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アル・フィアータの魔女物語  作者: 宿木ミル
魔女と魔法少女の日常編
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私と幸せ紡ぐハロウィン(中編)

「じゃじゃん! ハロウィンパーティーを盛り上げる為に夕食は派手に用意してみたよ!」


 みんなが集まったテーブル。

 長机の上には素敵な料理が並ぶ。

 カボチャのスープはほかほかと湯気を立てていた。


「美味しそうっ」


 すみれが目を輝かせる。

 私も色んな料理を見ているだけで、幸せな気持ちになれそうだ。


「こっちがパンプキンパイでしょ? で、カボチャのスープにカボチャの……」

「ちょっとカボチャ多くない?」

「カボチャ多く買っちゃったからね! でも他にも色々あるから大丈夫!」


 そう言って、リフィーが話を続ける。


「ミートパイにデビルエッグ、アップルパイなんかもあるよ。パイは多い自覚はあるかも……」

「色んな下地が用意できるというのはいいことよ。パイが多いのはなかなかいいと思うわ」

「クレープみたいなものですからね! 味の土台が違うからいい! 的な!」

「あら、アクタ。よくわかってるじゃない」

「ふふん、食べ歩きはご主人とよく行っていますからねっ」


 アクトレスがうんうんと頷きながら、アクタと意気投合する。

 見栄えの良さもあってみんな満足げな表情だ。


「あ、あたしも食べていいんだよね……?」

「当然当然! 友達に美味しいって言ってもらいたいから頑張って作ったんだからっ」

「うん、それなら……おいしく食べる」


 パーティー会場に慣れていないような様子のナヴィスは挙動不審。

 だけれども、楽しそうな様子でそわそわしている。


「お腹いっぱい食べる?」

「お菓子もあるから適度に食べる予定です」

「なるほど」

「テイクアウトしにくい、熱々なスープとかはなるべく食べてもらえたら嬉しいな! そうじゃないものは残っちゃっても大丈夫!」


 そわそわした様子でみんなが夕食を見つめる。

 私もなんだかお腹が空いてきた。

 リフィーにちょっとした目線を送ると、それを理解したのか、笑顔で頷いてくれた。


「うんうん、みんなお腹空いてるよね! じゃあ、ここは家をパーティー会場にしてくれたミュートさんに号令をしてもらっていただきますしよっか!」


 その言葉を合図に、ノイザーミュートが立ち上がる。

 すらっとした姿勢は、こういう場に慣れているのを感じさせた。


「みんな、今日は集まってくれてありがとうっ。みんなの協力のお陰で、こういうパーティーを開くことができたよ。本当にありがとう」


 ぺこりと頭を下げて、続きの言葉が繋がっていく。


「魔法少女も魔女も、みんな仲良くいられる素敵な空間。そして今宵はハロウィン。どこまでも、みんなで楽しく盛り上がろう!」


 そして、グラスをみんなが掲げだす。

 私も飲み物を入れたグラスを手に持った。


「乾杯っ!」

「かんぱーいっ!」


 各々の声が響き渡り、夕食の時間が始まった。

 グラスの音が小刻みに聞こえて心地よい。

 食卓を囲むみんなの表情は明るい。

 ひとつひとつ美味しそうだと思ったものを、それぞれ食べていく。


「ミートパイ、美味しい」

「パンプキンパイも安心のおいしさね」

「色んなものがあって目移りするかも……」

「のんびり決めよっか、ナヴィス」

「そうそう、料理は逃げないからね!」


 微笑ましいみんなの姿を見つめながら、私も気になったものを食べてみる。


「これ……なんだろう」


 なにやらパンケーキのようなものがあるから、それをさっそく食べてみる。


「ん? そこまでパンケーキじゃない……?」


 なにやらお芋のような味がする。こってりした美味しさを感じさせる。

 素直な味わいがあるのもあってなかなか食べやすい。


「アルちゃん、それはボクスティだよ!」

「……ボク、スティ?」

「ジャガイモのパンケーキ! ちょっと余裕があったから作ってみたんだ!」

