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アル・フィアータの魔女物語  作者: 宿木ミル
マギアスペース編
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私と出会う相手のイメージについて

 外で友達と一緒に食べるお昼のご飯は会話が弾んだり、景色を楽しめたりで良いことがいっぱいだった。……今度もっといっぱいの人数で集まってそういうことをしてもいいのかもしれない。

 それはそれで、とてもいい思い出になったけれども本命はそこではない。

 今の私たちの行動の目的はマギアスペースの探索だ。そちらも気合をいれないといけない。

 しっかりとした食事をとった後はやる気も沸いてくる、というものである。そのやる気を持って、調査に取り掛かりたい。

 食事を行っていた川辺から移動して、再び森林の中へ。

 道案内は相変わらずトゥリが担当している。

 休憩地点からそこそこ歩いたら到着するとは彼女は言っていた。

 トゥリは突飛な行動を取ったりすることはあるけれども嘘はつかない性格だ。だから、事実なのはわかる。

 何歩か歩いた後、トゥリが振り向いて話しかけてきた。


「多分そろそろ到着だと思う」


 想像していたよりも早い報告だったので驚く。


「……本当に近いんですね」


 リアも拍子抜けという雰囲気だった。


「マギアスペースに住んでいる魔女とかも、もしかしたらあの場所が気に入っているのかも」


 少し考え込んだ後、トゥリはこうなのかもしれないという風に気になっていることを口にしていた。


「川辺で散歩とかしているってこと?」

「それもあり得る可能性はある」

「……水着で水浴びとか」

「もしかしたらしてるのかも」

「……なんだか、開放的な魔女な感じがします」

「リアも水着になる?」

「な、なりませんっ」


 顔を赤めらせてリアがトゥリに反発していた。

 ……開放的な魔女。なんだか、悪くない響きだ。

 露出が多めとかそういうのにびびっときたわけではない。単純に、言葉の雰囲気と、自由な感じがいいなと思ったのだ。


「アルは、マギアスペースを創ってる魔女について、どういう魔女だと思う?」

「え、なんで急に」

「考え込むような顔になってたから」


 返答に少し悩む。

 けれども、こういう時は素直に言ってしまった方がいい気がする。


「単純かもしれないけど、結構古典的に話すタイプじゃない?」

「古典的ってどんな感じ、でしょうか」

「ほら、なのじゃ〜とか、じゃがじゃがしてそうな……そういう話し方?」

「な、なるほど。威厳がある感じ……?」

「概ねそうなるかな」

「い、嫌じゃ、わらわの住居を荒らされとうないとかそういうイメージか」

「そうそう。……トゥリ、結構、雰囲気出てるかも」

「アルの印象はなんとなく予想できたから」


 魔女図書館に性質が近いというマギアスペースを作成できる魔女というのもあって、どこか高貴なイメージを頭の中で思い浮かべている。

 トゥリは声でそれを表現してくれた。思い浮かべているものに近かったから困惑してしまう。けれども、わかってしまうあたり流石彼女と言えるのかもしれない。


「……なんだか、私のイメージとは違いますね」

「リアはどんなイメージなの?」

「……そうですね。わたくし、とかそういう喋り方を考えてます」

「わたくしに跪きなさーい! ……みたいな?」

「そこまで、アクティブな感じではない気が……」


 イメージ失敗らしい。

 なんだか違うという様子で首を横に振られてしまった。

 リアが思い浮かべていたのがお嬢様系なのは予想していたけれども、私が考えているそれとは違ったみたいだ。少し、悔しい。


「わ、わたくしに、なにか、用事みたいなもの、ありますでしょうか……? 的な」

「……派手なマギアスペースを作成する魔女が、そこまで控え目な様子だったらギャップが凄そうですが……」


 考えているものとは違うということか。つまり、これも違う。

 ……我ながら迫真の演技だったような気がするからバッサリと違う感じだったのはちょっぴり悲しい。リアを動揺させられたから少しくらいは成功かもしれないけれど。

 やっていることが両極端なのかもしれない。そう思ってもう一回チャレンジしようとした瞬間だった。


「リアが手本を見せてほしい」


 そう、トゥリが提案したのであった。


「え、えっ、私が?」

「きっとリアなら、完璧にこういう相手かもっていうのが伝えられるから」


 驚いた様子であったが、それでもトゥリの提案には一理あるという表情にはなっていた。

 ……単純に、リアの、私みたいに演じる姿が見たかったというのはあるかもしれないけれども、積極的にどういう風にイメージしているのかを教えてほしいと切り込んでくれたのはありがたかったりもした。

