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アル・フィアータの魔女物語  作者: 宿木ミル
異邦人の物語編
291/394

私と本の世界の謎解き

「次の空間は……」

「謎解き空間みたいな感じですかねぇ」


 部屋を進んで到着したのは魔女図書館によく似た空間だった。

 創始者のひとりなのもあって、内装もそっくりだ。


「少し遠くの方、確認してきますね」

「悪魔の私とリアはぱぱーって探し回ってきますんで!」

「わかったわ、入り口付近の調査は任されるわ」

「調べて把握したことは共有していくね」


 魔力探知で周囲の安全を確認したのちに、個別行動に移る。

 アクトレスと私は別の本棚を調査する。私の隣にはトゥリが珍しそうに色んなものを見つめている。

 読書用のスペースのような場所には机が置かれていたり、一般的な図書館っぽい内装もあるけれど、やっぱり目立つのは本棚だろう。

 魔女図書館と同じように、本棚には多くの本が置かれている。……ひとつひとつの本は、読めるのだろうか?

 手を伸ばして、確認してみる。


「あれ、手に取れない」


 壁に詰まって本が動かないわけではない。純粋に取り出すことができない。本棚と本が引っ付いている。どうやら元々取れない仕組みになっているみたいだ。


「アル、ちょっと残念?」


 何故かトゥリが私の肩を叩く。励まそうとしてくれているのだろうか。


「……一応興味はあるけど、ここで読み耽るほどひとりの時間が好きってわけじゃないからね?」


 それに対して私は首を横に振った。

 確かに読書は好きだけれども、友達を置いて読書するみたいな選択肢を取るようなことはするつもりはない。どういう本が置かれてるかとかは気になってるけれど。


「色が違う本があるわね」


 アクトレスが赤い色の本に手を伸ばす。

 取れるのか気になって、私もその仕草に注目する。


「あら、これは背景じゃないみたいね」

「読めそう?」

「問題ないわ。栞が挟んであるところが怪しいからそこを呼んでみるわね」

「お願い」


 辞書のような厚みのある本を持ち、彼女が内容を確認する。


「えっとなになに? 『これは最初の一歩を刻みし本。原初の本としてとある本棚の左端に置いておくべし』だって」

「なぞかけ?」

「なんだかはめ込む場所とかありそうなやつっぽいよね」

「まぁ、取り出しておきましょう。使う場面がありそうだから」


 回収できる本を取り出し、次のものを調べていく。

 少し離れた場所を探すのは合流してからの方がいいだろう。

 色が違う本を本棚から探していく。

 すると、高い本棚の一段目。今度は私が青い本を発見することができた。


「これも必要な本だよね?」


 栞が書いてある場所以外も気になったのでそれとなく確認してみる。


『今日は退屈気味な一日だった。娯楽の魔女がこれってちょっと笑うかも』

『うーん、面白い出来事ないかなぁ?』

『話し相手がいないのは暇ー』

『わたしのダンジョン、そんなに難易度高いかな?』

『そうだ、この日記帳を再利用して部屋作ってみよ。落書き帳とかも再利用』

『見られたら見られたで面白いし、もしかしたらモチベに繋がりそうだからー』


 これはシオンの文章だろう。前の部屋で見た字の形によく似ている。

 ……なんだろう、大雑把なんだろうか? 文章で伸ばし棒があったりするのは珍しい印象がある。

 話す口調で書いたりすることは私もやったりするけれど、ここまで砕けた文書というのもなかなかに珍しい。


「っと、脱線しすぎてた」


 気を取り直して栞があるページに手を伸ばす。

 そこにはさっきアクトレスが言っていたようなヒントの文章が書かれていた。


『これは次の部屋に通じる扉を開く為の鍵の本。終わりの本として本棚の右端に置くべし』


 ……さっきの砕けた文章を呼んだ後だと、ちょっと文章にギャップを感じる。

 それはそれとして、これで色付きの本が二つ見つかったことになる。あと何個取り出すことができるのだろうか。とりあえず、周辺に色付きの本があるかどうかを確認する。

 ざっと見た感じ、私の近くにはなさそうだ。


