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海の部屋  作者: 日次立樹
9/9

僕の貝殻は海の音

僕は海が好きだ。小さい頃に住んでいた街は海があったから、悲しいことがあったときはいつも海を見に行った。波のうねりを見ていると、いつの間にか心は静まっていった。

中学生の時に引っ越して、海のない街へ来た。僕はそのころかなり迷走していて、夜中に叫びだしそうになることが何度もあった。だけど、海の写真が僕を助けてくれた。だから俺は、今でも海の写真を撮っている。


俺にとっての海は、平坂という小さな町の、灯台から見下ろした一面の青のことだ。

海は広い。世界中と繋がっている。それなのに、俺の海は平坂にしかない。平坂は俺にとって港の様なものなのだと思う。


僕はあるとき、海の音と出会った。平坂の記念館で特別展「海の部屋」というのを企画してもらった時のことだ。

すごく熱心に展示を見てくれていたその女性は、俺の写真が好きだと言ってくれた。わざわざ俺の写真を見るためだけに、この何もない街に来てくれたらしい。だから俺は彼女に絵葉書を渡した。

彼女が電車に乗ってしまってから、連絡先を聞かなかったことをすぐに後悔した。また新しい絵葉書を送ってあげるといえばよかった。

俺は初めて、僕の海に音がなかったことに気づいたのだ。静かな、静かな海。そっと寄り添う、何も言わない青色の世界。とても優しいはずのそれは、少しだけ寂しいものだったということに気づいた。


俺はまた写真を撮りに平坂へ来た。でも本当は、彼女に会いたかっただけかもしれない。記念館にも行ってみたけど、彼女に会うことはなかった。灰色の灯台は、彼女が好きだといった写真を撮った場所だ。ここから見る海は格別な色をしている。一面の青。ギイ、と扉の開く音がした。僕は振り返る。世界はひどくゆっくりと回転する。


「-----」

海の音が、聞こえた。

ありがとうございました。

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