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アル・フィアータの魔女物語  作者: 宿木ミル
ゆったりとした日常編
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私と友達の行動計画

 みんなの予定を聞き終わった午後。

 私の自室の目の前の扉まで到達すると、そこにはトゥリが立っていた。

 彼女の魔法を使えば簡単に中に入れるのに律儀に待っていたあたり、どこか礼儀正しさを感じる。


「ごめん、待たせたかな」


 もしかしたらと思い、一声かける。


「ん、そんなに待ってないから大丈夫」


 それに対しトゥリは首を横に振って返答した。


「それならよかった」

「好きで待ってただけだから気にしなくていい」

「わかった、そうするね」


 立たせっぱなしにさせるのもよくないので、自室の扉を開けて、トゥリを案内する。


「こうやって入るのはあんまりしないからいつも斬新に思う」

「いつも別の入り口から入ってるもんね」

「そっちも方が普通は手っ取り早いから」

「でも、こうやって入るのも悪くないんじゃない?」

「それは認める」


 こくんと頷く彼女の様子はいつも通りの調子。平常運転の、普段通りのマイペースなトゥリだ。

 トゥリが普段やってきている時のように、部屋のひとつにあるテーブルと椅子をうまく調整していく。……といっても、今回は本を並べたままで外出していたわけではないので、ささっと机の上を見たりする確認作業を行っただけだ。


「……うん、大丈夫。座って待っててね。お茶とか入れてくるから」

「クッキーもある?」

「あるよ、ちょっと待っててね」


 トゥリが座ったのを確認して私も行動を起こす。

 いつもの調子でコップにお茶を注ぎ、それとなく食べようとしていたお菓子のいくつかをお皿に開ける。それをトレーに載せて、テーブルまで持ってきて準備完了だ。


「はい、これで問題ないよね」

「嬉しい、ありがとう」


 向かい側の席に座ってトゥリの様子を確認する。

 あまり表情が変わらない彼女だけれども、頬が緩んでいるのはすぐにわかる。今もそんな表情だ。

 程よく準備が整ったことを確認して、いつも通り会話を進めていく。


「クリスマスの予定、トゥリはもう考えてるの?」

「ん、しっかり考えてる」

「流石」


 行動を起こす時の彼女のやる気は私以上になることも多い。

 興味があることには一直線。それがトゥリの素敵なところだ。


「今回はアルと一緒に色んなところを見てまわりたい」

「私と一緒に?」

「アルが迷惑じゃなければ、そうしたい」


 まっすぐな瞳で私を見つめながらそう言葉にする。

 誘う側になるのは多いけれど、誘われる側になることは少し珍しい。だけど、その返事は決まっていた。


「私でよければ、一緒に行こう」

「ありがとう」


 トゥリと一緒なら楽しいことも増えるはずだ。

 ひとりでじっくり色んなものを見てまわるのも楽しいとは思うけれど、友達と一緒に過ごす時間も大切にしたい。ささやかな特別な日。そういうのがあってもいいはずだから。

 私が頷いたのを確認して、トゥリは嬉しそうに微笑んでくれていた。


「当日の予定として、行きたい場所はある?」

「基本的にはアルが行きたいところを案内してくれれば大丈夫」

「そうなると、友達のところには寄りたくなるから……魔法少女の演習と街の散策とリアが作った氷像を身に行く形になると思うよ」

「それでいいと思う」

「わかった。それとなく時間は調整しながら動けるように予定は組んでおくね」


 それぞれ赴く時間を調整するのは私の役割でいいだろう。時間をガチガチに組んでしまうと予定が渋滞して疲れてしまうから、適度に自由時間があるように調整するべきだ。ここは私の計画力の見せ所かもしれない。