 ……多分、ピントずれの演技を繰り返していたかもしれないから。


「わ、わかりました、やってみます」


 その場に少し立ち止まり、深呼吸。

 そして、彼女の口が開いた。


「わたくしに何か御用ですか? 城主たるもの、何事もしっかりお応えしますわ」


 気品に溢れる王女という印象だ。それが、リアが思い浮かべていた魔女なのだろう。

 心なしか、初対面の時のリアの口調に似ているような気もしないわけではない。


「こういう風な方をイメージしてはいるのですが……やっぱり、なかなかうまくできませんね」


 照れくさそうにリアが苦笑する。

 あこがれているけど、届かないみたいな雰囲気を感じた。


「こういうリアの姿も好きだけど」

「え、そうですか……? ありがとうございます」


 トゥリの言葉に素直にリアが喜ぶ。

 慣れてないことをしてみて、よかったという嬉しさみたいなものがリア自身の態度から伝わってきた。


「言い出しっぺのトゥリはどういう魔女を思い浮かべてるの?」


 話題をもたらした相手に聞くのも重要だろうと思い、聞いてみる。


「水浴び系」

「……もっと具体的に」

「魔女っぽくないけど魔女っぽい感じ」

「魔女っぽくない、魔女っぽい……?」


 まどろっこしい表現で、リアが混乱する。

 ……正直、私もよくわからないと思ってしまった。


「それってどういうこと?」

「魔女っぽくないことをしたりする魔女ってこと」


 前に歩くのを再開して、こっちを見ないでトゥリが喋る。


「人間をからかうのが好きだったり、人間嫌いじゃなかったり、悪戯心があったり、フレンドリーな魔女」

「……なんだか、近くにいるような……?」

「アルみたいなタイプだと予想してる」

「私みたいな?」


 唐突だったので驚く。

 少し変な声になったかもしれない。


「日常を謳歌するのが楽しいっていうタイプの魔女だったら会うのが面白いと思って、それを言ってみた」

「……それって、予想というより願望じゃ」

「でも、当たったらもっと面白いかも」

「わかる」


 なんだかんだでトゥリもトゥリなりに楽しみにしているのかもしれない。

 新しい発見や、未知との出会い。そういうものへの関心はなんだかんだで強いのだ。


「……その、話し方とかどういうものなのかも気になりますよね」


 先ほどの流れである、話し方についてリアが問いかける。

 少し悩むような唸り声が聞こえた後、トゥリが言葉で再現した。


「まぁ、そういうのってよくわからないよね。実際に会ってみないと」

「え、えっと、今のは……?」


 突然トゥリがいつものテンポの口調ではなく、饒舌になった。

 あまりにも普段とは違うものだから、リアが唖然としていた。

 ……なんとなく、今の口調は誰の真似か私にはわかっていた。


「……トゥリは私みたいな魔女がいそうって言いたいんだよね、多分」

「流石。なんでわかった?」

「突然、私みたいな口調をされたらわかるって」

「……なんだか、凄いです」


 なんで伝わっているのか、という風にリアはびっくりしていた。けれども、私は何故かトゥリの言いたいことがわかっていた。

 ……よくわからないけど、以心伝心なのかもしれい。


「でも、本当にトゥリの言った通りで会ってみないとわからないっていうのはあると思う。もしかしたら、もっとフランクなのかもしれないし、男口調だったりするかもしれないし、目の前で会話できる時まで、どういう相手かってわからないから」


 大切なのは受け止めることだろう。

 相手がどんな魔女であっても否定から入るのではなく、しっかり理解することから入っていくことを意識していきたい。


「だから、先入観に惑わされないで、なるべくフラットな形で会えたらいいなって」

「……素直な感性が大切ということですね?」

「そうそう。予想はするけど、断定はしないみたいな。可能性はいっぱいなわけだし、それを無くしちゃうのも、なんだかもったいないからね」


 楽しみなことに心を弾ませすぎて、逆にいざ会ってみた時に残念な感じになってしまうというのは極力避けるべきだろう。

 想像はする、けれども過度な期待を寄せすぎない。

 バランス感覚を意識しながら、自分の心のわくわくをコントロールできたら色々素敵だと思う。

 ……このことは、メモに書いておくべきだろう。


『期待はするけど、しすぎない! 可能性をなくすのはもったいないから注意!』


 ちょっとした警告文みたいだけれども、可愛い雰囲気を意識してメモに書いておけばそんなに重い感じにはならないだろう。なるべく意識しておきたい。


「ん。到着した」


 メモのことを考えている間に、トゥリは目的地までの案内を終了していた。

 ……私が確認すると、そこには、なるほど、不思議な建物が存在していた。

 ビスケットの屋根。

 クッキーの窓。

 チョコレートの扉。

 マドレーヌの装飾品もいくつか。

 ……そう、トゥリが言っていたマギアスペースとは『お菓子の家』だったのだ。

 想像も、予想もしていなかったから、私もリアもただ、その家を見て感嘆の声をあげることしかできなかった。

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