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アル・フィアータの魔女物語  作者: 宿木ミル
娯楽文化研究編
352/394

私と文化の違いから発生するトラブル

 順調に物事が進んでいる。

 そう思っていた時に事件が起きた。

 魔女図書館の『自室』で目覚めた私は、シオンからの声を聞くことになったのだ。


「ちょっとトラブル発生しちゃって、ゲーム体験閉じちゃってるんだよね。どうしようか悩んでる」

「と、トラブル? ちょっと待って。今行くから」

「うん、エトランゼ・イストワールまで来てほしい」


 立ち上がり、着替えて、準備を整える。


「なにかあった?」


 ぼんやりした様子のトゥリが部屋に入ってきていたので、端的に説明する。


「ゲームのことでトラブルがあったっぽい」

「珍しい」

「不特定多数の魔女を相手にしてたから、そういうのが発生しちゃったのかも……私にも責任があると思うから、ちょっと相談に乗るつもり」

「一緒に行ってもいい?」

「そんなに楽しい話題じゃないかもだけど……」

「もしかしたら力になれるかも」


 トゥリはおっとりした様子ではあるものの、心配してくれているみたいだ。

 私だけだと思い浮かばない発想も閃いてくれるかもしれない。


「なら、力を貸してほしいかも」

「ん、わかった」


 一緒に行くことを約束して、朝の身支度を整える。

 着替える、髪を整える、朝ご飯を食べる。

 問題ない、忘れ物もない。準備万端だ。


「よし、行こう」


 『自室』の扉を開けてシオンがいる、エトランゼ・イストワールに赴こうとする。

 その瞬間、トゥリが自分の魔法で扉を召喚した。


「こっちの方が手っ取り早いかも」

「そうだね、トゥリ、扉使うね」

「ん、使ってほしい」


 トゥリの魔法はどこにでも繋がる扉を召喚すること。

 それを使えば、すぐさまシオンの元へ行くことができる。

 彼女の力を借りて、私はトラブルを解決する為にシオンがいるエトランゼ・イストワールへと向かった。





 エトランゼ・イストワールのスタッフ室。

 それなりの大きさがあるその部屋では、シオンが椅子に座りながら唸っていた。腕を組んでいて、いかにも悩んでいる様子だ。


「来たよ」


 彼女の正面の机越しに挨拶をする。トゥリも挨拶を交わしていた。


「トラブルシューティングは経営の花、なんていう魔女もいるけど今回はなかなかどうしようか悩んでるんだよね。あっ、座っていいよ」

「わかった」

「ん、座る」


 シオンとは向かい側の席に私とトゥリが座る。

 余裕がありそうに見えるシオンだけれども、今回はなかなか難しい問題と直面しているみたいだ。


「どんなことがあったの?」

「うーん、端的に言うと思想の違いから発生したトラブル、かな?」

「思想の違い……」


 私が言葉を受け止めたのを確認して、シオンが続ける。


「ほら、魔女図書館ってその名前の通り、魔女の為の図書館みたいな側面があるじゃない?」

「少なくとも人間が簡単に入り込めるような場所ではないね」


 たまに例外みたいな魔法少女がいるけれど、それは特殊な例だろう。

 ノイザーミュートが私の『自室』にやってきたりしている時も大抵トゥリが連れて行ってるし。


「だからなのかわからないけど、人間が作ったゲームを体験できるっていう空間が気に入らなくって、文句を言ってきた魔女が出てきたの」

「……それはなかなか深刻な問題だね」


 魔女と人間の対立の文化はなかなか深い歴史があるのは私だって知っている。

 だから、そうなる魔女がいるのも変な話ではなかった。


「んで、実際にゲームを遊んでいる魔女に対して文句を飛ばしたりする、なんてこともあったりしてね……」

「いったん閉じた方がいい感じになっちゃった……?」

「そう。安全を確保した方がいいと思って、いったん体験を閉じたんだ」


 残念そうな表情を浮かべながら、シオンが下を向く。

 これは魔女図書館の性質的な問題。そう考えるとなかなかのシビアさを感じる。


「だからこれから先、どうしようかなって」

「このまま終わりにしちゃうか、続けるか?」

「そう。クレームに負けて終わっちゃうのはもどかしいけど、畳んじゃったほうが楽なのかなって思えて」


 浅く笑う彼女からは、元気がないように見える。

 畳んだら楽かもしれない。けれども、このまま終わったら心に溝を残してしまいそうだ。

 そう思った私は、行動するべきだと考えた。


「……説得は難しくても、感想は聞けるよ」

「どういうこと?」

「何が気に食わないかとか、そういうのを調査するのはできる」

「危なくないかな」

「ふふっ、そういうの慣れっこだから」


 人間関連の知識を知る為に魔女図書館を歩き回ったりすることはよくあるし、魔女研究の為に調査することもよくある話だ。だから、こういうのは怖くない。


「トゥリは今の話を聞いてどう思った?」


 ずっと考え込んでいたトゥリにも質問してみる。

 すると、ぼんやりした目をシャキッとさせながら彼女が答えた。


「偏見を持ってる魔女もいると思う」

「偏見?」

「ん、人間が作ったものだから魔女が楽しめるわけないって思い込んでるのがいたりしそう」

「うーん、勝手な思い込み的な」

「やっかみもあるかも」


 やっかみ。

 その観点にはなるほどと思った。

 魔女が魔女とは異なる文化を楽しんでいる事実が気に食わない。

 自分がその波に乗り切れていないことに対して、様々な感情を抱いている。そんな感情。


「楽しそうにしてる魔女が気に食わないって?」

「そう。もやもや」

「もやもやを晴らせれば、もっとよくなりそうだね」


 シオンがうんうん、と頷く。

 ひとりで悩んでいた時よりは明るい表情になってきている。


「ん、それを晴らすのはアルの仕事」

「責任重くない?」

「大丈夫、いつも通り動いてればどうにかなると思う」


 やるべきことが増えた。

 それに対する責任で緊張はするけれども、新しい見解を深めるということに対して、私の中で意義があると感じられていた。


「よし、私にできることをやってみるよ」

「ありがとね、アル」

「平気平気。シオンも、設備調整頑張ってね」

「うん、なるべく工夫を凝らしてみる」


 新しい決意を胸に、私たちは歩いていく。

 素敵な未来を目指して。

 メモにはこう書いておこう。


『トラブルを解決する手段は、知ることにある! しっかり分析してトラブルを解決しよう!』


 困難だって立ち向かえる。そう信じている。

 やるべきことを見定めた私たちの目は、いつも以上に輝いていた。

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