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アル・フィアータの魔女物語  作者: 宿木ミル
まったりする日常編
313/394

私と秋に味わうシチュー

「少し冷えてきたあたりで食べるとちょうどいいものがある」


 夕飯時。

 トゥリの家でくつろいでいでいたら、一緒に夕飯を食べることになった。

 気合を入れて料理を作ろうとしているトゥリは台所でエプロンを装備している。やる気十分だ。


「手伝おうか?」

「うん、切るのをお願いしたい」

「わかった」


 私も一緒に台所に立ち、具材を見つめていく。


「ニンジンにお肉、玉ねぎにジャガイモ……」


 具材を見つめて何を作るか考える。

 この食材なら作れそうなものがふたつ思い浮かぶ。


「カレー作るつもりだったとか」

「カレーは夏に食べたりする方が好み、今回は違う」

「じゃあ、シチューね」

「ん、シチューを作る」


 こくりと頷く彼女。

 カレーもシチューも途中の行程まではなかなか似ている料理だ。だから、間違えても仕方がないだろう。今回はシチューを作る。うん、私も頑張ろう。


「まずは皮をむく」


 トゥリが手慣れた様子でスライサーを使っていく。

 ひとり暮らししているのもあって料理の腕は身についているのだろう。


「ん、切るのお願い」

「はーい」


 手渡されたニンジンをそれとなく包丁で切っていく。

 トン、トン、トンと小刻みいい音が響き渡る。

 大きさは食べやすいくらいの一口サイズがいいか。慌てず、のんびりと切っていく。


「とりあえず切ったのは纏めて置いておくね」

「ん」


 邪魔にならない位置にそれとなく置いておいて、ニンジンの切る作業を終了させる。

 次は、玉ねぎでも切っておこうか。


「私は玉ねぎやっておくから、その間にジャガイモの皮むきお願いね」

「ん、わかった」


 繰り返し、包丁で具材である玉ねぎを切っていく。

 玉ねぎは油断すると目から涙が出そうになる。状況によってはゴーグルとか用意する人とかもいるらしいけれど、ちょっと面倒だから私は用意しない。

 トントン、と切っていく。

 涙は……そこまで溢れなそうだ。


「泣かないの残念」

「泣いてほしかったの?」

「ん、ちょっぴり」

「残念でした」


 からかうように笑って、玉ねぎも切り終える。

 そして、いい感じのタイミングにジャガイモの皮むきが終わったのでトゥリから皮がなくなったジャガイモを受け取る。


「綺麗」

「ちょっと自信がある」

「こういうこと普段からやってるから?」

「ん」


 こくりと頷くトゥリ。

 自然に囲まれた空間に過ごしているのもあってか、そういう作業が得意なのかもしれない。私も料理ができないわけではないけれど、見習うべきだろう。

 受け取ったジャガイモをそれとなく切っていく。


「そろそろ移動する」

「鍋に火を入れるの?」

「そう」


 炎魔法で鍋下に火をつけて、鍋に油を注ぐ。

 魔女と鍋はそれなりに関連性もあるからか、手慣れた動きだ。


「まずはお肉を炒める」


 トゥリが箸を持って、肉を転がし始めた。


「この肉はなんの肉なの?」

「牛肉」

「いいね、こってりした味わいになりそう」


 シチューのお肉は色んなものが使える。

 鶏肉の場合はさっぱりした味わいになるけれど、牛肉の場合、お肉のこってりした感じの味わいが楽しめる。どちらも魅力的な味わいだ。

 色が変わるまでのんびり、お肉を転がしていくトゥリ。

 美味しそうな香りが漂ってくる。


「えっとこの後どうするんだっけ」

「柔らかくなりにくいものを入れるといいと思う。ニンジンとかジャガイモ」

「なるほどね、じゃあ早速」


 ニンジンとジャガイモが鍋に入る。

 そうしてトゥリがその具材を転がしていく。

 のんびりした作業だけれども、どこか心地よいテンポだ。


「空気を循環させておいた方がいいかな?」

「お願い」

「じゃあ、風を吹かせとくね」


 小さく詠唱して、初歩的な風の呪文を発動させる。

 これで換気扇の代わりにはなるだろう。

 トゥリの様子を見つめると、ちょっと真剣な表情をしていた。


