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フルダイブ技術研究所  作者: 白雲糸
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0、プロローグ

この世界は遥か昔から、永遠に運があるモノと運が無いモノに分けられて来た。

宝クジの当たる確率を知っているだろうか? その確率を聞いて当たるモノと当たらないモノの差を考えた事があるか? 俺はいつも自分の身に降りかかる不幸と幸運について考えて来た。

どうして、俺だけ。 いつもいつも飽きもせずに繰り返し考えて来た。

それが“俺だけ”では無いと気付かせてくれた人がいた。

その人は、不幸に包まれていた。

幼い時に両親は離婚し、母親は家を開けている事が多く、空腹を感じると、幼い間は母親が戻るまで家にあるものを何でも食べた。

幸い、水道の蛇口を回せば水は出る。 それでも、数日間何も食べないと苦しい程の空腹が押し寄せてくる。 それで、限界を越えると食べられそうなモノ、人工的な色を避けて、固いものを避けて、彼女は比較的に柔らかく白いティッシュを好んで食べていた。

年齢が二桁になって来た頃には、自分で外に出て空腹を満たす方法を覚えた。

コンビニへ行けば、スーパーに行けば彼女の空腹を満たしてくれるものは溢れていた。

学校にも行かせて貰えず、テレビも、雑誌も、新聞も外部から情報を得る方法を何も持たない彼女はそれらを現金と引き換えに得るという事を知らなかった。

勝手に外に持って出ていたが、最初の頃はあまりにも自然な動作に、誰も彼女の行為に気づかなかった。

家に持ち帰り、それらを食べていると、たまたま帰って来た母親に誉められた。

対して関心を示さなかった、母という存在が初めて自分を認めてくれたと、後に彼女は嬉しそうにその時の事を話していた。

それから彼女は、社会で生き抜く為に働くという事を母に教わって行った。

最初に教わったのが、女性が男性を喜ばせるという事だった。

それの対価として、現金を貰い、その現金で好きなものが買えるという事をその時に初めて教わった。

最初は痛くて、辛くて、悲しかったけど、次第にその行為に喜びを感じ、食べること以外に使い道の分からなかった現金が増え、あれだけ辛かった空腹を感じる事が無くなったと、無邪気な笑顔で俺に話してくれた。


俺の境遇も彼女と対して変わらなかった。

ただ、彼女と違っていたのは、俺は外に出ても山と川しか無くて、スーパーもコンビニも、さらに他の民家さえも無い環境で育った為に、空腹を感じると山に入り食えそうなモノを片っ端から口に入れた。

3度だけ死にそうになった。

最初は毒を持ったキノコを口に入れた時。

二度目は山で遭難した時。

三度目は熊に出くわした時。

どれも、ギリギリの所で命を繋ぐ事が出来た。


彼女はそんな俺の話を楽しそうに聞いていた。

その時の俺は、とてもそんな気にはならなかったけど、今では笑ってそんな時の話をする事が出来るようになった。


笑って俺の話を聞いていた彼女が珍しく質問して来た。

「毒キノコを食べた時はどうして助かったの?」

「吐いて、寝て、吐いて寝てたら治った」

「薬とか何も飲まずに?」

「人の治癒力て結構凄いだろ?」

その話を聞いて笑っていた彼女は、その数ヵ月後に命を落とした。


「人はね、上を見ればキリがないんだよ、でもね、下を見てもキリが無いんだよ、私達はね、幸せなんだよ」


そう言って最期を迎えた彼女の病名は“HIDS”。最期まで抗った結果がその結末だ。 納得出来るか? 何が幸せなんだ? 理解出来ない俺の腕の中で小さい命が必死に足掻いていた。

小さな手が俺の指を力強く握る。

何が幸せなんだ? 誰か教えてくれ……


「君は宝くじが当たる確率を考えた事があるかい?」



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