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アル・フィアータの魔女物語  作者: 宿木ミル
ゆったりとした日常編
279/394

私とホワイトデーのプレゼント(前編)

 ホワイトデーについて調べる為に、いくつか資料は集めていた。

 その中には、チョコレートをあげる人が多いという情報はあったけれどベゴニアの言っていた通り、ギフトを渡す人も多いというのが記載されていた。

 感謝を伝えるにはどうすればいいか。

 なるべくバレンタインデーとは違った形に表現するなら、どうするか。

 色々なことを考えた。


「……これならきっと、大丈夫なはず」


 悩んで、閃いた答え。

 それはきっと間違いじゃないはず。

 荷物として用意したのは友達の数だけあるギフト。個数に間違いはない。


「よし、行こう」


 立ち上がり、トゥリに会いに行く。

 トゥリは今回のホワイトデーに動くことを考えさせてくれた。

 そうした事情もあり、一緒に行動しながらホワイトデーのプレゼントを渡すことも決めていたのだ。

 彼女の家の扉を叩き、トゥリを待つ。

 私がやってくることを予想していたのか、トゥリはすぐに顔を見せてくれた。


「トゥリ、ホワイトデーの準備は万端だよ。そっちは大丈夫?」

「ん、問題ない」


 短めな返事と一緒にトゥリもギフトを見せてくる。

 お互い、しっかりとプレゼントを用意できたみたいだ。

 それなりに急であっても、ばっちり準備できているのはお互いにやる気がある証拠なのかもしれない。


「じゃあ、出発する?」

「それで大丈夫」

「どこから行こうか」

「とりあえず、ホワイトデーを意識してなさそうなところから行きたい」

「それならアクトレスかな。魔女図書館はホワイトデーの文化はそこまで強くないみたいだし」

「ん、ならその次にリアのところにも行く」

「よし、それでいってみよう」


 動く流れが決まったので、一緒に行動を開始する。

 みんなが喜んでくれますように。

 魔法の扉を開ける手に少しの緊張と、願いを込める。

 そわそわした気持ちを抱えながら、私たちはまず、アクトレスのところに向かうことにした。










「アルにトゥリ? なんだか装いも珍しいし、なにかあったのかしら?」


 きょとんとした表情で迎えてきたのはアクトレス。

 特別おしゃれにしているのに気が付いたみたいだ。


「タキシード風ではないですけれど、結構フォーマルな感じですねぇ、白っぽい感じ」

「ん、そういうイメージでやってきてる」


 ホワイトデーのイメージに合うようにお互いお揃いのコーデで調整してみたのだ。

 流石にスーツとかタキシードの男装はあまり合いそうにない気がしたので、きちっとした白いワンピースにしてみた。

 トゥリも同じように白を基調にした衣装に調整している。スカート丈はトゥリの方が短い。少女らしい印象を与えられそうなのがトゥリならば、ちょっと優雅な印象を与えられそうなのが私な感じだろう。


「今日がちょっと特別な日だから、挑戦してみたところかな」

「なるほど、そういう事情。でも、特別な日って?」

「魔女図書館ではあんまりまだ流行してないイベント」


 すぐに答えを出すのもなんとなくもったいない気がしたので謎解きの時間を用意する。

 私の問いかけに対して、アクトレスとアクア、その双方が悩む。


「あー、なんかわかるようなわからないような?」

「アクタ、わかるの?」

「ほら、あれですよ。少し前に買い物で見たじゃないですか。なんか白いやつ」

「白いやつ……白……あぁ、もしかして、ホワイトデー?」

「正解」


 トゥリが微笑みながら、プレゼントを手渡す。

 

