第110話 緊急会議
イカロス魔導法国方面、ダライアス山脈付近から、大きい地鳴りのような音が聞こえてきた。
そのあとに巨大な雷の龍が天から現れて地上に舞落ちたと言う事をほとんどの人々が見ていたと言う。
・・・
ネイビス大公の名において、全ネイビス連合国に緊急招集会議が発令された。
開催にあたり1つの国の代表は不在だが、そのことは誰も言わないがわかっている。
今回の会議招集は場所指定だけであり、各国の代表が到着次第全員集まっていなくても、意見を交換し合う事になっている。
それほど重要な議題なのだ。
「アレンよ今回の件どうするんだ」
「どうにもこうにもならんだろうな」
「やはり奈落のダンジョンへは関わってはならなかったのだ。
知っているか聖輝教会からの神託が途絶えてしまったという事を、奈落のダンジョンに張ってあった結界もきれいさっぱり消えている。
東の空で眩い光が降りそそいだ朝からだそうだ」
「ああ、知っているよレイン、私もいろいろ調査隊を出しているのでな」
「輝翼神が死んだと言う話は、あながち嘘と言ってはいられないな。
現に神託がまったく届かなくなったのだからな」
・・・
「フリューゲル・ローレリア上級伯爵が到着いたしました」
「通せ、今回の会議はあくまで意見交換だ。
全員集まらなくてもいい」
もっとも一人はこれないがな。
「フリューゲル・ローレリア上級伯爵がはいります」
「久しいなローレリア殿あいからわず美しいな」
「世辞はいい、それよりも私があった魔物についてお話したい」
「そうだったな、我々も聞きたいと思っていたところだよ」
「席についてお茶でも飲みながら、話そうではないか」
・・・
「で、ローレリアよ、奈落のダンジョンの魔物と戦ったんだよな」
「ええ、戦ったわよ、完敗だったわ。
いえ、戦いにすらならなかった。
あの魔物は私の攻撃を受け続けていただけだったわ。
それも防御などすることもまったくしていなかった。
ただ、立ちつくしていたって感じだったわ」
「それにしては、嬉しそうではないか。
どうしてなんだ」
「あれだけの戦力差見せつけられては、どうにもならないわ。
もし私を攻撃してきたならば、一瞬のうちにお陀仏よ。
その魔物が私に誤ってきたのよ。
表紙ぬけしたわ。
死を覚悟していた時、そんなこと言われてわね。
戦いに来たのではないと言われた時ショックを受けたわ。
フリューゲルの精鋭部隊も近づくことさえできなかったし。
その存在に圧倒されてしまっただけだった。
こんな気持ちになったのはじめてだったわよ
フリューゲルの鮮血の戦姫って言われた私がね」
「誤ってきたとはどうゆう事だ、魔物がそんなこと言うはずなかろう」
「ええ、私も今でもそう思うわ。
でもねちょっとだけ話しを聞いたのだけど、私達より高い知能や知識があるのではないかと思ったわ。
人とは違う神の知識を持っているのではないかとね」
「馬鹿なそんなことが」
「そう思えるなら話してみればいいわ。
たぶん話を聞いてくれるはずよ。
魔物だったけどなんか妙に人間臭い感じがしたからね。
でもそれ以上の存在に思えたのはたしかだわ」
「冗談はよしてもらおう。
魔物となんか話せるわけがなかろう」
「そうかしら、機会があったらもう一度、私は話したいと思っているわ」
「ローレリア失礼だが、あの魔物と戦って頭がおかしくなったと思われても仕方ないぞ」
「別にいいわよ。
信じないならそれまでの話よ。
あなたとは話にならないわ」
「レインそこまでにしてくれ。
私もローレリアの話には興味がある」
「すまないが、君が戦った魔物との事を、最初から聞かせてもらえないか。
今の話では、抽象的すぎて何があったのかわからないのでな」
・・・
フリューゲル・ローレリア上級伯爵は先日出あった魔物との戦いの話しをし始めた。
かなり話を盛った言い回しをしたが、内容的にはほぼあっている。
貴族とは難儀なものだ。
こういう重大な時でも、自分を栄えあるように見せて話すのだからな。
・・・
「なるほど、そんなことがあったのか。
死んだ少女の亡骸を渡しにくるとは。
しかしいまだに話を聞いても信じられん。
いったいあの魔物は何を考えているのか、まったくわからない。
敵対しなければ、戦う事はなさそうに思えるが、イカロス魔導法国の件がある。
先日の戦いでかなりの被害が出た。
いやこれは少なかったとはいえるが、国家の礎が壊されてしまったのだ。
国の経済はイカロス伯爵の圧政で国民はぼろぼろだった。
今回の件で伯爵以下数名の指導者を失い、5千人近くの者が消滅その他怪我人多数でている。
問題なのはあの戦いに参加したイカロスの兵達と国民だ。
あの巨大な力を目の前で見て感じてしまったのだからな。
精神的におかしくなってしまっている現状だ。
