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アル・フィアータの魔女物語  作者: 宿木ミル
夏の日常・プールの交流編
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私とギャップの感じ方

 長引く暑さといったものが得意じゃないのかもしれない。

 そろそろ秋になるからと用意した長袖の服も、気温が暑いのでは意味がない。着てみても、汗でぐっしょりになってしまう可能性が高いし、今着るのは適さないだろう。そもそも、まだ海に心地よく入れる気候ですらある。

 とはいえ、別に暑さを楽しむのが嫌というわけではない。気分転換に水族館みたいな場所に行くのも悪くはないし、水浴びをしてみるのも面白い。

 それでも、夏以外の何かを求めたくなってしまう心理はあっても仕方がないと思う。魔女図書館ならば、夏ではない空間を探索したいという願望を叶えさせるさせるのは簡単なのだから。

 そう思った私は、すぐに決断し、行動に移した私はリアヴィリアの部屋にお邪魔している。

 一面の銀世界を歩く。樹木には雪が積もっている。一歩を踏み出すと、サクサクと心地よい音が聞こえてきて、やっぱり素敵だ。

 のんびりと前に進んでいると、ふと、人影が見えた。その人影をじっと見つめていると、相手側からこちらに向かってきて、話しかけてきた。


「あれ、貴女はもしかして……」

「なんとなく、遊びに来ちゃった。外が暑いから、気分転換で」

「あぁ、やっぱり。そんな感じがしました」

「リアの自室って、暑い時に行きたくなるからね」


 人影の正体はやはり、リアヴィリアだった。相変わらず、白いロングドレスをしていて、清楚な雰囲気を感じる。


「……肩、寒くないの?」

「氷とか、冷たいものには強いものですので。それに、こういう服装の方が落ち着くんです」

「まぁ、そうだよね」


 少し、肩が露出しているのが彼女の服装の特徴だ。見ていて寒そうに感じるものの、本人の魔法の影響か、大丈夫らしい。白銀世界を創ることができるというのは、こういうところでも便利なのかもしれない。


「よろしければ、城まで一緒しましょうか?」

「その言葉に甘えようかな」


 そういうと、リアは歩いてきて、私の手をそっと右手で添えてきた。ふわっとした感じで、いかにもお嬢様っぽい。高貴な感じが、なんだか素敵だと思う。


「どうしましたか?」


 首を傾げて、リアがこちらを見つめてくる。トゥリとは違う積極性で、どこか心地がいい。雰囲気も景色と合っている。


「ううん、なんでもない。行こっか」


 リアの手を掴み、道なりに歩く。

 ゆっくりなペースだ。普段の歩く速度より遅めでもある。こういうのも、なかなかに悪くはない。

 二人で歩くと、雪を踏む音が増える。サクサク、繰り返す音が心地がいい。

 隣のリアの表情をふと覗いてみると、少し楽しそうな顔をしていた。


「……もしかしたら、好きかもしれません」

「何が」

「こういう風に、手を繋いで歩くこと」

「確かに、少しウキウキした顔になってるよね」

「え、そ、そうですか?」

「上品な感じだから素敵だと思うかな」

「そ、そんなことないですよ」


 口では否定しているものの、表情は嬉しそうだ。やはり表情に出るタイプなのかもしれない。


「そういうゆったりとした態度、私には真似できそうにないかも」

「え、どうしてです?」

「私がやってもボロが出てしまうような……」

「独特なのでしょうか……?」

「まぁ、それっぽい感じで素敵だと思うけどね」

「そう言ってくださるなら、なによりです」


 なんというか、迸るオーラみたいなものがあるのだ。魔女に育ちというのもがあるかどうかは自分でも疑問だけれども、育ちがいい仕草というべきか、そういったものを感じるのだ。

