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アル・フィアータの魔女物語  作者: 宿木ミル
夏の日常・プールの交流編
39/394

私と白銀の魔女

 うまく時間を作って、会話してみたい。

 それは前回、私がリアヴィリアに遭遇した時に感じたことであった。

 本人らしさみたいなものを知る前に、弱点のようなものを先に知ってしまったというのはなんだか複雑な気持ちである。だからこそ、もっとしっかりと話がしたかったのだ。

 そうなると、少なくともトゥリウットに邪魔されないようにしたほうがいい。そう思った私はノイザーミュートに一声、連絡を取ることにした。


「今日はトゥリと一緒にいてあげて?」

「え、いいけど……なんか急だね。そもそも、なんでアルがトゥリのことを私に頼むの?」

「誰かが一緒にいないと多分、私のところに来そうだし。今日はなるべくトゥリと一緒の行動は避けたいんだよね」

「それはどうして?」

「んー、トゥリがちょっと暴走しちゃってね」


 リアヴィリアと出会った時の会話を述べていく。

 具体的に説明する中でトゥリのあからさまにアレな感じがするとか、そういうことも言わないといけない都合から、妙に疲れてしまった。


「リアヴィリアって子のことをもう少し知りたいから、トゥリと私がいてほしいのね。それくらいなら引き受けるよ」

「ありがとう」

「それにしてもそんなこと話すんだ、トゥリって」


 意外そうな印象を感じていたのが、私にとって逆に意外だった。

 トゥリは相手によって、態度を変えたり、話す話題を変えたりとかしているのだろうか。


「……わりかし話すほうだと思うけど」

「えっ」

「いや、話すよ? なんだったら本人に確認してみるといいって」

「うん、まぁそうしてみる」


 ノイザーミュートに何回か首を傾げられた気がするものの、とにかく話を付けることには成功した。これでトゥリの乱入の確率が減ったであろう。

 自室に戻り、ちょっとした荷物を用意して、リアヴィリアの場所に向かう。今回はきっと、うまく色々なことが聞き出せるだろう。そう願いながら。






 魔女図書館から扉を開き、リアヴィリアの『自室』に直接侵入する。一面に広がる銀色の風景は、改めて見ても、部屋だとは到底思えない。

 基本的には、魔女図書館の『自室』というものには鍵のようなものをつけるものである。私も、魔法を利用してちょっとした鍵を掛けている。私の許可がなければ、部屋には入れないようにはしている。扉の呪文を利用しても、そう簡単にたどり着けない仕組みにはしてあるのだ。

 、どこにでもやってくるトゥリに対しては全くの無意味だ。彼女の移動の仕方は私が知っているような扉呪文のやり方とは大きく性質が異なっているらしく、問答無用で私の部屋に到着してしまう。なんていうか、使い方を間違えるとなかなかに恐ろしいかもしれない。

 それはそれとして、この空間に入る扉には鍵がかかっていない。怪しいと思ったら、もしかしたら、案内をしない、みたいな方法をとっているのかもしれない。

 それか、芸術的な風景を楽しんでほしいから自由に開いているという感じだろうか。それらを含めて、尋ねてみたい。


「さて、出発」


 マジカル・サーチングと唱えて、のんびり歩き始める。これで、リアの魔力を目印に、彼女の住んでいる城までの移動が容易になる。

 なんだかんだ言って、一度遭遇できたのであれば、二度目に会うのは簡単だ。マジカル・サーチングという呪文は、取り回しがいいと同時に、便利なのだ。

 サクサクと、歩くたびに音が響くのはなかなかに楽しい。後ろを振り向くと歩いてきた足跡が見えてくるのも面白いところだ。

 夏にこんな体験ができるというのはとても斬新である。もしかしたら、ちょっとした魔女の遊び場みたいな側面とかも意識しているのだろうか。雪遊びする魔女というのも素敵な感じだ。

 今回は、前回のように狼みたいなものには遭遇していない。それでも、魔力を辿ることはできる。そして見覚えのある景色の場所までたどり着けている。問題はない。

 少し歩く速度を変えて、早歩きにする。喋る相手がいないからか、到着までが長いと感じてしまう。しかし、トゥリが乱入してきたら、リアと話すのが難航しそうだから、話す相手を増やすということは望めない。だから一人で歩く。

