第1話 プロローグ 誕生……
ふと思い出すことがある、自分が生まれてきた瞬間のことを、特に体調を崩し高熱をだした時に鮮明に思いだすことがある。
あぁ、今回も人間に生れてきたのだとわかって安堵し、眼を閉じると意識が遠のくような、記憶が浮かぶのだ。
人間に生れてきたことがわかるが、前世の記憶はない。
実感はあるのに記憶がないという、もどかしい感覚だけが残っている。
…… …… ……
私の名は木下来飛27歳、広告代理店に勤めるゲームや漫画が好きな、いわゆる今どきのサラリーマンてやつだ。
今日は外回りで取引先と打ちあわせのために移動中だ。
交差点に差しかかり赤信号の待ち中に、ちょうど青になったところで交差点を歩き始める。
スマホの着信が鳴る。
あぁ、上司からの連絡か、ながらスマホはいけないけれど、どうしてもでないとならないな。
スマホを取り通話し始める、その瞬間だった、1台の普通乗用車がこちらに突っ込んできた。
スマホが私の手から離れ、宙を舞ったところまでは記憶に残っている。
…… …… ……
意識を覚ますと暗闇の中だった、目も見えず、体が動かない。
死んだのだろうか? 交通事故にあったのは確かだと思う。
声を出そうとするが一向にできない。
やはり死んだのだろうか? それともいわゆる意識だけが残っている植物人間状態? その可能性も考えられるか、絶望と恐怖で心が沈む。
意識を集中させてみると、なにかの音が聞こえる。
「ズルズル、ズルズル」となにかを引きずりながら動くような音のようだ。
耳は聞こえているようだ、でもおかしいこんな奇妙な音は普段は聞いたことがない。
事故にあって運ばれているのであってもこんな奇妙な音はしないだろう。
事故にあう前には、交差点には何人か人がいた。
近くにいたのであれば、運ばれているのであっても人の声とか聞こえてくるだろう。
音は聞こえるのだ、それに救急者を呼んでいるのであればサイレンの音とか聞こえてくるはずなのになにも聞こえない。
ただ、「ズルズル、ズルズル」という何かが引きずり動いているような音だけが聞こえてくる。
しばらくして、「キシャー」と言う奇声のような声が聞こえる。
獣が、うめく声だろうか?
猫がけんかしている時のような、似た声を聞いたことがあるけど、もっと重く獣に近い声が聞こえる。
「ズルズル」という引きずられて動く音も聞こえるし、まるで何か大型の獣が争ってぶつかる、怪獣映画で聴いたような打撃音が聞こえてくるのだ。
逃げなきゃ、でも体はいう事が効かない。
現状がどうなっているのかまったくわからず、ただ恐怖感だけが広がり不安が増してくる。
少し時間がたって、「ドゴッ」と何かが地面にたたきつけられるような音が響き渡った。
それからしばらくして……
「バキバキ、グシャリ、クチャ、グシャリ、クチャ」
奇妙な音が耳元で聞こえてくる、まるで獣が肉を骨ごとむさぼり食うような音だろうか?
恐怖で頭がおかしくなりそうだがどうにもならない。
耳は聞こえるが、体がまったく動かない、目がまったく見えないのだ。
ここは病院なのだろうか?
もしかして病院でバイオハザードとかあってとんでもない事件になっている?
それとも、事故で死ぬ寸前だから秘密裏に闇の組織に売られ、人体実験の材料として実験室にいるのだろうか?
ゲームとか漫画とかであるような話を考えはじめる。
あぁ、漫画の読みすぎだ、漫画脳になっているよ、でもこれは夢であってほしいと心から思う。
何日、何時間あれからたったのだろうか、この長く感じられる時間がもしかしたら1時間ともたっていないかもしれない。
意識を集中してみると音だけではなく、体に何かにぶつかりあうよな感覚や、やわらかい物に触れあたる感触がつたわってくる。
体の感覚が戻ったということなのか?
しばらくすると、「ズルズル」と引きずられる音もなくなった。
しかし、急な変化がおとずれた、私は何かの中で動いている?
体が揺れ動いているのだ。
ひどく揺さぶれるように動いている。
上下感覚がわからない?
まるでなにか押されるような感じもする。
近くで何かと激しくぶつかりあっているような感覚があるのだ。
何かに体が押された?
ズレたように動く不思議な感覚がした。
それにつづいて私の体が激しく動くような感じがある。
でも、手も足も動かすこともどうにもならない。
怖い怖すぎだ、なんなんだ? 私になにがおこっているのだ、誰か教しえてくれ?
次の瞬間、激しく押し出されるような感じで、地面に落下する感覚がした。
「ボトリッ」
うぅ、苦しい、だがこの感覚は、以前経験した記憶がある。
! 生まれた、そうだ私は生まれたのだ。
眩しい、光が感じられる。
目を見開いた感覚はないのだがあたりが見渡せる?
! 私の前には大きな奇形なモンスターがいた。
「ギャー」と心の中で言ってしまうが、声はだせない。
あぁ、そうか、そういうことか、わかったぞ、私は交通事故で死んでしまったのだ。
そして、今回は奇形なモンスターとして生まれ変わったのだと……