雨に映る私達
放課後、私達以外誰もいなくなった教室で、私と安原くんは向き合っていた。
朝より柔らかくなった雨が草木に降り、葉を濡らしている。外の部活は体育館に移ったり、練習が中止になったりと、グラウンドからは何も聞こえなかった。
サーッという静かな雨音だけがかすかに聞こえる。つばを飲み込む音ですら、安原くんに聞かれるんじゃないか。
お互い向かい合ったままで一言も発することなく、ただ時間だけが過ぎている。
私の視線は足元を泳いだり、右上を泳いだり、あちらこちらを泳いでいた。落ち着かない。後ろで組んだ指も爪同士をこすり合わせたり、手を組み直したり、制服を引っ張ったり、ずっと動いていた。
無言の時間を裂いたのは安原くんだった。
「天宮」
安原くんは上擦った声で私の名前を呼んだ。
「うん?」
私は喉が渇いていたため、掠れた声が漏れた。
緊張により、喉がカラカラに渇いて水分を欲している。喉が渇いているだけじゃない。大きく脈打つ心臓が足の先まで響いていた。指先がしびれ、熱を持っている。息がうまくできなくて、喉で何かが詰まる感じがした。
安原くんは深呼吸すると、私の瞳を捉えた。
視線が絡み合い、固定される。
頬を赤らめた安原くんが映る。
薄い唇が開いて――。
「天宮が好きです」
全身の血が沸騰し、肌を熱くさせる。
目を見開き何も言葉を発せない私をじっと見つめたまま、安原くんは言葉を続けた。
「雨粒だけじゃなくて、天宮の瞳に俺をずっと映してくれませんか?」
つまりそれは。
意識が遠のきそうになる。高熱を出したときみたいな浮遊感に襲われた。
返事しなきゃ。
意識を掴み、地に足をしっかりとつけた。
安原くんにはっきりと自分の気持ちを伝えないと。
私がどうして安原くんの笑顔を見たかったか。
私がどうしてずっと安原くんと関わろうとしたのか。
だってそれは――。
「私も、安原くんが好きです」
安原くんが好きだから。
安原くんは儚い笑みを浮かべ、恥ずかしそうに頭を掻いた。
降っていた雨は止み、雲の切れ間から日の光が差し込んでいる。
それはまるで、私達を祝福するようだった。




