プロローグ
8月。晴れ。気温28℃。これからもっと暑くなるらしい。それを喜んでいるのか、セミの声が普段より2割増しでうるさかった。
そんな声をかき消すようにドンッと低く鈍い大きな音がした。それと同時に、僕は宙を舞った。楽しかった事、辛かった事が頭をよぎった。これが走馬灯というやつだろうか。僕は地面に強く身体を打ち付けて、数メートル転がり止まった。空がとても青く澄んで見えた。僕の意識はここで途絶えた。
気付くと、僕は雲の上にいた。厳密に言うと、雲の少し上に見えないガラスが有り、その上に立っているようだった。
「あれ、さっきまで何やってたっけ?」
現状を少しでも理解しようと辺りを見回した。すると、20歳ぐらいの男性がいた。英国紳士っぽい服を着ているが、日本人っぽさが見え隠れしていた。彼は、僕に気付いたのか手まねきをしている。僕は、小走りで近付いた。
「乃村詩音君だね」
「え? はい、合ってます。なんで、僕の名前を?」
「我は『神』である。だから何でも知っている」
初対面の人にいきなり名前を当てられ、その上自分のことを神とか言っていて頭が全く追いつかない。
「頭が追いついていないようだね。まぁそうなるのも当然だ。そこのイスに座って落ち着くといい」
神様の指さした先にイスが2つ、向かい合わせで置かれていた。さっきまでなにも無かったはずだが、それを考える余裕は無かった。
「では、お言葉に甘えて」
イスは雲で作られていた。座ったら凄くフワフワしていた。向かいには、当然だが神様が座った。少しはリラックスでき、冷静に状況整理が出来た。それを察したのか神様は真面目な顔をして口を開いた。
「突然だが詩音君。君は死んだのだ」
「え?」
突然なことに脳がフリーズした。だが、冷静に考えれば納得できた。なぜなら、生身の人間がこんな雲の上にいるわけがない。念のために頬をつねった。痛い。これで夢でもないと判断できた。したがって、目の前の人が神様ということも本当なのだろうと思った。
「ここからが本題だ。君には異世界に行ってもらいたい」
僕は異世界という単語に身体が反応した。それに気付いて神様はニヤリと笑って話を続けた。
「君には異世界を平和にしてきて欲しい。我ら神もやることが多くて忙しいのだよ。これ以上仕事を増やすと、ストライキを起こされそうで怖くてね」
いわゆる異世界転生だろうか。てか、神様もストライキとかするんだ。
「でも、なんで僕なんですか?」
「死ぬ前に君は神社でお参りをした。願いは『異世界に行きたい』だ。だから叶えてあげようと思ったのだが、無理にとは言わない。嫌なら輪廻転生に戻そうと思うがどうだ?」
「異世界に行きたいです!」
僕は迷うことなくそう断言した。それがどんな大変なことになるか考えることなく。神様はまたニヤリと笑うと僕の頭に触れた。
「説明が長くなるから直接脳に叩き込む」
「え? 叩き込む?」
「あぁそうだ。向こうの言語とか知識とかを脳に直接覚えさせる。まぁ少し覚えきれずに忘れることもあるだろうが問題ないだろ」
不安しかない。神様がブツブツ呟くと、突然頭に膨大な量の情報が入り込んできた。すると、酔ったような状態になった。吐きそうになったが、横になって休んだら少しは楽になった。
酔いが覚めて、イスに座り直した。
「さて、これで準備は終わった。後は使い魔に聞いてくれ」
「使い魔?」
「役に立つペットの用なものだ。我の使い魔を1体君に付ける。困ったらソイツに聞いてくれ」
さっき与えられた知識の中に使い魔について少しあった。
どうやら、使い魔は向こうの世界では魔法士にとって当たり前のような存在らしい。喋る上に使い魔によっては様々な能力を持っているそうだ。
「では、目を閉じたまえ。これより向こうの世界へ転生する。安心したまえ、使い魔にはすぐ会えるから。では、向こうの世界を平和にしてきたまえ!」
言われた通りに目を閉じた。神様がまたブツブツ呟くと、急にジェットコースターのようなフワッとした感覚に襲われ、そして意識を失った。
マイペースで書いていきます。