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フルダイブ技術研究所  作者: 白雲糸
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12、外の世界~絶望の貌~

全長は大型のトラック程、5mか8mかあるいはもっとあるのか、一番近い例えがトラック位の大きさだという平凡な例えしか出来ない。

全身は針のように細かく細い先の鋭い毛に覆われている猪のような体躯。

実際に山で猪を狩った事のある俺だから分かる事だが、猪のようなこの動物は猪とは明らかに異なるが見た事も無い動物を上手く例える事が出来ない。

しかし、一つだけハッキリと分かる事がある。

それは、この獰猛な動物がモンスターで、しかもよりにもよって、エリアボスだという事だ。

一目でそれを理解出来たのは、ご丁寧にこのモンスターの頭の上辺りに赤い文字で【AreaBoss 雷獣イグリス】の文字が描かれているからだ。


どうしてこんな事になった……


神秘的な黄緑の瞳が俺を睨み付けているのが分かる。

手に持った剣の重さが増して行くのが分かる。

冷たさは無く、体を濡らす事は無い雨が体を伝う感覚を覚える。

風が吹き荒れ鼓膜を煩く掻き鳴らしている。

次の瞬間に、イグリスの頭の上の赤い文字が血塗られたように朱を増し輝きを放つと「ブオオォォォ」と大地を震わせる程に大きな雄叫びと共に、体に着いた雨をまるでシャワーのように俺に浴びせて来た。


戦闘は不可避。


勝算は皆無。


それでも、目の前にいる必要以上にリアルな敵に臆する分けにはいかない。

今後こんな奴が可愛く見えてくる敵を何体も何体も、それこそ気が遠くなる程倒してでも行き着かなければならない場所があるのだから。

全身に力が込み上げて来るのが分かる。

剣が熱く脈打つような感覚を覚える。

この感覚を俺は知っている。

始めて山で猪に出会った日の事を思い出す。

手には草を苅る為の鎌があるだけだった。

それでも突進して来る獣の一撃をギリギリの所で交わしながら、腹部に下から突き刺し、それでも怯む事なく俺を追撃する猪の二撃目をまともに受けながら一度腹部に突き刺した鎌を引き上げ、猪の臓物を撒き散らし倒す事が出来た。

足には15針も縫う大ケガを負ったが、大事な血管を傷付ける事無く死ぬ事は無かった。

だから、この猪が全長2m程で雷を纏う事が無ければ多少は勝てるイメージを持てたかもしれないが、実際には大型のトラックの様な体で俺に突っ込んで来た。


泥を巻き上げ、雨を吹き飛ばし、口の脇に存在感を放つ二本の牙が空気を切り裂き俺に向かって真っ直ぐに進んで来る。

出会った時から死は覚悟している。

死んだ所で生き返る事が出来るのであれば、何度でも、何度でも生き返ってやるという強い思いと共に、突っ込んで来るイグリスの鼻先と地面の間に滑り込み、剣を振り上げ喉元を斬りつけるが、硬い皮膚に弾かれる。

それでも、掠り傷程度はついている。

反転して俺を探している間に、体の下から外に抜け出す。

踏み荒らす脚の間を抜ける時に、もう一撃と思った瞬間、こいつが山の獣ではなく、モンスターだという事を思い出させる。


【放電】


体に溜まった電気を、体の外に放出する。

ただそれだけの行為で、俺のHPは吹き飛んだ。

地面を伝い、周囲5m程に微弱な電気を飛ばす。そんな弱魔法のような攻撃にレベル1の俺の体は耐えきれなかった。

強靭な牙でも無く、蹴り脚でも無く、ただの放電でやられてします。

体を今まで味わった事も無いような痛みが突き抜けて行く。

電気で内蔵が焼けているのか、焦げた肉のような匂いが全身から漂うのが分かる。

目がどうなったのか考えるもの嫌になるが、視界が白黒になってボヤける。

それでも俺は剣を持ち立っている。

イグリスの口元に笑みが見えたような気がした。

そんな分けは無いが、なんだか俺を称えてくれているような、そんな気がした直後に、楽になれと言わんばかりに、牙と牙の間に電気の球の形成を始めた。

隙は十分にある。

もし、ここで数人で囲んでいる状況だったら、攻撃に転じる絶好のチャンスなんだと思うが、体を動かす事が出来ない。

それでも、動かない体に言い聞かせるように、一歩進むと、不思議と体が軽くなり、完成しつつある電気の球目掛けて走った。

必死で走り抜けた。

激痛で意識が途切れる。

脚が地面に着く度に体が崩壊するような感覚が襲う。

それでも、あと一撃。

何の根拠も無い。

無いけど、あと一撃という強い思いにかられて必死で走り抜け、イグリスの鼻先を斬りつけた。

イグリスは鼻先を斬りつけられたにも関わらず表情一つ変えずに直後電気の球で俺を包んだ。

すべての神経を切り裂かれたような痛みが通り過ぎ、すべての細胞を一つずつ破壊されたように体が崩壊して行くのが分かる。

こんなリアルな感覚誰が作ったんだと恨みながら、気づくと完全に意識が飛んでいた。


「おう! 思ったより早かったな」


眼球が焼けるのが痛みで理解出来た。

視界が無くなるのを感じた。

しかし、目の前にキラクが立っているのが見える。


「俺、死んだのか? 」

「物分かりが早くて良いぞ! そうだ、貴様は死んだ、そして俺の元へと還ってきたんだ」


そう言って豪快に笑うキラクを見て一つの考えが頭を過った。


「もしかして、お前か? 」

「はっ!? 何の事だ? 」


綻ぶ口元を見てその考えは確信に変わった。


「イグリスに俺が遭遇するように仕向けただろ」

「おっ! 御名答だよ、流石だなぁ、関心するぞ」

「関心て、おま、ふざけるな! こっちは必死なんだよ! 」

「俺様だって必死だ」


少し黙れと言わんばかりにキラクが俺の腹部を殴りつける。

鈍痛が響き、吐き気を催すが、イグリスの一撃に比べたら大した事は無い。

それでも、息を吸うのがやっとでキラクの目的は達成されたらしく、悶絶している俺を気にもせずに話を続けた。


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