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アル・フィアータの魔女物語  作者: 宿木ミル
穏やかな日常、平和な日々編
202/394

私と素敵なクリスマス(後編)

 船の航路を星の道にして、氷晶と雪を降らし、船をクリスマスの雰囲気に合わせて、船にいる私たちの第一作業は終わった。けど、まだまだクリスマスが終わったわけではない。

 船にいる私たちも交代の時間になったらプレゼントを渡しに行くのだ。

 無事に戻ってくるまでの間、少しの休息を船の上で堪能する。


「こう冷えてるとココアがいい感じに美味しいかも」


 水筒に入れておいた温かいココアを飲みながらそう呟く。

 いい感じの甘さが口いっぱいに広がって心が落ち着く。


「いつも持参してるの?」


 そんな私を見て、ナウィスが声を掛けてきた。

 彼女も水筒で温かい飲み物を味わっている。


「いつもじゃないけど、長い時間外に出るときは結構持っていってるかな」

「あたしはいつもこういう時は白湯にしてる」

「安心して飲めそう」

「実際、どんな場面でも飲めるからありがたい」


 彼女はどちらかというと実用的なものを意識しているのだろう。

 船での行動が多いナウィスらしい。


「お茶みたいなものもおすすめですよ」


 ゆったりした様子のリアがそう言葉にする。


「気持ちを落ち着かせてくれそうかも」

「はい、緊張しそうな場面に飲んだりすると気持ちが和らぎます」

「苦くはないの?」

「使う茶の葉によって変わります。私はお茶の苦みは好きですので、基本的に苦いものをいただきますが……」

「好みによって色々味わえるのはいいね」

「ですから、お茶もおすすめです」


 微笑んで、おすすめする。

 クリスマスらしからぬゆったりとした会話だけれど、こういうのも大切だ。特別だけだと気持ちが疲れてしまう。

 しばらく街の様子を見守りながら、船の上でくつろいでいたら、概ね行動が終わった先に降りていたトゥリたちが戻ってきた。


「ただいまっ」

「船は大盛況だった!」

「ん、みんな目を輝かせてた」


 それなりの時間動いていたからか、ちょっと疲れているような雰囲気はあるけれど、それ以上にいい収穫を得た、という印象を強く感じた。

 実際、帰ってきたみんなの表情は明るい。


「サンタ活動、お疲れ様っ」

「ありがとっ、直接こうやって渡したりするのってやっぱりいいね!」

「うん、色々素敵な気持ちになれた」

「アルも頑張る?」

「もちろん」


 次は私たちの出番だ、ちょっとした休憩はここまで。

 プレゼントを持って、サンタクロースのように渡していくのだ。


「船については自動操縦にしてある。アルの星の道もしばらくは問題ないはず」

「こちらの氷晶と雪も今夜は降り続けますから、ここで休息をとる形でも大丈夫ですよ」


 船にいたふたりがそれぞれ補足説明を加える。

 引継ぎの確認というところも強いだろう。

 前半サンタをしていたリフィーたちは説明をしっかり聞いている。


「何か船の上で行動を起こしても問題はない?」

「よっぽど強い衝撃を与えたりしなければ支障はない」

「なら、ちょっと休憩したあと、私たちも行動してみよっかな。折角素敵な船を用意してくれたんだから、派手になにかやってみたいんだよね」

「相談してたの、やる?」

「うん、やる予定っ」

「なら、準備しておかないとねっ」


 私たちの動きとは違う何かをする。

 やる気を感じるみんなの姿に、内心わくわくする。


「じゃあ、そろそろ行こっか」

「はいっ」

「わかった」


 ナウィス、リア、そして私はプレゼント袋を手に持つ。

 うまく渡していけるかはわからないけれど、一生懸命やっていけば悪い結果にはならないはずだ。

 深呼吸して、気持ちを整える。大丈夫。


「うまくやってみる」

「気負いすぎないでね、ナウィスちゃん!」

「というと」

「サンタは笑顔っ、そして、欲しい人に渡すを意識するっ」

「う、うん。頑張ってみる」

「うまくいくよ、きっと!」


 まず最初にナウィスが降り立った。魔法少女の跳躍力と魔力があれば、高所から移動するのも容易だ。

 リフィーにエールを送られていたけど、緊張を落ち着かせるところが強いのだろう。言葉をかけられたナウィスの表情は少し硬くなくなっていた。


「積極的に行動するコツみたいなものはありますか?」

「強引になりすぎないように行動すればいいって思うかも」

「控え目でもいい、といった感じでしょうか」

「控え目すぎも駄目だけど……」

「なら、なるべく意識してやってみます」


 次に降り立ったのはリアだ。

 氷の階段をを宙に作成し、歩いて降りていった。リアがいなくなった階段は氷晶として散らばり、ゆったりと地面に向けて落ちていく。私にはできない移動の仕方だ。冬っぽい魔法で、なんていうか綺麗だ。

 最後に残ったのは私だ。

 箒で降下すると魔女っぽさが目立ってしまうから、扉で目立たない場所から移動するのがちょうどいいかもしれない。

 そう思って、扉を召喚しようとした時だった。


「アル」


 トゥリに声をかけられた。


「トゥリ、どうしたの?」

「せっかくだからいい移動先、教えとく」


 私が行動するよりも先に、トゥリの方が動いてきた。こういう時のトゥリはカンが冴えている。


「私が扉で移動するかもって感じたから動いた?」

「ん、そういうこと」

「流石」

「場所を教えると……」


 説明を丁寧に聞いて、場所を把握する。問題なく到着できそうなところだ。

 トゥリがおすすめしてくれている移動先はいつも通っている公園の木々の間。ちょっとした隙間の空間があるので、移動先にしても問題ない。多分、クリスマスの今日は人はいっぱいいるけれど、暗がりにはそんなに集まらないだろう。