「そろそろ玉ねぎ行けると思う」

「入れるね」


 玉ねぎのタイミングをずらしたのは、炒めすぎると溶けてしまうからだ。

 他の具材より、火が通るのが速い玉ねぎは早期に入れてしまうと焦げたりしてしまうこともある。なかなか難しい具材だ。

 全部の具材を入れて、ちょっとの時間が経過する。

 そろそろ用意をしておいた方がいいか。そう思って計量カップに手を伸ばす。


「アル、いけるよ」

「任せて」

「分量はこのルウのレシピを見て、整えて」

「はいよ」


 ルウに書いてある分量を量って、それとなく水を入れていく。

 一回、二回、三回……

 いい感じに水を入れることができた。


「あとはしばらく待つ」

「アク取り用のお茶碗用意しとくね」

「ありがたい」


 のんびり待っていくと、煮立ってくる。

 ただ、煮立つとアクが出てくるのがお肉の特徴だ。特に牛肉なら猶更。

 それを取り除くのも美味しくする秘訣だ。


「アル、お願いしても?」

「任せて」


 お湯になった水をすくってしまわないように、気を付けながらお玉でアクをとっていく。

 ちょっと緻密な作業だけれども、こういうのも嫌いじゃない。


「アル、上手」

「ありがとう」


 褒められると嬉しいのはどの場面でも同じだ。

 おおよそのアクが取れたのを確認して、次の行程に移る。


「ルウを入れる」

「牛乳も用意してある?」

「もちろん」


 粉のルウを入れて、牛乳も入れる。

 そしてお玉でシチューをかき混ぜていく。


「どんどん重くなってく感覚がいいよね」

「わかる」


 のんびり、コトコト。

 グルグル回して、仕上がるのを待つ。


「寒くなってきたら、温かいものを食べたくなるよね」

「だから、今回シチューを作った」

「ひんやりした夜を温かくするため?」

「ん」

「わかりやすい」

「後は、食欲の秋だから」

「美味しいものは食べたくなると」

「そういうこと」


 私も美味しい料理を食べられると嬉しい気持ちになる。

 友達と一緒の時間になると楽しいことが多い。

 だから、こういう時間は大切にしたいものだ。

 のんびりとぐるぐる回す。

 時々話を交えながら調理していたから、退屈はしなかった。


「っと、完成かな?」

「お疲れ、アル」

「トゥリもお疲れ」


 仕上がったシチューからは美味しそうな香りが漂っている。

 これはしっかり味わえそうだ。

 早速よそって、食卓に並べていく。

 ご飯とシチュー。一緒に食べなかったり食べたりするのは文化によって違うみたいだけれども、今日は一緒に食べる。


「いただきます」

「いただきますっ」


 お肉やジャガイモが混じったシチューを食べていく。


「……美味しいっ」


 牛肉の美味しさは甘めなシチューの中でこってりした味わいを感じさせてくれることがら、素敵さを覚える。ジャガイモはふわふわ。ニンジンもふわふわ。甘い玉ねぎの味わいもこれまた美味しい。ルウの味わいもばっちりだ。


「よかった」

「トゥリも美味しく食べれてる?」

「ん、秋っぽい感じがあるし、美味しい。ただ……」

「ただ?」

「マッシュルームを入れておけばよかったかも」

「あぁ、確かにあったら美味しかったかも」

「あと、ニンジンとじゃがいものタイミング間違えてたかも」

「水を入れるときだっけ?」

「うん、そっちの方が無難だったのかも」


 作り終わった後に美味しくできそうな要因が増やせそうだと思うのは良くある話だ。次に活かせるということを考えると、悪くないことだと思うけれど。


「秋も美味しいもの食べたりしたいね」

「食べ歩きとかも楽しそう」

「わかる、街とか出歩きたいよね」

「一緒に動く日とか作る?」

「賛成っ」


 食べ物で繋がる交流。

 こういう時間も素敵なものだ。

 メモ帳にはこう書いておこうか。


『食を通じて繋がる時間も大切にしていく!』


 美味しいシチューを味わいながら、のんびり会話する時間。これはきっと尊い時間なはずだ。トゥリと過ごす夕食の時間は、笑顔がいっぱいの時間になっていた。

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