 そこそこ距離のある道を進んで、ようやく目的地である城まで到達することができた。

 雪が多かったのもあり、足が少しばかりクタクタだ。


「ちょっとお邪魔してもいいかなー!」


 城の扉をトントンと叩きながら、何回か呼びかける。

 もしも返事がなかったらどうするべきか。少し考えていたが、その心配は無用だった。

 何故ならば、すぐにリアが駆けつけてくれたからだ。


「どなたです……って、この前の魔女!?」


 扉を開けたリアから、なんだか厄介な奴が来たという目をされてしまった。どうにか中に入れてもらえるようにしなくては。警戒を解いてくれないと、会話が難しそうだ。 


「そうそう、この前の魔女、アル・フィアータ。今日は、色々と変なこと言ってたトゥリウットは連れていないので心配しないでいいと思う」

「……なんの目的で来たのですか?」

「個人的にちょっと色々聞きたいことがあって……」


 言った後に、アレ、と感じてしまった。この切り込み方も悪いやつではないだろうか。取り消して、別の言い方に変えるべきか。少し悩む。しかし、案外悪くなかったみたいで、リアは微笑みながら私を見つめてくれた。


「そういうことでしたら、問題ない……ですわ」

「それって入っていいってこと?」

「そうですね。この前、安心して話せたのはアルの方でしたし……ゆっくりお茶でもしましょう」

「ありがとう、リア」

「一人でいるのも退屈でしたし、このお城に誰かやってくるっていうのは、それだけで嬉しいのです」

「空間が広いからじゃ……?」

「これでも凝り性ですので。それに、この場所の色々な景色をもっと見てもらいたいのです」

「それじゃ仕方ない」


 リア本人も、景色には自信があるのかもしれない。見てほしいと語る彼女の姿はどこか誇らしげに感じる。城までが遠くても、辿り着けなくても、風景で心を癒やしてくれればそれでいい、そんな印象だ。ある意味で職人芸なのかもしれない。

 少しばかり上機嫌なリアの後ろに着いていき、この前の部屋に案内してもらうことになった。通り道である廊下はやや広い。私が横に5人くらい並んでも余裕がありそうなほどだ。


「改めて歩いてみると、お城も大きいよね」

「こうやって広々としたほうが落ち着きますからね」

「狭いところは苦手なの?」

「なんだか暑っ苦しく感じません?」

「わからないでもないかな」


 逆に私は、その暑っ苦しさやコンパクトさが好きな方だからわざと小さめの部屋がいっぱいな『自室』にしてある。それでも彼女のゆったりとしたスペースというのも悪くないかもしれない。メモしておこう。


