ボツだもの宣言 その1
俺の名は灯牙。よく珍しい名前って言われる。
さて、俺の馬鹿げた話を聞いてくれ。
さっき俺は夕食を作っていた。
今日はカルボナーラに初挑戦してみた。具はベーコンのみ。
なんとか無事に出来上がったが、ソースがちょっと失敗して卵が形を現してしまった。
でも味は悪くなく一人でそいつを食べていた。
しかし、皿の上の物を半分くらい減らしたところで味が淡白に感じてきた。微妙に量が多かったのも原因だろう。俺はもう一つ別の要素が欲しくなった。
緑の香草か、ブラックペッパー、そんなモノを求めテーブルから3秒で移動できるキッチンの棚を開けた。
だが、そこに望みのものは無く、変わりに見つけたのは、赤いとうがらしだった。
悪くは無い、ピリっとしたアクセントになるだろうと思い、それが入った袋を取り出した。消費期限は……大丈夫。
とりあえず包丁で細かく切ろうと思い半分に、小さな種が沢山飛び出してきたんで驚いた。
実はとうがらしを調理に使うのは初めて、何で棚にあったか知らん。
しかしこれ、小さくて切りにくい、4等分にしたところでとりあえずテーブルに戻り、四つの欠片を皿に乗っけてみた。そしてその中で二番目に大きい欠片をフォークに絡めた麺と共に口に運んでみた。
単調になっていた味にとうがらしの辛さが加わる。なかなかいいぞ、と思った矢先。口の中に赤い欠片だけが残っているのが分かった。奴は俺の口の中を気に入ったらしい。
そんな馬鹿なことを思いながら、そいつを吐き出し指先に。噛み切れない、もっと小さくしなくては、そう思って3秒で移動、まな板の上にポトリ。
華麗な包丁さばきで細かく叩いてやろうと奴に挑んだが見事に敗戦。包丁が悪いのか、全然切れやしない。
俺はまな板から欠片を回収し、皿の前に戻ったが、どうにもイラっとして、奴を指で潰してやった。それが奴の弱点だった。奴は粉々に砕け、パウダー状になりパスタに絡まった。残っていた欠片もすべてそれで攻略してやった。
若干辛かったが、なかなか美味かったので満足。皿を空にしたら次は風呂と決めていたので俺は風呂に向かおうとした。だが待て、薄々気付いていたが、唇が痛い。奴め食われた腹いせに置き土産を残していきやがったか……
いやいや……とうがらしの辛さをなめていた俺が悪い。
俺は咄嗟に冷凍室を開け、氷を取り出し唇に当てた。
そうすることで和らぐ痛みの方が問題だったので、指先の冷たさは無視した。
氷を当てながら、脱衣所へ。
服を脱ぐ為に、氷を洗面台の横に一旦置いた。そこに置かれた氷は愛犬よりも可愛く見えた。これ程までに氷を愛おしく思った事はない。
服を脱ぎ裸になった俺は、痛み出した唇に氷を当てた。当然痛みは和らいだ。だが次の瞬間だった。溶け出していた氷は指先を滑り、洗面台に飛び込んだ。
湯船の中にも氷を持ち込むつもりでいたが、流石に落ちた氷は唇に当てたくない。俺は諦めた。だが次の瞬間、一旦諦めた氷を拾おうと俺は手を伸ばした。氷を掴む前にその手は止まる。どうせ溶けるんだから拾わなくても良いじゃないか、ここは洗面台だぞ…
さっきまで愛おしくあったそれは、洗面台に落ちたことで、一瞬にしてゴミと認識されていた。
新たな氷を取りに行くのは面倒臭かった。伸ばしかけた手を引っ込め湯船に向かった。
ふぅ〜
湯船に浸かると湯の温度と心地よさもあってか、微妙に痛みが和らいだ。だがそれで脳も油断した。
気が緩んだ俺は指先で摘むようにして両目を掻いていた。それが俺の癖なのかもしれない。普段なら何気ないことだった。
だがすぐにそれは襲ってきた。痛い、目が痛い。指先を見てみると真っ赤だった。奴だ…奴はまだ生きていた。自分に催涙スプレーかけた俺、アホか…
俺は半身を乗り出しシャワーを掴むと冷たい水を目に当てた。水が当たっていれば痛みを感じることはなかった。目を洗いながら学校のプールを思い出した。
しばらくそれをやっていると目の痛みは若干取れてきた。
髪も濡れたことだし、ついでに髪を洗おう、そうしている内に目の痛みは無くなるだろう。
そう思って俺は目をパチパチさせながら湯船から出た。
そこで俺の人生は終わった。こけて……死んだ。
俺は目を覚ました場所で数年振りに爺さんに会うと、俺の身に起きたことを話した。
すべてを知ったじいちゃんはいった。
「灯牙らしい死に方じゃな」
(了)
ボツネタってかラスト以外は実話っていう…
エッセイじゃねえかっ!って思ったんで、
無理やり俺を殺した。いや無知って怖いねw