「アル。こっちでも本を見つけた」


 少し遠くを調査していたトゥリが、緑色の本を回収してきたみたいだ。

 本の内容をざっくり見せてくる。


「栞の場所以外は色んな絵が描いてあった」


 そういってページをめくる。

 なるほど、かなり綺麗なイラストだ。画家かと思えるくらい上手に描かれたものが多くあってびっくりする。娯楽の魔女というのもあって創作的なことが好きなのかもしれない。


「なんだか素敵かも」

「興味沸いてくる?」

「うん、案外話したりすると楽しそうだし」

「そう思う」


 こくんと頷き、トゥリが栞のページを開く。

 次の場所に行くための一歩だ。


「このページにはこう書いてある。『安定の中心を支える本。本棚の中央に置くべし』だって」

「シンプルだね」

「あとふたつ」

「アクトレスと合流して探そうか」

「ん」


 ふたりで本を手に取りながら、アクトレスを捜す。

 部屋全体の広さは控えめなのもあって、彼女はすぐに見つかった。

 本棚に挟まっている黄色の本の目の前で、悩んでいる様子だったけれども。


「どうしたの?」

「アル」


 私の方に振り向き、本を持ちながら語る。


「色付きの本を持ってると、新しい本を手にすることができないの」

「……どういうこと?」

「アルも色付きの本を入手したなら、わかるはずよ」

「試してみる」


 いまいち説明だけでピンとこなかったので、黄色い本に手を伸ばそうとする。すると、見えない壁のようなものに遮られた。

 これは魔力だろう。なかなか強力で、私たちの力だとどうにかするのは難しそうだ。


「なるほどね、ひとりが持てる量はひとつまで、と」


 本を置けば問題ないかもしれない。そう思って、地面に本を置いてみようとする……


「待って」


 その行動はアクトレスによって遮られた。


「どうして?」

「さっき試したけど、確かに本を置けば新しく本を入手することはできるわ。ただ……」

「ただ」

「さっきまで持ってた本は、手放した瞬間、元の場所まで戻っちゃうの」

「う、それは厄介かも」


 それだと手間がかかってしまうだろう。

 多分、本棚に運ばないといけない以上、行ったり来たりになってしまう可能性は高い。


「ふたりが来るまで待機した方がよさそうかも」

「そうするべきね」

「まったりする」


 ゆっくりと、リアとアクタのふたりを待つ。


「暇な時間に見てたけど、この赤い本は魔女の観察日記みたいだったわ」

「観察日記?」

「エトランゼ・イストワールに挑戦していった魔女の記録が記載されてる。まぁ、この部屋を創った先の記憶はないみたいだけどね」

「なかなか貴重面……」

「なんだかんだで、ひとりだと詰まりやすい仕組みになってるみたいだから、こうしてみんなで集まって来たのは正解だったかもしれないわね」

「アルはカンが冴えてる」

「のかも?」


 ふふっ、と笑いながらトゥリの言葉に頷くアクトレス。褒められるのはちょっと気恥ずかしいけれど、悪い気持ちはしない。

 ゆっくりしながら、リアとアクタを待っているとやってきてくれた。


「いかにも怪しげな本棚を見つけましたよ、ご主人!」

「ありがと、アクタ」

「本が入りそうな窪みが五つほどありましたっ」

「窪みが五つ……そうなると必要そうな本もそれと同じ数になるのかな?」


 とりあえず情報共有するべきだろう。

 そう思い、端的に話していく。


「必要そうな本は多分いま、私とトゥリとアクトレスが持ってるような色付きの本なの」

「はい」

「で、これを全部本棚に差し込んだら、次の場所に行けるって感じなはず」

「なるほど……」

「はいはい質問っ!」

「いいよ」

「なんで後ろに色付きの本があるのに、ご主人とか二つ目取らないんですか!」

「取れないからよ、そういうルールが本側にあるみたいで」

「なるほど、だから悪魔な私とかリアを待ってたわけなんですねぇ」

「そういうことよ」


 話はわかった、と言わんばっかりにひょいっと黄色の本を回収するアクタ。

 ぺらぺらと内容も確認している。


「ほうほう、世界の娯楽百科事典。面白そうですな」

「娯楽の魔女は流石ね……欲しい内容は栞のページにあるわよ」