「ホワイトデーのプレゼント、普段のお礼として受け取ってほしい」


 まっすぐな瞳でトゥリがアクトレスを見つめる。

 それをアクトレスが受け取ると、うきうきした表情でアクタがプレゼントを凝視していた。


「おぉ、なんだか得した気分! 開けてもいい?」

「大丈夫」

「じゃあ早速っ」


 トゥリのプレゼントが開かれる。

 その中には小さなハンカチと、クッキーが入っていた。

 しっかり人数分用意してある。お菓子のクッキーはちょっと多めだ。


「花柄のハンカチ……いいわね、気に入ったわ」

「クッキーも良い感じ! ありがとうっ!」


 トゥリのプレゼントは喜んでもらえたみたいだ。

 次は私の番か。

 そう思い、勇気を出して渡してみる。


「私のも気に入ってもらえたら嬉しいな」

「あら、アルもプレゼントがあるの?」

「うん、感謝を伝えるホワイトデーだからね」

「感謝……褒められることしましたっけ? ご主人」

「身に覚えはないわね」

「いつも友達として仲良く接してくれるだけでも幸せなんだよ。だから、これを渡すね」


 人数分用意した袋を手渡す。

 どう評価されるかはわからないけれど、期待に応えられたら嬉しい。


「見ていいわよね」

「もちろん」


 プレゼントの中身を確認してもらう。


「これは、金平糖! アルの金平糖ですね!」

「それにこっちはメモ帳? 用意するの大変だったんじゃない?」


 プレゼントの中身を見たふたりから、感嘆の声があがる。

 どうやら喜んでもらえたみたいだ。私らしいプレゼントをうまく渡せたということが実感できてほっとする。


「いつも使ってるのと同じやつだから気にしなくて大丈夫。金平糖だって、気合を入れて魔力で生成したものだから、そこまで大変ってわけじゃなかったし」

「そう。なら、ありがたく貰うわね。ありがとう。買い物のメモとかに使うわ」

「じゃあ、悪魔な私はお絵描きに使おっと! 金平糖も美味しくいただいちゃうね!」

「そうしてもらえると嬉しいかな。金平糖も、今回のは特にばっちり作ったから美味しいと思う」


 これで一安心だ。

 まず、アクトレスとアクタのふたりにホワイトデーを渡すことができた。


「それにしても感謝ね。たまにはアクタにお礼をしてみるのも悪くはないかもしれないわね」

「おっ、ご主人まさかデレ期入ります?」

「まさか。ちょっと美味しいものでも用意しようかなと思っただけよ」

「えー、デレないんですか? まぁ、いいですよ。普通に悪魔な私も感謝祭するんで」


 ホワイトデーを通じて、話の幅が広がるのならそれに越したことはないだろう。

 それが出来ただけでも成功したと言える。


「これからもよろしく」

「仲良くしてくれると嬉しいな」


 ふたりで頭を下げて、そう言葉にする。


「えぇ、もちろんよ。これからもよろしくね」

「プレゼントありがとね! 今度、お礼するかもっ!」

「その時はアクタの分だけじゃないから、覚悟しておいてほしいわね。ふふっ」


 温かい言葉が返ってきて嬉しい気持ちになる。

 言葉のやり取りをした後、私たちは留まることなく次の目的地に向かうことにした。








 次に私たちがやってきたのはリアがいるお城だ。

 とんとん、と扉を叩き彼女がやってくるのを待つ。


「リアにはいつも悪いことしてるかもだからしっかりお礼をいいたい」

「悪いこと?」

「ドキッてさせようとして焦らせちゃったりすること」

「気になってるなら変えた方がいいかも」

「最近は控えてる」

「そっか、それなら大丈夫だと思う」


 トゥリもコミュニケーションで気にしたりすることもあるのがちょっと面白くて微笑む。

 嫌なことはしないようにする。単純なことだけれども、親交を深める上では大切なことだ。

 会話を重ねていたら扉が開き、リアが出てきてくれた。


「おふたりでしたか。元気そうでなによりです」

「リアも大丈夫?」

「はい、大丈夫です。普段通り暮らしていますよ」

「ん、それならよかった」


 そんなに顔を合わせていないというわけではないけれど、健康なことはなによりだ。

 いつだってそういう状態でいたい。


「ところで、なにか用事があって来たのでしょうか。ふたりでやってくるのはなかなか珍しいですよね」

「今日は感謝を伝えようと思ってね」

「感謝を……?」

「ん、ホワイトデー」


 いまいち要領が掴めていないリアに対して。即座に行動を起こしたのはトゥリだった。

 ささっとプレゼントを用意して、リアに手渡した。


「いつも迷惑をかけたりしてたらごめん。これからも仲良くしてくれたら嬉しい」

「え、えっと、ありがとうございます」


 受け取っていいのか困惑の目を向けながらも、お礼を言うリア。

 これは詳しく説明した方がよさそうだ。


「今日ってホワイトデーでしょ?」

「ホワイトデー、聞いたことがあるようなないような……」

「バレンタインデーのお返しをする日って言うのが一般的だけど、感謝を伝える為のプレゼントを贈るっていう文化もあるっていうことを聞いて、私たちなりに気持ちを伝えようって動いてる感じなの」

「なるほど、そういう事情でしたか」


 私の解説を聞いて合点がいったのが、リアは話が飲み込めたという様子で頷いてくれた。

 そして、トゥリの方をもう一度まっすぐ見つめた。


「大丈夫ですよ。迷惑に思ったことなんてありませんから」

「本当?」

「はい、少しドキドキする話を聞いたりした時は動けなくなってしまうこともありますが……それも踏まえていい思い出になってますし、話していて嫌ということはありません」


 微笑みながら、リアが言葉を繋げる。


「……だから、これからもよろしくお願いします」

「ありがとう」


 トゥリが丁寧に頭を下げる。よっぽど嬉しかったのだろう。ちょっと心配もしていたのだから。


「私からもプレゼントを贈るね」

「貰ってばかりでなんだか申し訳ないかもですね……」

「ううん、大丈夫。いつも友達として一緒にいてくれてありがとうっていう気持ちだから。重く考えないで受け取ってもらえると嬉しいかな」

「……わかりました、ありがとうございますっ」


 私のプレゼントも届けることができた。

 もちろん、プレゼントだけが気持ちというわけではない。普段から会話している時だってお礼をしたくなる場面だっていっぱいあるし、日常的にも感謝したくなる場面はいっぱいある。

 けれども、こういうのは自分も楽しみながら、相手に喜んでもらえるようなプレゼントを贈るという行動に意味があるはずだ。だからこの行動も、思い出になると信じたい。


『しっかりと感情を伝えられる瞬間には、きっちり想いを込められるように意識したい』


 そんな感じにメモに書き記しておくのもいいだろう。


「貰ってばかりだと申し訳ないので……その、少し何か温かいものを飲んでいきませんか? 休憩も兼ねて」

「いいの?」

「はいっ、私からの感謝ということで」

「ん、身体がポカポカするの、飲みたい」

「じゃあココアを貰おうかな」

「わかりました、着いてきてください」


 お礼の形もそれぞれ違う。だからこそ面白い。

 リアのお城で休憩する時間は、静かだけれども、とてもゆったりしたもので心が癒された。

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