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アル・フィアータの魔女物語  作者: 宿木ミル
私の魔女物語編
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私と魔法少女という存在

 漠然と歩いていても、面白そうなものが目に映るのが街だと思う。

 建物の上の方を見ても目を惹く広告がいっぱいあるし、大きな声を出して、お店の宣伝をしている人だっている。一日で全部回るのは不可能だと感じるくらいには色んなものがある。


「……アニメーション関連のショップ、気になってるんだよね」


 興味の赴くままに動いていたら、あっという間に日が暮れてしまう。そう考えた私は、街の地図を広げて行先に目星をつける。

 地図を貰った時から気になっていた、アニメ専門店。そこに行くのはありな気がした。

 魔女図書館にはアニメがない。……なんてことはないけれど、あまり主流の文化ではなかったりする。理由はそれなりに単純で、人間の文化なんてと毛嫌いしている魔女が多いからだ。


「気になっても見られないっていうのはもどかしいから……」


 興味が俄然沸いてくる。

 私は魔女図書館で暮らしている都合、人間が作ったアニメを目にする機会はあまりない。

 風の噂では魔女図書館でひっそりとアニメを扱っている魔女がいるなんていうのは聞いたことがあるけど、その魔女に会うことはできなかった。一部の魔女は人間の文化を再現して自分たちでアニメーションを作ってみようとしてたりもしているけど、やっぱり色んなアニメが見てみたい。


「よし、行ってみよう」


 思い立ったが吉日。こういうのは思いきりが大切だ。

 現在の位置を確認して、近場のアニメ専門店を探す。

 周辺のお店の名前から、私が立っている場所を探る。

 ……思った以上にアニメ専門店にはすぐに到達できそうだ。

 今いる場所からまっすぐ進んだ先を右に曲がってすぐのところにあるというのが確認できた。

 交通の邪魔にならないように気を付けながら進んでいく。

 ゆったりと歩いていたけれど、目的地にはあっという間にたどり着くことができた。


「ここで合ってるかな」


 地図にある店名と、目の前にあるお店を両方とも見る。

 ……大丈夫そうだ。


「あれは……」


 アニメ専門店の入口には、広告用のテレビが設置されている。

 今度放送する作品のプロモーションビデオが流れているのだろうか、綺麗な映像が様々なキーワードを浮かべながら流れている。私はその映像に思わず目を惹かれた。


「ネットワークゲーム、レベリング……?」


 カタカナがわからないというわけではないけど、言葉の意味がどうにも入ってこない。初めて学習する呪文の勉強のようだ。


「エスエヌエス、バーチャル、リアリティー……」


 次から次へと流れてくる言葉の羅列が頭を惑わしてくる。

 どうやらネットワークゲームというバーチャルリアリティーで、レベリングしてエスエヌエスで噂になるほどの主人公が……という話らしい。


「……なんだかこうやって取り残されてると、文化に出遅れてるようで、もどかしい」


 聞ける相手が増えたりなんかした時にしっかり聞いた方がいいだろう。魔女図書館の相手に話して答えがもらえるかはわからないけれど、こういうもやもやはメモしておいた方がいい。


『ネットワークゲームとは何か。レベリングの意味。エスエヌエスという文化についての研究。あとはバーチャルリアリティーの調査、聞き込みをしっかりできるようにしたい』


 ……これでよし。こうしてメモしたことはきっと後で役に立つはずだ。

 取り出したメモ帳をポケットに入れて頭を切り替える。


「ん?」


 ちょうど気持ちを切り替えたその時、テレビの映像も切り替わっていた。別の作品のプロモーションビデオになっている。今度は私でもしっくりくる内容だろうか。画面に映っているアニメに注目する。


「みんなの想いと願いを背に、空を駆ける魔法……」


 次の広告映像では魔法を操る少女の姿が描写されていた。映像美もさることながら、魔法という言葉そのものに対して不思議と高揚感が湧く。さっきのアニメよりも親近感だって感じる。


「魔法を操ってみんなの笑顔の為に戦う存在。それが、魔法、少女……?」


 魔法、少女で魔法少女。それは間違いないみたいだ。少なくとも広告映像の中では『魔法少女』と書かれている。

 魔法少女。興味を惹かれる言葉だ。

 

「魔法少女かぁ」


 それは魔女と近い存在なのだろうか、という疑問が頭に浮かんだ。私自身、老婆の見た目をした魔女でもないし、魔法を操る女の子の姿をしている。そういう意味では、私も魔法少女に近い存在なのかもしれない。もっとも、私は魔女だけど。

