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アル・フィアータの魔女物語  作者: 宿木ミル
悪魔憑きの魔女編
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私とちょっとした準備について

 悪魔と契約した魔女との約束を取り付けることができた。これはとても重要で、大きな第一歩であったと思う。相手から手紙が届いたということも、行き先を教えてくれたのもありがたい。

 そのまますぐに会うという選択もできたものの、それはあえて避けることにした。おもてなしするほうにも様々な準備が必要だろうし、私も私なりに準備がしたかったからである。

 相手も了承してくれたしそもそも、準備がまだできていないから後日にしようと言われたので、こつこつと用意を整えることにした。

 どんなものを持っていくべきか。甘い物が好きか苦いものが好きか、なにかしら遊べるものでも持っていったほうがいいだろうか。考えることはたくさんある。ただ、考え込むにつれて、どうするだろうと頭の中でぐるぐると思考が行ったり来たりしてしまう。

 ……そんなこんなで、私は今、魔女図書館の自室で悩んでいる。

 相手の部屋にお邪魔する日程は2日後。何もしていないとあっという間にその日が来てしまうだろう。そんな中、私は頭を悩ませていた。


「何を持っていくべきなんだろう……」


 ココアを持っていって、力説なんてしたら引かれてしまうかもしれない。変にグイグイ話を展開しても気まずくなるかもしれない。そう思うにつれて、なんだか考えが纏まらなくなってしまう。

 相手から誘われたという側面もないわけではないので、そんなに緊張したり、気を使わなくてもいいのは、自分自身も感じている。しかし、それでも、お土産みたいなものを持っていかないのは、やっぱり気まずいのかなと思っていた。

 そもそも悪魔と契約した魔女のことを探していて、その探していたような魔女から招待された、という事実がちょっとしたプレッシャーとしてズシリとやってきているところもあるかもしれない。期待の相手というのは、緊張するみたいなのは本で読んだことがある。


「うーん、思い浮かばない……」


 ふわふわのベッドの上に思いっきり倒れ込み、横になる。身体がバウンドして、少し浮いたりして、そのまま沈んでゆく。布団に籠もれば、そのまま眠れてしまえそうだけれども、それをするといよいよもって解決策が遠のいてしまいそうなので、我慢する。

 何か、ないだろうか。

 相手は悪魔、そしてそれと契約した魔女。悪魔……ナワシマ・アクタの方は甘いものが好きということを聞いて、そこそこ私のお話できたけれども、彼女のご主人である、アクタと契約した魔女の情報をそこから聞き出すことはできなかった。