「何か興味があったことでもあったのです?」

「ん、どうして?」

「メモを手にしてらっしゃるので」

「これ? ちょっとでも気になったことがあったらメモしようって思って、いつも行動してるだけかな」

「まるで探偵さんですね」

「探偵……そういう見方も面白そう」


 ちょっとした空きスペースに、なんとなく魔法探偵アル・フィアータと走り書きしてみる。

 メモを取ろうと思ったらすぐに行動に移したくなるもので、興味関心があったら忘れないようにメモすることを意識しているのだ。

 最近はメモを取る魔女だということを、他人から認識されているパターンが多かったので、こうやってメモのことで突っ込まれるというのは久しぶりの感覚だ。


「良かったら見てみる?」

「いいのです?」

「別に変なことは書いてないと思うし」


 掌サイズのメモを、リアに渡す。

 ひとつひとつページを見ていくごとに、リアが感嘆の声をあげる。そんなに凄いことは書いてないつもりなのだけれども、他人からしてみれば斬新なのだろうか。


「ひっそりと、最近の方でわたしのことも書いてません?」

「まぁ、気になったからね」

「……この前、聴いても良かったと思いますが……」

「この前は色々とトゥリがアレだったし……」

「そうでしたね……」


 あの出来事を思い出したのか、リアの顔が心なしか赤くなっていた。やはり、そういう話には弱いらしい。


「さて、付きましたよ」

「あれ、もう?」

「色々話していると時間も早く過ぎるものでしょう?」

「やっぱりそういうものなのかな」


 たどり着いた部屋は前と同じように、雰囲気が素敵だった。氷の落ち着いた雰囲気と、それでいて少し冷たい感じがリアヴィリアという魔女らしさと合致している。

 しっとりとした、とまではいかなくてもリアヴィリアはそこはかとなくお嬢様みたいな印象を感じるのだ。だから、こういう部屋が似合うのかもしれない。

 先にどうぞ、と案内されたのでこの前と同じように椅子に座る。向かい側にリアが座るという形式だ。


「今回はなにも飲み物を用意できなくて申し訳ありません」

「いや、私も急に押しかけたから、そんなに気にしなくて大丈夫」


 前回のようにココアを用意したかったのだろうか。貰えたらそれはそれで嬉しいものの、甘えてばかりもなんだかモヤモヤする。だから、今回は大丈夫。ココア抜きでも平気だ。


「さて、聞きたいこととはどんなことでしょう?」

「聞きたいこと……あれ、なんだっけ」

「えっ?」


 いざ、何かを聞こうと思うと忘れてしまう現象だ。聞きたいことはいっぱいあるはずなのに、うまく言葉に結びつかない。

 あ、これは聞きたかった。真っ先に気になったことを思い浮かべる。

 リアに少し呆れた顔をされたけれども、思い出したことを口にする。


「どうして、この自室ってオープンにしてるの?」

「この景色を見てもらいたいからですね」

「ううむ。じゃあ、見てもらいたい理由は」

「私の魔法で、うっとりさせたいからです。冬の景色みたいなの、私は特に好きですので」

「……魔法研究」

「そういうところもあるのかもしれませんね」


 優雅に話すリアの姿は、先日、変な話で暴走していた姿とは大違いだ。なんだか、魔女らしい威厳みたいなものを感じる。


「ん、そうなると魔法は氷とか雪を操るみたいなもの?」

「概ね間違ってないですけれども、厳密に言えば白銀世界を作り出すというところですね」

「白銀世界を作る……?」


 スケールが大きい魔法みたいで困惑する。いまいちピンとこない。

 向かい机のリアが具体的には、と続ける。


「私が魔力干渉できるものに、直接冷気を注ぎ込んで氷系のものにすることができるってことです」

「えっと……?」

「氷の付術みたいな側面が強い、そう言ったほうが伝わるかしら?」

「あ、なんとなくしっくり来たかも」


 つまり自身の魔力を物質にぶつけることによって、冷たいものにすることができるということだろう。地面の場合アイスバーンか雪の足場に。ココアの場合、アイスココアに、というところか。

 合点がいったので早速メモを取る事にする。


「まぁ、人間とかには使えない魔法ですけどね。基本的には自然物にしか発動できないですし、そもそも人間世界だと制約が色々あったりしますし」

「制約?」

「魔法で直接干渉しても、すぐに元通りになってしまうってことです。自分の所有しているもの、もしくは空間でないと私自身の魔法はうまく発揮できないのです」

「結構、縛りがきつい感じかしら」

「それでも、自分の空間なら自由自在に操れます。だからこそ、私の自室は一面が銀世界になっているのです」

「……なるほど。そういう仕組みだったんだ」


 他の魔女の魔法のことは、聴いていて特に楽しい。こういうこともできるのか、と新しい見解の発見に繋がるからでもある。

 少し伸びをしていたら、逆にリアの方から話しかけられた。


「逆に貴女の魔法はどんなものなのでしょうか」

「金平糖」

「えっ?」

「金平糖を降らす魔法かな」

「随分メルヘンな……」

「事実そういう魔法なんだよね。コンフェイト!」


 実際に見てもらった方が速いと思い、小皿を用意して、魔法を発動する。

 空から直接降らせないで金平糖を落とす場合、色々と精度などは落ちてしまう。しかし、自分の魔力を通じて降らしている都合から、やろうとおもえば、どこでも魔法を発動降ることはできる。どんなものかを、ちょっとしたお試しみたいな感じならば。

 パラパラと私の目の前小皿に金平糖が降り注ぐ。いつものやつより小さめなのは仕方がない。


「と、こんな感じ。いつもは普通に売ってる金平糖くらいの大きさからちょっとした石みたいな大きさ、色々調整できるけど今はできないかな」

「変わってる魔法ですね」

「まぁ、自覚はあるかな」


 変わりものの魔女みたいに評されることも多いし、そう思われるのもしょうがないと思っている。私自身、そう言われるのは嫌ではないので、それでいいのだ。


「よければ食べてみる?」

「食べれるのですか?」

「まぁね。美味しいとは思う」


 私の一言で再びリアが驚いた。それはそうかもしれない。本でよく見るような、お菓子の魔女みたいなのは魔女図書館では実はそんなに見当たらないし、そもそもそういう類の魔法は珍しいからだ。

