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フルダイブ技術研究所  作者: 白雲糸
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14、クエスト~迷惑と困惑~

誘拐、監禁、殺人。

本来違法とされている事が、この世界では全て許される。

許されると言っても、システム上のルールの中だけの話で、許されたからと言っても、道徳的にどうかと問われれば情報を絶たれたり、仕返しされたり、色々とリスクを伴う。

リスクよりもメリットが大きいと感じた場合にそのような行為が行われる。

まぁ、実際に現実の世界でも、殺人を犯してでも…… というような事はあるのだから、俺が拐われた所でなんら不思議は無い。


方法は簡単だ。


寝ている俺を、アイテムの中に閉じ込め、今回の場合は棺だが、その中に閉じ込め、それを運べば良い。

ただ、音も無く誰にも気づかれずとなると方法は限られてくるのだろうが。

(ここから出せ)(ふざけるな)と言った所で、外には声が漏れない仕組みなのだろう。

俺は途中で異変に気付き声を上げたが、それが誰かに届く事は無かった。


外の雨が壁伝いに落ちて、カビの臭いと錆の臭いが充満する古びたコンクリートの建物の中で棺から出されると十数名の男達に囲まれ、何も抵抗出来ず手足に鎖を巻かれた。


「さて、お兄さん。これから拷問されるのと、今すぐ俺達の言う事を聞くのはどっちが良いかな? 」


男の発する内容から、ここが[安全域]では無いことがわかる。

つまり、これからこいつらは俺を殺す事も可能と言う事だ。


「俺に出来る事だったら当然やる方が良いに決まっている」


包帯で顔をグルグルに巻いた男が、大きな椅子に腰掛け俺を睨み付ける。

横に立つ男が話を続けるが、俺はその包帯巻きの男の目を見たことがあるような気がして話に集中出来ない。


「簡単なクエストを受けて貰いましょうか」

「クエスト? 」

「そうですクエストです。実は僕達は困ってましてね、あなたの存在に」

「俺の存在? 」

「そうです。あなたが現れてからと言うもの、キラク様がやけにこの世界に絡んで来まして、色々と迷惑してるんです。そもそも、この街の人々はログアウトや、冒険を諦めて普通に現実世界と同じように仕事をして、趣味を持って、コミュニティを築き生活していたんです。それを突然に異世界感丸出しのイベントを多数発生されらても困るんです」


長く伸びた前髪が前に垂れる程にうなだれている男の表情を見て、本当に困っている様子が伝わってくる。

それが俺のせいだと言うのであれば、これ以上の反論の余地は無い。


「それで、お願いしたい事は二つです。この街から出て行く事と、あるアイテムをこのキラク王国の“王都ダセイ”まで届けて欲しいのですが、引き受けてくれますか? 」

「俺一人でか? 別に良いけど、失敗する可能性の方が圧倒的に高いぞ? 」

「存じておりますとも。そこで荷物の運搬は“運び屋”を雇いましたので、その方と一緒にまずはここから一番近い街“ヨウキ”まで行って頂きます。詳しい話は道中色々と聞いて下さい。そんな余裕があればですが…… 」


男に言われ、一人の少年が前に出た。

少年と言っても、身に着けている装備は他のやつらとは明らかに異なる。

高級そうな革の靴に、軽装備と言うにはあまりにも高級そうな金属に細工を施した防具の数々。

腰につけている短剣も、何も知らない俺でも明らかに周囲のやつらとは異質な事が分かる。

それでいて、少し伸びた赤い髪の下に見せる表情は自信に満ち溢れている。

絶対に失敗しませんという評判でもあるかのように、周囲の男達も一目置いているようだ。


「じゃあさ、早速行こうか? 」

「今からか? 」

「そうですね、時間が勿体無いので」


少年の笑みに対して俺の中で警戒音が鳴り響く。

こいつとは絶対に一緒に行ってはいけないと。

それでも、外に出るまたと無い機会。

それに正直わざわざこんな場所で拷問をして欲しいと思うような趣味も持ち合わせていない。


「とりあえず、この鎖を解いてくれ」

「良いですとも」


前髪の男が俺の鎖を解く。

その間も、包帯巻きの男は俺を睨んだまま、その視線を一切外す事が無い。

何かを見極めているのか、何を考えているのか。

聞きたい気持ちはあったが、下手に刺激してこれ以上面倒な展開にもなりたくないので、そのままその目の事を気になりつつも、特に話を交わす事は無かった。


「アイテムの準備は? 装備の準備は? だったら大丈夫だね。さぁ行こうか」


話が早すぎる。

特に俺が何か返事を返したわけでは無い。

余程急いでいるのか、それともこういった類の性格なのか、少年は、部屋の隅にあった自分の背丈よりも大きい棺を軽々と抱えると先に部屋から出て行き、俺も鎖を解いて貰い、すぐにその後を追った。


「あぁ、そうだ、そうだ。ちなみに、クエストの報酬は近隣の大国“タイタン”への入国許可証だから、成功したらちゃんと受け取るんだよ」


大きな声俺に語りかける口調は、最初の拉致監禁の印象とは異なり、明らかに俺に対して、俺の事を思って言ってくれてるようで、違和感しかなかったが、少年に追いつく為に急いだ。


「ようやく来たね。そしたら行こうか」


ようやくと言うが、扉の前に少年が着いて振り返る間に俺は追いついたのだから、数秒しか経ってない事になるが、細かい事を気にする余裕が無い。

これから、またあの外の世界に行くのかと考えると、緊張と期待で体が震える。

2回目の冒険は南西の門から外に出る。

北東の門の方が北に行くには便利では無いかと尋ねると、北は無駄な費用を払い、エリアボスと遭遇する確率が極端に高いという事だった。

それに比べて、南西の門はタダで出入り出来るし、モンスターは多いが、エリアボスと遭遇し難いルートがあるので、普通は南西の門から出ると笑われた。

少年の表情を見て、不意にキラクにも今、この時笑われているような気がして、空を見上げた。

雨はいつの間にかやんでいて、地面は乾いている。

そんな事を考えていたら、重たい門がゆっくりと開らかれた。


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