「なるほど、ジャガイモなんだ……いい感じの味わいだし、作り方とか気になるかも」

「今度教えようか?」

「気になる」


 知らないものに対する好奇心はいつもある。

 だからこそ、気になったことには積極的になりたい。

 笑顔で受け答えしてくれるリフィーを見て、嬉しい気持ちになった。


「この時期の魔女の生活ってやっぱり大変だったりする?」

「あら、ナヴィス。そんなこともないわよ。対策さえしてればね」

「この時期だとハロウィンで凄いことになってる魔女はいますけどねぇ」

「凄いことになってるって?」

「悪戯好きの魔女が魔法で襲ってきたりするのよ。お菓子がないとね」

「本格的」

「だから、警戒したりすることは多いのよ。この時期は」


 友達との会話に盛り上がるのを見るとほっこりする。

 ハロウィン時期の魔女図書館はなかなかに賑やかだ。私だって油断しないようにしていることが多い。


「そんなに面白いことになってるの?」


 ノイザーミュートが問いかけてくる。

 それに対して苦笑しながら答える。


「廊下を歩いてれば3日に1回は悲鳴が聞こえるね、10月は」

「えっ、どういう状況?」

「火力がある魔法で襲われた魔女の悲鳴とか、変な魔法にかかった魔女の声……といったところでしょうか」

「なんだか凄いね!?」


 驚嘆の声を上げる彼女の姿を見て思わず吹き出してしまう。

 日常も、違う生活をしている相手から見ると非日常だということを実感する。


「賑やかだけどなかなかスリリングだよ。私は無敵みたいなところあるけど」

「アルはお菓子をいつでも出せるからね」

「そうそう、急になにかやられても大丈夫……」


 そう言葉にしていたら、なにやら外が騒がしくなっていた。

 なにかを身構える前に、相手側からなにか襲い掛かってきた。


「トリックオアトリート!」

「お菓子を用意しているかね? 魔女と魔法少女の皆々」


 そう、シオンとショノンがやってきたのだ。

 それも、魔女っぽい恰好をして、魔女らしい呪文も唱えて。

 こうなったときだって、対策は簡単だ。手のひらに袋を置いて、その中に魔力で金平糖を詰めていく。


「お菓子ならあるよ」

「流石の物持ち」

「襲撃にも備えがあるとは抜かりない」


 手渡した金平糖はそのまま受け取ってもらえた。

 珍しいお客が来たからか、リフィーはすぐさま移動して、行動に移っていた。


「夕飯食べていかない!?」

「意外な提案が来たね~」

「襲撃しに来たのに、魔女と食事すると?」

「折角だからね。魔女と魔法少女が仲良くしてる場所、楽しまなきゃ損っ!」


 笑顔でそう言葉にする彼女。

 それに対して食事しているみんなも言葉を紡いでいく。


「食卓は賑やかな方がいいと思う」

「あたしも賛成。交友は……大切だから」

「貴重だよね、こういう場面って!」

「はい、一緒したいです」

「珍しい話も聞けそうだよね」

「わかるわかる! というわけで悪魔な私もさんせーい!」


 その光景を見て、シオンとショノンは微笑ましいと言わんばかりに笑った。


「弟子の育成、なかなか順調ではないかベゴニア」


 そう言われた瞬間、後ろからベゴニアが姿を現した。


「自慢の弟子だよ」

「優しい魔女と魔法少女がいっぱいな空間って素敵~」

「そうだな。心からそう思う」

「ベゴニアさんも! 食べましょう!」

「そうさせてもらおうかな」


 みんなが席に座り、食事を楽しむ。

 この間には上下関係も、魔女と魔法少女の暗い歴史も存在しない。

 今を楽しむみんなの姿だけがあった。


「さてさて、大人っぽいみんなも増えちゃったけど、食卓を囲んだらみんなおなじ! だから、改めて……」

「いただきますっ」


 笑顔の談笑。

 幸せを見つめる姿。

 どれも素敵なひとときだ。

 それをメモに書くとしたらこうなるだろうか。


『みんなが幸せになれる時間は、とっても心を温かくする!』


 この何気ない、優しい気持ちになれる瞬間を大切にしていこう。

 様々な友達の姿を見つめながらそう思った。

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