 例えば、雪の足音一つを取ってみても、私の方は少しザクザクとしたものであるのに、リアの方はサクサクとした、大人しい音である。仕草も、手を添える時に、片方の手を胸元にそっと置かれていたり、ゆったりしていたり、お姉さん基質なものがあるのだろう、きっと。そうしたものが出来ない私からしてみると、素直に羨ましいかもと思ってしまう。

 言われたリアの方は、そんな凄いことしてないのに、と謙遜していた。


「もしかしたら、空間がそうさせているのかもしれません」

「お城とか、この白銀世界が?」

「日常を過ごしていると、その空間に適した感じに性格が変わっていく、みたいな感じです」

「……どうだろう。面白そうだけれども、一週間お城生活しても、私は変わらない気がする」


 色んな場所を見て回って、研究してメモを取る自分の姿が安易に想像できる。だから、残念なことに私の性格が変わることはないだろう。とはいえ、空間が人格を作るというのは面白そうな考え方なので、しっかり後でメモを取っておこうと思った。

 私の意見を聞いて、リアは悩む仕草を取っていた。本気でどうなのか考えているのか、両手を口元に添えている。そうした仕草は、リアの独自のものだろう。やはり上品さを感じる。


「上品さってもしかしたら難しいのかもしれませんね……」

「やってみようと思ってできるものではないかもね」

「なるほどです」

「そういうのがあるからこそ、私には出来ないかもって」

「なんだかできるような気がしますが……」

「タイプが違うんだよね、色々」

「そういうものでしょうか」


 納得がいっていないようで、何度か私に突っかかってくる。

 どうすれば納得してもらえるかを少し考えて、事例を発見した。


「例えばの話だけど」

「はい」

「知人が、知らない間に布団に入ってたりしたらどうする?」

「え、えぇ……!?」


 突拍子もないことを言われたからか、リアの顔が真っ赤になった。茹で上がったみたいだ。


「ど、どうするといわれましても、追い出すのがいいかと」

「じゃあ、抱きつかれていたら」

「そ、それは、その、えっと、同意がないなら、駄目って言うしか……」

「ぐっすりしていても?」

「だ、駄目です」

「……やっぱり、清楚な感じする」

「そ、そんなことは、ないです!」


 どうしよう、どうしようみたいな手振りをしながら、リアが返答をしてくる。

 純粋無垢、というより、少しでも色事に関係していると思った瞬間に、テンパるタイプ。そして、乙女らしいところが強いのかなと思った。

 いきなり布団に潜られたり、抱きしめられたりするのがもはや日常となっている私からしてみると、その反応は、正直なところ、斬新に思える。

 気になったので、もう少し色々聞いてみることにする。


「積極的なボディタッチとか」

「は、破廉恥です!」

「……変な服着せられたりとか」

「それも、駄目ですよ!」

「……変態だって言われたりとか」

「そんなの良くないです!」

「うん、そうだよね。良くないよね。なんだか嬉しい」


 変態魔女呼ばわりに慣れてしまってきている自分がやっぱりどこか変なのである。リアの良くないという言葉は、地味にありがたい。トゥリに何回も言われていると、本当に自分がそうであるように思えてしまうから。