「ありがとね、頑張ってくる」

「アルならきっとうまく行く」

「どうもっ」


 トゥリの応援の言葉を受け取って魔法の扉を呼び出す。

 さぁ、プレゼントを渡していこう。

 扉を開き、私は街へと降り立った。









 クリスマスの街はいつも以上の賑わいを見せていた。

 クリスマス独特の熱気、というべきだろうか。笑顔の人がいっぱいいるし、赤と緑の装飾だってたくさんある。

 綺麗な装飾やライトアップされた建物を発見するだけで、わくわくしてくる。

 公園はちょっと静かだけど、人がいないわけではない。ちょっと休憩している人がいれば、ベンチにはリアが降らした氷晶に手を伸ばしているカップルもいる。

 少し目立たない位置にいったん身を落ち着かせて、現在の自分の状態を再確認する。

 大きなプレゼント袋に、クリスマスカラーの洋服。リフィーのミニスカサンタみたいなわかりやすいサンタ衣装じゃないかもしれないけれど、それでも、サンタっぽいはずだ。

 ……深呼吸。

 うん、大丈夫。しっかり、プレゼントを渡せる気持ちだ。

 どうやって渡すかまでは正直考えてないけれど……


「おねえさんってサンタさん?」

「こ、こらっ」


 ぼんやり考えていたら、小さな女の子に声をかけられた。

 注意しているのは彼女のお母さんといったところだろうか。


「おおきなふくろ持ってるから、サンタさんかもって思ったんだけど……ちがう?」

「すみません、迷惑をかけてませんか」

「いえ、迷惑ではないので大丈夫ですっ」


 笑顔で微笑みながらそう言葉にする。

 しかし、サンタ認定されたなら、しっかりとそれらしく動くべきだろう。

 どうするべきか一瞬、考える。

 そうだ、こういうことにしよう。


「ふふっ、会ってるよ。私は素敵なサンタさんっ」

「ほんと?」

「本当。クリスマスの夜に表れる、ちょっと不思議なサンタさんだよ」

「ふしぎ?」

「ほらっ」


 小さく呪文を唱えて、小さな袋を用意する。

 ……コンフェイト。

 パラパラパラと、小さな袋の中に金平糖が詰まっていく。


「わぁ、まほうみたいっ!」

「クリスマスの魔法だよ」

「クリスマスってすごい!」


 笑顔になってくれるだけで嬉しい気持ちになる。


「これ、あげる」

「いいの、やった!」

「その、大丈夫なんでしょうかその金平糖……」


 心配そうに母親が聞いてくる。

 正直怪しい人に認定されても仕方がないようなことをしているから、そうなるのも仕方がないとわかっていた。


「はい、大丈夫ですっ。私が今ここで食べられますから」


 そう言って私の金平糖を一つ食べる。

 ……味、状態共に異常なし。しっかり食べられる。


「ひとつ頂いても、いいですか?」

「どうぞっ」


 怪しくならないようにしっかりはきはきした声で話しながら金平糖を渡す。

 女の子のお母さんが金平糖を口にする。


「……美味しい」

「よかったです」


 これで食べられそうにないなんて言われたらどう返答するべきか言葉に詰まってしまいそうだったので、うまくいって安堵した。表情には出さないけれど。


「ママ、先に食べるなんてズルーい」


 頬を膨らまして、女の子が文句を言う。


「ごめんね、心配だったの」

「クリスマスのサンタさんがわるい人のわけないの!」

「ふふっ、そうね」


 純粋な言葉を女の子が言葉にし、親子二人で微笑みあう。

 ……疑いも晴れたところだし、そろそろ次の段階に行ってもいいだろう。


「さて、よい子の君にはプレゼントをあげちゃうよっ」

「え、いいの!?」

「もちろん! ちょっと待ってね……」


 プレゼント袋の中から良さそうなものを取り出す。

