私と衣替え
「残暑の時期って着る服に悩むんだよね」
そう話を切り出してきたのはリフィーだった。
いつもの公園のベンチ。
リフィー、すみれ、私と集まって今日も会話していた。
「あ、わかるかも。今日も出かけるときどういう色合いにしようか悩んだもん」
頷きながらすみれが返答する。
すみれの服装は薄い水色のワンピースだ。爽やかな印象があってちょっと夏っぽい。
「適度に暑いから、難しいって部分もあるよね」
私も同意して頷く。
私の私服は基本的に時期を問わずに使うことが多いけれど、上着をどうするかで調整することが多い。今日は羽織らない形で仕上げている。
「秋と言えば落ち着いた色合いって感じなんだけど、まだ暑いから夏っぽいし……灰色とかそういうのはまだ早いって思っちゃうんだよね」
白のワイシャツに紺色のショートパンツなリフィーの姿は健康的であると同時に、夏らしさを感じさせる。しっかりとした夏ならば、夏ファッションみたいに受け止められそうだけれども、今は残暑の時期。なかなかそう言い切るのも難しい気持ちになるだろう。
「衣替えもなかなか大変だよね」
「大変だけど、おしゃれも楽しまなきゃ人生損だからね」
「そうそう、似合ってる衣装を見つけるのも楽しみだから」
「わかる」
大変だけれどもぴったりと合致した時は楽しいもの。それがファッションだ。
魔女や人によっては面倒だという人もいるかもしれないけれど、私はそうは思わない。季節に合わせて衣装を整えるのは気分を持ち上げられるし、なにより新しい発見に繋がることも多いからだ。
のんびりとベンチで座っていると少しだけ冷たい風が吹いてきた。
太陽はまだまだ暑いけれど、季節が変わりつつある。
「秋は山の幸とかも食べたいよねぇ」
「わかる。けど、温泉で爽やかな気分にもなりたいなぁ」
「秋の風景は絶品だからね!」
「そうそう、綺麗で心が癒されるみたいな……」
ふたりが秋の楽しみに思いを馳せていく。
私もトゥリと話し合っていたけれど、こういう季節が変わる時は、四季に纏わる文化や変化に触れたくなるものだ。私も、うんうんと頷く。
「秋の天然温泉は良さそうかも」
「実際、かなりいい感じだよ。紅葉の森で爽やかな風を浴びながら温泉に入る。考えるだけでも素敵じゃない?」
「いいね、すっきりした雰囲気を感じる」
心地よい秋風を感じて、紅葉を見つめながら、癒される。うん、素敵だ。考えるだけで爽やかな気持ちになれる。
「リフィーも言ってたけど、山の幸もいいよね!」
「ベゴニアさんはしっかり食べれるものを収穫するからね、ありがたいよ」
「師匠本人はサバイバル技術の賜物って言ってるけど……プロの料理人から見てもわかるものなの?」
「そりゃあまぁ。人体に影響を与えるような食材は使っちゃ駄目だからね。ベゴニアさんも凄いと思う」
「なんだか、すみれとベゴニアが一緒に暮らしてる家に行ったら新鮮な山の幸が食べられそうだね」
「ふふっ、それはもういっぱい食べられるよ?」
「お味噌汁が美味しいんだよね」
「師匠のお味噌汁は味付けがしっかりしてて、美味しいの。主婦の味って感じなのかな」
目を輝かせて話すすみれ。その姿はわくわくした雰囲気に包まれていて、いい感じに思える。
「料理人の味とは違う、家庭的な味ってやつだよね」
「そうそう、アルも食べてみるといいよっ」
「今度夕飯の時間にやってこれたらお願いして食べてみようかな」
魔法少女の家庭の味。
うん、なんだか響きが面白い。
私も食べてみたくなってきた。
話に一区切りがついたから、軽く伸びてみる。
セミの声とかは聞こえなくなってきている。
自然がある方を見てみると、トンボが跳んでいる。少しずつ秋が近づいてきているのだろう。
「あっ、季節の変わり目は注意しないと駄目だからね」
「何を?」
「体調管理!」
びしっと指摘される私とすみれ。
確かに季節の変わり目は不安定な時期。体調も崩しやすいだろう。
「あはは、師匠にもよく言われる」
「ベゴニアさんはそういうの徹底してそうだもんね」
「そうそう、夜更かしのし過ぎはよくないとか、しっかり釘を刺してくる」
「しっかりしてるんだ」
指摘してくれる人がいるというのはありがたいことだろう。
私の場合、トゥリが指摘してくれたりするけれど、油断すると夜更かしとかはしてしまいがちだ。そうなると次の日ふらふら……ってなることもあったりする。気をつけないといけない。
「アルちゃんは大丈夫? 本読みすぎたりしてない?」
「……してるかも」
「無理は厳禁! しっかり眠ったりしなきゃメっ、だよ!」
「はい、気を付けます……」
集中力は時に体力を消費しすぎてしまう要因になったりもする。
気温の変化が激しい時期だからこそ、身体に負担をかけないようにするのは重要だろう。肝に銘じておこう。
「元気にみんなで集まって買い物とか行きたいからねっ」
「うん、新しい服とか用意したいし」
「その方が笑顔でいられるよね」
「そういうことっ」
微笑みながらリフィーが言葉を返す。
季節の変わり目は衣装もそうだけど、体調も移り変わっていく時期。油断しないで、少しずつ変わっていく過程に気を配っていきたい。
そういうことを考えていくと、メモに内容はこういうのがいいのかもしれない。
『体調管理に気をつけながら、これからの生活をより良いものにしていく!』
油断大敵、健康一番。こういう心構えで過ごしていきたい。
「あ、そうだ。今日買うかは別にして、これから洋服屋さんに寄らない?」
「さんせーい」
「私も乗った」
「じゃあ、いこっか!」
立ち上がり、新しい目的地に赴く私たち。
秋に似合う服装はどんなものがあるだろうか。
みんなで話し合いながら歩く残暑の日は、新しい変化の兆しを感じさせてくれた。




