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アル・フィアータの魔女物語  作者: 宿木ミル
ゆったりとした日常編
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私とハロウィンパーティー(後編)

 手伝ってと言われた料理作りはあっという間に時間が過ぎ去っていった。

 卵などをかき混ぜたり、カボチャを温めたり様々な並行作業を繰り返しながら、動いていたら色々なものができていた。

 パンプキンパイに、モンブラン、事前に用意していたというサンドイッチなども盛り付けられて完成だ。

 主にオレンジ色が多い、色とりどりな食材が使われている料理を見つめていると、それだけで食欲が湧いてくる。


「ごめんね、手伝わせちゃって」

「ううん、大丈夫」

「大変だったけど、いい勉強になったかも」


 リフィーの言葉にそれぞれ返答を返す。

 お菓子作りはともかく、本格派な料理はあまりやってことがない身なのもあって勉強になったというのは事実だ。


「さて、パーティーの主食、持っていこうか!」


 ひと段落したのを確認して作られた料理をみんなが待っている大部屋に持ち運んでいく。

 それぞれが料理を無理のないように持っていっているので落とす心配はない。

 部屋に到着して、行儀よく待っているみんなに挨拶を掛ける。


「ハロウィンパーティー、ここからが本番だよっ!」


 合図をかけながら、料理を大きなテーブルの上に置いていく。

 みんなで分け合えるようにそれぞれパイは切り分けてあるし、モンブランもいっぱい作った。

 当然、サンドイッチもたくさんある。


「こういうパーティーも素敵なものね」

「そうですねぇ、なんだか賑やかで愉快な感じが楽しいですっ」


 席に座りながらふたりが感想を述べる。


「美味しい料理に甘いお菓子! 太りそうだけど、今日くらいはいいよね」

「こういう日については気にしないのが一番じゃないかな」


 いっぱい食べようという気持ちもいっぱい伝わってくる。


「リア、こっち」

「はい、じっくり食べたいと思います」


 行儀よく、みんなが席に座っていく。

 衣装はみんな斬新な感じになっているけれど、その想いは変わらない。

 みんな、ハロウィンを楽しみたいという気持ちを持ってここにいるのだ。

 私もリフィーもノイザーミュートも着席し、準備完了。

 これでいつでも始められる。


「アル、号令はお願いねっ」


 ノイザーミュートに薦められて、私も頷く。

 幹事としての号令だ。気は抜けない場面だろう。

 大きく深呼吸して、みんなに声をかける。


「こうやってみんなと集まってパーティーできて、私も嬉しく思うの! だからめいいっぱい楽しみながら、今夜のパーティーを楽しもう!」


 そうして両手を合わせて、言葉を繋げる。


「いただきますっ!」


 大切な食事の号令だ。

 みんながそれに合わせて、各々がいただきますと言葉にする。

 これでひとつの仕事が終わったことになるだろう。

 ゆったり気持ちを落ち着けながら、サンドイッチに手を付けてみる。


「美味しいっ」


 しゃっきりとした味わいが素敵だ。

 野菜の新鮮さを感じるのも収穫祭であるハロウィンならでは、なのだろうか。


「ベーコンレタストマト、略称BLTサンド! 野菜もそうだけど、パンの方も色々調整してみたんだっ」

「……言われてみれば、サクサクしてるわね」

「サクサクでシャキシャキ! これは美味しいですねぇ、ご主人!」

「えぇ、本当に美味しいわ」


 みんなじっくり味わっている。

 バランスよく味わい深いサンドイッチの味わい。その魅力は私たちの心を掴んでいた。


「……パンプキンパイも焼きたてで美味しい」


 トゥリはパンプキンパイに手を伸ばしていた。

 ゆったりとメイド服を身に纏いながら、食べるその仕草はどこか優雅で可愛らしい。


「そうですね、ホクホクしていて心が温まるような気持ちです」


 リアも一緒に味わっている。

 こっちは学生服っぽい衣装なのもあって、ちょっと爽やかさを感じる気がする。


「あっ、アルちゃん。口元にトマトが付きっぱだよ?」

「えっ、そう?」


 さっき食べたトマトが口に付いたままだったか。

 ちょっと行儀が良くないし、拭き取らないと。

 そう思って布巾を取り出そうとする前、何故かすみれにじっと見られていた。


「凄い、本当に吸血鬼っぽい」

「色白だったら完璧だったかも?」

「えっ、そんなに?」


 どうやら偶然ついていたトマトの汁が吸血鬼っぽく見えたのだろう。

 確かに衣装も吸血鬼だけれども、そこまで言われるとは思ってなかったので驚いた。


「わかるかも。あたしもちょっとそんな雰囲気感じてた」

「ナウィスまで……」


 とりあえず布巾で拭き取りはするものの、そんなに吸血鬼っぽいなら、動きもそれっぽくした方がよかったかもしれない。そう思っていた矢先だった。


「ねぇ、アル。飲み物を用意してたんだけど、まずはコレ飲んでみない?」


 さりげなく飲み物を準備していたノイザーミュートから渡された飲み物、それはトマトジュースだった。

 ここでも吸血鬼らしさが主張される。


「なるほど、狙ってたのね」

「バレてた。あっ、勿論無理に飲んでほしいわけじゃないから気にしないでね」

「平気だよ。美味しくいただくから。……まぁ、後でココアとかほしいけどね」

「わかった。じゃあ、みんなに色々配るね」


 そう言ってノイザーミュートは色んな飲み物を渡していった。

 紅茶に普通のお茶、トマトジュースにオレンジジュースといったもの。