 ……いや、厳密に言えばできていたのかもしれない。けれども、正直なところよくわからなかった。


 アクタとの話を思い出す。


『ご主人の好物ー? なんだろーなー、思い浮かばないかも』

『いつも一緒にいるのに?』

『いやぁ、なんていうかさぁ、アレなんよ。ハンバーグ大好きとかいった次の日にカレーライス尊いとかいっちゃう系』

『……えっと、よくわからないかな。好きなものが多いってこと?』

『あー、それはあるかもしれない。けど、なんっか違うんだよね。好きなものがゴロゴロまるで崖から落ちる石の速度並みに変化するみたいな』

『それって、気分屋ってことじゃ』

『それだわーっ! いやぁ、アルって結構頭いい?』

『別にそういうつもりはないけど……それって大変じゃない?』

『ん? 悪魔な私はそう思わないよ。飽きないから楽しいっていうのが勝る』

『なるほど、刺激的』

『いえーす、そういうこと』


 適当な雰囲気を時々漂わせながら、主人のことを話すアクタの表情はいきいきしていて素敵だったと思う。ただ、情報は聞き出せなかったと思い出してみて改めて感じる。

 気分屋というのに同意したということは、きっと気まぐれな性格なのだろう。もしかしたら、私に会おうと考えたのも、それがあるかもしれない。

 好きなものが変わりやすい、というのは好奇心旺盛ということでもある。そう考えるならば、彼女の好奇心を刺激させるものが効果的か。そうそう思い浮かばないが。

 ……やはりダメだ。考えれば考えるほどよくわからなくなる。


「どうしようかなぁ……」


 頭がこんがらがってしまう。どうも、うまくいかない。

 ぐるりとベッドの上で転がってみようとする。


「うぎゅう」


 すると、布団の下から聞き慣れた声がした。

 急いで身体を起き上がらせ、布団を捲り、確認してみると、もこもこのパジャマを着ているトゥリウットがそこにはいた。ウトウトしていて眠たそうだ。


「折角いい気持ちで眠っていたのに起こされた」


 眠そうな瞳をこすりながら、トゥリが上半身を起こす。先程まで快適な睡眠ができていたらしく、今まさに目覚めたという容姿だ。髪や服装が少し乱れている。


「いつからそこにいたの?」


 気になったので、念の為に聞いてみた。


「昨日の夜から。私の家は寒かったから、ぬくもりを求めて」

「全く気が付かなかった……」

「アルにしては珍しい」


 昨晩からずっと、どう接触しようか悩んでいたからか、本当に気がついていなかった。

 普段なら布団の暖かさなどから推測できたり、そもそも潜っているのを発見できるはずなのだけれども、どうにも注意力などが散漫になってしまっている。


「疲れたことでもあるの?」


 トゥリが首を傾げながら聞いてくる。

 嘘を言う必要もないので、素直に返答してみることにしよう。


「ちょっと考え事してて」

「悪魔と契約した魔女のこと?」

「どうしてそれを」

「夜に寝言で呟いてた」


 即座に悩みを当てられてしまった。トゥリは観察力が鋭いから納得できるところではあるものの、驚きを隠せない。それに、寝言で呟いていたというほどだから、私自身、よっぽど考えすぎているのかもしれない。その事実にも驚きだ。


「相談なら気軽にしていい」

「それは嬉しいけど……いいの?」

「アルが元気だと私も嬉しいから」


 純粋に友達として助けたいという気持ちなのだろう。トゥリは眠そうな瞳ではあるが、私の方に近づいて、話を聞く姿勢になっていた。

 その心遣いはとてもありがたい。私も、トゥリとの距離を詰めながら話をすることにした。


「悪魔と契約した魔女と、どうにかコンタクトを取ることができて、会うことになったの」

「うん」

「で、あっちは私に対してなんだか期待しているみたいで、それを考えると考えるほど、私はどんなことをすればいいのかなーって思っちゃってさ」

「アルはアルのままでいいと思う」

「私もそれは思うところなんだけど……ほら、なんていうか過度に期待されていると、その気持ちに答えたくなっちゃうんだよね、なんだか」

「どうして?」

「……なんだかんだで、期待を裏切りたくないからかも」

「そんなに期待されているの?」

「その悪魔と契約した魔女って気分屋さんなところがありそうって話があって、それで私が飽きられたりしないかなって心配になってたり」

「んむ。概ね悩みはわかった」


 両腕を組みながらトゥリが頷く。

 んー、と少し悩んだ声をあげたあと、トゥリは、はっとしたような表情になって、私に思ったことをぶつけてきた。


「アルは自分から進んで変態になろうとしている」

「え? ……えっ?」


 よくわからないことを言われてしまい、思わず聞き返してしまった。


「キョトンとした顔になった」

「それは、そんなことを言われるとなるに決まってると思うけど……」

「ん。でも、自分から変態になろうってしているのは事実」

「えーっ……」


 正直なところ、そんな風に言われてしまうと、なんていうか素直に受け入れがたい。とても複雑な気持ちになってしまう。

 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、トゥリが話を続ける。


「今のアルなら正直どんなことだってしちゃいそう」

「そ、そう?」

「露出度が高い服だって着る」

「そうかなぁ」

「悪魔っぽい服装だってすると思う」

「あ、それは気持ちを理解するためにするかも……」

「変な印のシールとかも身体に貼るかも」

「えっ、それは流石に……」

「いや、ありえる。アルは変態になろうとしているから」

「うーん……」


 頭の中でシミュレーションしてみる。


 悪魔の気持ちが理解できない、悪魔と契約した魔女はどんなことをしているだろうか。実際に自分の身を通じてみないとわからない。けれども、実際に悪魔と契約するのはなんだか危険な気がする。ならば、悪魔っぽい服から試してみようか。そこから掴めるものがあるかもしれない。