 ゲームみたいなものは用意できないけれど、ちょっとしたものは用意できる。


「じゃん! サンタお手製マフラーをプレゼントっ!」


 リアのお城で教わりながら作った赤いマフラーを取り出す。

 クリスマスでプレゼントを渡そうと思ったタイミングで作ったもののひとつだ。


「やったぁ!」


 受け取った女の子はとっても嬉しそうだ。

 ちょっと大きいかもしれないマフラーを両手で持ち上げながらぴょんぴょん跳ねている。


「色々と……本当に、ありがとうございます」

「いいんですっ、これが笑顔に繋がるなら、サンタとしてこれ以上のない喜びですから」


 サンタ以上に、本心からの言葉だ。私が起こした行動で誰かを幸せにできるならば、これ以上ないくらい嬉しい。実際に今、嬉しくていっぱい微笑めている。


「サンタさん、ありがとう!」

「いいのいいの。これからもいい子にしてね?」

「うんっ!」

「じゃあ、サンタさんはもう行くね」


 そろそろ移動するべき。

 そう思って公園から抜け出そうとする。


「サンタさんっ」

「なぁに?」

「サンタさん、どこからやってきたの?」


 素直に答えると魔女図書館からになってしまう。けれど、この場所なら別の答え方ができる。実際に、私は降りてやってきているのだから。

 空を見上げて、ナウィスの船を見つけ、指を指す。


「あの船からやってきたのっ」

「すごーいっ!」

「ふふっ、じゃあ、またね」

「うん、サンタさんもがんばって!」

「頑張っちゃうよっ」

「ありがとうございましたっ」


 頭を下げる女の子のお母さんと、女の子に挨拶を交わし、私は公園から移動した。

 しっかり、私らしかっただろうか。それはわからない。けれど、うまく行動できたという確信はあった。

 もっと、頑張ってみよう。

 プレゼント袋を持って、私は街を歩くことにした。






 大きなプレゼント袋はやっぱり目立つみたいで、定期的に声を掛けられ続けていた。


「お姉ちゃんサンタだろっ、なにかくれるのか?」

「もちろんっ、いい子にしてたらだけどね」

「いい子にしてた!」

「なら、プレゼントを渡しちゃうよ」


 元気にはきはきと喋っていた子もいれば……


「サンタさん、待って!」

「はーい、いまそっち行くからね」


 一生懸命大きい声を出して、私を呼びかけてくれる子もいた。 


「プレゼント袋を持ったサンタさんなんて、初めて見た……っ! ねぇ、写真撮っていい?」

「大丈夫だよっ」


 写真をお願いされることもあった。

 本当のサンタかどうかは別にして、思い出なるなら何よりと考えて、私はお願いを受けた。


「ありがとうっ」

「こっちこそ。……プレゼント、欲しい?」

「欲しいは欲しいけど……私もプレゼント貰っていいの?」


 ちょっと子供っていうには難しいかもと謙遜していたから、私はあえてグイグイ言葉を繋げる。


「サンタさんはみんなの笑顔の為に動いてるから、どんな相手にもプレゼントを渡しちゃうよっ」

「なら、遠慮しないでもらっちゃおうかなっ」


 写真をお願いしてきた人も、しっかりとプレゼントをもらって喜んでくれた。

 プレゼントを渡して、笑顔にする。クリスマスを素敵な思い出にする。しっかり動けているのではないだろうか。サンタとしても、私としても。

 なるべく存在感を発揮できるような位置で移動を繰り返し、街中を歩いていく。

 深夜にはまだ遠い。街のイルミネイトもいっぱい明るい。

 リアが降らせている雪と氷晶も降り注いでは綺麗に消えていく。

 船は相変わらずの存在感を発揮している。

