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アル・フィアータの魔女物語  作者: 宿木ミル
変わり者な魔女の些細な日常編
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私と暖かい概念研究

 魔法的概念というものがあるらしい。

 事実、そういう概念があるのは、なんとなく認識しているし、存在しているというのは理解はしているものの、ピンとくるものではない。

 魔女や魔法少女が魔法を行使する時は、自身が持っている魔力を使う。それは間違いない。私も受け入れている。

 しかし、魔法的概念という言葉にしてみると、なんだかよくわからなくなる。日常的に当たり前のように存在している概念を改めて考えてみようとするのは、やっぱり難しいのかもしれない。美味しいものを食べて、自分がどうしてそれを美味しいと感じるかとかを考えるような感覚なのだろうか。


「……とは言え、しっくり来る答えも欲しいかな」


 私は、魔法的概念が強く混入された食品には弱いみたいだ。この前、食べてみたチョコレートで、改めてそれを実感した。

 だが、美味しいものはなんでも食べたいという思いはあるのに、食べて、倒れて、それでもう一日がおしまいというのは、なんだかもったいない。

 原因を分析した紙を、自室の机いっぱいに広げ、私は唸る。

 どうしても納得のいく回答が見つからないのだ。

 自分の状況のシミュレーション、イメージ、実験、色々やってみたものの、どうにもこれだという回答は見つからなかった。それが、なかなかに悔しい。

 相性が悪いのは食べるときくらいで、魔法的概念が多そうな場所に行ったりしてみても、体に別状はなかったりして、わからないことばかりだ。


「色々やって詰まった時は、やっぱり聞いてみるのがいいのかしら」


 机の紙を綺麗に纏めて、整理する。

 ……そして、閃いた。そうだ、魔法的概念を知っている相手にそのまま聞きに行くのが良いのではないだろうか。そのほうが、私一人で色々考えるよりも、多くのことを知るきっかけになるだろう。

 頭で考察する。一人で色々考えるというのも悪くはないことで、大切なことではあるが、やはり行動するのも大切である。少なくとも、行動して、そこから見聞を広めるというのも私のやり方である。だから今回もそれに従ってしまおう。


