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私と空を飛ぶための翼

「今日は何をしようかな?」



 魔女図書館の自室。のんびりとくつろぐ。今日はトゥリがやってきていないのもあって、いつも以上にゆったりとした時間のように感じる。

 大まかな目標に向かって頑張ろうとしていた時期は、正直なところ、気持ちが右に左にと、行ったり来たり状態だったと思う。

 新しい出会いや、刺激的な体験。それらは私の経験となって色々な力になってくれる。それは素直にありがたいことだとは思う。ただ、それも繰り返しになってしまうとどうにも疲れてしまう。

 気品溢れる女性がティータイムを求めるように、私も一休みする時間が必要なのではないだろうか。

まぁ、アル・フィアータという魔女がそんなことをするのか、みたいに考えてもそれはないだろうとは自分でも思ってしまうけれど。


「読書して一日を過ごすのもなんだかもったいない気がするし……」


 こうやって有意義な時間の使い方を考える時間も勿体ないかもしれない。それでも独り言を重ねる。どうしようか。こういうタイミングでやれることはなにか。

 考える、考える、繰り返し考える。

 なんとなくうなり声もあげながら考える。

 ふと、ひとつ。いいことが思い浮かんだ。


「こういう時こそ、魔女っぽく空を飛んでみるのがいいのかも」


 あまり使わない箒を使って空の旅。

 風を感じて思うがままに飛ぶ。

 なかなかいい気分転換になるのではないか。少なくとも、考えるだけの状態よりはいい。

 このアイデアは即刻採用しよう。そう思い、あまり使用していない、自室の隅に置かれた箒を手に抱え、すぐさまに呪文を詠唱した。


「ケラヒヨラトビ!」


 単純にして覚えやすい、魔女図書館から外の世界を繋ぐ扉の呪文。これで人目のつかないところから箒で飛び立つ準備はできた。

 荷物は軽くしていこう。変に持っていったりして、空から荷物を落とすようなことがあったら大変だ。そうなる可能性があるのが気がかりで、きっと移動速度も上げられなくなってしまうだろう。トートバックなど、落としそうなものは持っていかない方針でいこう。メモ帳も、今回は自室に置いていく。

 服装は、魔女スタイルでいこう。自由に、魔女っぽく、軽やかに。スピードは速めにする予定だから、変なところを見られるようなことにはならないだろう。だから、ミニスカートでも、大丈夫。


「さてと、行こうかな」


 鳥が羽ばたくように空を飛べたら理想的。そう思いながら、私は外の世界への扉を開いた。






 私が出てきた場所は、街でも田舎っぽいところでもない、海辺の付近だった。春先の海辺であるのもあって人並みはそんなにない。海の付近には当然砂浜がある。ごみもあまり落ちていないので清潔な雰囲気を感じる。

 魔女図書館から続く扉の周囲については、特に異常なし。強いて言うならば、私が出てきた場所の周囲は草木が生い茂っていて、注目されにくいというのがあるだろうか。

 出てきた位置から、自分の目で砂浜を確認してみる。そこにいるのは、貝殻を拾うような人くらいだった。

 ……これはなかなかに好都合だ。

 箒で飛ぶ最初の行程を見られないで済むというのは集中できるということだ。つまり、飛ぶ準備がしやすい。

 早速、持ってきた箒に魔力を注ぎ込み、用意を万全にしていく。

 箒を扱って飛ぶ時に重要なのが、魔力を注ぐという行為だ。これを怠ったりすると、うまく飛べなかったり、途中で墜落したりしてしまう。

 集中して、箒に魔力を注いでいく。やりすぎると魔力の使いすぎでくらっとしてしまうので、なるべくやりすぎないことを意識しながら、それでもしっかりと充填していく。

 数分が経過して、箒が独特な光を発した。私の注いだ魔力の光だ。赤く青く、時に白く。まるで金平糖のようにカラフルな光だ。これで、箒の魔力の下準備は万端。いつでも行ける。


「途中で墜落なんてしませんようにっ」


 箒を浮かせて、その上に座り込む。跨がるような姿勢ではない。バランスとしてはあちらのほうがよいのは事実ではあるのだが、私自身の好みとして、座るような姿勢のほうが好きなのだ。

 箒を浮かせて、空に舞い上がる。下手をすれば落っこちてしまいそうだけれども、箒そのものの魔力に引っ張られるように意識すれば問題ない。箒での飛行は、想いを繋げることが大切、それが魔女の箒に乗るということだ。