「あっ、これですね。えっと『これは未来を導く本。左から見て四つ目の場所に置く』だそう」

「問題ないわ。ありがとう」

「どういたしまして、ご主人っ」


 世界の娯楽というのにはちょっと興味があったけれど、我慢。

 それはそれとして、次に進む為の一歩を探し当てるのが大切だ。


「とにかく、これであと一つ!」

「歩きながら探しましょうか」

「それがいいと思う」

「本棚にまで通った道を捜していきましょう」


 ゆっくりと歩きながら、全員で色付きの本を探す。

 様々な向きを確認しながら、調査を進める。色が付いているとしてもひとつの本を探し当てるのはなかなか大変だ。

 しばらく歩いて、窪みがある本棚が近くなってきたタイミングで、リアが声をあげた。


「あっ、あの本怪しいですっ」


 その本は見るからに真っ白だった。

 白色の本。あれが最後の本だろう。


「私たちは持つことができないから、リア、お願いね」

「はいっ、取ってみますっ」


 そっと掴み、本を手にする。

 そして内容を確認していく。


「彫刻とか建物の写真がいっぱいですね。なにやら参考にしているような感じです」

「イマジネーションを高める為?」

「それはありそうですね。きっかけがないとものつくりは大変になったりすることは多いですから」

「リアが言うと説得力があるわね」

「はい、最近は新しい見解の為に、氷の彫刻とか身に行ったりしてますので」

「ほへー、いいね、そういうの」


 それぞれ記載されている内容が違うあたりシオンはマメな部分があったりするのかもしれない。

 彼女のことを部分的にも知ることができたのはありがたいと思った。


「あっ、栞のページも読んでおきますね。『これは次のステップに進む一歩の為の本。左から見て二つ目の窪みに置くべし』だそうです」

「これで全部だよね」

「はい、窪みの数と、本の数は一致してますのでっ」

「じゃあ、窪みがある本棚まで行こう!」


 リアとアクタに案内してもらって、窪みの本棚までたどり着く。

 そこにはきっちり本が入りそうな窪みが五つ存在していた。


「間違えないように入れないと」

「じゃあ、最初は私ね」


『これは最初の一歩を刻みし本。原初の本としてとある本棚の左端に置いておくべし』


 そう書かれた赤い本を本棚の左端に置かれる。


「次はこちらの番ですね」


 リアが動き、白い本を窪みに入れる。


『これは次のステップに進む一歩の為の本。左から見て二つ目の窪みに置くべし』


 これで二つ。次はトゥリが動き出した。


「ん。しっかり差し込む」


 ぐっとトゥリが緑色の本を本棚に入れる。


『安定の中心を支える本。本棚の中央に置くべし』


 順調だ。

 これであと二つになる。


「はいはい、悪魔な私の出番っ」


 アクタが黄色の本を差し入れていく。


『これは未来を導く本。左から見て四つ目の場所に置く』


 そうなると最後の本は私が持っている青い本になる。

 そっと近づいて、その本を差し込む。


『これは次の部屋に通じる扉を開く為の鍵の本。終わりの本として本棚の右端に置くべし』


 全部の本が刺さった瞬間、窪みがあった本棚が右に動きだした。


「なるほど、これで……」

「道ができるというわけね」

「コンパクトな仕掛け」


 そうして、新しい空間へ通じる通路が出来上がった。

 これで図書館の空間は抜け出せたことになるだろう。


「みんな、ありがとうっ」

「協力プレイの賜物っ」

「これからも頑張りましょうっ」

「張り切りすぎないようにね」

「のんびりいこう」


 慌てず、次に進む。そういう意思がきっと大切だろう。メモにはこう書いておこう。


『慌てないでひとつひとつのことを見つめれば、きっといいことに繋がる!』


 情報だってごちゃごちゃになったらわかりずらい。シオンだって、そう思うから本を分けて色んなことを書いていたのだろう。私も参考にしてみていいかもしれない。

 本の内容にひっそりと想いを寄せながら、そんなことも考えていた。

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