに火をつけると白い煙を吹き出しながら、今ごろ気付いたのかと再び笑われ、俺も笑うと、今度は叩かれなかった。
「だから、俺様達は一からお前達を育て、その過程でログアウトが出現するのを待ってるんだ、理解できたか? 」
「ちょっと待て!?」
「なんだ? 」
「外の奴等と連絡が取れるのか? 」
「何だそんな事か? 俺様達が出来ないのはログアウト位だ、他は大体何でも出来るがな」
そうやって笑うキラクの頭を叩きたい衝動にかられたが、我慢した。
怖かったからでは無い。ただ、肉を食わせてくれた奴を叩くのは俺の流儀に反する。
何の流儀かと聞かれればそれだけの話だが、嫌なモノは嫌だ。
「さぁ、長話もこれ位にして、そろそろ行くか? 」
「そうだな、俺にも叶えたい…… 叶えなければならない事があるからな」
「何だ? お前は債権者じゃねーのか? 」
「俺は自分で選んでこの世界に来たんだ」
「だったら、余計に頑張らねーとな!」
「キラク、任せとけ! 必ず俺がこの世界から帰る方法を見つけるからな!」
「結局タメ口かよ」
キラクが圧をかけてくるが、本気では無いのがよく分かる。
直後に笑って俺の背中を叩いて、いつの間にか現れた扉の外へと弾き出された。
「まぁ、精々頑張れや!」
俺を見送るキラクの表情は、最初に見た無気力なモノでも、怒りの表情でも無く、何だか満たされているようなそんな気がした。