 ……あっ、この考え方はかなりありえる。トゥリの言う通りかもしれない。

 自分から変態になろうとしているというのはあながち間違いではないのかもしれない。悪魔と変態を直結したりなんてしたら、それは悪魔に相当失礼な気がするけれども、それはそれとして、変態になろうとしているのはあるだろう。


「なんだか複雑な気持ち……」

「進んで変態になるよりは、流されるままに変態になったほうがアルっぽい」

「……どういうこと?」

「自分から変わろうみたいに無理するよりは、他人に影響されて考えるほうがそれっぽいってこと」

「自分から進んで、無理なことはしないほうがいいってこと?」

「ん」


 相変わらずだが、変態と連呼されるとなんだか複雑な気持ちにはなる。とはいえ、トゥリの発言にはある程度の説得力があったし、私自身、そういう方が向いているかもしれないとは感じた。

 無理に変なことをしようとするよりは、相手のことを理解して、受け入れたり悩んだりする。そっちのほうが私っぽいし、私のやり方だろう。


「そもそもアルが無理に気を遣う必要は無いと思う」

「相手が気分屋さんでも?」

「アルの反応が面白いから問題ない」

「そうかなぁ」

「色々な要望に答えてくれる適応力もある」

「ま、まぁ、コスプレとかは嫌いじゃないからね」

「私は一緒にいて楽しい魔女だって感じてる。だからアルなら、新しく友達になる魔女にも、そんな感じに仲良くなれるって思ってる」


 トゥリが本心からその言葉を話していることは様子から見て明らかだった。少し身を乗り出して、普段の声の感じよりも強めに話している。彼女なりの応援だろう。

 その励ましの言葉は、私にちょっとした勇気と自信を与えてくれる。


「……トゥリ、ありがとね」

「ん、なんかいいことでも言った?」


 彼女は、思ったことを正直に言っただけなのかもしれない。私がお礼を言うと、トゥリはとぼけた表情で首を傾げた。

 ちょっとしたひとときに、悩んでいる時に、トゥリと話すことができてよかったと思う。少なくとも、少し前の私より前向きになれたのではないだろうか。


「もっと自由に、私らしく、向き合ってみることにするね」

「アルはそっちの方が間違いなく得意。だから、応援する」

「無理に考えて行動に詰まるよりは、もう行動しちゃったほうが私だし、アル・フィアータって魔女っぽいからね」


 行動力の塊、みたいになれるほど積極的ではないかもしれない。けれども、真っ直ぐ前を見つめて頑張ろうと思う精神は、私はしっかり持っておきたいと思いたい。だからこそ、迷うよりも動く。これを意識するのは大切なのだ。

 今回のメモはこのように書いておこうか。


『前に進む精神、迷ったら動くという気持ちを大切にする!』


 色々考えていたって明日はやってくる。

 重要なのはその明日とどのように向き合うべきかなのではないだろうか。

 コツコツと前に進む、どんどん走るように明日に走る。どんな感じであっても、明日を見続けていればきっといいことは起きるはずだろう。


「よし、すっきりした。なんだか甘い物が食べたい」

「ちょっとまって、それする前に頼みたいことがある」

「まさかとは思うけど、着てほしい服があるとか?」

「正解。今日は、西洋風のドレスを持ってきたから、それを着て、上品に食べてほしい」

「私だけ着るの?」

「私も着る。気に入ったら、持っていってもらっても構わない」

「持っていったら、私の第一印象大きく変わっちゃうかも……」


 他愛もない話をして、時々おしゃれなんかも試したりして。会話を交わしながらゆっくりと、緊張せずに、約束の日まで過ごしていこう。

 マイペースなトゥリの姿を見ていると、不思議と肩の荷が下りたような気持ちになる。

 私らしくいるには、自然体が一番。慌てることもなく、ゆっくりと色々なものに向き合えたらいい。せっせと、私の前で衣類を用意するトゥリを見つめ、心の中でそう思った。

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