 道行く人が物珍しそうに見つめて、凄いと感想を言っているのも見る度に、つい頬が上がる。嬉しさと、喜びで。


「随分と頑張っているじゃないか」


 聞き覚えのある声を耳にして、そちらに意識を傾ける。

 真正面から声を掛けてきたのはショノンだった。隣にはベゴニアもいる。


「やれることをやってみようって思っただけかな」

「それで笑顔にしてるって言うんだから、頑張り屋だよ」

「嬉しい言葉として、受け取るね」


 ベゴニアに褒められるのは嬉しい。魔法を許可してくれた相手だからなおさらだ。


「リフィー達があの船で休憩してるのは確認済みだ」

「流石、抜かりない」

「師匠として弟子がしっかりやってるか心配だったそうさね」

「……何かトラブルが発生してないか、見回っているだけだよ」


 ショノンの補足に対して肯定もせず、否定もしないといった態度で答えながら、話す。心配だった、というのはやっぱりあったのかもしれない。


「魔法の使い方とかについては問題ない?」

「あぁ、大丈夫。人に危害を加えるようなこともなければ、誰かに迷惑をかけることもない。ちゃんとした魔法の使い方だよ」

「よかった」


 背中を押されるその言葉に、安心する。

 ベゴニアの眼差しも、どこか暖かさを感じる。


「嬉しそうにしている子供たちなんかを見ては、喜んでいたりもしたね」

「クリスマスは特別な日だ。こういう時に、夢を見させるような魔法を使っているのを見れば、嬉しいものさ」


 大人の雰囲気。落ち着いて、未来を思うその表情は、私ももっと頑張ろうという気持ちにさせてくれる。


「……折角だから」


 プレゼント袋から箱のプレゼントを用意して、二人に手渡す。


「メリークリスマスっ」

「何が入ってるのかい?」

「お楽しみってことで。……じゃあ、また行ってくるね」


 クリスマスを楽しむ。

 私なりに行動を起こそう。少しずつ速度を上げて、また歩いていく。


「無理はしないようになー!」

「応援してるよ」


 暖かい声に励まされながらも、前に。

 今日が終わる前に会いたい人がいる。

 プレゼントを渡したりしながら、探し当てようと思った。









 少しずつ遅い時間になっていく。

 大きかったプレゼント袋も段々小さくなっていく。

 いっぱいプレゼントを渡せたという実感と、クリスマスが過ぎていこうとする寂しさを感じる。

 けれども、まだまだクリスマスは終わらない。

 まっすぐ歩いて、もう一度公園にたどり着く。

 ……探していた人がいた。

 ゆったりとした声で歌っている、ノイザーミュートが。

 落ち着いた足で公園にいる彼女に近づくと、笑いながら手を振ってきた。

 数分歌った後に、ノイザーミュートが私に話しかけてくれた。


「今回は色々移動しながらじっくりとライブしてたんだっ」

「どれくらい?」

「んー、いっぱいかも」


 時計を気にせず、暗くなってもやろうという気持ちでやっていたみたいだ。

 疲れを感じさせないその姿は、流石だと思った。


「アルも結構頑張ってたんじゃないの?」

「私なりに動いてただけだよ」

「他のみんなが言ってたよ。アルのお陰で楽しめてるって」


 そう言葉にする彼女の表情は眩しい。

 そして、気になった言葉もあった。


「……他のみんな?」

「うん。魔法少女のみんなに、トゥリ、リア。アルに会う前に、みんなと会っててね。そこで聞いた」

「となると、会おうにも会えてなかったってことになるかも」

「そうなるね、多分。ここまで会えないとはちょっと思ってなかったけど」

「おんなじ」


 ふたりで思わず苦笑してしまう。

 なんていうか、ここでも動きすぎていたのかもしれない。


「でも頑張ったよね」