一般兵も市民も、あの戦いを見たものは、兵としても、国民としても使い物にならんだろうな。
それほど巨大な力を見せつけられてしまったのだよ。
イカロス魔導法国は、なかば滅びたって言う事だ。
そのことによってネイビス大公連合国はどう判断するかだ。
成り行きによってはあの魔物と人間界との争いは避けられないだろう。
それが問題なんだよ」
「私は戦うのは遠慮しとくわ。
勝てる道理もないし、戦う理由がないのですからね。
あの魔物の目的は、光輝神という偽物の神の討伐だったらしいから。
目的以上の事はしないと思う。
どうやら討伐は終わったらしいですから。
その考えを踏まえて、私はどちらとも対立しない、中立を表明するわ」
「なるほど、ローレリアの考えは、わかった。
その考えを尊重しようではないか」
「ネイビス閣下失礼します。
カンザス・メイファン上級伯爵とオルネリア・ゾニス上級伯爵がご到着なされました」
「通せ」
「メイファン殿、ゾニス殿久しいな。
どちらも元気そう ・・・ には見えないな。
奈落のダンジョンからでた魔物にたいしての心労が大きそうだ」
「そうですね、ネイビス大公、私は疲れました。
今回の件で私は引退を決意しました。
カンザスの国は息子にでも譲ろうと思っています」
「そんなメイファン殿こんな大事な時に」
「その通りです。
こんな大事な時に私が辞めるわけにはいけません。
最後の仕事でもありますが、私は奈落のダンジョンの魔物と会談をもうけたいと思います。
懇意にある獣人の使者から神の使いである、みつぐ様からネイビス連合国との話し合いをもうけたいと言う打診がありました。
まず私が使者として出向き、どのような内容か確認したいと思っています。
使者の話からですと、奈落のダンジョンへ派遣してきた、者にたいしてはたいそうお怒りになっていますと聞きました。
今回は神を自ら名乗っている偽物を討伐しに地上へ参られた聞いております。
詳しいことはわかりませんが、お怒りになっていることは確かです。
こんな年おいた私ですが、私の命一つでなんとか治めてくれるように交渉したいと思います。
あとの事はお頼み願いたいのです」
「メイファン殿だけには任せられません。
隣国である私も交渉につきたいと思います。
私も命をかけますので、メイファン殿そう悲観なされずまずは交渉してみましょう。
問題は取り合ってくれるのかだが、生贄が必要になってくるかも知れませんな」
「メイファン殿、ゾニス殿、そのようなことはおきませんわ。
生贄を用意したら逆に怒りをかうのが明白ですわ。
もし宜しければ私も同席します。
私はあの魔物と戦いました。
ですがこうして生きています。
少しだけど話を聞きました。
私の大切な部下をねぎらっていた魔物です。
いえ、神の使い・みつぐ様でしたか。
私は暴挙をする方だと思っていません。
イカロス魔導法国に行くのは神の名を語る偽物の光翼神の討伐だと言っていましたから。
あの戦闘に様子では実際に討伐なされたのでしょう。
私はすでに戦いは終わっていると思います。
話し合いはできますと思うので、気を楽にして考えましょう」
「フリューゲル伯、そうなのですか。
ですが私は」
「そうお気に落とさず。
私が交渉の責任者となってもいいですわよ。
責任は私がとりますから」
「フローレアいいのか随分楽観的に考えているのだが」
「もし交渉が決裂に終わって全面戦争になっても、どうにもならないでしょう。
それになったとしてもこちらで仕掛けなければいっさい動かないと思うので大丈夫なはずよ。
今までだってそうだったでしょう。
奈落のダンジョンへは手を出してはいけない。
そういう古くからの伝承でしたわよね」
「ああ、そうだったな。
それでは仲介役として、フリューゲル・ローレリア上級伯爵にお願いしたい」
「ネイビス大公閣下、謹んでお受けしたいと思います」
フリューゲル・ローレリア上級伯爵は一礼した。
「とりあえず、どこか部屋を借りられますか。
今後の事を、話し合いたいと思いますので」
「ああ、そうだな用意しよう」
「それじゃ、メイファン殿、ゾニス殿、私達は別の部屋で今後の事を相談しましょう」
「そうですね。
ローレリア伯、有難うございます。
この老婆少しは安心できました」
「別にいいですわよ。
私はあの魔物に興味があって話し合いをしたかったのですからね。
願ったりかなったりですよ」
「おいおい、そんな調子で交渉など大丈夫なのか」
「大丈夫もなにもどうにもならないんでしょう。
それだったら、これ以上怒りをかわないようにするだけですわ」
「・・・」
「レイン私達は後から来る、オルトス伯とロイロ伯、バルバドス伯の意見を交換しようではないか」
「ローレリア決まったら教えてくれ」
「我々もできるだけ協力したいと思う」




