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アル・フィアータの魔女物語  作者: 宿木ミル
変わり者な魔女の些細な日常編
13/394

私と不思議系魔女

『面白いこと発見すると、グイグイ牽かれるタイプだよね』


 誰だったかに、そんなことを言われたことがある。それについてはしょうがないと思っているし、なんとなく実感もある。とはいえ、それを悪いことだとは感じたことはない。何故なら、新発見というのは、いつの時代も変わらず素敵なもので、大切にしたいと思っているから。興味を持ち続けるということは、向上心を豊かにすることに繋がる。とても、重要だ。

 そんな風に考えている私は、じっくりと探索を行っている。魔女図書館外の世界で、土地的には、日本なのは確かなのだけれども、位置はあやふやだ。四方八方が森に囲まれていて、常人なら迷子になってしまいそうなくらい入り組んでいる。


「まぁ、私は魔女なんだから大丈夫なんだけどね」


 地理情報が明確に把握できるわけではないものの、森の探索は嫌いではない。空気が澄んでいて気持ちがいいからだ。歩いているだけで、心が癒される。

 目的の場所に到達する為の手段を予め用意してあるから、迷子になることもない。もし、危険が迫り。本当にどうしようもなくなった時は、適当に扉を呼び出して帰ればいい。恐らく、そんな事態は発生しないとは思うが。


「……日本に住む魔女ってどんなのかしら」


 ある日、暇つぶしにぶらぶらと街を歩いていた時に聞いた話の真相を確かめるために、今日の私はここにいる。少しだけ些細な、噂話だ。


『ここら周辺の森には魔女がいるらしい』

『迷子にはとびきり優しいって噂だぜ』


 優しい魔女。その言葉に私は心を惹かれた。何しろ、魔女なのに平和に暮らしているっていうだけで、も個人的にいい感じと思うのに、そこに更に優しいという評価もある。是非とも会ってみたい、そういう心が働いた。

 準備をして、森を歩いて、魔女を見つける。単純明確なのはいいことだと思う。難しく考えて動けなくなるくらいなら、まず動いていたいものだ。


「……マジカル・サーチング!」


 右腕を高く上げ、指を指し、呪文を唱える。この呪文は、周囲の魔法的概念を探し出すという効力を持っているシンプルな効果を持っている。これが、魔女探しに役に立つと思って一生懸命覚えてきたのだ。

 過去の使われ方としては、敵対する魔法少女を先に見つけるという目的で利用されていたらしい。物騒な使い方だ。私の場合は、そんな使い方はできないし、きっとしないと思う。そもそも戦闘行為というものに、私は慣れていない。


「……よし、ちゃんとうまくいってる」


 気を取り直して、呪文の制御を行う。

 調子は良好、変なブレみたいなものは発生していない。

 魔法反応を示しているものがまっすぐ遠くに見える。そこには人型の赤いオーラみたいなものが目に映っていた。赤い反応は魔女の魔力。つまり、魔女がそこにいるということになる。


「いい感じ、いい感じ」


 魔女図書館で使ってみた時は恐ろしく役に立たなかった。理由としては分かりやすく、あくまで自分の瞳に魔法反応があるものをオーラみたいなもので可視化するという呪文だから、目に映るもの全てが赤く見えるというとんでもない事態を招き、しばらくの間、目が痛くなったのだ。本番で使えないんじゃないかと思っていたが、役に立って安心した。

 余談ではあるが、魔法少女相手の場合、魔力は青いオーラとして感知できるらしい。私はまだ、試したことはないが。


「さて、行ってみよう」


 マジカル・サーチングの反応を頼りにしていけばきっと大丈夫だろう。

 まだ見ぬ魔女に対する期待を胸にしながら、森を歩き始めた。





 魔女の反応が近い空間まで到着した。しっかりと目の前を確認してみると、木造の家があった。かなり質素で落ち着いた雰囲気だ。ログハウスだろうか。風通しが良さそうな造りとなっていて、森の中で暮らすには快適そうな印象を感じる。


「すみませーん」


 その後に続く言葉は思い浮かばなかったが、なんとなく呼びかけてみた。すぐに反応が返ってくるといいなと思いながら。


「あなたは、迷子?」

「迷子?」

「そう、迷子なの?」


 返ってきたのは、私より落ち着いていて静かな女の子の声だった。家の中、というより頭の中に声が響いてくる。魔法の力で話しかけてきているのは感覚で分かる。ちょっとしたテレパシー……みたいなもので、魔力を利用して直接口を使わず話すことができるのは、ひとつの魔女の文化である。一対一の会話を行う時などに重宝されることが多い。