 ……過去に魔法を操る人間がいて、それと魔女が対立していたなんて話は私も聞いたことはあるし、本で目にしたこともある。では、昔にも魔法少女がいたのかと言われたら正直なところわからない。ただ、こうして文化になっている以上、なにかしら魔法少女という存在が認められているというのはあるのかもしれない。


「メモしておこう」


 今日はいつも以上にメモをする瞬間が多い気がする。普段から外出する時はメモ帳を持っているけど、ふと気になったときにやっぱり便利だ。


『魔法少女と魔女の相違点または同一点についての考察や研究もしっかり行っていく』


 これもよし。

 ただ、このことについては人間に話を聞いた方がいい話題でもあるかもしれない。魔女図書館にいる魔女に聞いても、どうしてわざわざ人間のことを調べているのかとか、魔法を操る少女なら魔女にもいるじゃないかなんて言われそうだ。

 だからこういう疑問は現地で調査せねばなるまい。蛇の道は蛇、人間の文化は人間に、という気持ちで。


「すみません、少し質問してもいいですか?」


 私と同じように映像を見ていた隣の女性に声を掛けてみる。私より身長は高いけど、人が良さそうな顔をしていたし、そもそも熱心に魔法少女の映像を鑑賞していたから話が合うと感じたのだ。直感的にだけど。


「わたしにかい? どんなだ?」

「ええと、この魔法少女のアニメについて気になったので、聞きたいなと……」


 目上の相手かもしれない。

 そう思って敬語で会話していく。


「大丈夫だよ。魔法少女のことなら何でもわたしに聞いてくれ」


 ちょっと男性口調っぽい独特な喋り方だ。

 そんな彼女ははきはきした態度で私の言葉に対して承諾してくれた。ありがたい。

 少しだけ、断られたらどうしようと考えてたから、心からそう思う。

 頭をぺこりと下げて、会話に移っていく。


「その……アニメに登場している、魔法少女って、具体的にはどんな存在なんですか?」


 まずは性質についてだ。魔女と異なる点が見受けられるかもしれない。魔法の使い方や、生き方。どんな答えでもいい。聞いてみたい。

 考える女性の姿を見て、どう返答が返ってくるか、期待を膨らませていく。


「一概に言うのは難しいけど……魔法を操る少女、というのがベターだと思うよ」


 それはその通りだろう。

 魔法を操る少女で魔法少女。お洒落で、可愛らしい響きは私も好きだ。


「ほかに特徴みたいなものはありますか? その……何かのために戦うとか」

「魔法の力で正義のために戦うとか、そういうのかい?」

「はい、それで大丈夫ですっ。……正義の為に戦う」


 魔法の力を正しいことの為に使う。なんだかまっすぐさを感じる。おどろおどろしい呪いやまじないといった類のものとは方向性が違うような印象だ。


「変化球なタイプの魔法少女ものじゃなければ、一般的に日常をより明るいものにする為に魔法を使う、なんてパターンも多いね」

「日常を明るいものにする……」

「さっきの広告でも出てた通りだよ。一生懸命、誰かの為に頑張る。魔法少女は優しい子が多いんだ」

「なるほど」


 物語に登場するような悪い魔女とはどこか、対極な位置にいるのかもしれない。誰かに害を与える魔法じゃなく、誰かを助ける魔法。魔女でいうなら、白魔女に近いのかもしれない。私もそういう風に魔法は使ってみたいと思うから、なんだか親近感が沸いてくる。


