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どれほど夢中になって見ていただろうか。
「申し訳ありません、間もなく閉館時間です」
本当に申し訳なさそうに受付をしていた人に声を掛けられて我に返る。
「分かりました、すみません」
展示室を出る間際、名残惜しくてそっと振り返れば青い生き物が笑った気がした。
記念館を出ると、まだ昼間の暑さが漂っていた。空はオレンジから紫のグラデーションで、かなり長い時間滞在していたのだと知る。バスの時刻を見ようと鞄を漁っていると、ふと影が差した。顔を上げるとあの彼が言った。
「今日はもうバスはないよ」
「え、そうなんですか?」
「うん、だから駅まで歩かなくちゃ。暗くなるとわかりにくいから案内するよ」
どうやら彼は私を待っていてくれたらしい。
「バスのあるうちに声を掛けてあげられれば良かったんだけどね。あんまり熱心に見ていたから」
「すみません」
わざわざ閉館時間まで待っているなんて少し怪しいと思ってしまったが、どうやらそれは私のせいだったようだ。
「気にしないで」
行こうか、と促されて歩き出す。そこでひとつ、気になっていたことを思い出した。
「宇宙人って、何のことですか?」
「ああ。それはね」
振り返ってごらん、と言われる。言われたとおりにすると、そこにあるのは巨大なUFOだった。さっきよりも少し濃い紫と薄くなったオレンジの背景に黒い影が浮かび上がる。丸い窓から漏れる明かりも、いかにもといった感じだ。
「UFO、ですか?」
「うん。そう思ってね。だったらその中に入っていく僕たちは宇宙人なのかって思って」
「人間だったら、食べられちゃいそうですね」
海の部屋に入る宇宙人。びっくりして固まる人間の私。そんな想像をすると、またぷくぷくとあの感覚がよみがえってきて、とても気分が良かった。