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フルダイブ技術研究所  作者: 白雲糸
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3、ログイン~生きたまま死ぬ~

「な、何を…… 」


少女が一糸纏わない姿になる所を見て不意に出た一言を飲み込んだ。

何をやってるって、分かるだろう、あのガラスの筒に入る為に服を脱いだんだ。

俺よりも先に、服を脱いで、筒の中に入ったんだ。

俺が後に続けるように。

その姿を見て、自分を恥じた俺は、急いで不器用に着ていた服を全て脱ぎ捨て空のガラスの筒の中に入った。

その時に見た、小動物を哀れむような白衣の男の目が忘れられなかった。

頭に、あの黒い玉を取り付けられ、足の指先から液体が徐々に上に溜まって来るのを感じる。

液体が完全に体を包み、液体の中特有の浮遊感を感じた直後に息苦しさが襲い、次の瞬間には眠るように意識が飛んだのが分かった。


――


「……マイ 」


俺の声が俺の頭の中に響く。


「お前さんの名前は“マイ”で良いのか? 」


俺とは違う声が俺の鼓膜を震わせる。


「そんな女っぽい名前を付けても、女キャラなんて選択は出来ねーぞ? 」


朧気だった意識がハッキリとしてくる。

目の前に立っていたのは粗野でだらしなく、白衣を取り合えずで着ている感が伝わってくる大男だった。


「おす! 俺様の名前は“キラク”適当に生きてそーだからって前任が勝手に付けたんだ、ひでーと思わねーか? 」


髭面に強面の大男はどこから取り出したのか、タバコに火をつけて大きく一息吸うと話を勝手に続けた。


「だから、始めに俺様はな、名前だけは自分でつけさせてやる事にしたんだが、お前の名前はマイで良いのか? 」

「いや、俺の名前は“テツヒト”か…… 」


キラクは一本目のタバコを一気に吸い終わると、二本目に火をつけ、今度はゆっくりと吸い込み何やらブツブツと言いながら考え込んでいる。


「……テツヒト、鉄人、アイアンマン、英語綴りだとアイロンマンか…… だったら! 」


突然にキラクは立ち上がり俺を抱き上げた。

空気が体を通り過ぎる事で、ようやくその時自分が何も身に纏っていない事に気づいた。


つまり全裸だ。


部屋なのか、空間なのか、上も下も分からない、どこまで続くのか、距離感もわからない白に包まれた場所で、ジーパンにTシャツを来て、とりあえず白衣を羽織った大柄のおっさんが裸の俺を抱き上げる光景は非常に不快だった。


「お前の名前は“マイン”だ! 」

「いや、テツヒトで良いですよ」

「何だ、気に食わねーのか? 」

「そんな凄んだってダメですよ、そんな女みたいな名前嫌ですよ、それよりも早く下ろして下さい、マジでこの絵面はヤバイんで……」

「おぉ、そうか、そうか、だったら“テツヒト”の名前でさっさとこの場所から出てってくれ」


余程不愉快だったのか、俺をその辺に頬リ投げ、胡座をかくと背中を向けて投げられた反動で体に痛みを覚える俺に対して素っ気なく手を降った。


「なんだよ、それ、名前は決めさせるって言ったのはお前だろ? 」

「あぁん? GMの俺様に何か言ったか? 」

「GMってなんだよ、良く分からないけど、何でこんなに痛みがリアルなんだよ」


痛みが響く腰を手で擦りながらキラクの背中を睨みつける。

何が正義で、何が悪なのか、そんな事には興味は無かった。

この世界で、これから何をして、何を成すのかそんな事全然分からなかった。ただ、一つだけハッキリしているのは、俺は嫌な事は嫌だと、気に食わないモノは気に食わないと言ってこれまで生きてきた。