 それにしても、迷子かと聞いてきたのは、何でだろうか。

 一瞬だけ悩む。

 ……よくよく考えると、こんなところにわざわざ自分からやってくることなんて、そうそうないか。

 それを踏まえると、今、私は迷子だと思われている可能性が高いというのがなんとなくわかった。


「迷子っていうか……会いにきた、というところかも」


 しかし、嘘を言うのも忍びないため、事実をそのまま言葉にする。


「そう。じゃ、帰って。道は分かるでしょ?」

「なんで!?」


 しかし、そんな私を待っていたのは、まさかの拒絶の言葉だった。

 かなり理不尽である。聞き返さずにはいられない。


「こんなところに自分からやってくる輩は変な奴だけ。つまり、お前は変な奴」

「変な奴って、それは酷くない?」

「酷いなんて思ってない。私もよく言われるから。でも、お前はわたし以上に変な奴」


 変な人なのには自覚が無いわけではない。しかしながら、連呼されると少しだけムカッとしてしまう。


「人間に親しい魔女さんが何を言うんだか」

「ストーカーの魔女さんが偉そうに」

「ちょっと待って、ストーカーはおかしいでしょ」

「いや、人間に親しいって情報を知ってるからストーカー」

「理不尽」

「そうでもない。それよりも、魔女って返したのには突っ込まないのね」

「……そっちについてはなんとなく分かってそうだったし」


 そもそも魔法を利用した脳内会話に対して、所見でスマートに回答できる人間はまずいないだろう。その時点からばれている感じはしていた。しかし、ストーカー疑惑については本気で抗議したい。


「ま、いいわ。変な魔女さん、わたしに何か用?」

「話が窺いたいんです」

「ふぅん、いきなり話を聞きたいなんて、変態魔女は面白い趣味してるのね」

「だからそういうのじゃなくて!」

「ま、やりたければやってみれば? 扉の向こうに私はいるから」

「むむむ……!」


 少しばかりいらいらする。なんというか、弄ばれているような感覚がしてもどかしい。

 ログハウスの扉が目の前になるまで歩く。そのまま扉にノック。あわよくば開いてほしい。

 ……繰り返しノックをしても反応してくれない。そもそも、開けようとドアノブを持ってみても開かない。


「残念でした。普通の扉に見えるだろうけど、それはわたしの魔法で形成された扉。まぁ突破できないだろうから、帰っていいよ」

「ああもう、じれったい!」


 優しい魔女という噂はなんなのだ。人をからかう事が大好きないたずら魔女ではないか。流石にもう、強引に行きたくなる。


「突破できたら入っていいのね?」

「できないでしょ?」

「やってみます」


 位置調整。右腕に魔力を集中。更に、指先に重点集中。


「遍く星、流星の光、今、我が元に集え! 輝きの光を束ねて降り注げ!」

「大層な呪文ね。流石変態魔女」


 文句の一つでも言うべきかと思ったが、スルー。変な事態は招きたくない。


「降り注ぐ目標は、魔法の扉。強き力で、通れるようになるまで降り注げ!」


 指先で目標を指し示す。なんとしても家には入りたい。


「コンフェイト・コメット!」


 指定して解き放つ。今回は、そこそこ手加減なしだ。

 詠唱したエネルギーがそのまま、扉に向かって襲い掛かる。


「あら、金平糖?」

「当然。金平糖で勝負!」


 魔法でこっちの様子が見えているのだろうか。降り注いでいるものの看破をされた。もっとも、コンフェイトというフレーズからも分かるかもしれないが。

 空から、斜め方向に金平糖が降り注ぐ。絶え間なく、扉に、まるで雹のような勢いで。

 ただの金平糖と思って侮る無かれ。力を抑えないで放った場合、そこそこ痛いし、大きさもきっちり調整すれば、ちょっとした隕石にすることができるのだ。今回は、少しばかり強引で、攻撃的な降らせ方をしている。私にしては、珍しく。


「あら?」


 魔法でできた扉にひびができる。これは、この勝負、貰ったということだ。ちょっと、ドヤっとした顔になりそうだ。


「よし、これで私の勝ち!」


 降り注いだ金平糖の勢いは扉が壊れるか私の言葉で区切るまで収まらない。

 金平糖の流れを確認する。静かに落ち着いていっている。扉はもう、ぼろぼろで少し押したら壊れそうだ。

 ……ここまでくれば大丈夫だろう。金平糖の魔法を解除して、扉を押す。

 すると、見る間に魔法の扉は粉々になり、消えてしまった。完全勝利だ。


「と、言うわけで入らせて……!?」

「……変態魔女」


 扉の向こうにいた、声の正体の主を見て驚愕した。

 紫のロングヘアが綺麗なのは素敵だと思う。それはいい。体型としては私より幼い感じだろう。と、いうよりも高身長という感じではなく、普通の女子高生っぽい体型ながら、若干色々と控えめな印象だ。それもいい。