 それぞれ要望にあった形の飲み物を渡していったみたいだ。


「それにしてもトマトジュースかぁ」


 最近あんまり味わったことがなかった気がする。

 ちょっと緊張しながら、その一口を味わってみる。


「……あっ、この味わい。好きな方かも」


 すっきりした中にある濃厚さ、というべきだろうか。

 こってりとした味を感じられる部分に美味しさを感じられる。

 これはぐいぐい飲める味だ。

 トマトジュースを飲んでいる最中、みんなの目が集まる。

 吸血鬼らしい雰囲気を感じさせられるチャンスかもしれない。

 優雅に、大胆に、そしてしっかり美味しくトマトジュースをいただいて、飲み干す。

 ……美味しかった。


「ふふっ」


 それを吸血鬼らしく表現してみよう。

 ことっと丁寧にグラスを置いた後に、微笑してみた。


「おぉ……」

「これは点数高いかも?」


 感嘆の声を反応したのはリフィー、悪魔的によかったのか、反応を見せたのはアクタだった。


「アル、いいかも」


 言葉数は少ないもののかなり嬉しそうな声をあげていたのはトゥリ。


「優雅な感じっていいですよね。参考にしたいかもしれません」

「あ、ありがとう」


 勉強になるという意見がやってきたり、色んな反応がいっぱいだ。

 なんだか、やったあとに急に恥ずかしくなってきた。


「ご、ごめん、普通の飲み物とか飲んでもいいかな?」

「大丈夫、むしろ目立たせちゃったかも」


 そう言って次は普通の麦茶を貰うことにした。

 流石に目立ちっぱなしは流石に気持ちが疲れてしまう。


「このモンブラン美味しいっ、好物かもっ」


 爽やかな笑顔で言葉にしていたのはアクトレスだった。

 私に対抗意識を燃やしているかはわからないけれど、魔法少女らしい純粋な笑顔がそこにあった。


「おぉ、ご主人も対抗してる! ちょっと無理してる感あるけど?」

「え? そう? 無理なんかしてないけどっ」


 ちょっとあざとい雰囲気になっているのは慣れていない部分があるからだろう。

 逆にそれがいい感じに作用している部分もある。


「どう? 魔法少女っぽいかしら?」


 ふふんといった態度でアクトレスが評価を求める。


「きらきらな魔法少女を見るのはなんだか珍しいかもっ」

「言われてみればそうかも。あたしたちって意外とそういうタイプじゃないし……」

「えっ、意識してるんだけど」

「それは修行不足なんじゃない?」

「えー」

「とにかく、いいと思う! アニメの主人公とかやれそうな勢いあるし!」


 感想は好評といったところ。

 魔法少女三人はいい感じに頷いている。


「シンプルなタイプって逆に難しいからね。そういうのができるのって凄いって私は思うな」


 ノイザーミュートも笑顔でそう言葉にする。


「……ここまで好評だともっと勉強したくなるわね」

「魔女から魔法少女にジョブチェンジします?」

「いや、それはしないわよ。悪魔憑きの魔法少女なんてシュールでしょ?」

「それもそうですねぇ」


 こういう場で褒められるのはやっぱり嬉しい。

 私も嬉しかったのだから、アクトレスだって同じ気持ちを味わっているだろう。

 それから色々な話を展開して、盛り上がってパーティーが進むにつれて料理がなくなっていく。

 そして、残ったのはみんなで用意したお菓子だった。

 夜が更けていく。

 夜空の星が輝いて見えていく。

 ここまで来たらもう夜食になるだろう。

 夜、お菓子を食べたら太ってしまうなんて言葉があるけれど、今日は気にしない。

 だって、今日はハロウィンなのだから。


「アル、ミュー、みんな。今日は、ありがとう」


 ふとした瞬間に、トゥリがお礼の言葉を口にした。


「こういう集まる時間はいつだって楽しい。だから、嬉しかった」


 微笑を浮かべるトゥリの表情はとても眩しい。


「私も! みんなで集まって夜までいっぱい遊ぶのって楽しいから好きっ!」

「パジャマパーティーみたいなものだよね。笑顔を見てるだけで楽しくなっちゃう」

「珍しい体験ができた。……だから、今度も誘ってくれると嬉しい」


 魔法少女の三人も満足げだ。


「衣装交換も、貴重な体験です。今度もやってみたいものですね」

「今度はもっと露出が多いのを着たり?」

「えっ、それは……考えておきます……」

「アクタ、困らせないの」

「……でも、着れる衣装は増やしてみたいって思ってます」

「本当に? わくわくしよっと」

「でも、こっちも楽しかったわ。もっとやってみたいって思うほどにね」


 魔女ふたりと悪魔のアクタも嬉しそうで、安心する。

 今回のハロウィンパーティーは成功した。

 そう、信じられる。


「アル、感動してるかもしれないけど、まだまだこれからだからねっ!」

「わ、わかってるよ。夜のお祭りだもんね、ハロウィンは」


 みんなが楽しもうという意思がいっぱいあるならば、お祭りは続いていく。

 ハロウィンパーティーはまだまだ終わらないのだ。


「うん、みんな! 今日はお菓子を食べながら、いっぱい楽しもう!」

「おー!」


 笑顔で答えてくれるリフィー、それに応じてみんなが頷いてくれる。

 友達みんなで楽しむハロウィン。

 素敵な思い出が作れたはずだ。


『みんなが笑顔でいられる時間があるということは幸せ!』


 そんな感じに今日のことをメモに書いてみていいかもしれない。

 ふと、夜空を見上げたら綺麗な満月が浮かんでいた。

 まるで、祝福してくれているようで嬉しく思った。

 この時間を大切にしよう。

 笑顔がいっぱいの空間の中、私も一緒に微笑み交わしていた。

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