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アル・フィアータの魔女物語  作者: 宿木ミル
変わり者な魔女の些細な日常編
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私とお洒落の回り道

 為になる話には耳を傾けたくなるものであるし、そういうものに対してはしっかり聞こうという意識はある。では、為にならない話にはそうではないのか、と言われたらそれは違うとも思う。そもそも為になるかならないかというのは状況によって異なってくるものだし、細かく分類してしまうと、もったいない取捨選択をしてしまうと考えているからだ。

 今、私が悩んでいる問題についても、為になるかならないかの観点で見るのならば、為にならないほうに分類されるだろう。

 それでも、私は色々と悩んでいる。


「……私に合う服装ってどうにも思い浮かばないなぁ」


 私が悩んでいるのは容姿だ。別に容姿端麗を目指しているわけではないけれども、久しぶりに少しイメージチェンジをしてみたいと思ったのだ。気持ちや見た目を変えるならば、やはり服を変えるのがよい。それを試すために色々思考している。

 そもそも、私は魔女として考えるのであれば、比較的目立たない容姿であると自分でも認識している。それといって特徴的な身体の特性があるわけではないし、街を歩いていても、変わった目で見られることが少ない。

 現在は洋服屋を覗いて、じっくりと私に合う服装を調べている。適当に呪文で移動してきたので、正直なところどこの洋服屋かは曖昧だ。けれども、問題はないだろう。店内の雰囲気等を見ていて、私が言葉を理解できるから。言語が通じるなら、どこだって不安はない。


「……この服もイマイチかな」


 試着室で、鏡に写った自分の姿を確認する。

 黒い、セミロングな私の髪。コテコテで、フリフリが激しいゴシックロリータ服。全体の色は赤を基準としているけれども、フリルは真っ白で、悪くないバランスではあるとは思う。ただ、何かしっくりこない。


「何か違うんだよね」


 自分らしい服装ではないように感じるのだ。それもその筈、基本的に私は落ち着いた服装を好んで着ている。黒いパーカーや緑のスカートなど、どちらかといえば人間の、現代人向けファッションの方が合う、と自分では思っている。

 気を取り直して、別の服を試着してみる。春先だから、少し露出してもよいかと考えて、白いオフショルダーに紺色のハーフパンツといった感じに調整してみる。

 鏡に写っている姿を再度確認する。

 悪くはないとは思う。不摂生な生活を送っているわけではないから、肌については悪くはない。不潔な印象を与えることはないだろう。それに、首元がすっきりする関係から、どこか開放的な気持ちになれるのはいい感じだ。ただ、それでも引っ掛かりは覚える。


「露出激しい」


 組み合わせとしてはいいのだ。私の好みなタイプの服でもある。ただ、露出度が高い。肩が出ている、太ももが出ているというだけで露出していると感じてしまうのは個人の意見でしかないが、普段はあまり激しい露出などしない服を着ている私からしてみると、羞恥心を覚えてしまう。

 可愛いと自画自賛するつもりはない。ただ、この服装だと、変に目立ってしまうだろう。個人的にはなかなかいただけない。


「トゥリってどうしてあんな感じの服出来るんだろ……」 


 そもそも、私が洋服屋に来た原因はトゥリウットの一言だった。


『なんか、アルの普段着って地味だよね』


 その時、なにか言い返してやろうと思ったけれども、自分自身のファッションが地味めなことは自覚しているから、何も言えなかった。だったら、別の普段着を用意してみようじゃないか、そう考えて行動したのだった。

 私の服を地味といったトゥリの服装はなかなかに変わっている。紫のロングヘア、白ワイシャツ、黒コートというスタイルは悪くない。むしろ好印象だ。ただ、ミニスカートの丈がかなり短い。ソックスガーターで長い靴下を留めているのはおしゃれではあるものの、絶対領域が眩しい。上半身がきっちりしている分、無防備なところがある足に目が行く、というところだろうか。意外と大胆なファッションをしていると感じる。足に自信があるのだろうか。