「二回目」

「いや、プレゼントを渡した量が他のみんなと比べると結構違うからね。多分、プレゼント配った量、アルが一位かも」

「そんなに」

「うん、そんなに」


 客観的に見てそうなるのなら、やっぱり活動的になりすぎていたかもしれない。

 けど、これでいい。


「私が動いたことでみんなが笑顔になったなら、それで満足」

「だろうね、言うと思った」

「クリスマスを、特別なものにしたかったからね」


 しっかりとプレゼント袋の中からプレゼントを取り出して、ノイザーミュートに渡す。


「メリークリスマスっ」


 渡したのは音符の記号があるハンカチだ。譜面みたいなものをうまく縫い目で作ってある。


「ありがとうっ、凄く嬉しいっ」

「どういたしまして」


 友達として、渡すというのも気持ちとして素敵だ。

 近くにいるという安心感も覚える。


「あっ、そういえばメッセージを受け取ってたんだ」

「メッセージ?」


 首を傾げて、聞いてみる。


「アルと合流できたら船に一緒にやってきてって」

「ノイザーミュートとだよね」

「うん、何をするかはわからないけれど……」

「来たらわかる」

「トゥリっ」


 ノイザーミュートと考えている間に、扉を使ってトゥリがやってきた。

 このタイミングに現れたということは、迎えに来たというところか。


「みんな準備できてる」

「じゃあ、私とノイザーミュートがやってくれば準備万端?」

「ん、そうなる」


 そういうことなら、きっちり向かいたい。


「いこっかっ」


 ノイザーミュートとトゥリのふたりと一緒に船に。

 期待に胸を膨らませながら、私は戻っていった。













「待ってたよ!」

「きっちり用意できてますっ」

「準備万端っ」

「いつでも行けるよ」


 船に戻っていたみんなが出迎えてくれた。

 トゥリも気が付いたころに、出迎える側に移動している。


「じゃあ、打ち上げる」

「はいよっ!」


 みんなで手を上にあげて、魔力を打ち上げる。

 それぞれの色が空に上がり、散らばっていく。

 そして、花火にように弾け飛び、文字の形になっていく。


『Merry Christmas!』


 メリークリスマス。

 カラフルな色で彩られた素敵な言葉。

 みんなの魔力で綺麗に煌めいている。


「お礼と一緒にプレゼントっ!」

「素敵なクリスマスをありがとうございますっ」

「サンタとしての活動も楽しかったっ」

「新しい私を知ることができた」

「ありがとう」


 みんなにいっぱい褒められる。

 ……嬉しくて、なんだかちょっと涙ぐんでしまいそうだ。


「アルっ」


 ノイザーミュートが優しい声で声をかけてくる。


「アルが頑張ったから、みんな素敵な気持ちになれたんだよ」

「……ありがとうっ!」


 大きな声で、言葉を返す。

 感謝と、そしてみんなと一緒にいられたことの喜びを伝える為に。


「さて、折角特等席でいいものを見せてもらえたから、私も色々頑張ってみようかなっ」


 音をいっぱい奏でて、すっと、ノイザーミュートが微笑む。

 素敵な笑顔。大切な縁。いつまでも大切にしていきたいと思った。


『みんなでいっぱいクリスマスを楽しむことができたっ!』


 しっかりと、思い出になるような日にできた。心からそう信じている。私たちが一緒に動いたことはきっとこれからも心に残っていく。

 いつまでも、大切にしていきたい。

 船の上でみんなと一緒のクリスマス。暖かくて、素敵な時間がそこにはあった。

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