「服装、どうする?」

「服装かぁ、今回、あんまり考えてなかったかも……」

「それは良くない。クリスマスらしい服装は大事」


 首を横に振ってトゥリが力説する。


「サンタさんっぽい衣装が一番似合う時期はクリスマス。だから、その時期にそういう服を着ないのはもったいないと思う。普段着のように外を歩けるタイミングは珍しいから」

「なるほど……」

「あと、アルはかわいいからこういう時に着ないのはもったいない」

「か、かわいい?」


 急に褒められるとどうにも恥ずかしい。

 変な声を出してしまった。

 私の戸惑いの声に対してトゥリはこくりと頷き、言葉を繋げる。


「露出が多い衣装は寒くてよくないけど、もこもこしてるようなのとか、サンタさんの赤っぽい衣装は似合ってるし、アルはしっかりクリスマス衣装になるべきだと思う」


 いつもより饒舌な感じなのは、それだけ関心があるということなのだろう。

 その熱意は受け取るべきだと思い、トゥリの顔を見つめて返答する。


「うん、そこまで言われたらやらないって言えないし、私もやってみたいって気持ちになってきた」

「それならよかった」

「ただ、私だけやるっていうのはなしだからね。トゥリもクリスマスっぽい装いになってもらうから」

「わかった」

「トゥリだってかわいいし」

「かわいい?」

「そう、私とは違う雰囲気だけどかわいいと思う」

「ん」


 小さく頷いているその様子の中には、少しの照れも入っていたような気がする。ちょっとだけ目を泳がしていたし、彼女も嬉しいけど直接言われると気恥ずかしく感じるのだろう。


「プレゼントについてはどうしようか。折角みんなに顔を合わせるなら少しは用意しておきたいけど……」

「手作りがよさそう」

「わかる。だけど、なかなか人数分作るってなると手間がかかるようなものはなかなか用意できなそうなんだよね」


 こういう時、マフラーとかを渡せたらクリスマスプレゼントとしては理想的なのかもしれないけれど、丁寧なものをいっぱい作るとなったら無理が生じる気がする。

 私もそこまで器用じゃないし、裁縫などは時間を掛けてしまうだろう。一緒に遊ぶ感覚で集まったトゥリに大変な思いをさせてしまうのは私の本意でもない。


「大変なものは作れなそう」

「うん、そうだよね。同意見」

「じゃあ、お菓子作りするとか」

「お菓子! それはいいかも」


 トゥリの意見に頷く。

 趣味でお菓子を作ったりすることは多いし、ちょっとしたものを作ることには慣れている。日持ちするものを用意すれば、それとなくクリスマスのプレゼントとしてちょうどいいものになるだろう。


「でも、ハロウィンっぽい気もする」

「うーん、そこは季節感を大切にしたものを意識するといいんじゃないかな」

「季節感」

「ココアパウダーを塗したクッキーにするとか、プレゼントっぽい形に作るとか」

「なるほど」

「型さえ用意すれば、いくつか調整できると思うよ。作り方も簡単にね」


 難易度が高いものでなければ、さくさく作ることができるだろう。時間に慌てることもなく、確実に、丁寧に。

 


「それなら、手伝えそう」

「うん、じゃあ決まりかな?」


 トゥリも承諾してくれたので、しっかり計画に組み込んでおく。

 みんなに渡すプレゼントはちょっとしたお菓子、と。


「プレゼントはお菓子」

「服装はサンタっぽいもの」

「楽しむことを意識して色々見てまわる」

「今回は主催者じゃなくて、参加者だからね。気軽に動き回ろう」

「ん、そうしたい。アルといっぱい楽しむ」


 微笑を浮かべるトゥリの表情はとても眩しい。

 マイペースな彼女と一緒に色んなところを見ていく。もしかしたら地味な過ごし方かもしれないけれど、私からしてみれば大切なひと時だ。きっとトゥリも同じことを考えているだろう。

 同日に向けての心構えを意識して、こう書いておこうか。


『しっかり元気にクリスマス当日を迎えられるように気持ちの準備をしておく!』


 こういうのは焦らない気持ちみたいなものが大切になってくるだろう。

 慌てないで、じっくり日々を過ごしながら当日までの準備をしていく。そんな気持ちが大切だ。


「お菓子作りはいつからやっていく?」

「トゥリの予定が合う時ならいつでも。ただ、型は用意しておきたいからいますぐはできないかな」

「じゃあ今日はくつろいでいく」

「そうしていいよ、飲み物とか用意しておくね」

「ありがとう」


 冬の気候はなかなか寒いもの。

 寒さを和らげるようなココアを用意したりするのもいいかもしれない。友達と過ごす時間は心温まるものにしていきたい。ゆったりしているトゥリを見つめながら、そんなことを考えていた。

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