「では、変化球ってどういうのがあるんですか?」


 少し言葉を悩ませながら女性が言葉にしていたことを再度確認する。

 すると、女性は髪をすこしかきながら、答えてくれた。


「うーん、サバイバル系魔法少女って言えばいいかな? 最終話まで主人公とかそのお友達が生き残ってるかわからないような、ちょっとダークファンタジーな魔法少女もの」

「えっ、魔法少女って平和なものじゃないんですか?」


 なんだか一瞬で色が白から黒に変わったような気がして、変な声をあげてしまった。


「一般的な魔法少女のお話は平和なものが多いよ。ただ、その派生として暗い魔法少女のお話も増えたってだけさ。だから変化球なんだ」

「全ての魔法少女がこう……争いあうみたいなことはないということですか?」

「あぁ、そうさ。そもそも明るい魔法少女のお話があるからこそ、悪かったり暗い魔法少女の物語が増えたんだからね」

「大前提は、平和と」

「そういうことだ」

「覚えておきます」


 基本は明るい魔法少女の物語。

 それが多くなってきたから、変化球としてダークファンタジーな魔法少女のお話が増えてきた。そんな感じか。

 同じ物語でも、方向性が色々あるのは悪いことじゃないと思ったので、両方ともお話として大切なものだと思った。

 しっかりこのこともメモしておく。


「他にはなにか特徴みたいなものはありますか?」

「そうだなぁ。非現実的な何かが一緒にいることが多かったりするね」

「……精霊みたいなものでしょうか?」


 私にはあまり縁はないけれど、精霊を扱う魔女もいるらしい。そういうのが一緒にいるのかなと思った。


「よく知ってるね。概ねそんな感じさ。マスコットキャラクターが力を貸すパターンが多いって感じるよ。異世界からやってきた精霊が魔法を授けるみたいなね」

「なるほど……精霊契約」


 魔女が自分の得意分野ではない魔法を使う場合、精霊の契約を利用することが多い。魔法少女も似たようなものなのだろうか。精霊でもあるマスコットキャラクターが力を与える。……書き留めよう。


「あと、魔法にも種類があるパターンがあるね。魔法少女ごとに特徴があって、使える魔法が違う、なんてものがね」

「種類?」

「空を飛んだりとか、お菓子を作り出すとか。最近見たやつなら……そうだな、瞬間移動するやつとかもあったな」

「ん……魔女に、似ている?」

「なにか言ったかい?」

「いえ、なんでもありません。色々あって斬新だなって感じただけです」

「そうだよな。わたしも結構それは感じてる」


 話を聞きながらメモを取っていた私の手が一瞬止まった。

 ひっかかったことがあったのだ。

 得意分野の魔法があって、多種多様。魔法にも種類がある。……改めて、魔法少女が魔女に似ている存在だと感じたのだ。お菓子の魔女の魔法を私は使えないし、特製の鍋を召喚する魔法なんてものも使えない。けれども、私しか使えない魔法はある。

 どうも似ている。だからといって魔法少女は魔女であるという図式は短絡的ではある。けど、これほどそっくりなことが多いと色々気になってくる。


「あの、もうひとつ質問していいですか?」

「あぁ、構わないよ」


 ありがたいことに女性は、私の疑問に対し、真面目に聞いてくれている。だから、安心して質問できる。


「魔女と魔法少女って私は色々似てるんじゃないかなと思うんですが、それについてはどう思いますか?」

「魔女と魔法少女……」


 質問を投げかけられた女性は、深く考えはじめた。

 さて、どう来るか。ストレートに私が気になったことをぶつけたような質問だから、どう返されてもいいように、覚悟をしなくては。


「そうだな……一般的な魔法少女との観点で言うなら、似てるというのはなかなか難しいかもしれない。魔女は悪い奴という側面が強いし、呪術的、悪魔的な要素が強い。一方で魔法少女はヒロイックで、正義とか日常の面が強い。現に、魔法少女のアニメには魔女が敵役で登場することは多いだろう?」

「そ、そうなんですか?」

「ん、知らなかったのかい? 最近やってた魔法少女のアニメでも、魔女は悪い存在として登場してたんだが……」

「初耳でした……」

「それなら仕方がない。でも、人によっては違うと断言してしまうかもしれないね。魔女と魔法少女の関係については」


 私を傷つけないようにか、優しい口調で女性は返答していく。


「同一視するのは良くないのでしょうか」

「人によっては地雷だと思われるかもしれないね。わたしは悪くない着眼点だと感じたけど、敵役や悪者の印象も強いから、難しい話だよ」


 フォローしてくれるのはありがたいけど、踏み込みにくい問題に入ってしまったようで、少し気持ちが沈む。けれど、新しい目線が提示されたのはありがたいとは思った。

 それにしても、やはり敵役か。どうにも頭が痛くなる。人間の歴史とか文化においてもやっぱり悪の側面が強いのだろうか、魔女という存在は。


「まぁ、魔女っ娘という概念もあるから、言い切れない点もある。色々な面で魔法少女は歴史が深いんだ」

「魔女っ娘?」

「魔法少女もののお話の前身みたいなものだよ。こっちは最近あんまり聞かない響きではあるけれど、話が長くなってしまう。だから、そういう言葉もあるっていうのは伝えておくよ。興味があったら調べてくれると嬉しい」

