第4話 生存確率……
母親ローパーが、寝床にしている部屋に戻ってきた。
折れた柱や崩れた壁が多く、隠れやすい場所になっている。
奥の隅のところが、定位置になっているようで、腰を落ちつかせている。
子供がいるせいか、母親ローパーは落ちつきが見られない。
周囲を警戒している。
私も床に置かれ、母親ローパーのうしろへ隠れている。
母親ローパーは出かける前と同じように、石片を集めはじめた。
粉々に砕き、触手で石片を子供たちに食べさせている。
習性なのだろうか? 子供の頃から与えられ、食べる習慣になっているのかもしれない。
食べ終わったら母親ローパーのうしろに隠れ座っている。
ローパーと言うモンスターは眠るのだろうか?
眠気は一切感じとれない。
とりあえず休んでいるところだ。
しばらく休んでいると、体に変化がおきる。
休眠状態という感じかな? 意識はあるのだが、体の状態が全く感じない。
体が感じないので、怠さ、痛み、痒みさえ感じない。
楽に休めている感じがする。
頭を切り替えるとすぐ反応できるみたいだ。
まるでPCのスリープモードの切りかわるように思える。
これはローパーの特徴かな。
ずっと起きている感じが否めないが、この感覚は、慣れるまで仕方ないだろう。
…… …… ……
どのくらいの時間がたったのだろうか、母親ローパーが動きはじめた。
近くにあるの石片を拾いはじめ、砕き食べさせる用意をしている。
粉々にした石片を子供たちに食べさせる。
やはりこれは習慣ということだろう。
ダンジョン内では日の入りと日落ちのサイクルがわからない。
! 異世界だ、1日という概念があるのだろうか? それさえわからないのだな。
このダンジョンは星に造られている?
ゲームや漫画でのファンタジー世界では、平らな島に浮いている世界とか、大樹に住んでいる世界とかが存在する設定があるみたいだけどここはどうなんだろう。
物が上から下へ落ちるので、重力はある事は確かだが、どこかの惑星にいると思うのだが違うのかな?
まさかと思うけど、神さまがいる世界で、重力をコントロールしているのだったら話は別だけど、それとも超化学文明の世界で人工的に創られた重力地場などあって、コントロールをできているの世界だったらそれも違う話になってしまう。
モンスターが住まうダンジョンがあるのだから、ファンタジー世界か超化学文明の世界か、気になるがどちらとしても、前世とまったく違う異世界にはかわらない。
考えるだけ無駄か、今は母親ローパーに従ってついて行くのみだ。
…… …… ……
母親ローパーが石片を食べさせてから、いつもどおり触手を出して子供たちを体に張りつかせる。
狩りに出かけるのだろう。
母親ローパーは動きはじめる。
このダンジョン内にどのくらいモンスターがいるのかな?
知識のある人類タイプの生物が存在するのだろうか?
ファンタジー世界なので魔法とか使えたりするの?
少し余裕が出たのでいろんなことを考えはじめる。
そんな矢先、1匹のモンスターが現れた。
体格は母親ローパーの触手をあわせれば同等の大きさだ。
現れたモンスターは恐竜の体に長い首が3つ付いている。
手はない、短めの足が4足ついている。
ゲームなどで知られるヒュドラと言うモンスターだ。
ヒュドラとしては小さくないか?
ファンタジー世界では、国崩しと言われるほど巨大で巨悪なモンスターと設定はあるのだが、ここでは違ってきているみたいだ。
母親ローパーと体格的に同等なので今回はどう対応するか気になってしまう。
しかし、私が思っていた反応と違って、母親ローパーはヒュドラに気づいた時点で逃走を試みた。
? 危険なモンスターなのか、体格的には同等だと思うのだが、今回は逃げに徹している。
子供たちがいるので戦いを避けたいのだろうか?
いや違うな、この母親ローパーの慌てぶりから判断すると、ヒュドラは危険なモンスターに違いない。
逃走をこころみるが、子供たちをつれているせいで思った以上に走るスピードが出ていない。
ヒュドラは足が速く、このままでは追いつかれてしまう。
T字型の通路にさしかかったところで、母親ローパーは止まってしまった。
左右どちらへも行かずに躊躇しているようだ。
この先はどちらも危険があるのだろうか?