「変に考えすぎか」

「呼んだ?」


 考えていたら、いきなり話しかけられた。トゥリウットだ。私の後ろに立っている。魔法で飛んできたのだろう。いつも通りの服装で、太ももが眩しい。


「呼んでない」

「そう?」

「まぁ」

「ところで、今、着替え中?」

「え」


 自分の格好を確認する。トゥリに気を取られていたが、非常に中途半端な状態だ。具体的に言えば、上半身だけ下着のような状況。状況を理解すると、途端に恥ずかしくなった。


「えと、着替え中に入ってくるのってやっぱり良くないと思う」

「気になったから来ただけなんだけど」

「洋服の件については、私一人でもなんとかなるから大丈夫」

「そういうものか」

「そういうもの」

「信じてみる」


 そういうと、風のようにトゥリは去っていった。やはり神出鬼没である。変なタイミングによく登場する。


「よし、もう少しだけ頑張ってみようかな」


 少しくらい目を引くところがあってもいいのかもしれない。

 気分転換に色々な服を試せる洋服屋は素敵な空間だ。色々なチャレンジをする機会でもある。

 早速、何度でもトライ、の精神で色々な服を試着してみることにした。


 すっきりとしたTシャツ。服に色々描いてあるものでない場合、私本人の見た目が地味めなのもあって、かなり薄味な印象を感じた。好きなのだが、どうにも今までと変わらない。

 もし、イメージチェンジをこの服でしてみようとするならば、口調を変えるなどをするべきと考える。


「やっほー、アルっちだよ、よろしくねっ」


 みたいに会話してみれば、フレッシュだろうか。私のキャラが大幅にずれそうな気がするからあまりやろうという気持ちにはなれない。楽しそうだけれども。とにかく、次。


 セーター。これも良い。ふわふわな雰囲気は春先の爽やかさと合っている。ペールオレンジなもこもこしているのは、とても可愛らしいイメージを与えるのではないだろうか。ただ、普段来ている服装に雰囲気が似ている関係から、新鮮味がないと感じる。

 じゃあ、新しく色々な自分を表現するならば、どうするべきか。いつもとは異なった雰囲気で喋ってみるのがいいのではないだろうか。ふわふわのセーターの場合はこんな感じか。


「アルちゃんでーす。ゆったりしてるけど、よろしくー」


 私らしくない。オーバーに表現しているような気はするけれども、これは何かが違う。ふわふわした雰囲気だねみたいに言われたら嬉しいけれども、なんだか眠くなってしまいそうだ。従って、ボツ。


「そろそろ決めたいな」


 迷う時間は楽しいけれども、きっちりビシッとこれと選択したい。そう思い、気になっていた、けれども着ようとは考えていなかった服を取り出し、試着室で着替えてみる。

 襟が大きく、白のブラウス。若干短めなスカートにニーソックス。今までの方向から切り替えて、セーラー服にしてみた。

 鏡に写る自分の姿は、おとなしいと同時に可愛らしいのではないだろうか。トゥリウットほどでは無いが、ニーソックスのバランスがいいからか、足が目立っている気がする。でも、これくらいならば許容範囲内だ。

 私服としてはどうなのだろうとは考えた。しかし、普段はどちらかというと渋め……シンプルめなものばかりを着ているということが多いため、こういうのも悪くはないと思う。セーラー服もどちらかといえばシンプルな部類ではあるけれども、いつもよりもお洒落さを表現できている。更に、爽やかな雰囲気を与える気がする。

 メモを取って書き込む動作をしてみる。


「……悪くない、かな」


 様になっている。すっきりとした可愛さ、みたいなのはあるのではないか。少しだけ、自画自賛。


「よし、これで決定」


 メモ帳をパタンと閉じる。買うための準備をしよう。そう思い、ぐっと伸びてみた。


「アルの独り言は、聴いてて面白い」

「えっ」

「あ、なんでもない」


 どこからともなくトゥリウットの声が聞こえてきて、焦った。

 周囲を見渡しても、見つからないからうまく隠れていたのかもしれない。

 色々聞かれてたことに、恥ずかしくなって、真っ赤になってしまった。

 トゥリに対して、ちゃんと突っ込むべきだろうか。そうは思ったものの、ストレスにはなってないし、面白いからいいかな、ということで、これ以上は考えないことにした。

 少しくらい私生活が覗かれても問題はないのだ。私はどこまでも私として、気ままに生活しているだけなのだから。

 色々整理した私は、会計へと向かった。




 服装ひとつで、生き方が大きく変わる……というのはきっとないと思う。ただ、心機一転するきっかけになったり、新しい自分を発見する機会にはなるのではないか。

 普段の私から一歩、別の私に。そういうのに繋がるのならば、これからももっと色々な服にチャレンジしてみようかなと感じた。

 そう考えた私は、今日のメモにはこのように書き記す。


『洋服の気持ちを切り替える力について』


 何かしら、新鮮な気持ちにしてくれるのは、一種の魔法かもしれない。そういうことを研究するのも楽しいのではないだろうか。

 春の陽気が素敵な外。太陽の光がとても暖かかった。

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