「わ、わかりました」


 魔女っ娘。魔法少女のアニメの前身。興味深い情報ではあるけれど、これもやっぱり私のような魔女とは少し方向が違うのだろうか。

 気になる。

 気になるけど、これ以上考えると、頭がパンクしてしまう気がする。

 とりあえず、魔法少女は、魔女とは異なる歴史を歩んでいて、それでいて奥が深い世界を持っている。今はこういった形で決着を付けておこう。

 全ての情報を一日で全て理解するのは流石にしんどい。休憩する時間だって大切だ。


「色んなお話ができて嬉しかったです。質問に答えてくれて、ありがとうございました」

「また、どこかで会ったら話をしたいね。魔法少女とか魔女の話をさ」

「そうですね、いつか、どこかで」


 色んなことを知ってはいると思うけど、今の私の知識量だとまだまだついていけないことも多いはず。だから、話はここまでだ。

 お互いに会釈して、女性から離れる。

 いい時間だったと思う。それは会話していた女性の顔を見てもわかる。満足げな表情だ。

 ……とはいえ、少し考え事に熱中していたのもあって少し、休息が欲しくもなった。

 アニメ専門店の中に入って、色んなグッズを確認する。

 ……サクサクしたものでも食べたらすっきりするだろうか。適度にサクサクで、甘すぎない程度に甘い。そんなクッキーなんかが食べたい気分。気持ちを切り替えて、美味しそうなものを探すことにした。







「……なかなか美味しいかも。しっかりとした噛み応えだし、食べてて飽きない」


 ココアみたいな飲み物こそなかったけれど、美味しそうなクッキーはあったので買ってみた。名前はツンデレクッキー。適度にしっかりしたミルクの甘さがあって、由緒正しいミルククッキーの美味しさを噛みしめられる。

 クッキーの表面に素直になれない女の子のセリフみたいなものが書いてあってこれも見ていて面白い。


『バカバカバカバカ! ……好きなんだからね』


 馬鹿と言いながら好きと伝えることで自身の好意を伝えるものなのだろうか、とクッキーに描かれているイラストとセリフを見て一瞬考えたけど、流石にそれだけが感情表現ではないだろう。

 素直になれないから、照れ隠しの言葉を口にしている。そんな感じなはずだ。

 ……でも、この『ツンデレ』のセリフというのはなかなか面白い。

 試しに言葉にしてみると、こんな感じになるのだろうか。

 クッキーに書かれている台詞を見て、自分の口で言葉にしてみる


「えっと……『勘違いしないでよね、アンタのためじゃないんだからっ』」


 私っぽくない台詞だと思いながら、しっかり台詞にしてみた。

 ……恥ずかしいけどこれはこれで悪くないのかもしれない。顔を背けて言ったりすると、相手に与える印象の点数が高く付きそうだ。

 アニメ専門店から外に出た私は、休憩も兼ねて自由に動いている。動くときに動き、休む時はリラックスする。これくらいがちょうどいい。


「……これもいいかな。『クッキーよ。美味しくないかもしれないけど、食べてほしいから作ったの。要らないなんて言ったら怒るから』」


 今度の言葉はちょっと目がじっとりしている雰囲気のイラストのクッキーのものだった。再現するとこんな感じかなと思いながら、喋ってみた。

 こうしてセリフを喋りながらクッキーを食べると、美味しさが二割増しくらいにはなっている気がする。文化を楽しみながら、味も堪能する。いい塩梅といったところか。


「次はこういうので、『大嫌いっ! う、うそ。だ、大好きだよ!』」


 ちょっと感情をこめすぎてしまったか。

 頬が少し赤くなってしまった気もする。

 ……周囲に人がいないのをきょろきょろ確認して、静かにクッキーを口にした。

 こうして甘い台詞を呟いて食べてみると、なんだかクッキーの味も甘ったるいものになっているような気がした。これはこれでありかもしれない。


「でも、これ以上はちょっとやめとこっかな」


 耳に熱を感じる。楽しいけど、連続してセリフを言ってると流石に恥ずかしい。

 誰かに聞かれてたら反応に困ってしまいそう。

 でも、なんとなくメモしておこうか。


『ツンデレクッキーの美味しい食べ方』


 変なことを書いていると自分でも苦笑する。けど、こういうこともメモしていいだろう。真面目すぎるのもよくない。気分転換になるようなことを書くのも大切だ。

 メモ帳に書き足した内容を再度確認しながら、私はまた歩きだした。

 どこにいこうか、じっくり考えながら動いていこう。

 まだ、時間はいっぱいあるのだから。

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