 それ以上に問題なのは、服を着ていなかったことだ。つまり、全くの、裸。


「え、ちょっと、これどういうこと」

「お風呂上がり。ちょっとからかった後に家に入っていいって許可しようとしてた。服は、まごついてる時にちゃっちゃと魔法で着る予定だった」


 恥じらっているのかは表情から掴み取れないが、こうも淡々と告げられると逆に申し訳ない気持ちになる。


「その、着替えても、いいのよ?」

「変態魔女さんが私の裸が見たそうだったので。なんだったらもっと見る?」

「結構です。さっさと服を着てください」

「命令口調は女の子に嫌われると思うけど」

「いや、それでも着替えて……」

「はいはい」


 完全に誤解されている。嫌だ。だから、目を背けながら言う。そもそも、今の状況では私は本当に変態魔女ではないか。なんか、それはもうとにかく嫌だ。

結局私は、着替え終わって準備ができるまで目を背け続けていた。家に入れたのは結局、のんびりと着替えをしている森の魔女を待ってからになった。





「色々見せちゃったけど、くつろいでいいよ」

「色々見せすぎでしょ……」

「……そう?」

「そう」


 着替え終わった森の魔女に案内された個室もやはりシンプルだった。木製のテーブルに椅子。部屋の隅の本棚さえも、木製だ。ここまで拘っているとなかなか素敵な感じが漂う。

 今は、向かい合って座る形にで森の魔女と会話をしている。


「ま、適当にのんびりして。麦茶も用意してあるし」

「……そうさせてもらうわ」


 コップに注がれていた麦茶を口にする。美味しい。なんというか、自然を感じるすっきりとした味わいだ。なかなか好みかもしれない。


「あら、美味しそうに飲むのね」

「味覚は正直なもので」


 指摘されるのにも慣れてきたので、のんびりと言葉を返す。

 にしても、服を着てくれたなら、まだ森の魔女にも目のやり場がある。私でも、なんていうか裸をまじまじと凝視するのには抵抗がある。

 視線を向けられるようになると、彼女の服装にも興味が沸いてくる。そのため、もう少しじっくりと森の魔女の服装を確認した。

 ……印象としては、脚部の露出度が多い気がする。白いワイシャツに黒いコートを羽織るというシンプルな構成は参考にしたくなるものの、なんというか太ももがまぶしい。と、いうのも丈がかなり短いミニスカートをしていて、なおかつソックスガーターで長い靴下を留めている。なんというか上下の露出度のアンバランスさがいい具合に可愛いと感じた。


「またじろじろ見てる。やはり変態魔女か」

「女の子が女の子のファッションに興味を持ってなにか悪いことある?」

「気持ちはわからないでもないけど、凝視されると恥ずかしい」

「……嘘っぽい」


 表情が変わらないまま言うので、どういう心境かがわからない。そもそも言葉の雰囲気すら変わらないで話すから、感情を読み取りずらい。


「まぁ、裸を見られるのはあなたで初めてだし。そう考えると、もっと恥ずかしいかもしれない」

「……え、嘘?」

「本当」

「嘘じゃなくて?」

「本当」

「ま、まさかぁ」


 そうなるとなんだかもっと申し訳ない。真顔で本当と繰り返し続けられるというのは、きっと嘘じゃないという証明なのかもしれない。

 申し訳ないと思って、頭を下げる。


「まぁでも。逆に見られて良かったのかも」

「どうして?」

「反応が面白いから」

「……はい?」


 藪から棒に言われると驚くというより、困惑する。なんというか、一枚上手なのだろうか。完全に話のペースを握られているようにも思える。

 とはいえ、話がしたかったという目的には反していないので、問題はない。少し、どういう風に話していけばいいのかわからないけれども。


「名前、聞いてなかった」

「アル・フィアータです。アルと呼んでほしいかな」

「悪くない名前。私はトゥリウット。トゥリでいい」

「良い名前だと思う」

「少し照れる」


 照れるといっているものの、やっぱり表情は変わらない。でも、素直な性格なのかもしれないとはなんとなく感じつつある。


「アル。あなたは可愛いと思う」

「そ、それはどうして?」

「素直だから」

「素直……」


 いまいちしっくりこないが、トゥリの言葉の続きを聞く。


「私が優しい魔女として評価されてるのは、単純。迷った人間を連れてきて、帰れるように案内しているというだけ。これでも下心満載」

「下心満載?」

「実は人間観察を行っている」

「ほうほう」


 なんだかんだで同じような趣味を持っているという事実に親近感を覚える。色んな人を観察するのは私も好きなほうだ。


「そんなわたしと比べると、アルはなんというかピュア。素直で下心を感じない。不思議なことに裸を見て顔が真っ赤になったりする。行動するたびに、表情が顔に出る。そういうところが可愛い」