 毒がないことを伝える為に、前もって私が食べる。シャリシャリとした食感がいい感じだ。


「よろしければ、一口いいでしょうか?」

「全然構わないよ。おかわりもやろうと思えば用意できるし」

「……いただきます」


 小皿をリアの方に送って、食べてもらう。

 変な味と言われないか少し心配だ。

 しゃり、しゃりと音を立ててリアが味わう。ちょっとした時間が経過したあと、リアは微笑んだ。


「珍しい味ですが、なんだかとっても美味しいって感じます」

「それなら良かった」


 金平糖の味は少し癖が強いと思う。合わない場合もあるかもしれない。その中で、そういった評価が貰えるのはなかなかに嬉しい。


「色々と話していて思ったのは、アルは常識的だなってことです」

「常識的?」

「素直な感性ってことです」


 素直な感性。その言葉には聞き覚えがあった。いや、そもそもそれは私が書いた言葉だった。


『素直な感性や、お嬢様気質について』


 前回のメモには、そう書き記したはずだ。今さっき、リアが私のメモを見た時に、それを見たのかもしれない。


「リアに比べたらそんなことは無いかもね」

「どうして?」

「トゥリの発言にいちいち反応していたし」

「そ、それは! 女性たるもの、はしたないことは良くないと思っているので……とにかく、ふしだらなのは良くないですから!」


 顔を真っ赤にして反応する。そういう風になれるのはなんだか羨ましくさえ思えてしまう。


「私、慣れちゃったから、そろそろそういう反応しきれなくなっちゃってるんだよね……」

「え、あの、そういうことばっかりするんですか、変態なのですか?」

「えっと……素直な感性って言ったすぐ次に変態って言われるの地味に傷付くかも」

「あ、えと、その……すみません」

「いや、大丈夫だけどね? そういうことを気にし始めると、敏感……というか、凄い反応するよね」

「あまり得意ではないので……」

「呆れて反応したりする私より、可愛いからいいと思うけどね」

「そ、それはどういたしまして……?」


 とりあえず、リアヴィリアという魔女のことをそこそこ知ることはできたと思う。普段は落ち着いていて、ふんわりとしたお嬢様な雰囲気。凝り性なところもある魔女であり、思った以上にお喋り。そして、少しふしだらな話をされてしまうと、混乱してしまいがちという感じか。


「リアは清楚である……」

「なにか言いましたか?」

「ううん、なんでもない」


 メモにそうやって書こうとしたけれども止めた。どちらかというと、もっと別のことを書きたいなと思ったのだ。


『清楚な感じになるためには。ふしだらな話で反応するきっかけについて』


 こういうところで行こう。これならいい感じだ。

 両腕を伸ばしてリラックス。さて、そろそろ帰ろうか。そう思った時だった。


「面白いことメモに書いてるけど、今度試してみる?」

「えっ」


 トゥリが後ろから話しかけてきた。全くノーマークだったので、飛び上がりそうだった。


「いつからそこに」

「変態辺りから」

「……ノイザーミュートは?」

「置いてきた」


 後でノイザーミュートに謝っておくべきか。トゥリの自由奔放さには時々ついていけない。


「とにかく、アルは変態なところが強いと思うけど仲良くしてあげて」

「それ、トゥリが言わないでよ」


 突然のトゥリの襲撃に、ダメージを一番受けているのはリアだった。トゥリの姿を見た瞬間に顔を真っ赤にして、震えている。

 私の後ろから急にいなくなったと思ったら、いきなり、リアの元に移動して、トゥリが耳元でなにか囁いた。


「ふ、ふぇっ……」


 すると、何も考えられなくなったのか、またリアが机に突っ伏してしまった。


「反応がいいと、やっぱり楽しい」

「……嫌われてもしらないよ」

「そこまで変なことは言ってないから大丈夫」

「はぁ……」


 ギリギリのタイミングで妨害は入ってしまったけれども、まぁ、話を聞き出すことには成功しただろう。それだけでも良しとしよう。

 トゥリの変な行動によって色々と顔を真っ赤できるのは若干羨ましい。なんだか改めてそう思ってしまった。妙にトゥリの襲来にも慣れてしまっている。

 耳まで赤くしているリアの姿は、何故だか少し、眩しく見えた。お嬢様という一面ではない、素の自分というのが出ているような感じがして、彼女のことをもっと知りたいと、改めて感じた。

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