そうこうしている間に追いつかれてしまった。
戦うしかないようだ、私たちを連れていては圧倒的に不利だ。
本来の力は出せないだろう。
どう戦うか気になる。
ヒュドラが向かって来た。
近づいて中央の長い首の口からブレスを吐いてきた。
氷結系のブレスだ。
母親ローパーはまともにくらってしまう。
ブレスの威力は大した事はなかったが、母親ローパーは怯んでしまった。
左の長い首が私のほうに近づいてくる。
「ガヴ」
子供1匹が銜えられて、絡めている触手ごとひきちぎられた。
左のヒュドラの口には、子供が銜えられている。
子供を1匹さらわれてしまい、激怒した母親ローパーは体から触手を出して取り返そうとする。
取り返そうと触手をだすが、右の首に噛みつかれ引きちぎられてしまう。
強い、天敵?
体格的に大きさは同じで、問題がなく戦えると思うのだが違っているのだろうか?
子供がいるので本来の力を出せないでいる?
それとも相性が悪い敵なのか、生命の危険が感じてきたぞ。
母親ローパーは強いと思っていたが、このダンジョンにはまだ強いモンスターが多く存在するのだろう?
弱肉強食の世界とわかっていたが、こんな展開がおこるなんて不安が増す。
ヒュドラは中央の首から咆哮をはいた。
咆哮をまともに食らい畏縮してしまった。
その隙をついて、右の長い首が近づき子供を銜えていく。
「ガヴ」
危なかった、また私の方向にきたのでやられたと思ったが他の子供を銜えていった。
ヒュドラの左右の口には、子供が2匹銜えられている。
母親ローパーは完全に畏縮してしまった。
母親ローパーは後先を考えずに逃走しようとこころみる。
しかし、うしろを見せてしまったせいで、隙をついた中央の長い首が子供の銜えた。
「ガヴ」
子供がヒュドラに銜えられさらわれてしまう。
ヒュドラの口には3匹のローパーの子供が銜えられている。
母親ローパーは子供3匹を失ってしまった。
母親ローパーは逃走を試みる。
ヒュドラは3匹の子供を銜えた状態で追ってはこない。
助かったのか?
ヒュドラは母親ローパーを狩るのではなく、つれていた子供たちを餌に襲ってきたのだろうか?
3匹の子供たちを餌にして満足だったのだろうか?
少し疑問に思う。
それにT字型の通路にさしかかった時に、わかれ道で躊躇して止まった母親ローパーが非常に気になる。
左の通路に移動したが、この先にはヒュドラ以上の危険がまっているのだろうか?
ヒュドラも追手は来ないので非常に気になるところだ。
少しだけ進んだら、小さな部屋にたどりついた。
たどりついた瞬間に、私の隣にいた子供が消えてしまった。
絡まって子供をおさえていた、触手ごと引きちぎられている。
何が起こったのだろうか、まったくわからなかった。
辺りを見渡すと壁に何体かモンスターが張り付いている。
そのうちの1匹が、子供を抱えているのだ。
灰色の人型のモンスターがいる。
身長120センチ、人間で言う7歳くらいの子供の大きさで、頭部だけが異様に大きく全身が灰色の体系をしているモンスターだ。
小さな黒い蝙蝠の羽らしいものがついていて、悪魔のような黒いシッポらしきものもある。
インプ?
確かゲームでは悪魔、使い魔と言われている上位のモンスターだ。
部屋を見渡すとインプとみられるモンスターが10匹以上壁などに張り付いている。
ここはインプの巣穴ということか、それで母親ローパーはこちらへ行くのを躊躇していたんだ。
相手は小さいが得体のしれない強さを感じる。
不自然と宙を浮いているのもいる。
飛べるのか、でも背中の小さな羽は使っていないみたいだ。
これだけの数を相手にするには無理がありすぎる。
あぁ、私はここで死んだな、このダンジョンは思った以上に危険すぎる。
弱肉強食とはいえ、異世界では生存確率が低すぎるな……