「それ、褒めてる?」

「褒めてる」


 じっと見つめられる。嘘ではないと瞳で訴えてるのかもしれない。


「人間観察、結構好きなんだけどね、私も」

「……変態?」

「そうじゃなくて。対話でいいところとかそういうの発見するのが好きなタイプ。トゥリはどうなの?」

「わたし?」


 そういえば、こっちから質問を投げることがなかったので、思いっきり聞いてみる。数秒間、指をくわえて考えていたが、すぐに答えてくれた。


「仕草や動作を見るタイプ」

「どういうこと?」

「表情とかを見るのが好き。私が魔女と明かした時の顔や、助けるといった時の嬉しそうな顔。そういうのを観察するのが楽しい」

「なかなか面白そう」

「実際、楽しい」


 今度メモして試してみようかと思えるほどには、興味深い内容だ。反応を研究する。良さそうだ。


「だからこそ、アルが気に入った」 

「それはなんで?」

「私の裸を見た時の初々しい反応が面白かった」

「あれは当然。誰でも動揺するって」

「そう?」

「そう!」


 まるで裸を見られていても恥ずかしくないという態度に驚愕を覚えざるを得ない。なんというか、環境によって魔女のそういう知識にも差ができるのかもしれない。これは研究しないとわからないことかもしれないが、正直どういう風に切り込めばいいのか分からないので、メモしようにもメモできない気がする。


『魔女の色々な知識のあれこれ』


 少なくともそういう風に考えるしかないだろう。そもそも、ピンポイントで調べるのは個人的に恥ずかしい。


「とにかく、裸を見るのが私でよかった」

「裸が見たかったの?」

「そうじゃない! 男の人とかだったらどうするの」

「どうもしないけど」

「それはおかしいんだって!」


 なんだろう。ピュアと言われたはずなのに、自分がなんだかそうでもないような錯覚に襲われる。ここまで、天然というか無神経だとこっちが心配になる。


「その……助けた男性が変な表情してたりしたこと、ない?」


 だからこそ、過保護かもしれないが、気になってしまった。トゥリの性格上、トラブルはなさそうだが、そういうのと関わりすぎるのは良くないと解釈して。


「鼻の下が伸びてるようななんとも表現しがたい顔をしてた人はいた」

「やっぱりいたんだ……」

「気にしてはいない。ただ、やたらたどたどしい動きが見てて面白かった」

「面白いって解釈するんだ……」


 なんというか、考え方の違いみたいなものを改めて感じた。いよいよもって、下心あると言っていたトゥリ本人よりも、私のほうが下心があるのかもしれない。


「色んな反応するから、やっぱり、アルは可愛いかも」

「そうかなぁ」

「もし良かったらもっと会話したいくらいには」

「あ、それは嬉しいかも」


 色々とずれているけど、一緒にいて面白い。その感想はお互いに同じだと思う。だったらとことんまで付き合ってみる。なにしろ、会話をすることは好きだから。日が暮れてもいっぱい話そう。そう心で決めた。






 優しい魔女という評価だけを聞いてただけならば、こんな体験は出来なかっただろう。でも、自分の足で到着することでこんな面白い魔女ど出会えることができた。なんだかんだで、首を突っ込むのは悪いことではないのだ。

 少なくとも、今日はとことんまで話して、色んなことをメモしたい気持ちだ。なにしろ、自分の知らない世界観と出会えるというのはとても楽しい。

 ふと、頭の中にメモしたい内容が思い浮かぶ。こんなことも調べてみたい。


『私とそれ以外の魔女のファッション感覚について。また、どういう風に日常を謳歌しているか』


 私生活に寄り添うというのは、とても面白いアイデアだろう。こういう発想を思いついたのは、トゥリウットという魔女に会ったお陰だろう。是非とも感謝したい。

 メモ帳に思いつく内容はいっぱいある。しかし、やっぱり書くには出来事がないとうまく行かない。だからこそ、色々やってみたいと思うのだ。今日の出来事を色々と頭に過ぎらせながら、メモに考えをまとめる。色々書くことが多くて大変だな、とは感じている。それでも、私の心はこれからのことを考えて、わくわくしていた。

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