ミツキの事で、それまで散々すがって来た神はいないのだと悟った。


「GM権限、コードオブジェクト“磔の十字架”」


キラクがそう言いながら立ち上がると、突然に俺の後ろに十字架が現れ、鎖が俺の両手両足首を拘束した。


「お前はあれだな、この世界に神はいないみたいな悟った顔してんな? でもな、この世界には神はいるんだよ、神は俺達GMだ」

「熱っつい!!」


キラクが吸っていたタバコを俺の右目に押し付けて来た。熱いなんてもんじゃない。

その痛みは、熱は、今まで感じた事も無い感覚で俺の全身を駆け抜ける。

何だ、こいつは、ヤバイ、確実にヤバイ人種だ。

ヤクザ、マフィア…… 今までヤバイ人種は色々見てきたが、こいつのヤバさは桁が違う。

ただ、軽く文句を言っただけで、タバコを眼球に押し付けるなんて完全にイカれてやがる。

しかもなんだ、この十字架は、どこから現れた!?


「痛いんか? 熱いんか? ここはな、この世界はフルダイブリンクシステム“エデン”だ。そしてこの世界を造り、創造したのは俺様達だ、お前みたいなクズが俺様をそんな目で見る事は絶対に許されない!! 」

「クッソ! 何なんだ! 何でこんなに痛みがリアルなんだ! ゲームじゃないのかよ!! 」

「ゲーム? 笑わせるな! この世界はリアルだ! だからこんなに痛いんだよ! 熱いんだよ!! 」


わざわざ俺の前でもう一本タバコを加えると、火をつけてそのまま俺のもう片方の目にも押し付けて来た。

首を振って避けようとするが、鎖で拘束され身動きが取れない。

痛みと熱が襲った直後に、完全に俺から視力は奪われた。

痛みだけが、熱だけが、そこに今まで眼球があった事を教えてくれるが、それが破れて、中の液体が流れて行くのが感覚で分かった。

何で、どうして俺がこんな目に合うんだ?

絶望が、不安が俺を襲う。

痛み以上の恐怖が全身を支配する。


「GM権限だ、コードアライブ“癒しの光”」


痛みと熱が荒れ狂う頭部を、優しい光が包んだと思ったら、痛みが一気に引いて行き、さっきまでの痛みが嘘のように心地よささえも感じる。

失ったハズの瞳で光を感じられた事を直後に理解出来た。


「ほーら、元通りだ、これがGMの力だ、少しは理解できたか? なぁ“テツヒト” 」


確かに二つの眼球を感じる事が出来る。

怒りに満ちたキラクの表情が良く分かる。


「何でも出来る、まさに神の力! この世界にあるモノは何でもこの場で具現化出来、この世界の奴等は、モンスターでさえも、俺様には敵わない。 正と死を自在に操り、世界を創造する力、それが俺様達GMの力だ! 少しは理解出来たか? 」


両手を力強く広げ、ただでさえデカい身体が余計に大きく見える。キラクは高揚感に浸り俺の次の言動を待っているようだった。


「それでも、そんな力を持ってても、この世界から出られないんだな…… 」


余計な一言を言ってしまった。別に腹がたったから言った分けでは無い。

ただ、可愛そうだった。

どれだけの時間をここで過ごしたのかは分からない。

それでも、こんな真っ白で何も無い場所にずっと居るのであれば可哀想以外の表現が何も浮かばなかった。

それでも、口にする言葉を選べば良かった。

キラクは、自分の身の丈程の大剣を何も無い空間に造り出すと大きく振りかぶりその勢いで振り下ろした。

完全に死を覚悟した。

それでもキラクの目から、視線を外すのが嫌だった。

だから最後にと、強い思いで、今まで神に抱いて来た不平等感を、恨みを全て込めてキラクを睨みつけた。


「クソがっ!!!!!! 」


大剣が俺の身体を十字架もろとも通り過ぎ、分断して行くのが分かる。

一瞬の事だったけど、その痛みは今までに感じた何よりも痛かった。

でも、その苦しみは、ミツキを失った時に比べれば何でも無かった。

これで、ミツキの所へ行ける。

まだ、何も始まって無いけど、俺は疲れたんだ。

頑張った、努力した、這いつくばった、最後に何か出来ないかと考えた。

その結果がこれなら受け入れよう。


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