「唐突に、なんでそういうことを言うのです……?」

「私とリアだと、感じ方とかが違うってことを再認識するためかな?」


 少し落ち着いたのか、リアが息遣いをゆっくりにしながら話しかけてきた。

 ちょっとした会話ではあるものの、リアとの違いを感じることができて、個人的には悪くない収穫だと思った。


「もしかしたら私、色々慣れちゃってるのかもしれないんだよね」

「何がですが?」

「色事……」

「えっ」


 リアが身の危険を感じたのかのように後ずさった。


「あぁ、ちょっと待って、誤解しないで。あくまで耐性が付いたという話だから」

「どういうことです……?」


 身を引きながら、詳しく話を聞こうと、耳だけは傾けてくれた。


「友人の魔女がしょっちゅう、そういうことしてきてね。最初は恥ずかしがったりしてたんだけど、次第に慣れてきちゃったんだよね」

「それは、いい変化なのですか?」

「どうだろうね。正直なところ、リアみたいに、純粋な感じになれるというのも、個人的には好きなほうだから、慣れちゃったのは少し寂しくも感じてる」


 少しだけ遠くを見つめるように、雪空を目で追いかけながら話す。

 どんなことがあっても対応できる精神力というのはあって損は無いものだし、むしろあったほうがどんなことにも対処できるだろう。しかし、それでは新鮮味がない。どんな突拍子もないことだって、慣れてしまえば、それが日常になってしまう。そう考えると、純粋な自分だった頃が羨ましく思ってしまうこともある。

 リアヴィリアの色事を感じさせることに弱い性質は、初々しさを感じさせてくれるのもあって、なんだかとても心を惹かれるのである。


「でも、結構恥ずかしかったりするものですよ?」

「そうなの?」

「はい。魔女図書館の集まりで、からかわれたとすることもありますので……」

「大胆に迫ってきたり」

「身体を密着させて、いやらしいことをしてこようとしてきたりとか、良くあります」

「……反応がいいからって言われてたりしない?」

「あ、言われてます。冗談だって口にされたあと、そんな感じに」

「絶対それだと思う」

「えっ、そうなんですか?」


 リアの口ぶりからトゥリがからかっているわけではないとは思った。それでも、似たような事例を自分自身が知っているので、からかう側の心境はなんだか分かるような気がする。そういうことをするということは、反応を楽しみたいということだ。しょっちゅう言われているから覚えてきた。


「この前はスクール水着を着せられたし、その前にはスカート丈の短いメイド服を着せられて、それ以前に温泉で色々言われた私からしてみると、そんな感じがする」


 概ね仕掛けてきたのはトゥリだった気がする。探究心は恐ろしいものである。


「な、なんだか大変なんですね……」

「まぁ、楽しいからいいんだけどね」


 頼まれたら、ついつい答えたくなってしまうタイプなのだ。そういうのもあって、なんだかんだで色々な反応をしてしまっている。それがどこか心地よいのだ。


「私も慣れられるように頑張りたいです」

「別に無理に慣れなくてもいいと思うよ。自然体でいるのが大切だから」


 無理に変わろうとしても疲れるだけだ。ゆっくり自分のペースで、変わっていけばいいと思う。恥ずかしがったりするのも、清楚だったりするのも、知りたがりだったりするのも、どれも個性であり、大切なものだ。そういうのは大事に持っておいたほうがいいと思う。


「まぁ、でも……清楚なのって貴重だと思う」

「どうしてですか?」

「……可愛い服を着て、顔を真赤にしたりするのって、可愛いと思うから」

「ふぇっ」

「ほら、今のリアも可愛い」

「そ、そそ、そんなこと、ないです!」

 

 口説き文句みたいな感じになってしまったけれども、それは事実だった。

 大人っぽい見た目、服装をしているけれども、ちょっと色事の話とか、可愛いなど言われるのが弱い。そういうところに、なんだかグッとくるものがあるのだ。

 ……そうだ。これをメモしてみるのもいいだろう。


『見た目と中身のギャップから発生するときめきについて』


 深く研究してみれば面白そうだ。今度、しっかり調べてみよう。


「そ、そろそろ到着します!」


 可愛いと言われてテンパっている姿のまま、リアが目の前に指を指した。気がついたらもう、そこまで歩いていたらしい。雑談をしていると、時間が速く過ぎてゆく。


「中に入ったら、何を話そうかな?」

「……何も考えてませんでした」

「私も」


 リアのどこかおっとりした返答に、微笑む。こんなぼんやりとした時間も悪いものではない。じっくり、些細なことでも話そうかなと、静かに心の中で思った。

 猛暑が続く外と違い、一定の冷たい気候を保ち続けるリアヴィリアの自室。そしてその部屋主。普段とは違う、色々なギャップに癒やされる私だった。

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