「ケラヒヨラビト!」


 扉召喚の魔法を詠唱。机の方向から後ろを向き、扉を召喚する。魔法の杖や、特別な方法など使わず、呪文を詠唱しただけで呼び出せるからお手軽だ。とても便利である。


「目的地は、春野すみれの付近! 出現位置は、なるべく人がいないところ!」


 そして、アバウトな位置指定にも対応できるのがこの魔法の利点である。私の移動手段のひとつとして重宝している。

 魔法を知らない人間に見られると、若干面倒ではあるものの、いつもお世話になっている。


「さてと、さくさく聞いてみようかな」


 思い悩んだら行動する。それが、アル・フィアータの研究方法なのだ。

 すこし、心の中で格好を付けてみながら、魔法の扉を開いた。










 扉を開いた先は、なんだか暖かかった。

 別に、砂漠みたいに太陽が照りつけてくるような暖かさではない。

 なんというか、蒸気がぽかぽか、という感じだ。


「どういうこと?」


 魔法の扉を消して、周囲を確認する。

 地面には草木が生い茂っている。しかし、それが広がっているわけではなく、どちらかというと岩盤などのほうが多く見受けられる。

 ちょうど目の前にあった岩盤には、水が流れており、触れてみると暖かかった。つまり、お湯だった。


「どうにも嫌な予感がする」


 少し歩いてみて、その予感は的中した。

 この場所全体が、自然天然の露天風呂であり、黒を基準とした洋服を身に着けている私にはかなりミスマッチだ。

 いや、ミスマッチ以前の問題ではないか。

 春野すみれの付近に、扉召喚の魔法でやってきて、この場所に到着したということは、つまり……


「え、あ、アル、さん……?」


 すみれは、入浴中ということになる。

 キョトンとした表情で、こちらを見つめてきている。

 緑のロングヘアを束ねていて、落ち着いている姿が目に写る。

 急の出来事であたふたしているのが、なんだかいい感じだ。


「その、裸を……見に来たのですか?」


 しかし、ずっと見つめていたから勘違いされてしまった。

 即座に弁明しないといけない。


「いや、ちょっと待って、それは誤解。ただ、会いに来ただけ」


 流石に言い逃れが出来ないので、素直に返答する。

 それにしても、よくわからないが、最近、他人の裸を見ることが多くなっている気がする。これではトゥリウットに変態魔女呼ばわりされても仕方がないのかもしれない。


「あれ? もしかしてアルちゃんもこの天然温泉に入浴するつもりだったの?」


 私の存在に気が付き、聞き覚えのある声を出しながら、リフィー・シュアーがこちらに来た。

 当然入浴していたから、彼女も裸だ。青くて、短めな髪をしている彼女は水に親しんでいる雰囲気を感じさせて好印象である。


「いや、ただ、すみれに会いに来ただけで、温泉に入ろうとは考えてなかったかな」

「私に会いに?」

「まぁ、そう。魔法的概念のこと、もっと知りたくなってね」

「それで、入浴中の私たちのところにやってくるとか、アルちゃん、なんかすごいかも」

「……何がすごいの?」

「いやぁ、ラブコメディとかでさ、よくあるじゃない? 色々してたら裸を見てたとか」

「残念ながらこれで二回目」

「そうなると、そろそろこういうアクシデントに慣れてきたんじゃない?」

「慣れてないって」

「でも、じっと入浴している私を落ち着いた目で見ていたのは、慣れてる証拠じゃ……?」

「色々容姿とか見るの好きだから」

「……アルちゃんってもしかして、変態?」

「変態じゃない!」


 全力で反論したら、すみれやリフィーが何故だか笑った。

 必死の弁明がおもしろかったのかもしれない。

 こちらとしては複雑な気持ちであるが。


「せっかくだから、アルちゃんも温泉に入っちゃっていいんじゃないかな?」

「結構、いい心地ですよ」

「……お言葉に甘えます」


 ちょっと、拗ねてしまいそうになるが、温泉に入るのは悪くない。


「マジカル・テレポーション」


 自身の所有物を自室に送るという便利な魔法だ。

 今回は私の服を纏めて転送する。


「あっという間に入浴の準備が出来るって便利そうですね」

「人前でこういうことするの恥ずかしいけどね」

「他人の服とかも転送できるの?」

「同意があれば出来なくもないかな」

「え、少し怖い」

「いや、同意がないと駄目だからね?」


 自室にあるものを取り寄せるか、所有物と認識しているものを自室に送るという性質なので、許可さえ貰えれば、他人の物を転送するのは不可能ではない、気がする。あまり試そうとは思わないが。

 なにがともあれ、入浴できる状態になったので、少しずつ体を温泉に浸からせる。


「……暖かい」


 適温というべきだろうか。熱すぎず、ぬるくない。それでいてしっとりと体にしっかりと温度が伝わってくる。

 まだ日が落ちていないというのもあって、小鳥のさえずりも聞こえてくる。まったりとした空気感で、心の中まで暖かくなりそうだ。


「なんていうか、とっても雰囲気がいい感じ」

「まぁ、とっておきの秘湯だからね」

「とっておきの秘湯?」

「師匠との修行の時に偶然見つけた温泉なんです。魔力の循環もよくって、とっても素敵だなって」


 目を輝かせてすみれが話す。


「ここにいるだけで、心が落ち着くというか、使った魔力がどんどん生き返るというか……魔力的概念に満ちあふれている場所なんです、ここ」

「普通の温泉と違って、なんだかいるだけで心地がいいんだよね。勿論、変な意味じゃなくて」

「そうなんです。体の芯までリラックスできるような、そんな、温泉なのもあって大好きです」

「な、なるほど」


 あまりに熱心に話すものだから、少し置いてかれてしまう。


「とはいえ、なんだかリラックスできるっていうのはわかる気がするかも。ここに浸かっているだけで、心がスッキリしたような気持ちになれるし」


 しかしながら、すみれの言葉には説得力があった。

 水のせせらぎ、自然の音、動物の声。どれも心に直接響いてくし、目をつぶると、穏やかな温泉の暖かさも相まって、爽やかな心地よさを覚える。

 それらの音が、どこか私に癒やしを感じさせている。


「もしかしたら、これも魔法的概念なのかもね」

「どういうこと?」


 首を傾げる私に対し、リフィーが続ける。


「だって、言葉にはできないけど、どこか神秘的、幻想的。それでも実際、この場に存在している。それが魔法的概念であって、それを感じて、私たちはとっても素敵で落ち着ける。なんだか、いいって思わない?」

「分かる気がするかも」

「魔法的概念は、日常にいっぱいあるんです。でも、パワースポットみたいなところもあって、そういうところにいると魔法を使う私たちは不思議と、心が満たされる……ここって、きっとそういう場所なんです」


 すみれが堂々とした口調で告げる。

 魔法的概念を見ることが出来るという彼女の言葉には説得力があった。


「ピンと、くるものじゃないけど……」


 二人の言葉を受けて、私が言葉を繋げる。


「難しく考えすぎなくてもいいのが魔法的概念なのかな。思っている、考えてる、感じてる。そういった感性にそっと寄り添うもの、みたいな」

「私は、そう捉えています」

「……まだまだ、研究しないとだけど、なんかヒントを貰った気がする」


 概念を言葉にするなんて、難しくて当たり前だ。

 自分の身に起きたことの解明を急ぎすぎて、関心なことを忘れていた。このことは、こうメモにするべきだろう。


『もっと落ち着いて、そしてリラックスして、色々考えてみる』


 自室に帰ったらすぐにメモしないと。

 心にしっかり刻んでおいた。


「それにしても」

「どうしたの、リフィー」

「アルちゃんって、思った以上に、あれ無いんだね」

「あれって?」

「……ここ」


 リフィーが自身の胸元に手を添える。

 一瞬、理解が出来なかったが、すぐに意味が分かり、恥ずかしくなった。


「無くはないと思うけど」

「いや、でも魔女ってなんだか大きめな印象あるかなーって」


 確かに魔女図書館にいる魔女は、大きいのが多い気がする。けれども、魔女のイメージとしてそれが定着しているのは何故だろう。

 私は別に気にしていない。しかし、他人から言われると、意識はする。


「すみれは、どう思うの?」


 好奇心で聞いてみる。

 少しの間、目が泳いでいたが、すみれは答えてくれた。


「えと、可愛いと思います」

「大きさが?」

「……はい」


 なんだかよくわからないが、好意的に見てくれたと思う。


「そもそも、そういう話ってするものなの?」

「興味があるからしょうがない」

「同じく、です」

「……変態って言葉そのまま返していい?」

「いや、それはアルちゃんが持っておくべき言葉だと思うね」

「私も、そう思ったり……」

「なんで!?」


 やはり納得がいかない。今日のメモに付け足しが必要かもしれない。


『アル・フィアータは変態かどうか』


 ひょっとしたら魔法的概念を調べるより難しいかもしれない。

 自己分析というのはいつになっても難しいものなのだ。

 それにしても、色々なことをすっきり考える為に、温泉でのリラックス以外になにか甘いものが欲しい。

 コーヒー牛乳でも飲んでみようかな、と頭の片隅で考えた。

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