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アル・フィアータの魔女物語  作者: 宿木ミル
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『私と昔々の出来事』

 昔々、まだ、科学などの技術が発達する前、魔法が人間にも日常的に親しまれていた頃。人間と魔女は対立していた。

 些細な理由から発生するすれ違いというものではなく、本格的に争い合っていたというのは、数多くの書物に記載されている事実である。魔法技術が優位性を示したいが為に武力行使を行ったとも、人間が魔法を使うことが不快だったから戦いになったとも記載されており、決定的な対立の要因はたったひとつの要素だけではないとされている。

 古ぼけた本を手に取り、ページを捲る。そこには、今では考えられないような戦いが述べられていた。

 人間の魔法使いと魔女が、攻撃的な魔法をぶつけ合い、どちらの魔法が崇高なものかを証明しあう。過激なやり方を好む魔女は、自然環境のバランスを崩しかねない魔法で人間を圧倒したということもあるらしい。

 私が今、生きている時間では、到底考えられないことばかりだ。


(でも、戦いの結果は……)


 人間側の勝利に終わる。魔女側の敗因について、憶測など色々考えている魔女も多い。人間を侮っていた、ただの偶然だ、隙をつかれて一網打尽にされてしまった。考え方はそれぞれではあるものの、とにかく魔女は負けたのである。

 人間が地上で魔法を使うことを良しとしなかった魔女が負ける。その事実が多くの魔女に伝わると、やかて、このままでは良くないという発想や風潮が広がっていった。人間に発見させられず、独自で魔法の研究を行い、いつかは追い越く。そんな空間を求める声が大きくなっていく。長い年月を得て、出来た空間こそが私も生活している『魔女図書館』である。

 『魔女図書館』は、地上……人間が生活している世界とは別の空間に存在する魔女が創り上げた独自世界だ。魔女の魔力が世界の維持に利用されており、増え続ける魔女の住居としての側面も持っている。

 特徴としては、数多の本が存在していることと、独自空間として、『部屋』というものがあることだろうか。

 元々、人間に負けた魔女が、どうして負けたのかを知りたいから創られた空間である為、知識を蓄える手段を欲していたのである。歴史を知り、相手を知り、世界を知る。過去の文献を考察することによって、新しく見解を広めよう。そう考えた魔女が、辿り着いたのが、本を読むという行為である。古今東西のどのような本も読むことが出来る空間『魔女図書館』は底が見えない井戸みたいに、限界が見えない。どこまで続いているかわからない本棚には分厚い本も、そうでもない本も、限りがないように存在する。何も考えないで本を探すと、それだけで一日が終わってしまうほどだ。そうして生活していると、『魔女図書館』の基礎を創りあげた魔女の凄さを、自分の身体をもって知る場面も多い。


(まぁ、疲れたら、図書館じゃなくて自室で休めるから良いけどね)


 だが、生活がしにくいわけではない。

 何故ならば、もし、本の読みすぎで疲れてしまっても、『自室』に戻って休憩すればいいだけだからだ。魔女が自身の魔力で自由に創り上げるのが『部屋』である。こちらは、色々な魔女が利用できる。そして、それをプライベート用に調整したのが『自室』である。魔女世界には、土地の問題みたいなものはない。魔女が増え続ると、際限なく『部屋』も増えていく仕組みとなっている。だから、私の知らない魔女だって多い。私が知らない『自室』の数は数えきれないだろう。

 考えてみると凄いことじゃないだろうか。魔女として、色々なことを知ることが出来る。自分自身の部屋を持つことも可能。私が、世界のことをもっと知るきっかけを作る空間として、とても素敵だと思う。

 過去のことを知る、今のことを考える、未来に想いを馳せる。どんなことだって、出来るのではないか。

 前にあった出来事が暗いものだとしても、私は前を向けばいい。きっと、別の、幸せなことが待っている。人間と魔女がずっと対立していなければならない理由もない。

 私には、私としての魔女の物語があるのだから。


「……ちょっと、かっこつけすぎたかな?」


 『自室』で、研究していた私は唸った。私の考え方としては、合っているのだけれども、いざ言葉にしてみると少しだけ恥ずかしい。

 机にある、長々と綴ったメモを読み返す。思ったことと、これまでの『魔女図書館』のことが色々書かれていて、文章として少しゴチャゴチャになっている気がする。取り留めのない感じもする。

 でも、これでいいか。この方が、私らしいような気もする。

 椅子から立ち上がり、大きく伸びをする。ずっと座っていたからか、身体が固くなっていた。ゆっくりほぐして、リラックス。あくびなんかもしたりして、気持ちをゆったりさせる。

 『魔女図書館』の魔女が、人間のことを良く思っていないというのは珍しくはない。私が人間と関わっていることを知ると、基本的には、変人、奇人みたいな目で見られる。魔女なのに、変人みたいに言うのはそれこそ変かもしれないけれども、とにかく、そういった変わったものを見る目を送られる。

 少し、図書館内を歩いていて、このような話を耳に挟んだことがある。


「あの、アル・フィアータって魔女、変わっているみたいだよ」

「人間と話をしたり、適度に地上に行っているらしい」

「なんともまぁ……魔女らしくない魔女じゃあないか」


 アル・フィアータは変わり者の魔女。それが私の評価だった。魔女らしさみたいなものが不足しているみたいな感じにも見られている。

 ……では、その魔女らしさとは一体なんだろう。

 黙々と本を読んで、ひっそりとしているのが魔女なのだろうか。それとも、人間と関わることなく、恨んだりすることが魔女なんだろうか。私はそれは違うのではないかと思う。

 お湯を用意して、気分転換の準備をする。こういう時には甘い物、特にココアが欲しくなる。

 魔女らしさというのは押し受けるものでも、押し付けられるものでもない。それぞれが持っている感じ方、考え方に従って、自由に生きる。それくらい気持ちが軽いほうが色々考えられると思う。


「頭でっかちになったら、何も考えられないからね」


 ココア粉をコップの中でかき混ぜ、少しずつ飲み込む。


「やっぱり、ココア、とっても好き……」


 しっとりとした甘さ、暖かさにちょっとした重さ。バランスが完璧であり、飲んでいると頭がすっきりしてくる。

 ゆっくりココアを味わって、堪能して、目を瞑る。

 古典的な、怖く感じさせるような魔法などを使う魔女も悪くはないのかもしれない。それでも私は、私らしく、私として魔女らしくありたいと思う。

 ココアを飲んで、うっとりする魔女がいてもいいじゃないか。

 昔と違って、人間と関わる魔女がいても問題はないのではないか。

 変わり者であったとしても構わない。むしろ、そう思われているほうが素敵だと思う。私が、私として、独特な魔女として認識されている証拠だ。

 少し、唇に手を添えて考える。

 一言メモという形で、感じたこと思ったことをメモしていけば、コンパクトでちょっとした目標作りに繋がるだろう。早速、書き記すことにした。


『変わり者の魔女として、私らしく頑張ってみる!』


 特別なことをしようというわけではない。

 ただ、ゆっくり、私なりに色んなことに興味を持って、ちょっとだけ頑張る。そんな感じでいいだろう。

 多くのことの理解を深めるのは時間がかかる。だからこそ、自分のペースで頑張るのだ。 変わり者の魔女、アル・フィアータとして、世界のことをもっと知っていこう。

 昔々、存在した出来事に引っ張られないように、これから先のことを考えていく。まだまだ遠いかもしれない未来のことを考えながら、そっと期待に胸を膨らませた。

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