 思いきり、魔力を込めて、飛び立つことを念じる。それだけで、準備万端。空中で静止していた私の箒は、私と共に海の上を飛んでいくこととなった。

 ……全身に春の潮風が染み渡る。

 四方から聞こえてくる波の音も心地がいい。

 バランスも自分でもびっくりしてしまうくらい安定している。箒の上に座っているだけだというのに、落ちるような不安定さもない。

 風に煽られて、スカートもひらひらとしてしまうが、さして気にする心配はない。そもそも、それを気にしなくても問題ないほど、速い。

 でも、押さえないとなんだか恥ずかしい気はするから、片手だけはスカートには添えていたりしている。


「……こうやってると、なんだか時間とかどうでも良くなっちゃうかも?」


 ただ風の音を聞いて、波の音を聞いて、気持ちはどこか落ち着いているけど、スピードだけはとっても速い。忙しく移動しているようで、その内面はとてもゆったりとしている。時間の感覚としては、ひっちゃかめっちゃかだ。でも、だからこそいいのかもしれない。

 少しだけ速度を上げて、遠くで飛んでいた鳥の隣まで箒で私も飛んでいく。

 一定のペースを保ったまま遠くへ、ただ遠くに旅たつ鳥も、自由に生きているのだろうか。時間に縛られたりしてないのだろうか。

 箒の速度を鳥の飛ぶ速さと同じになるように調節する。空の旅ついでに、鳥の観察だ。なるべく邪魔にならないように、後ろから付いていくことを意識する。

 名前も知らない目の前の鳥は、翼が大きくて、どこかかっこよかった。

 一羽しかいないけれども、群れからはぐれたという様子でもなく、放浪の旅人のような雰囲気があった。それでも、前を見て飛ぼうという意思は強く、どこまでも、どこまでも真っ直ぐ飛んでいっている。


「まるで自分の道を貫いているみたいな……」


 そういう姿は素敵だなと思った。

 自分の道を切り開こうという意思、そして想い。大切な気持ちを抱えて生きている、そう感じるからだ。

 羽を広げ、自分の翼だけで飛んでいく。

 あの鳥が旅人だって思っているのは私だけかもしれない。けれども、それはそれでいいのかもしれない。感じ方は人それぞれ、魔女それぞれだ。

 私も、翼を広げて羽ばたけるような魔女でありたいと思う。

 もちろん、翼が欲しいというわけじゃない。でも、心の翼みたいなのはあってもいいのかもしれない。私だけの、大切な、未来に羽ばたく為の翼とか。


「……ちょっと、カッコつけすぎかな?」


 自分ながら、少し恥ずかしい言い回しかもしれない。でも、なんだか悪い気はしなかった。私の翼、私だけの翼。

 箒で飛んでいくのもある意味では翼で飛んでいくということになると思うけれども、そうじゃなくって、概念としての翼を持っておくのもいいだろう。

 私の翼は、どうしよう。ちょっと派手すぎるかもしれないけど、カラフルなものがいいのかもしれない。でも、虹色は派手かもしれない。なんていうか、そっちは私っぽくない。

 なにがいいだろうか。悩んでみて思ったのは、素直な感性で考えてみるのがいいのかもしれないということだった。それを見つめ直してみると、私の場合、金平糖の色がいいのかもって思った。

 どこか落ち着いていて、でも色鮮やか。色々な色をしているけれども、同じ形がない。私だけの独自性のある翼。金平糖の翼。なんだかいいかもしれない。


「ちょっと、それも独自性がありすぎるかもしれないけど」


 私だけの、素敵な翼なのではないだろうか。

 その翼ならもっと空高く、自由に飛べるのかもしれない。私らしく、のびのびと。

 ……箒に乗って、鳥を見ていただけなのに、いっぱい考えが思い浮かぶ。でも、それは悪いことじゃないのではないと信じたい。

 発想の自由さは他人と関わる上でも、自分のことを考える上でも、どちらでも大切だ。それを磨くのは素敵なことだと思う。

 今日のメモにはこんなことを書いてみようか。


『私だけの翼を考える! そして、私なりに飛んでみる!』


 空が青く、どこまでも続いているように、私の想像力だって、どこまでも続いているだろう。それを信じて、飛んでみるのもいいのかもと思った。

 箒で風を浴びながら、遠くに行けるように、私の足はどこまでも歩いていける。想像力だってきっとどこまでも飛べるだろう。

 この感性と情熱はどこまでも大切にしていきたい。誰に言うわけでもなく、心の中で、ひっそりと決意した。

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