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アル・フィアータの魔女物語  作者: 宿木ミル
まったりする日常編
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私と夏のプール

 プール。それは海とは違う形で水遊びを楽しむことができる空間だ。

 屋外、屋内。様々な場所にプール会場があって、それぞれの空間の雰囲気や、置いてある遊具も異なっている。私も詳しいことは正直なところ分からないけれど、ひとつ確かなのは夏の遊ぶ場所としてとても楽しいということだ。


「アルちゃん、泳ぐ前は準備運動しようね」

「怪我とかしたらよくないからね」

「うん」


 セーラー水着のリフィー、ワンピース水着のすみれに指摘されながら、身体を伸ばしていく。


「アルの水着はわりかし控え目?」

「今回はちょっと冒険してるけどね」


 白のキーホール型の水着で、おへそが出てる感じのものを今回は着ている。

 これを選択したのにはある理由があったりもする。


「水着だっておしゃれするのいいんじゃないって言ったのがきっかけだよね」

「そうそう、イメチェンも大切的な」

「うぅ、似合ってるかなぁ」


 身体的にそこまでメリハリがあったりするわけでもないので、そんなに自信が持てなかったりする。水着で目立つタイプの存在は、やっぱりプロポーションがしっかりしている方っていう印象が強いのだ。


「大丈夫、アルは可愛いから」

「そ、そうなの?」

「ちょっとそわそわしてる感じの雰囲気も良く似合ってる」

「あ、ありがとう」


 トゥリは黒のクロス・ホルダーの動きやすそうなビキニだからなんだか対象的だ。

 白と黒。なんだか意識してないけれど、ふたりでいい感じの関係に思える。


「なんだか映えるよね、トゥリちゃんも」

「そう?」

「紫と黒はしっとりとした印象を与えるし、なんていえばいいのかな? ちょっと大人びてる感じ」

「大人びてる」


 その言葉がちょっと嬉しかったのか、ふふっと微笑むトゥリ。

 微笑みたいな様子だけれども、彼女の感情の揺れ動きは表情以上に内面が激しかったりする。かなり気に入っている言葉なのは伺えた。


「アルは少女っぽい」


 ちょっと背伸びしたい感じなのかもしれない。

 私の水着と比較している。


「フレッシュでいいと思わない?」

「大人びてるのもいいと思う」

「どっちも素敵な魅力があるってことで」

「そういうことにしとく」


 こくりと頷くトゥリ。

 私もトゥリの雰囲気が好みだったので、両者勝利、ということで。


「そろそろ準備運動は完了した?」

「大丈夫!」

「みんな平気っ」

「泳げる」


 屈伸運動などもしっかりした。

 泳ぐ準備は万端だ。


「じゃあ、入ろう!」

「流れるプールっ」


 飛び込まないで、のんびりとみんなでプールに入っていく。

 ざぷん、と入ったプールの中。ひんやりした水が心地よい。

 水流がのんびり流れているのもあって、なにもせずとも流れていける。


「よいしょ!」


 勢いよく動いたのはリフィー。

 ドルフィンキックというのだろうか。プールの壁を蹴って、綺麗に泳ぐ姿を見せる。


「すみれ、捕まえられるかなっ?」

「負けないんだからっ」


 丁寧に泳いで追いかけるのはすみれ。

 同じ師匠の元で修行していても、その動き方が違うというのは見ていても面白い。


「アルも追いかけっこする?」


 トゥリが流されながら問いかけてくる。


「私はあそこまでアクティブに動けないかも」


 残念ながら私は行動する時はするとはいえ、そこまで泳げたりするわけではない。

 だから、泳いで追いかけっこ、みたいなことはできない。


「だったら、ぴょんぴょん跳ねて追ったりするとか?」

「なんだか童心に戻れそうかも。それ、やってみようか」


 トゥリの提案に賛成の意味を込めて、頷く。

 すると、トゥリはゆったりとした仕草で前に跳ねながら進みだした。


「おいで」


 ふっと笑いながら、振り向く彼女。

 水に濡れた髪が、黒い水着と一緒に目に映る。

 トゥリの表情もどこか大人っぽい。

 なんだか見ているだけでドキドキしてくる。


「捕まえるからね」


 トゥリの姿を追いながら、私も跳ねながら前に進んでいく。

 水の中で行動する時、水流があるとはいえ、やや動きにくい。どんな動作も泳いでいないとゆっくりになる。


「それっ」


 水をかけて、攻撃してみる。

 トゥリの髪に水がかかる。


「お返し」


 それで彼女も火が付いたのか、トゥリも掌で水を飛ばしてきた。


「わっ」


 真正面から水を浴びて、私の髪もたっぷり濡れる。


「アルは爽やかな感じがあるのがいい」


 そう言いながら、遠ざかるトゥリ。

 水をぶつけながら対話しているような感じだ。


「トゥリは美人な雰囲気になるっ」


 水をぶつけて、お互いのいいところを語っていく。

 褒め合戦だ。


「すらっとしてるのがいい」

「ミステリアスなのが魅力っ」

「かわいい」

「それはトゥリも一緒」

「アクセサリー、いい」

「お気に入りだからね、金平糖風アクセ」

「なるほど」

「トゥリも、すらっとしてて羨ましい」

「ふふん」


 なんていうか、おっとりとした遊びだけれども、楽しい。

 素肌に届く声というべきなのだろうか。

 水着という衣装なのもあって、そのまま身体に届いてくる印象だ。


「いちゃついてるねっ」

「そういう関係もいいかも!」


 パシャ、と姿を現しながらリフィーとすみれが話しかけてくる。

 いちゃいちゃ。そういう表現もあるか。なんだかちょっと気恥ずかしい。


「アルの反応が楽しいからそうしてる」

「私だってトゥリが可愛いからそういうことしてる」

「仲良しー」

「いいよね、見ててほっこりする」


 そのやりとりでみんなが笑顔になる。

 水に流されながら、その中で本音を話して、素肌に届くような会話を繰り返す。

 そういう時間も、なんていうか素敵だ。

 お互いのことを感じ合えるし、心が通じ合えるような気持ちになれる。


「手を繋いで歩くとかしてみるのもいいんじゃない?」

「面白そう」


 そういってすぐに行動に移すのがトゥリだ。

 綺麗な手を伸ばして、私の手を掴む。


「一緒に、いこ」

「いいよ、ゆったり歩こっか」


 ゆっくり歩幅を合わせながら、流れるプールを歩いていく。

 一歩一歩がゆっくりなのが、お互いのペースを合わせているみたいで、楽しい。


「こっちもやろうっ」

「いいよー」


 リフィーとすみれも私たちと同じように歩いていく。

 休憩も兼ねているのだろう。のんびりとした感じが素敵だ。


「アルの掌、柔らかい」

「トゥリだって」

「ふふっ」


 満足そうな表情を浮かべるトゥリ。

 色んな友達の表情を見ることができる夏のプール。

 こういう時間はやっぱり思い出になるし、いいことが多い。


『友達の笑顔も、変わった表情も、投げかけた言葉も全部素敵な思い出! たっぷり楽しむ!』


 ……みたいにメモ帳に書き記すのもいいだろう。

 夏の思い出の時間。いっぱい重ねて、これからも楽しみを増やしていく。

 しっかり楽しもう。

 笑顔いっぱいの空間を見つめながら、私はそう思った。

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